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<インタビュー>韓国次世代ラッパー=イ・ヨンジが語るラップとの出会い、D.O.(EXO)や坂口健太郎との共演
Interview:筧真帆(日韓音楽コミュニケーター)
イ・ヨンジについて、ある人はカッコいいヒップホッパー、ある人は陽気なYouTuber、ある人はしっかり者のMCと、知ったきっかけで印象が大きく違う。それほどまでマルチに活躍し、今まさにK-POPで旬なヒップホップ・アーティストのイ・ヨンジ。これまでヒップホッパーの大先輩Jay Parkとコラボレーションしたり、SEVENTEENの派生ユニット、ブソクスン(BSS)の「Fighting」にフィーチャーされたり、今年は自身初のEP『16 Fantasy』をリリースし、「Small girl (feat. D.O.) 」はこの夏を代表するヒット曲となった。そんな彼女がまもなく東京と大阪での日本初ツアーを開催。来日を前にして、国を超えて愛される彼女の魅力に迫った。
1st EPに込めた“16歳の情熱”
――イ・ヨンジさんをご存知ない方のためにも、基本的なことからおうかがいします。高校生のラップバトル番組『高等ラッパー』に出演する半年前からラップを始めたそうですが、最初のきっかけを教えてください。
イ・ヨンジ:きっかけは些細なことでした。カラオケに行ってラップをしたら、友達が褒めてくれたんです。当時『高等ラッパー』がすごく人気で、ちょうど高校1年生だったので、友達の勧めもあって出演することになりました。当時聴いていたのはジャスティン・ビーバーや流行りのK-POPだったので、特段ヒップホップを聴いていた子ではなかったんです。
――出演当初からラップが上手くて話題になっていましたが、歌もお上手ですよね。カラオケで友達に言われるまで、ご自身が歌やラップが上手いという自覚はなかったのでしょうか?
イ・ヨンジ:いえいえ!『高等ラッパー』で優勝して音楽活動を始めてからも、歌は下手だから永遠に歌わないと思っていたんです。今でも上手いとはまったく思っていません。歌もラップも特に練習することはなく、私ができる範囲で披露してきました。
――その後、ヒップホップのサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』でも優勝してより広く知られるようになり、今では韓国で旬なアーティストのおひとりになるほど活躍していますが、ラップを始めた当初から現在までの変化をどう感じていますか?
イ・ヨンジ:私の場合、ラップも、歌も、MCも、ゲームもして、大声も出して(笑)、いろいろなことをしながら5年という月日があっという間に過ぎていきました。幼い頃からあれもこれもとやってきたほうなので、デビューをしてからもいろいろと並行することができたんだと思います。私が旬のアーティストだなんて身に余る言葉です。私の認知度に比べて音楽的に披露したものが少ないと思うので、今後もっとたくさんの音楽を届けていきたいですね。
――YouTubeでの活躍に代表されるようにトーク力も抜群です。その才能は子供のころから発揮されていましたか?
イ・ヨンジ:幼い頃からお喋りが好きで友達も多く、喋ることで先生にも可愛がってもらえたり、言葉で何でもこなしてきたので、大人になってからもお喋りで周りの人々と親しくできているようです。あと、小中学生の頃に大ファンだったBIGBANGのことを、高校生や大学生のお姉さんたちとよく話していたので、対話年齢が広がった気がします。
――今年リリースされた初EP『16 Fantasy』ですが、アルバム全体のテーマやメッセージを教えてください。
イ・ヨンジ:『16 Fantasy』は、若い頃にたくさん幻想を持っている人々の話です。進路、人間関係、価値観、理想、職場…いろんなことが全て16歳のときから始まり、今の私を形成していると感じています。私は16歳の頃がとても幸せで、人生においてとても重要な時期だったので、きっと誰しも心の中に16歳を抱いているんじゃないかと思って。二度と戻れない、私の人生で大きな比重を占める16歳の幻想を歌にして、あの頃に戻って勇敢に気兼ねなく暮らしたいという気持ちを込めました。
――16歳はちょうど音楽を始める直前の年齢ですね。何よりタイトル曲「Small girl (feat. D.O.) 」はロングヒットして、日本でもSNSのBGMなどで人気となりました。手応えはいかがでしょう。
イ・ヨンジ:本当に不思議です。私が手掛けた楽曲の中で最も短時間で出来上がり、30分もしないで完成しました。身長175センチの私が彼氏と一緒にいたときに感じた、実体験のストレートな感情を歌に込めたのですが、聴いた人たちがこんなに好きになって共感してくれるとは思いませんでした。それも韓国だけでなく日本やいろんな地域でも愛されて、本当に予想外で感謝の気持ちでいっぱいです。
Small girl (feat. D.O.)
――特にフィーチャリングのD.O.(EXO)さんとは声質はもちろん、おふたりが出演されたMVのストーリーでも本当にお似合いです。どんなきっかけでご一緒することになったのですか?
イ・ヨンジ:EXOは私が小学生の頃にデビューしてすごく人気もあり、ギョンス(D.O.)さんは私が幼い頃からの憧れの人でした。「Small girl (feat. D.O.) 」を作った当初、フィーチャリングは決まっていなかったのですが、ギョンスさんが頭にひらめいたんです。この歌はギョンスさんにやってほしい、ギョンスさんじゃないとダメだと。すぐギョンスさんの会社の連絡先を調べて、直接私が電話をして、「ギョンスさんと必ずこの歌を一緒に歌いたい、お願いします」とお伝えしました。ご存知のように歌も演技もとてもお上手で、MVで一緒にこの内容を生かしてくださるという意味でも、選択に悩むことはなかったです。
――そのほかアルバムには、「ADHD」や「unknown guy」(家を出ていった父親の話)など、とても個人的な告白の歌詞があり驚きました。ヨンジさんはこれまでも自身の内面をたくさん歌にしていますね。
イ・ヨンジ:音楽を作っていると、自分の話をするのが最も簡単なんです。そうでないアーティストもいらっしゃると思いますが、私にとっては自分の生き方や思い出を歌に込めるのが一番シンプルなんですよね。「ADHD」や「unknown guy」も簡単な歌ではないですが、私が持っている痛みやつらい記憶を歌に昇華することで、私の感情を解消しています。
Unknown guy (Live ver.)
――音楽性の面からみると、ヨンジさんが音楽を始めた当初はラップの強い曲が多かった印象ですが、今作だと「16」と「unknown guy」がラップ曲で、「Small girl (feat. D.O.) 」や「My cat」のようにソフトな曲、「TELL ME !」のように爽やかな曲と、多ジャンルの曲が収録されていますね。
イ・ヨンジ:そうですね。私は音楽的なことでもそれ以外でも、自分の音楽を立体的に届けられたらいいなと思っていて。今回のアルバム収録曲たちが違う印象を与えるのも、私がそれだけ多彩な音楽ができると見せたかったのと同時に、やりたいことを何でも詰め込む16歳の情熱のような状態になったからだと思います。この先もジャズやエレクトロなどジャンルにとらわれず、面白くて自分に似合うものは全部取り入れたいですね。
日本での思い出、ツアーの意気込み
――9月にはデンマークのミュージシャン、クリストファーさんとのコラボ曲「Trouble」もリリースされましたね。これまでもたくさんの方をフィーチャーしていますし、オファーもたくさん来ていると思いますが、コラボ相手はどうやって決めるのですか?
Christopher & Lee Young Ji - Trouble
イ・ヨンジ:音楽を通しての出会いに加えて、番組などでお会いしたのをきっかけにコラボのお話をいただくこともありますね。その一例がクリストファーさんで、私のYouTubeコンテンツ(ヨンジがホストとなり、ゲストを招いてお酒を飲みながらトークする番組『つまらないものですが』)でお会いしてから、曲を一緒にやってみようと提案をくださいました。実は今後も予定されているコラボがたくさんあるのですが、日本のアーティストの方ともいつかコラボしてみたいです。
――具体的にやってみたい日本のアーティストは?
イ・ヨンジ:最近すごく興味があるのがCreepy Nutsさん。「Bling-Bang-Bang-Born」が大好きで、カラオケでよく歌っています。星野源さんも大好きで、1月の日本初ライブでも「恋」をカバーしてダンスも踊ったくらいです。この2組のアーティストさんといつかコラボしたいです!
――ライブで星野源さんの曲を歌ったり、坂口健太郎さんが『つまらないものですが』に出演されたときも映画『ヒロイン失格』を観ていたとおっしゃっていましたが、日本のカルチャーに詳しいですよね?
イ・ヨンジ:私の今の目標のひとつが、日本語で少しでも意思疎通ができるようになることで、それくらい日本が大好きです。中学の頃から友達とマンガ喫茶で日本のマンガを読み、成人になったら思う存分マンガを買って、毎日読みふけるという夢を抱いていたほどです。いつか韓国語の翻訳版ではなく、日本語のまま読めるようになりたいですね。
――特に好きなマンガ作品を挙げるなら?
イ・ヨンジ:『アオハライド』の作家の咲坂伊緒さんが大好きで、咲坂さんの作品はほとんど読みました。ほかにもたくさんの作品を読みましたし、マンガ以外にも日本の音楽や食べ物も大好きですよ。
――東京には度々プライベートで来ているんですよね。
イ・ヨンジ:初めて訪れたのは16歳のとき、まさに私が最も大切な時期と感じている“Sixteen”のときです。中学を卒業してすぐ、友だちと人生初の海外旅行で東京へ8泊9日で行きました。当時は日本のマンガをよく読んでいたので、作品に出てくる街並みや交差点も見たい、あの花火大会も行ってみたい、アレも食べたい…と、パワーポイントに日本旅行計画をびっしり立てて、本当に楽しく遊びまわりました。
――8泊9日とはすごいです。特に印象に残っている場所などありますか?
イ・ヨンジ:東京の白金高輪のAirbnbに泊まったのですが、リーズナブルでとてもきれいな造りでした。白金高輪という地名しか覚えていなかったものの、成人になってからまた泊まりたくてそのAirbnbを探してみましたがなくなっていました。それと白金高輪の人に親切にしてもらったんですよ。日本に着いてからWi-Fiのやり方が分からず、地図を片手に何とか白金高輪駅まで行ったのですが、友だちも私も携帯の充電が切れてしまって。日本語もできないし携帯も使えないし困っていたら、通りがかりの女性が私たちをAirbnbまで送ってくれました。日本に到着して初めて会話した日本の方でしたが、本当に優しく親切にしてくださって、素敵な思い出になりました。
――そしてヨンジさんといえば、YouTubeコンテンツの『つまらないものですが(차린건 쥐뿔도 없지만)』が大人気で、日本でもYouTubeからヨンジさんを知った人も多いです。ゲストのほとんどがヨンジさんより先輩ですが、見事なコミュニケーション能力でいつも感心しながら楽しんでいます。ヨンジさんはこのコンテンツを通して、どんなことを感じていますか?
イ・ヨンジ:この番組と番組スタッフの皆さんが大好きで、出演してくださるゲストの方々へも本当に感謝しています。この番組では、お酒を飲んだ状態で、いかに正気を保つかを学んでいるような気がします。多少酔った状態でも、相手ときちんとコミュニケーションをする方法ですね。
――我々外国の視聴者としても、韓国のお酒の作法やカルチャーが分かるので面白いです。最新シリーズではタイラさんやクリストファーさん、坂口健太郎さんと海外の方が多く出演されていて、日本でも話題になりました。
イ・ヨンジ:坂口健太郎さんは2年前のシーズン1の頃からお呼びしたかったんです。先ほどお話に出ましたが、健太郎さんが出ている映画『ヒロインの失格』を見てから大ファンだったので、お迎えできてとても光栄でした。健太郎さんは本当に優しいイケメンで、現場の空気をよくしてくださり、私の日本語がすごく下手なのに健太郎さんの韓国語がむしろお上手で、とても楽にコミュニケーションができて、撮影であることを忘れるくらい楽しかったです。撮影後は健太郎さんのご提案で、スタッフみんなと一緒に写真を撮りましたが、健太郎さんが写真を撮った唯一のゲストです。今度また飲みましょうと言いながら和やかにお別れしました。YouTubeのコメント欄には、韓国と日本の方々が半々にたくさんのメッセージをくださって、とても良い回になりました。
――さて今年の6月から、アジア、アメリカ、年明けにはヨーロッパと大規模なワールドツアーを廻っていますが、ツアーのテーマを教えてください。
イ・ヨンジ:ワールドツアーのテーマは「ALL OR NOTHING」です。私の性格が、最高にうまくできるか、最悪にできないかの両極端なんです。そこでツアータイトル自体も、“すべてを見せる、一か八か”という意味を込めて名付けました。お客さんたちと極限まで一緒に騒ごうと思います。
――日本では今年1月に豊洲PITで初ライブを行いましたが、どんな印象でしたか?
イ・ヨンジ:日本のお客さんの音楽に傾聴する、一生懸命耳を傾ける文化にとても衝撃を受けました。他の国でのライブでは、本人がどれだけ楽しいかを表現するお客さんが多いと思いますが、日本の場合、一緒に盛り上がりつつも私の言葉や音楽を一生懸命聴いて、パフォーマンスを最初から最後まで見逃すまいと集中してくれる姿勢が本当に感動的でした。ライブ後だって道の渋滞などを心配してすぐに会場を出るものですが、私がステージを降りてからも、多くの方がいつまでも残って拍手をしていた光景が忘れられないですね。
――そう言ってもらえると日本の観客としてうれしいです。今回の初ツアーでは東京と大阪の2都市を廻りますが、どんなライブになりそうでしょうか。
イ・ヨンジ:今回は何よりアルバムの曲たちをお届けできるのが楽しみで、特に「Small girl (feat. D.O.) 」は、まだリリース前だった1月に東京の初ライブで歌ったので、こうしてリリースしてヒットした曲をあらためて日本で歌えるということがうれしいですね。たくさん踊って水も撒いて、一緒に騒げる空間にしようと思います!
――今後ヨンジさんは、さらに人気者で多彩なアーティスト、エンターテイナーになっていくと思いますが、先々はどんな姿になっていたいですか。
イ・ヨンジ:私はデビューしてから常に考えが変わっています。どんな人になりたいかなど質問を受けるたび、答えが違っていました。今思うことは、音楽でもエンターテインメント的な部分でも、あまりに人材が多いじゃないですか。年齢も若く、経歴も豊かで上手な人が多種多様にいるので、ともすれば埋もれてしまうと思うんです。だから私は、音楽的にもエンターテインメント的にも、この人はなくてはならない、忘れてはならないと思われる人になるのが目標ですね。
――日本のファンの皆さんへメッセージをお願いします。
イ・ヨンジ:こんにちは、私の名前はヨンジです。もっと日本語を勉強して、日本でファンの方々にお会いするときには、さらに流ちょうな日本語を話せるように少しずつ成長しますので、たまごっちを育てるような感覚で見守ってほしいです。ライブ会場でお会いしましょう。アイシテル!