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<インタビュー>さらさ、アルバム『Golden Child』で広げた可能性と初のビルボードライブへの挑戦
Interview & Text:黒田隆憲 / Photo:興梠真穂
昨年9月に2ndアルバム『Golden Child』をリリースした湘南出身のシンガーソングライターさらさが、初のビルボードライブ公演を1月17日に行う。2022年に『Inner Ocean』でアルバムデビューを果たし、アンニュイで憂いを帯びた唯一無二の歌声と、「ブルージーに生きろ」をテーマに掲げながらソウルやジャズ、R&B、ヒップホップなどを取り入れたその音楽性が注目された彼女。新作では西田修大ら複数のアレンジャーを迎えてロックやポップス、昭和歌謡なども吸収し、よりバラエティに富んだサウンドスケープを展開していた。そんなアルバムを携えての東名阪ツアーと同じ編成で開催される、今回のビルボードライブ公演は果たしてどのようなものになるのだろうか。『Golden Child』の制作プロセスや手応えなど改めて振り返りつつ、ライブへの意気込みを本人に語ってもらった。
「やりたいことに正直でいる」さらさが探求する音楽の在り方
──昨年9月にリリースした『Golden Child』を引っさげてのツアーも無事に終わり、今はどのような手応えを感じていますか?
さらさ:『Golden Child』は2作目のアルバムということもあり、制作やプロモーション、リリースなどの流れに少しは慣れてきたかな? という感覚はありました。とはいえまだまだ模索中で、「今回はどういう作品にしよう?」という迷いも結構あって。前作とはちょっと違う雰囲気の曲を入れてみたり、アレンジャーさんを2人増やしてみたり、色々と新しいことにも挑戦してみたんです。その一つひとつが新鮮だったな、と思っています。
私は作品を作るときにいつも、「やりたいことに正直でいたい」という気持ちをとても大切にしているんです。聴いてくれる人のことをあまり考え過ぎず、まずは「自分がどうしたいか?」だけで作るというスタンス。今回もそうやって作ってみて、「やはりこれでいいんだな」と改めて思いましたね。
──アルバムの中で最初に生まれた「祝福」という曲は、90年代のJ-Pop的なメロディを彷彿とさせます。実際にUAやCHARA、BONNIE PINKなど、さらささんがリスペクトしているアーティストの影響が反映されていると以前のインタビューでおっしゃっていました。
さらさ:今回のアルバムでは特に、90年代後半の日本の音楽、特にR&Bポップスというか、あの「輝いていたシーン」の音楽からたくさんインスピレーションをもらいました。私は1998年生まれなので、ちょうどその頃に作られた音楽なんですよ。あの雰囲気を、今の時代にどう再現できるか、もし今やるとしたらどうなるのか。「祝福」はまさにそこを強く意識しながら作った曲で、これまでよりもポップスやロックの要素が強く出ています。「さらさ」というアーティストとしての個性と、その要素とのバランスを試してみた曲でもありますね。
──そういう中で、西田修大さんのアレンジが大きな要素だったのかなと。
さらさ:まさにそうですね。西田さんはUAさんのサポートギターをされていたり、BONNIE PINKさんの新しいアルバムにも関わっていたりして、私が大好きなアーティストの「今」に深く関わっている方。それですごく興味を持って、「一度お話ししたいです」と連絡させていただきました。
──実際にお話ししてみてどうでした?
さらさ:最初は「祝福」の1曲だけお願いする予定だったのですが、意気投合しすぎて、最終的に「祝福」「リズム」「船」の3曲をお願いすることになりました(笑)。西田さんとは、同じ景色を共有しているというか、共通言語をたくさん持っている方だなと感じました。だからこそ、マインドの部分でも「面白いものを作ろう!」という気持ちで一緒に取り組むことができたのかなと。今回のアルバムでは、本当に大きな存在でしたね。
──歌詞を読むと、今作『Golden Child』には「喪失」というテーマが根底に流れている印象があります。以前のインタビューでは、「愛犬や家族との別れ、恋人との別れなどを経験した」と話していましたが、それは曲作りにどのような影響を与えましたか?
さらさ:「別れ」や「死」は、生きていれば必ず向き合わなければならないことです。言葉通りの「死」だけではなく、たとえば関係性が変化していく中で感じる「終わり」のような感覚も、喪失感に含まれる。そういう出来事って、どうしても人を取り乱させたり、辛い思いにさせたりしますよね。とはいえ避けられないものでもあるわけじゃないですか。
──確かに。僕も今年は愛犬の死をはじめたくさんの「喪失」を味わったのでよくわかります。
さらさ:そういった経験があると、自分自身とも向き合わざるを得なくなりますよね。実際、別れや死について考える時間が今回たくさんあったし、きっと今後もそういう時間は増えるんだろうな、とも思っています。とはいえ、喪失の中にいるからこそ感じられる幸福な瞬間や心惹かれる景色もあるし、そこにも目を向けたい。そんなことを意識しながら歌詞を書いていましたね。
──歌詞には「月」や「太陽」、「雨」や「影」といった言葉が多く出てきますね。「目に見えるものだけが真実ではない」という、さらささんの考えがそこに反映されているのかなと感じました。
さらさ:ちょうど今日、ここに来るときに考えていたことなのですが、「赦し」や「救い」って実際には存在しないものだなと思うんですよ。誰かが赦してくれたり、救ってくれたりするわけではないし、それでもなお求めてしまうのもまた人間なのではないかなと。私が自然をすごく重要視しているのは、もしかしたら人じゃなくて、自然こそが赦しや救いを与えてくれる存在だと感じているからかもしれないです。
──ただ、自然って時に容赦ない部分もありますよね。
さらさ:そうなんですよ。例えばフジロックとかに行くといつも思うんですけど、音楽を聴いて楽しんでいるはずなのに、大雨でテントが流されたりして「自然には敵わないんだ」と痛感せざるを得ない瞬間もある。そういう「コントロールできない」っていう体験が、ある意味で「赦し」に繋がっていくのかなとも思っていて……うまく話せているかわからないですけど。
──おっしゃることはよくわかります。
さらさ:人間って、頭でいろいろ考えたり理解しようとしたりしてしまいがちですよね。でも、そういう行為って本質には届かないんじゃないかと感じることが多くて。わからないまま、答えがないままの状態こそが本質なのに、それを無理にわかろうとしたり、答えや救いを求めたりしてしまう。
そんな中で、「そういうことじゃないよ」って気づかせてくれるのが自然という存在なんじゃないかと思いますね。結局、自然の姿そのものが一番大きな教えというか、答えなのかもしれない。
──個人的に「船」がすごく好きなんですけど、どんな風に作った曲なのか聞かせてもらえますか?
さらさ:「船」は、私が「株式会社yutori」というアパレル会社で働いていた時、そこの社長に救われた経験を基に書いた曲です。社長には今もお世話になっているんですけど、「会社が上場した記念に社歌を書いてほしい」と頼まれ引き受けました。歌詞には〈悲しい顔もやめないわ〉というフレーズがあるのですが、これは『辛いことをそのまま受け止めつつ、それでも進んでいく』という思いを込めています。
そのことを社長には特に伝えていなかったのですが、「もしかしてこれ、俺のことを歌ってる?」と(笑)。「うちの会社はアパレル業界の中で異端だけど、異端のまま道を切り開いていこうとしている姿勢に重なる曲だね」と言ってくださいました。結果的に「社歌」としてはちょっと渋い曲になったのですが(笑)、それでも受け入れてくれる社長の器の大きさにも感動しましたね。自分にとっても、すごく思い入れの深い曲です。
──冒頭でも少しお聞きしましたが、本作を携えてのツアーはいかがでしたか?
さらさ:たとえば気心の知れたサポートメンバーと毎回同じセットリストで演奏しても、場所が違えば全く違う印象になるんですよね。お客さんの雰囲気で、何を考えているのかも伝わってくるし、そういった揺れ動く空気感を公演ごとに比較できるのも新鮮でした。
特に印象的だったのは、やっぱり恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブかな。デビューシングルを出した頃から「いつかLIQUIDROOMでワンマンができるようになりたい」と思っていたので、今回チケットが完売した景色を見られたことは本当に感慨深かったです。
初のビルボードライブ公演に向けて
──今回、さらささんにとって初となるビルボードライブは、その時のツアーメンバーを率いての出演となりますね?
さらさ:はい。リハーサルはこれからなんですけど、ビルボードライブは着席スタイルで観られる場所なので、よりリラックスして身近に楽しんでもらえるライブしたいなと思っています。自分がビルボードライブに行く時も、あの空間そのものを楽しみにしている部分もあるので、来てくれる方にもそんな「特別な時間」を過ごしてもらえたら嬉しいです。
──ビルボードライブには、何か思い出などありますか?
さらさ:5、6年前にビルボードライブ横浜で母の友達のライブを観たことがあります。ビルボードライブは親と一緒に訪れる方も多く、家族との思い出ができる場所という印象があります。それがとても素敵だなと思っていますね。
今回の公演でも、家族で来てくださる方や、普段スタンディングのライブは大変だけど「着席スタイルなら」と思ってくださる方がいると思うんですよ。そういった方々に特別な時間を届けられるよう、「その時間とお金以上のものを返したい」という気持ちで臨みたいです。
感謝とともに進む、2025年のさらなる未来へ
──2024年はフジロックやフィリピンでのフェス出演など、盛りだくさんでしたね。特に印象に残ったことは?
さらさ:アルバムやツアー、フィリピンでのフェスなど、本当にたくさんの貴重な経験をさせてもらった1年でした。フジロックも特に印象深かったですね。ただ、振り返ると忙しさで記憶が飛んでいるような感覚もあります(笑)。
この1年で一番強く感じたのは、一人では何もできなかったということ。自分が「一緒に働きたい」と思える人たちが集まってくれて、改めて周りの人への感謝の気持ちを実感した2024年でした。
──2025年はどんな年にしたいですか?
さらさ:まず一番の目標は、いい曲を作ること。他のアジアのアーティストと一緒に何かを作る話が進んでいて、来年も海外で新しい出会いや経験を通じて広がりを持たせていけたらと思っています。これまでは環境に慣れるのに必死でしたが、最近は少しずつ余裕が出てきたので、その余裕で他の人のライブを観るなど生活を大事にしながら楽しく音楽を作りたいです。音楽と生活のバランスを取ることが、来年も大切な課題になりそうです。
25歳を過ぎて、時間の流れや20代だからこそ作れる音楽を意識するようになりました。20代もあと半分。この5年間で、自分らしい言葉や音をどれだけ紡げるかに集中したいと思っています。今回のアルバムもそんな気持ちで作ったので、来年はさらに深く見つめていけたらと思っています。
公演情報
【さらさ New Year Live 2025 in Billboard Live YOKOHAMA】
2025年1月17日(金)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1st Stage Open 17:00 Start 18:00 / 2nd Stage Open 20:00 Start 21:00
公演の詳細はこちら
関連リンク
さらさ 公式Instagramビルボードライブ 公式サイト
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