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<わたしたちと音楽 Vol. 50>日経エンタ!×Billboard JAPAN編集長対談 2024年のエンタメ総括、女性たちが働きやすい未来とは?

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回はBillboard JAPAN編集長の高嶋直子とともに、『日経エンタテインメント!』の平島綾子編集長をゲストに迎え、2024年のエンタテインメント業界を振り返った。12月6日に発表された2024年 年間Billboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”を読み解きながら、来たる2025年への期待を語る。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Shimpei Suzuki)

作品を裏から支える女性たちの
活躍が目覚ましかった2024年

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高嶋直子(Billboard JAPAN編集長)

――今年も年間Billboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”が発表されましたね。この結果からどんなことが読み取れるでしょうか。

高嶋直子:12月6日に発表されたチャートのジェンダー比率は以下の通りで、2024年は、昨年以上に男性アーティストが多いという結果になりました。

2024年 年間Billboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”
女性アーティストによる楽曲:13
男性アーティストによる楽曲:72
男女混合アーティストによる楽曲:14
その他のアーティストによる楽曲:1

2023年 年間Billboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”
女性アーティストによる楽曲:19
男性アーティストによる楽曲:64
混合アーティストによる楽曲:16
性別非公開のアーティストによる楽曲:1

 Billboard JAPANとしては、ジェンダーギャップを解消するプロジェクトとして数年前からSpotifyさんと一緒に、Billboard JAPAN Hot 100から女性たちの曲にフィーチャーしたプレイリスト<Top Japan Hits by Women>を発表していて、多くの人に聞いていただいています。女性だけを抽出することによって人々の耳に触れる機会を増やすEquity(=公平性)を大切にしたアクションです。


平島綾子:Billboard JAPAN Hot 100を拝見して、確かに女性アーティストの比率は下がってしまったかもしれないけれど、16歳の女性アーティストであるtuki.が2位を獲っていたり、YOASOBIやAdoも変わらず支持を集めていたり、総合的に見ると女性アーティストのパワーも感じられる結果になっているのかなと、期待を持って拝見しました。


――エンタテインメント業界全体としては、2024年はどんな1年だったのでしょうか。

平島:連続テレビ小説『虎に翼』と大河ドラマ『光る君へ』、2大看板ドラマが多くの人に観られた年でしたね。ジェンダーギャップも含めてさまざまな社会課題への問題提起を包括しながら、エンタテインメントとして見せた非常に面白い作品に恵まれました。『虎に翼』の脚本家の吉田恵里香さんや、『光る君へ』のプロデューサーの内田ゆきさん、また日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』のプロデューサー・新井順子さんと脚本家・野木亜紀子さんなど、女性クリエイターがちゃんと大きなヒットを生み出せることを証明できた、非常に良い年だったと思っています。


高嶋:『虎に翼』を観ていて、エンタテインメントだからこそ、社会課題を多くの人に身近に伝えられるのだと感じました。今日のようにみんなでジェンダーをテーマに話す機会も大切ですが、映画やドラマとして発信することでより話やすくなりますし、社会を変えていくことにも繋がっているのだなと改めて認識させられましたね。


グローバル化がキーワード、
世界で高まる日本作品への評価

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平島綾子(『日経エンタテインメント!』編集長)

平島:毎年『日経エンタテインメント!』では、年末12月4日売りで“ヒット総まくり”特集を発表して、エンタテインメント業界を全体的に振り返っています。ヒットの基準としてるのが、「セールス」、「社会的影響度」、「新規性」、「グローバル進出」という4つのポイント。 なかでも今年は特に、「グローバル進出」が頻出したキーワードだったというふうに感じています。


高嶋:そうですね。Creepy Nutsの世界でのストリーミング数も、2023年には約3億回だったのが、2024年には21億回に増えました。18億回増です。日本でヒットしてだんだん広まっていったのではなくて、アメリカを皮切りに世界中で同時多発的に広がっていった。「グローバル進出」をさまざまなアーティストが達成したおかげで、もはや特別なことではなく、普通のことというところまで引き上げてくれた1年だったのかもしれないです。


平島:アニメーション業界では、クリエイターや企業が自分たちで海外に出向き、顔と顔を付き合わせて作品を紹介するということを、早い段階からかなり丁寧にやっていました。7月にロサンゼルスで開催された【アニメエキスポ(AX)2024】に行きましたが、日本の作品の人気はすごかったです。アニメに付随した音楽がヒットするようになったのも、配信サービスが広まったことで世界で同時に作品が観られるようになったからでしょう。またアニメ主導でなくとも、日本の音楽自体が注目を集めているのも感じています。ハリウッドの作品ではありますが、『SHOGUN 将軍』では、真田広之さん始め日本のスタッフの尽力から、【エミー賞】で史上最多となる18部門で受賞する快挙もありました。


労働環境の見直しは、
女性だけでなく業界全体の課題

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――エンタテインメント業界では、嬉しいニュースがたくさんありましたが、世界経済フォーラムが発表しているジェンダーギャップ指数のランキングでは、日本は156か国中118位と、前年度の125位よりもスコアを上げたものの、変わらず先進7か国(G7)では最下位でした。エンタテインメント業界で働いていらっしゃって、どんなところにジェンダーギャップを感じますか。

平島:『日経エンタテインメント!』は創刊27年目なのですが、2010年に私が副編集長になったのが女性初で、もちろん女性の編集長就任も私が初めてでした。今でも「私が編集長です」と挨拶すると驚かれます。しかし先ほどもお話しした通り、最近では映像業界でも女性のプロデューサーの活躍が目覚ましく、バラエティの現場でも女性の総合演出の方が登場していて、女芸人No.1決定戦である『THE W』のプロデューサーも片岡明日香さんが務めています。アイドル業界では、ガールズ・グループ・オーディション『No No Girls』が話題で、ちゃんみなさんのプロデューサーとしての手腕が注目を集めていますよね。


高嶋:ちゃんみなさんは、ご出産を経ても活動を止めずに、すごいバイタリティを感じますよね。


平島:そうですよね。こう考えてみると、ギャップはまだあるけれども、活躍の場も確実に拡大しているのを感じています。今はYouTubeや配信サービスももちろん強いですが、広める媒体としてまだテレビの力もあなどれません。こういうところから変わっていくことの影響は大きいですよね。


――お二人ともエンタテインメント業界で働く女性として当事者でいらっしゃいますが、今後もっとこの業界で女性が働きやすくなるにはどんなことが必要だと思いますか。

高嶋:業界全般で、男性と女性に共通した課題かもしれないですが、「エンタテインメントというみんなが憧れる世界で仕事ができているのだから、働き方については許容するしかない」という“やりがい搾取”のような考え方は払拭しなければならないですよね。私は昭和生まれで、昭和、平成、令和と、移りゆく時代を見ていて、エンタテインメント業界でも仕事とプライベートの両立を実現できるように考えていかないといけないと思います。ライフワークバランスが考えられるようになれば、若い人たちにも、もっと長く働きたいと思ってもらえるんじゃないでしょうか。


――その労働環境についての課題は、音楽業界も等しく抱えていると思いますね。

平島:そうですよね。映画業界では、是枝裕和監督が業界の労働環境の改善を目指して、資金調達のために民間ファンドに呼びかけをするなど奔走していらっしゃいます。アニメーション業界だと先ほどお話ししたようにグローバル化が進んでいますから、国際的な労働基準の周知などをして、業界を変えていくのも重要だと思います。Netflix作品が、撮影現場にインティマシー・コーディネーターを入れるようにしているのも、世間では話題になりましたね。


2025年もよりグローバルに、
そして働きやすい環境へ

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――2024年のエンタテインメント業界のお話を振り返ってきましたが、お二人が来年それぞれのお仕事で挑戦していきたいことがあればお聞かせください。

高嶋:先ほど平島さんからも「グローバル化」というキーワードが出ましたが、私たちもチャート見ていてグローバル化の動きは感じています。アニメ関連の楽曲のほかにも、ミーガン・ザ・スタリオンと、日本出身のラッパー千葉雄喜のコラボ曲「Mamushi」のヒットや、MILLENNIUM PARADEとラテン・ミュージック界のトップスター、ラウ・アレハンドロとのコラボ曲「KIZAO」もありました。そういったアーティストのチャレンジもありましたし、2025年5月には音楽業界の主要5団体(日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会)が垣根を越えて新設したアワード【MUSIC AWARDS JAPAN】も始まります。日本の音楽をより世界に広く伝えていければ良いなと思っています。ジェンダーギャップについては、定量的なチャートを使いながら、現状とその変わっていく様をこれからも伝えていきます。働いている私たちも含めて、スタッフ側の労働環境の改善や考え方のアップデートを目指して、勉強会も続けていきます。みんなで話しながら考えて、自分たちの環境をより良くしていきたいと思っています。


平島:ヒットを分析して紹介する『日経エンタテインメント!』の基本理念に、“エンタテインメントのファンの喜びを加速する”というものがあります。データも使いながら、さまざまなジャンルに目を配って、新しいジャンルについての情報もお伝えしていきたいと考えています。また2025年は電子媒体の強化と海外展開もキーワードです。日本のエンタテインメントが世界で求められている手応えを感じているので、微力でも、後押ししていきたいですね。





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