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<コラム>ディズニー映画最新作『ライオン・キング:ムファサ』の音楽を担当する天才音楽家リン=マニュエル・ミランダ 輝かしいキャリアを振り返る
Text: 村上ひさし
『モアナと伝説の海』(2017)、『ミラベルと魔法だらけの家』(2021)、実写版『リトル・マーメイド』(2023)など、ここ最近のディズニー映画のヒット作の音楽を立て続けに手掛けているリン=マニュエル・ミランダが、再びディズニー映画に登板。12月20日に劇場公開される『ライオン・キング:ムファサ』の音楽を担当する。
ディズニー映画の音楽といえば、後にも先にも巨匠アラン・メンケンを思い浮かべる人は多いだろう。『美女と野獣』(1991)の「美女と野獣」、『アラジン』(1992)の「ホール・ニュー・ワールド」、『リトル・マーメイド』(1989)の「アンダー・ザ・シー」や「キス・ザ・ガール」等々、四半世紀にわたって数々の名曲を贈り出してきた。2023年の実写版『リトル・マーメイド』では、そのメンケンが3曲を新たに書き下ろしたが、その際に共作者として抜擢されたのがミランダその人だ。30歳以上も離れたジェネレーションギャップをものともせず、2人がしっかりタッグを組んで素晴らしい新曲が生み出された。
リン=マニュエル・ミランダは1980年、ニューヨーク生まれ。プエルトリコやメキシコ、アフリカ系のルーツをもっている。大学在学中からアイデアを温めていたミュージカル『イン・ザ・ハイツ』を卒業後にオフブロードウェイで上演、2008年にはブロードウェイに進出した。同作は大成功を収め、2021年には映画化も為されている。その後、舞台、映画、テレビなどの音楽を手掛けるほか、俳優、歌手、監督として活躍してきたミランダ。そんな彼が最も大きな注目を浴び、ミュージカル界に変革をもたらしたとされるのが、2015年初演のブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』である。彼は脚本から作詞、作曲、主演までを務め、同作は【ピューリッツァー賞】をはじめ、【グラミー賞】、【トニー賞】、【ビルボード・ミュージック・アワード】など、数えきれないほどの賞を受賞した。翌年にはジョン・レジェンドやアリシア・キーズ、NAS、アッシャーらも参加したアルバム『ハミルトン・ミックステープ』が発表され、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で1位を記録。2020年にはディズニー製作の映像化も為されている。
ミランダの音楽が革新的と言われるのは、ミュージカルにヒップホップやR&B、ラップの手法など現代的なアプローチを取り入れている点だ。もちろんジャズやクラシックなどの影響も聴こえるが、現代人が普段から人々が耳にしているようなダンスミュージックやストリートのバイブスが、ミュージカルという様式の中に見事に溶け込み、活かされている。
2017年の『モアナと伝説の海』では、カリブ海の島々を思わせるトロピカルなサウンドが取り入れられた。映画の舞台が南国の島というのもあって、当然ながら音楽も陽気で開放感溢れるものに。彼のもつラテンのルーツの影響も大いに窺えた。『ライオン・キング』のオリジナルのブロードウェイ版に関わったマーク・マンシーナと共に彼は作詞・作曲を手掛け、一部プロデュースにも関与。ミランダが作詞・作曲した劇中歌「どこまでも〜How Far I’ll Go〜」は、【第60回グラミー賞授賞式®】で<最優秀楽曲賞(映画、テレビ、その他映像部門)>を受賞。【第89回アカデミー賞®】の<歌曲賞>など、多数の賞にノミネートされた。
2021年の『ミラベルと魔法だらけの家』では、全8曲を彼が書き下ろしている。映画の舞台となった南米コロンビアを実際に訪れて、クンビア、バジェナートといった現地の音楽スタイルや民族楽器を研究し、サルサ、バチャータ、タンゴ、レゲトンなど、さまざまなラテンサウンドと融合された。サントラアルバムは、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で1位を記録。アニメ映画のサントラとしては『アナと雪の女王2』以来となる全米首位に輝いた。また劇中歌「秘密のブルーノ」(We Don’t Talk About Bruno)も米ビルボード・ソング・チャート“Billboard Hot 100”の1位を記録し、【第65回グラミー賞】で<最優秀映像作品楽曲賞>を受賞した。
2023年の実写版『リトル・マーメイド』では、前述のようにアラン・メンケンと3曲を共作し、ミランダは歌詞を担当。「キス・ザ・ガール」などの一部歌詞をアップデートし、「スカットル・スクープ!!」(The Scuttlebutt)にラップを取り入れるなど、モダンなアプローチを展開し、名作アニメをより現代的で親しみやすいものとした。メンケンによると、彼の姪が同じ学校に通っていたこともあり、ミランダのことは幼い頃から『リトル・マーメイド』の熱烈なファン少年として知っていたそうだ。
今やディズニー映画の音楽を次々と手掛けて、ディズニー音楽の新しい顔となりつつあるミランダ。だが同時に、ディズニーファンである本人にとっても感無量の夢のような仕事であるのは間違いない。最新作『ライオン・キング:ムファサ』では一体どんな音楽を聴かせてくれるのか、アフリカを舞台にどのような名曲を生み出してくれるのか。現代ミュージカル界の鬼才が挑む新たなチャレンジに大きな期待が寄せられている。
リリース情報
『ライオン・キング:ムファサ(オリジナル・サウンドトラック)』
2024/12/20 RELEASE
UWCD-1133 3,300円(tax in.)
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