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<インタビュー>世界最高峰のドラマー、ネイト・スミスがHIP HOPに精通する個性的トリオで来日を果たす
Text & Interview:柳樂光隆
2023年6月、大林武司&ベン・ウィリアムスとの"TBN"トリオも好評だった世界最高峰ドラマーのネイト・スミスが2025年の2月に自身がリーダーを務めるトリオで来日を果たす。
2024年のビルボードライブ来日公演を成功させた鍵盤奏者でビートメイカーのキーファー、そして、ベーシストでありプロデューサーでもあるカートゥーンズことベン・カーという個性的なメンバーを引き連れての来日となる。3人ともアルバムをリリースするリーダーであるだけでなく、演奏者でもあり、プロデューサーでもあるのが特徴だ。そして、ジャズのみならずヒップホップやファンク、ロックやポップスまで、様々な領域を横断するハイブリッドなセンスを持つ音楽性も共通している。そんな彼らがトリオとしてどんな音を出すのか。2月25日のビルボードライブ大阪、2月27日&28日のビルボードライブ東京公演の展望についてネイト・スミスが語ってくれた。
この記事は、2024年7月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.2023年 1・2月合併号』内の特集を転載しております。記事はHH cross LIBRARYからご覧ください。
――今度、日本で共演するキーファーの魅力を聞かせてください。
ネイト:キーファーがジャズ・ピアニストとしてどれほど素晴らしいか、まだ十分に気づいていない人が多いと思うんだ。彼は楽器の歴史についてとても詳しく、ポスト・バップや80年代、90年代のジャズ・ピアノのアーティストについても本当によく知っている。そしてキーファーは、ロバート・グラスパーにも影響を与えているマルグリュー・ミラーの大ファンなんだ。ビートでも音でも、キーファーが作り奏でるものからはジャズ・ピアノのハーモニーの知識からくる深みが感じられる。彼自身が、かなり深みのあるミュージシャンでもあるからね。
――ではカートゥーンズはどうでしょう?
ネイト:カートゥーンズは素晴らしいプロデューサーだと思う。演奏するときもバンドのサウンド全体をよく理解し、自分がどこに位置しているのかを把握しながら、まるでプロデューサーのように演奏するんだ。キーファーと同じように、彼の音楽の知識の深さもあまり人々に知られていないと思う。僕自身も、彼がジャズ・ベースを学んでいたことは知らなかった。僕は彼の『自分が何を演奏すべきでないか』をきちんと理解している部分が好きなんだ。つまり、彼は『いつ何を演奏すべきか』を見事にわかっているってこと。そこも彼の素晴らしさの一つだと思う。キーファーもカートゥーンズも、本当に才能ある超一流のミュージシャンだと思うよ。
――二人とはどのようにして知り合ったんですか?
ネイト:僕はずっと彼ら両方の大ファンで、Instagramで彼らをフォローしていたんだ。投稿に「いいね!」をしてて、音楽をずっとチェックしていた。2023年の夏にモントリオール・ジャズ・フェスティバルからレジデント・アーティストとして招待された時、彼らもバンドリーダーとして同じフェスに参加していて、僕は3つの異なるトリオを作ったんだ。1日目は僕とリオーネル・ルエケと(スナーキー・パピーの)マイケル・リーグ。3日目のトリオが僕と(ヴルフペックの)コリー・ウォンとヴィクター・ウッテン。そして、2日目のトリオが僕とキーファーとカートゥーンズだった。彼らに会ったのはその夜が初めてだったけど、最高の時間を過ごしたよ。音楽について話したり、今後一緒に演奏することについて話したり。そのトリオで演奏した時のエナジーは完璧だったんだ。
――キーファーとカートゥーンズのトリオではどんな音楽を奏でることができると思ったのでしょうか?
ネイト:僕は彼らをプロデューサーやソングライターとして尊敬しているけれど、同時にミュージシャンとしても尊敬している。彼らは非常に才能あるプレイヤーであり、即興演奏家でもあるんだ。特にキーファーはそうだね。だから、何を一緒にやるにしてもそこにはダイナミックな音楽的物語が生まれることはわかっていた。ステージに上がって、15分間同じグルーヴを演奏するだけのパフォーマンスには絶対にならないだろうってね。僕は彼らと一緒に演奏することで『必ず音楽的な対話が生まれる』という大きな可能性を感じたし、それがどれほど深いものになるかわからないという未知の世界にも興奮したよ。ジャズにも精通しているし、演奏にも長けている彼らだからこそ、ある程度の柔軟性があることも期待していたんだ。ただのヒップホップ、だたのジャズ、ただのブーンバップのセットではなく、もっとアップダウンのある演奏ができるだろうと思った。だから彼らに頼んだんだ。実際彼らと一緒に演奏するようになってから、僕のレパートリーが大幅に広がったんだよ。
――ミュージシャンでプロデューサーというだけではなく、それぞれにビートメイカーだというのもそのトリオの一つの特徴だと思います。ヒップホップのビートを作るような人たちがバンドを一緒にやるとどんな面白さが生まれると思いますか?
ネイト:どんなグループでも、究極の目標は、興味深く、魅力的で、観客を惹きつける音楽を作ること。ライブにおいてもレコードにおいても、観客を惹きつけることができる音楽。僕がキーファーとカートゥーンズと演奏したときにやりたかったのは、そういった音楽を撮影し、編集して、僕たちが初めて出会った日に作ったものをしっかり捉え、それを人々に見てもらうことだった。だからあの時の映像をYouTubeに投稿し、SNSにもアップした。それに対してどんな反応が返ってくるかとても興味があったしね。
NATE SMITH: "SUPERHERO" ft. Kiefer + Carrtoons
結果的にたくさんのDJやプロデューサー、ヒップホップ・アーティストがこのプロジェクトを本当に気に入ってくれて、ビート・メイキング文化から出てきた多くの人々を惹きつけた。多分その理由は、僕たちが皆〝ヒップホップのルール〟のようなものを理解しているから。僕たちはループを再生しながらも、そこに音楽を注入し、生きた音楽を作っている。僕がこのトリオを作った時に望んでいたのは、ミュージシャンたちと一緒に演奏し即興でアートを重ねることでアイデアを拡大させつつも、音の間にちゃんと呼吸する空間を存在させること。そうすることで、それぞれのパートに音楽性の拡大の余地が生まれるからね。ループは僕たちに、成長するため、演奏するための多くのスペースを与えてくれるんだ。
――今度の来日共演はどんなふうになりそうですか?
ネイト:素晴らしいショーになると思うよ。まだ演奏していない新曲がたくさんあるから、いくつか演奏するつもり。僕自身、毎回このトリオが持つ可能性にとても興奮しているんだ。僕らそれぞれがトリオに多くの影響をもたらしていると思うからね。そして、オーディエンスと一緒に本当に楽しい時間が過ごせることを心から期待しているよ。キーファーにもカー トゥーンズにも日本にたくさんのファンがいるから、すごくエキサイティングでビッグなショーになると思う。僕たちはずっと、ジャズ、ヒップホップ、ファンクの分野をさらに探求し続けている。オーディエンスの皆もその一部になり、一緒にどんなものが生まれるかを実際に見てもらえたら嬉しいね。
公演情報
【Nate Smith feat. Kiefer & CARRTOONS】
2025年2月27日(木)-28日(金)東京・ビルボードライブ東京
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2025年2月25日(火)大阪・ビルボードライブ大阪
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『bbl MAGAZINE vol.203 1・2月合併号』
発行年月 : 2024年12月13日
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※『bbl MAGAZINE Vol.203』東京・横浜版 P.3の記載内容に一部誤りがございました。
[誤] 2024年6月、大林武司&ベン・ウィリアムスとの"TBN"トリオも好評だった~
[正] 2023年6月、大林武司&ベン・ウィリアムスとの"TBN"トリオも好評だった~
お詫びして訂正いたします。
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