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<コラム>『モアナと伝説の海2』観る者を奮い立たせる楽曲の羅針盤 手がけるのはモアナと“同世代”の若き女性コンビ

Text: 服部のり子
前作『モアナと伝説の海』から3年、続編『モアナと伝説の海2』が全米公開されると、公開第一週で興行成績1位を記録した。その後、12月6日から日本でも公開されている。このヒットの要因はいろいろあると思うが、大人になったモアナが人々の未来のためにと、果敢に大海原に挑んでいく姿と物語は、世代、性別、国籍を超えて胸に響くものがある。
その物語の水先案内人になるのが劇中歌だ。ディズニー作品において、優れた音楽は誇るべき伝統で、シャーマン兄弟、ハワード・アシュマンとアラン・メンケン、ロペス夫妻、リン=マニュエル・ミランダらが歴史を作ってきた。そのなかで今回音楽を担当したのがアビゲイル・バーロウとエミリー・ベアーのコンビ。制作当時アビケイルが25歳で、エミリーが22歳という年齢だけを見ると、大抜擢に思えるけれど、この若い感性が作品にいい刺激をもたらしている。
それが具体的にどういうものなのか、そこに触れる前に日本ではまだあまり知られていない2人についてまずご紹介したい。
アビゲイルとエミリーの才能を象徴する存在に【グラミー賞】で〈最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞〉を受賞したアルバム『The Unofficial Bridgerton Musical』がある。これは、“Unofficial(非公式)”とあるように2人が独自に、Netflixの人気ドラマ『ブリジャートン家』にインスパイアされて制作したミュージカル。しかも部門賞にシアターとあるけれど、劇場で上演されたことはなく、TikTokで発表された。これもいまどきというか、既成概念にとらわれないZ世代ならではの発想なのだろう。TikTokなので、スマホサイズの画面で観るミュージカルなのだが、1分弱の歌が次々に発表されていき、それがバイラルヒットとなった。
そのような経緯で作られたアルバム『The Unofficial Bridgerton Musical』が【グラミー賞】でアンドリュー・ロイド・ウェバー、バート・バカラックといった大御所の候補者を抑えて、最年少でこの部門の受賞者となった。アルバムでは主にアビゲイルがヴォーカルと歌詞、エミリーがプロデュース、オーケストレーションを担当している。しかも自主制作盤。そんな彼女たちの創作力と行動力は、この受賞により一気に評価を高めて、さまざまなオファーが押し寄せている。
そのなかで舞い込んだチャンスが映画『モアナと伝説の海2』だった。アビゲイルとエイミーは、制作初期の段階から関わり、8曲の新曲を書き下ろしている。いずれも親しみやすいポップソングだけれど、そのなかでも意表を突く歌詞が心の覚醒になり、また、幼い頃からエイミーのメンターがクインシー・ジョーンズだった影響からか、ジャンルの枠を超えていろいろな音楽の要素を自由に取り入れたサウンドが注目のポイントとなっている。
その8曲のうちのひとつが映画のオープニングを飾る「帰ってきた、本当のわたしに」。前作にも参加したサモア出身のミュージシャン、オペタイア・フォアイとの共作で、ポリネシアの打楽器の演奏をフィーチャーしつつ、これから起きる物語のイントロダクションとなる歌だ。曇りなきモアナのピュアでまっすぐな心が伝わると同時に、映像ではカヌーに乗ったモアナが夜空の星を航海の羅針盤にする場面が印象的。映画の舞台になった古代の優れた文明がここにも描かれている。
2曲目の「ビヨンド ~越えてゆこう~」は、物語の中核を担う曲で、モアナの“人々の未来”のためという決意表明がされる。オーケストラの壮大なサウンドのなか、空高く飛翔するかのようにモアナ役のアウリイ・クラヴァーリョが力強く熱唱するこの歌から、未来への道が大きく進展していく。
また、船上で航海仲間と一緒に歌う「最高の世界」と、半神半人マウイの独壇場となる「できるさ!チーフー!」は、コミカルでとっても楽しい歌。そのなかでポリネシアのリズムにヒップホップやロックなどの要素が自然に溶け込んだ音楽も、ラップやスポークンワードも新鮮で、ここにもアビゲイルとエイミーの若い感性が感じられる。
そして、異色の存在が前作にはいなかったキャラクター、マタンギが歌う「迷え!」だ。マタンギはモアナを惑わせ導く謎の女だが、この歌で彼女の境遇を憂い、そこから得た教訓を歌う。たとえば、ルールは破るためにあるとか、人生は不公平とか、迷子になろうとか。でも、こういうことは、反骨精神を持つ若いモアナ世代が歌いそうなこと。それを人生のベテランが主演女優のようにR&Bやディスコ、ファンクなどのミクスチャーサウンドにのせて、華やかに歌っていくのだ。そして、この歌がモアナを奮い立たせて、彼女が前後してつぶやく「道はひとつじゃない」というセリフと共に心に刺さる場面と曲になっている。
生きている世界は時代は異なるけれど、モアナとアビゲイルとエイミーは同世代。目指す道も異なるけれど、夢という未来を拓こうと奮闘している。この共通点が歌詞に生かされている。そして、そこに嘘がないから、忘れられない歌になる。モアナとアビゲイルとエイミー、この3人の女性は、2025年にかけてきっと世界中のハートをつかむだろう。
リリース情報

『モアナと伝説の海2(オリジナル・サウンドトラック)』
CD発売中/デジタル配信中
UWCD-1130 3,300円(tax in)
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