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<インタビュー>MIMiNARI “現在進行形”のふたりを表現した最新EP『クランシック』――1年間の「#デモ曲チャレンジ」を経て得たもの
Interview & Text: 西廣智一
コンポーザーのnariとshamからなる、「記憶を音楽にする」をテーマとしたボーカルのいない音楽プロジェクト、MIMiNARI。彼らの1年ぶりとなるCD作品『クランシック』が12月11日にリリースされた。今作には北澤ゆうほをフィーチャーしたTVアニメ『魔王様、リトライ!R』エンディング・テーマ「クランシック feat. 北澤ゆうほ」を筆頭に、WaMiや9Lana、Myukといった個性的なシンガーを迎えた楽曲を収録。アートワークや曲タイトルから新たなフェーズに突入したことが伺える、意欲的な作品集に仕上がっている。
インタビューでは、声優/アーティストである楠木ともりとのコラボで話題となった前作『眠れない EP』以降の活動を振り返りつつ、新作収録曲の制作過程についてじっくり話を聞いた。
前作EPからの挑戦と成長
――昨年12月リリースの3rd EP『眠れない EP』はTVアニメ『ひきこまり吸血姫の悶々』のエンディング・テーマとして制作された「眠れない feat. 楠木ともり」が大きな反響を呼びましたが、同作ではどんな手応えが得られましたか?
sham:おっしゃるように、特に楠木ともりさんとご一緒させていただいた「眠れない」という曲が非常に多くの方に聴いていただけて、今年はMIMiNARIがもともと持っていた儚さや透明感が際立った楽曲に加えて、「眠れない」でやってきたような浮遊感なども折り混ぜた曲作りにチャレンジすることができました。加えて歌詞に関しても、より具体的なテーマや世界観を曲に取り入れられるようになったかなという印象があります。
nari:やっぱり「眠れない」で我々の想像以上の反響をいただけたので、それを意識してしまいがちではあるんですけれども、また新たな切り口はないかな?とこの1年試行錯誤しながらやってきた感覚があります。
眠れない feat. 楠木ともり / MIMiNARI
――実際、今年に入ってから発表された「られない feat. Such」「酔えない feat. Anonymouz」「戻らない feat. 八木海莉」はこれまでのMIMiNARIらしさを引き継ぎつつ、もっと新しい世界へとつなげていきたいという感覚もあったのではないでしょうか。
nari:そうですね。「戻らない feat. 八木海莉」のようなタイプのバラードは今までやってこなかったので、比較的そういう意識が強い曲だったかなと思います。
――その一方で、今年はTEAM SHACHI「縁爛」の作詞や、はしメロ「パレット」「かわいいkm」の編曲など、外部への楽曲提供の機会も増えています。こういった経験から得られたものも大きかったのではないでしょうか。
sham:僕たちは楽曲ごとにボーカリストさんを変えてリリースするという形態をとっているんですけど、ボーカリストさんに寄り添った曲を書くだけじゃなくて、その方の魅力や世界観を僕たちなりの表現で形にするところにより磨きがかかったかなという印象があります。
nari:TEAM SHACHIさんの「縁爛」は作詞のみでの参加だったんですけど、こういったこともMIMiNARIでは初めてでしたし、しかも作曲は本間昭光さんというレジェンド級の作家さんとのコラボだったので、そこでのやり取りを含めてたくさん勉強させていただきました。で、はしメロさんとはデビュー前から交流があり、相手のこともある程度わかっていたつもりだったので楽しく作業できましたし、逆にMIMiNARIで経験したことをはしメロさんのアレンジにもうまく活かすことができたのかなと思っています。
sham:これからもたくさんの方にお声がけいただけたら、MIMiNARIとしてお手伝いできればと思っています。
縁爛 / TEAM SHACHI
パレット / はしメロ
――加えて、MIMiNARIは昨年春から今春まで「#デモ曲チャレンジ」という企画を通じて、毎週金曜に新曲を発表し続けました。合計52曲にもおよぶわけですが、改めてすごいことに挑戦しましたね。
nari:ありがとうございます。サビだけとはいえ1週間に1曲完成させていくので、終盤は正直キツかったんです(笑)。ただ、絶対に1年続けると決めてスタートしたので、今はやり切れてホッとしています。実は1年経った今も企画自体は続けていて、公開頻度は以前よりも落ちてはいるんですけど、自分たちのためにもこれは今後も続けていきたいなと思っているところです。
sham:それこそ「酔えない feat. Anonymouz」や「戻らない feat. 八木海莉」は「#デモ曲チャレンジ」に元ネタがあるので、ちゃんと作品として形になってリリースすることができたという意味でも有意義な企画だったなと思います。
nari:特にこの企画は、リスナーが求める傾向だとか「こういうメロディに惹きつけられるんだ」とか、毎回リアルな反響をダイレクトに得られたので、そういうところを常に次へ活かせたのは大きかったですね。
“「〇〇ない」縛り”から離れて
――ここからは最新EP『クランシック』について伺っていきます。リードトラックのテイストはもちろん、これまでの統一感の強かったテイストから刷新されたアートワークや「醒めない feat. WaMi」という「〇〇ない」シリーズの集大成的な一曲など、MIMiNARIが新たなフェーズに入ったことが伝わる一枚だと思いました。おふたりは今作において、どんなことを意識して制作に臨みましたか?
sham:まずは「クランシック feat. 北澤ゆうほ」を表題曲として置き、そこに紐づける形でバランスを取りながら曲を並べていこうと考えて。その際に、僕たちの今まで持っていた儚さとか透明感、切なさみたいな要素を別の切り口で、違った聴かせ方ができないかという意識で制作に臨みました。
nari:あと、「醒めない feat. WaMi」でいったん“「〇〇ない」シリーズ”の縛りをなくし、新たに「クランシック」というタイトルを掲げることに関しては、ふたりの間でかなり話し合いましたね。この数年、「〇〇ない」以外のタイトルを考えたことがなかったですし(笑)、だからこそ「クランシック」というタイトルをつけて、かつどんなサウンドを構築するのかは大きな課題だったと思います。あと、そうした新規軸の作品に「醒めない feat. WaMi」は入れないほうがいいんじゃないかと最初は思ったんですけど、僕らは「記憶を音楽にする」というテーマを掲げているので、そういう意味ではこの曲はEPに必要なピースだと思い、改めて収録することに決めました。
醒めない feat. WaMi / MIMiNARI
――実際、今年発表された「られない feat. Such」「酔えない feat. Anonymouz」「戻らない feat. 八木海莉」はEP未収録ですし、これらに「醒めない feat. WaMi」を含む形で別のEPを制作するということもできたと思うんです。でも、現在進行形のMIMiNARIを示すという意味ではこれまでとこれからが混在するほうが面白いんじゃないかと、リスナー視点で感じました。
nari:ありがとうございます。そう受け取ってもらえたならうれしいです。
――1曲目に収録された「クランシック feat. 北澤ゆうほ」は、10月スタートのTVアニメ『魔王様、リトライ!R』のエンディング・テーマとしてオンエア中です。この曲はアニメありきで制作されたわけですか?
sham:そうです。まずアニメの台本を読ませていただいて、物語の全貌を把握した上で“疾走感のある僕たちらしい曲”をベースにしようと考えて。それから、どういう切り口で詰めていこうかなと考えたときに、ボーカルを北澤ゆうほさんに頼もうかなとを思いつきまして。『魔王様、リトライ!R』の監督が、僕たちが昔エンディング・テーマをやらせていただいた『彼女、お借りします』というアニメの監督と一緒で、そのアニメのオープニング・テーマを担当していたのが北澤さんがやっていたthe peggiesだったんです(※the peggiesは同アニメ第1期オープニング・テーマ、MIMiNARIは第2期エンディング・テーマを担当)。そういったご縁もあってここは北澤さんにお願いしようかなと思い、彼女の声質とか歌い方と、僕たちの疾走感のある楽曲、そしてアニメのエンディングらしい“エモみ”のあるサウンド感を掛け算したときにどうなるかなというところで、サウンドを固めていきました。
nari:僕もずっとバンドをやっていたのでわかるんですけど、北澤さんは声の出し方や歌詞の乗せ方、リズムの取り方が独特なんですよね。「クランシック feat. 北澤ゆうほ」みたいな疾走感のある曲って、本来はギターでコードをジャキジャキ鳴らしがちなんですけど、今回はあえてそこを抑えてサウンドを作っているので、北澤さんにもいいバランスで、勢いで前に行く部分と少し後ろに行く部分というのをセクションごとにディレクションしながら歌ってもらいました。
――そうした結果なのか、今までのMIMiNARIの楽曲以上に開放感が強い印象があります。
sham:アニメのエンディング・テーマということで、絵と合わせたときの“映え”を意識した結果、そういう開放的な広がりのあるサウンドにつながったんじゃないかと思います。その一方で、アウトロでは北澤さんのウィスパーボイスを取り入れていたりと、前作『眠れない EP』で試したような密室的な表現も取り入れています。
クランシック feat. 北澤ゆうほ / MIMiNARI
――歌詞に関してはいかがでしょう。
nari:最初に、監督からリファレンスとして「ズバリ、『諦めない』でお願いします」というメッセージをいただいたんです。あえて「○○ない」をひとつ添えてくれて、そこから台本を読んで作っていったので、作詞は比較的スムーズに進んでいったかな。加えて、登場人物のルナ(・エレガント)とイーグルの物語について描いてほしいと明確に伝えていただいたので、そういった部分をアニメを観ながら楽しめるように意識して作詞しました。
sham:これは僕が台本を読んで一方的に感じたことなんですけど、主人公と仲間たちの絆や助け合いみたいなところがテーマにあるのかなって。ルナとイーグルは幼なじみなんですけど、引き離されてしまうんですよね。でも、そういった中でもお互いの絆は途切れることなく、ルナがイーグルを助けに行くんです。そういった、片方がもう片方を想う気持ちを色濃く表現できたらなと思いながら、僕は作詞と向き合いました。
――「クランシック」という独特なタイトルはどのようにして生まれたんですか? これは「クラン(Clan/氏族、一族、PCゲーム内におけるチームや仲間を意味する)」と「クラシック」をくっつけた造語なんでしょうか。
nari:そうです。これを思いつくまで、結構時間がかかりました。もともと、この言葉は歌詞の中にも入っていなかったんですけど、あるとき急に「『クラン』に『クラシック』か……『クランシック』ってどうだろう」と思いついて、ポロッと口にしたんですよ。そこからは早かったですね。
――「〇〇ない」シリーズのあとに来る一手としては、イマジネーションをかき立てられるほどインパクトの強いタイトルだと思いましたよ。EPはそこから「醒めない feat. WaMi」に続きます。
sham:これも、僕たちのデビュー曲「消えない feat. 春茶」やデビュー1周年を記念で発表した「しくない feat. 水槽」のように、従来の僕ら的なサウンドと、今までやってこなかったようなサウンド感の“掛け算”をテーマに作った一曲で。今までやってきた切なさや儚さ、疾走感みたいなものに、違ったビートや今まで使ってこなかったようなリズムで何かできないかなと考えたときに、ドリームポップの音像感……言ってみれば洋楽的でソリッド、淡々としているんだけどスピード感があるビートに、儚くてふわっとしたウワモノをミックスさせて、ベースを固めていきました。
nari:今話題に出てきた「しくない feat. 水槽」では、“手紙”をサブテーマに手紙のような質感の歌詞を書いていったんですが、この「醒めない feat. WaMi」も次の周年曲を想定した楽曲だったんです。「じゃあ、手紙の次ってなんだろう?」と考えたときに、“映画”をサブテーマに置いて作ることにして。加えて、最初に歌詞を作る段階から「これまでのタイトルを散りばめていこう」というアイデアもあり、メロディを聴きながら〈言えない〉や〈見えない〉〈どうしようもない〉といったワードを入れ込んで作っていきました。
――shamさんがおっしゃるように、特にサビに入ったあとのリズムは非常に独特で。不思議な気持ちよさがあります。
sham:ありがとうございます。サビだからといって頑張って盛り上げるとか、一気に音圧が増すような考え方をせず、ある種洋楽的に淡々とリズムトラックが変化しつつ、歌の表情やウワモノの変化で曲の緩急をつけています。あとは、どちらかというと「クランシック feat. 北澤ゆうほ」はエモーショナルな起伏を持った曲なので、そことの対比も少し頭の片隅に入れつつ、作っていった記憶があります。
――WaMiさんをフィーチャリングボーカルに選んだ理由は?
sham:この曲を作っていく中で、WaMiさんにお願いしようかというアイデアは漠然とあって。
nari:そもそも以前から、WaMiさんにぴったりな楽曲ができたら、タイミングさえ合えば一緒にやりたいと勝手ながら思っていまして。この曲を作っているときも、脳内でWaMiさんの声が自然と流れていたんですよ。
sham:WaMiさんはハウスを中心としたダンスミュージックをご自身でやられている方ですけど、だからといって声質がダンスっぽいというわけではなくて、切なさや儚さも兼ね備えたボーカリストさんだと思うんです。それと、洋楽的な楽曲っていうところの共通項を考えて、今回はWaMiさんにお願いさせていただきました。
nari:「醒めない feat. WaMi」は意外と起伏がない曲なので、歌うにも難易度が高いんじゃないかと思うんですけど、たった4音、5音の中でもしっかり強弱がつけられていて。しかもDメロみたいに落ち着くところでは、また僕らの仮歌とは違う抑揚を細かくつけてくれた。そういうスキルは改めてすごいなと思いました。
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歌い手とともに作り上げた楽曲制作
――3曲目「sus feat. 9Lana」は、アップテンポで派手めなアレンジの一曲です。
sham:この曲は最初から9Lanaさんで行こうという感じではなくて。僕たちの中では「られない feat. Such」とか「呆気ない feat. ロス」みたいに、ロック味のある曲というのも系譜の中のひとつとしてあったので、「クランシック feat. 北澤ゆうほ」「醒めない feat. WaMi」と続いて、1曲くらいは激しめなやつを差し込もうかなと思い、まずデモを作り始めたんです。
nari:それで「とにかく速い曲にしよう」ということで、最初はBPMも200ぐらいだったところを最終的に233ぐらいまで上げて、疾走感をより高めました。あと、ほかの曲ではギターを何本か重ねることも多いんですけど、この曲ではギターは1本のみ。それも初めての試みかなと思います。メロディラインに関しても9Lanaさんじゃなかったら難しいんじゃないかという仕上がりで、特に2番では9Lanaさんならではのカメレオンボイスを楽しむこともできるので、個人的には感動しています。
sus feat. 9Lana / MIMiNARI
――この曲、個人的にはあるアーティストの楽曲とリンクする歌詞がすごく響きました。
nari:気づきましたか(笑)。この曲には“THE BLUE HEARTS”という裏テーマがあるんですよ。少年が主人公の歌なので、そこにちなんだ表現としてTHE BLUE HEARTSと紐づけたんですけど、あまり子供っぽくなりすぎないようにと意識しながら作っていきました。
――確かに「ランドセル」というワードは出てくるものの、歌詞の主人公の年齢はそこまで低くは感じないですし。
nari:そうですね。ここはやっぱり9Lanaさんの歌唱力のおかげもあるかなと思います。
――ここまでの3曲だけでも、それぞれの歌い手さんの個性によってそれぞれ世界観がまったく異なりますが、最後の「あこがれ feat. Myuk」もすごく独特な仕上がりです。
sham:EPの最後の楽曲ということで、ちょっと肩の力を抜きつつ、過去に発表した「眠れない feat. 楠木ともり」とか「酔えない feat. Anonymouz」みたいに浮遊感の強い系譜の曲を作ろうというところから制作がスタートして。
nari:Myukさんのボーカルが入るまでに何度も作り直して、試行錯誤の末にできた一曲なんです。
sham:歌詞に関しては現代的でちょっとセンセーショナルというか、問題提起のようなものを織り込めたらなと考えていました。
nari:日々、電車の中で美容整形に関する広告……「こんなにお安くできますよ」っていうのをよく目にするじゃないですか。そういう、日常で感じていることをそのまま歌詞に落とし込んでみました。で、レコーディングではほかの歌い手さんと同様に、Myukさんもいろんなアイディアを積極的に出してくれまして。そうしたサポートによって完成した楽曲のひとつかなと思います。
あこがれ feat. Myuk / MIMiNARI
――具体的にはどういったアイデアがありましたか?
nari:イントロに入っている咳払いや、口ずさんでいるような歌い方はデモの段階では入っていなくて、そういったものはMyukさんのアイデアですね。あとは最後のフェイクとかや裏メロも、「これ、大丈夫ですか?」と積極的に入れていただきました。
――なるほど。ちなみに、Myukさんの歌い手としての魅力はどういったところでしょう?
sham:とにかく吐息成分がすごく多い声なので、耳触りが心地いいんですよね。かつ、吐息が多いからといってエモーショナルな部分が削られることも一切なく、囁きながらもその中に力強さが感じられるという、まさに僕たちが表現したかったサウンドを声でも表現してくださるような方だなと思います。
nari:最近のMyukさんご自身の楽曲だと“和メロ”というか、和のテイストを強調した歌い方が多い印象があったんですけど、この「あこがれ feat. Myuk」という曲ではMyukさんも好きらしい海外のブラック・ミュージックに通ずるような歌い回しなど、意外な一面を見せていただいていて。改めて引き出しが多い方だなと思いました。
――この4枚目のEPから新しいフェーズに突入したMIMiNARIですが、ここからどんな挑戦を見せてくれるのかが非常に気になります。
nari:直近だと、アルバムの制作に取り掛かっているところで。早めに出せるようにと頑張っています。既存曲のどれを入れるのか、全体で何曲入りになるのかはまだ決まっていませんが、全体のバランスを取るために新曲も複数用意すると思うので、楽しみに待っていてほしいです。
sham:あとは、これまでご一緒させていただいた、メジャーの第一線で活躍されている方々だけじゃなくて、たとえば「個人で頑張ってやってます」みたいな歌い手さんからもどんどんメッセージをいただいて、コラボできたらなと考えています。それこそ、さっき話した「#デモ曲チャレンジ」の延長でまだリリースしていない曲をSNSにアップし始めているので、メジャーやインディー問わず、参加していただけるボーカリストさんは大歓迎なので、ぜひSNSから応募していただきたいなと思っています。
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