Special
<インタビュー>花冷え。 【ロラパルーザ】出演、世界を飛び回る4人が今見つめるもの――“原点回帰”を掲げた最新EP『ぶっちぎり東京』
Interview: 阿刀“DA”大志
ユキナ(Vo.)、マツリ(Gt. / Vo.)、ヘッツ(Ba. / Cho.)、チカ(Dr.)の4人からなるガールズ・ラウドロック・バンド、“花冷え。”。メジャーデビューからまだ1年半にも満たないにもかかわらず、デビュー前から海外のメタルフェスを渡り歩き、今年2024年はついにアメリカ“3大野外フェス”のひとつ【ロラパルーザ 】のメインステージに出演するなど、その勢いは海外を中心に止まることを知らない。世界を飛び回って得た経験、そしてそんな環境の中で生まれた最新作『ぶっちぎり東京』に込めた“原点”回帰というテーマについて、4人揃って語ってもらった。
大舞台【ロラパルーザ】、
海外を飛び回って得たもの
――まずは、8月に出演した【ロラパルーザ2024】の話から聞かせてください。
マツリ:【ロラパルーザ】ってめちゃくちゃ有名なフェスじゃないですか。だから、最初は嘘かと思って(笑)。本番まで落ち着かない日々を過ごしていました。
ユキナ:ありがたいことに、メタルフェスは各国いろんなところから呼んで頂けるようになってきましたが、【ロラパルーザ】はメタルフェスとは違うので、MCや衣装についてもいろいろ考えたし、ヘッツはこの日のために夜なべをしてステージのお立ち台4人分に装飾をしてくれました。
ヘッツ:生地はチカと一緒に買いに行きました。ロラパルーザのステージに合う、いいお立ち台になったんじゃないかなって自画自賛してます(笑)。あと、花冷え。のライブとしては初めてVJも入れて、何曲か大きいスクリーンに映してもらって。
ユキナ:ほかにもビーチボールを客席に投げ込んで大玉転がしみたいにしたり、このライブ一本のためにいろんなことをやりました。
――このステージを乗り越えたことはバンドに影響を与えていますか?
マツリ:かなり自信になりましたね。大きな舞台を無事に終えられたことはバンドにとっていい経験になったと思いますし、今回はお昼の時間帯だったので、もっと大きくなって次は遅めの時間に出たい、みたいな野望が出てきました。海外でももっと頑張りたいなって。
――そこまで強い野心って前からありましたっけ?
マツリ:多分、なかったと思いますね。
ユキナ:世界各国を回って日本でもフェスに出演させてもらえるようになって、数を重ねるほど、叶えたいことが増えていっています。
マツリ:これまで花冷え。の曲が世界に伝わるっていう考えがなかったので、「伝わるんだ」ってわかってからは自信になりましたし、「もっともっと!」ってなっていっているんだと思います。
――【ロラパルーザ】のあとにも海外フェスはいくつかありましたけど、海外のフェスには慣れてきましたか?
マツリ:だいぶ慣れてきました。この国のこのフェスはこういう雰囲気っていうのがちょっとずつ頭に入るようになってきました。去年はただただ「このフェス、すごい!」みたいな毎日だったんですけど。
――フェス以外だと、ウクライナのメタル・バンドJINJER、アメリカのデスコア・バンドBORN OF OSIRISとまわる、約1か月におよぶアメリカツアーがありました。
ユキナ:1か月で19本のライブがあって、4日連続でライブをして1日休み、みたいな感じで回っていたんですけど。JINJERのライブはエンターテイメント性が高く、ショーを観ているような感覚になるんです。それに影響されて、私も表現を意識して、表情とか身振り手振りで曲の雰囲気を作りました。
――チカさんはどうですか?
チカ:JINJERのドラムを見ていたら、シンバルがけっこう低めにセッティングされていたんです。それを見てすごくカッコいいなと思って私もちょっと下げてみたり、チャイナシンバルもちょっと自分に近づけてコンパクトなセッティングにしてみたりして。そのおかげなのか、体を痛めたり筋肉痛になることがなくなったんですよ。あと、みんなの演奏がまとまるようになった。
マツリ:グルーヴね! 今回はグルーヴ感がまとまったなと思えるツアーでした。
ヘッツ:JINJERもBORN OF OSIRISも技術が高く、演奏の“縦”が揃っていたので、それを見て私たちも縦を揃えようっていう意識がより強くなりました。そういう意味でもすごくいいツアーだったよね。
マツリ:演奏の前ノリと後ノリが揃うようになったんですよ。ずっと課題だったんですけど、今回で全員揃い始めたので成長を感じましたね。
――JINJERとのツアーのあとはオーストラリアツアーがありました。シドニー公演のファンカムをYouTubeで観たんですけど、演奏もそうだし、ステージ運びとか立ち振る舞いもすごく洗練されていて驚きました。
ユキナ:けっこう踊るようになりました。ボーカルがジャンプしたら、お客さんもそれに合わせてジャンプしたくなるっていうのはわかっていたんです。でも、ジャンプするところだからジャンプするとか、ヘドバンするところだからヘドバンをするんじゃなくて、音に乗せて体を動かすことによってお客さんと一緒に雰囲気を作るのがいいんじゃないか?みたいな。小さい頃にバレエをやっていたこともあって、ツアーのオフ日に体を動かしてその頃の感覚を思い出して、ライブでそういう動きを取り入れるようになりました。今後もやっていきたいです。
――ヘッツさんの立ち姿もかなりカッコよくなっていて。
ヘッツ:海外のアーティストさんと一緒にツアーを回ったり、フェスを観たりしているうちに、堂々と演奏する姿はカッコよく見えることに気づいて。自分もそうしたほうがお客さんも楽しめるだろうから、そこを意識するようになりました。
――あと、これは今にはじまったことではないんですけど、ピッチがこれまで以上に安定してきましたよね。
マツリ:けっこう大きかったのが、イヤモニを使うようになったことなんですよ。現地のPAの方と一緒に、イヤモニを使うことも考慮してシーケンスをいろいろ調整したらすごくやりやすくなって、「革命だな!」って思うくらい歌いやすくなったし、他のメンバーに関しても誰の音がどうなっているのか、全部わかるようになったんです。まだまだ完璧ではないんですけど、毎公演ごとに自分たちの課題がすぐにわかるようになったのはツアーの大きな収穫でした。日本でもうまく使っていけたらなとは思うんですけど、イヤモニをしないでやるライブの良さもあるので、どっちでもかっこよくできるように使い分けていきたいですね。
――使い分けるんですか?
マツリ:ある先輩から、どれだけステージが広くてもパンクバンドは絶対にコロガシ(モニタースピーカー)でやれっとアドバイスがあり。イヤモニに頼りきってしまうと、いざそれがなくなったときにすごい(演奏の)崩れ方をするらしいので、そうならないようにどっちでもできるようにしなさいという教えを受けて。お客さんの声がダイレクトに聞こえるのもコロガシの醍醐味なので、うまく使い分けたいですね。
ヘッツ:いろんな環境でやってきたからこそ、どんな場所でも崩れないライブができるようになってきたんじゃないかと思います。
リリース情報
関連リンク
EPで掲げた“原点回帰”
――そうやって世界中を回ってからリリースする作品が『ぶっちぎり東京』という。これは世界を回ってこなかったら生まれなかったタイトルですね。
ユキナ:タイトルもそうですし、曲もこういう路線にはいかなかったと思います。
――世界を回ってたくさんの人と出会う中で、「日本っていいよね、東京っていいよね」とあちこちで言われたことで、自分たちの地元に対するプライドや愛を再認識するという。
ユキナ:そう。アニメの存在は当たり前すぎたというのもあって、前はジャパンカルチャーに対してそんなに深く考えてはなかったんですが、ワールドツアーを回るなかで「ジャパンカルチャーって、こんなにみんなに愛されているんだ!」っていうことを知ったし、そのおかげでコミュニケーションをとれたりすることが増えたので、すごく誇りに感じるようになりましたね。
――そういうところから着想を得て、曲や歌詞が生まれていったと。
マツリ:歌詞はそうですね。曲はまた全然違うところから始まっています。
――今作に収録されている新曲は、割とゴリッとした感触のものが多いですね。「ぶっちぎり東京」なんて珍しくすごくストレートな曲で。
マツリ:この曲に関しては……ヨーロッパのフェスで初めてグリーン・デイのライブを観たんです。私、グリーン・デイがすごく好きで、「小さい頃に聴いていたあの曲が生で聴けてる!」っていう、夢みたいな状況で。その余韻が残ったままツアーを終えて帰国して、そんな気持ちのまま帰国2日後ぐらいに作ったのがこの曲なんです。だから、サビのリフにはストレートにその気持ちが出ていると思います。
――この曲に漂うパンク感はグリーン・デイ由来なんですね。
マツリ:そうですね。もちろん、花冷え。節も入れてはいるんですけど、元のマインドはそこです。
――「GAMBLER」はどうですか?
マツリ:これは歌詞、楽曲ともに原点回帰の曲ですね。
ユキナ:そもそも、デモのタイトルが「アンチノック」で。「『アンチノック』って書かれてるデモの内容がこれでしょ? もう、君がどういうことがやりたいのかすぐわかるよ」みたいな(笑)。
マツリ:もう、秒だったね(笑)。
ユキナ:だから、マツリとの打ち合わせも早かったし、歌詞も「スムーズだね~」って言いながら書いていました。この曲ではライブハウスに出はじめた頃の私たちについて歌っているんですけど、バンド以外の選択をしていた可能性もあったなって。実際、就職も考えていたけど、今こうやってバンド活動ができているという。だから、バンドマン人生ってなんかギャンブラーみたいだよなって。
――なぜこのタイミングで原点回帰について歌おうと思ったんですか。
マツリ:少なからず昔に比べて、バンド活動に勢いがついているとは思っていて。「そんな私たちを見て、みんな『なんかキラキラになっちまったな』って思ってるでしょ? でも、私たちのマインドは何も変わってないよ」っていうことを伝えるために、ここでゴリゴリの曲を出したら面白いかなと思って(笑)。実際、路線が変わっちゃったって感じている方たちはいるんですよ。
ユキナ:やりたいことやりすぎてるからね(笑)。
マツリ:そう! でも、そういうふうに感じる人の気持ちもわかるんです。『開花宣言』(2018年10月リリース)の頃の花冷え。がすごく好きっていう人からすると、たしかに今の花冷え。は「どうしたん?」ってなるようなことをやっているし。
――でも、それは自覚的にやっていたわけですもんね。
マツリ:そうです。一旦、今の自分たちがやりたいと思うことをやっていたんですけど、もちろん『開花宣言』の頃の曲も好きなので、今回のEPにそういう曲があってもいいかなって。あとは、今の自分たちがこういう曲をやったらライブですごく化けると思ったので、そういう期待を込めて入れたというのもあります。
――ヘッツさん的にも原点みたいなところは感じていますか。
ヘッツ:いや、本当に、私の中にある花冷え。ファン魂が「キターーーー!!」って言っていましたよ。「やっと来ました!」って。私たちは最近ずっと、キラキラのシンセを入れまくっていて。それもいいんですけど、やっぱり『開花宣言』の「ghost mania」とか「ドラスティック・ナデシコ」みたいにメタルコアの曲もいっぱいあるんだから、そういう曲が欲しい!って思っていたら来ました。
――この曲のアレンジのクレジットがマツリさんひとりになっているのが大きくて。
マツリ:はい。原点回帰ということもあって自分たちだけでやりました。
――だから今、外部のアレンジャーを入れずに自分たちだけで曲をつくるとこれだけのパワーになるのかというのはすごく感じました。ここに今の花冷え。の強さが詰まっているなと。
マツリ:うれしい。
――そして、「いとをかしMyType」は……。
ユキナ:某性格判断の……(笑)。これは今の流行りというか、現代人のみなさんが気になっているものをピックアップしました。これって日本だけじゃなくて世界でも知られているものなので、どの国の人にとっても受け入れやすいかなって。あと、この曲は平安時代チックというか、和な感じもあって。
マツリ:現代と平安時代にもちょっと通ずるところがあるんじゃないかということで、そういう要素もちょっとポップに採り入れました。
――世間の流行を歌詞に盛り込むことを避けるアーティストもいますけど、花冷え。はそういうことに対してむしろ積極的ですよね。流行が過ぎてからのことは気にしないんですか?
ユキナ:気にしないです。曲も一緒に年を取っていくというか、今の私たちにしかできない超フレッシュなものをアウトプットする、みたいな。
ヘッツ:(初期楽曲の)「L.C.G」の〈とりま タピってストーリー〉とか、当時は誰もが1日1回はタピオカを飲んでいる時代でしたよね。
マツリ:そういう懐かしさもすごくいいものだと思うし、年を取ってからだと今やっているようなことは絶対できなくなっちゃうので、今やるしかないよね。
――チカさんは、まとまった作品としては2023年リリースのメジャーデビュー・アルバム『来世は偉人!』に続いて2枚目の参加作品になるわけですが、今作でのドラムに対するアプローチやメンタルはどう変わったんでしょうか。前作は、すでに出来上がっていたフレーズを叩くという特殊な状況でしたが。
チカ:そうなんですよ。前回は私の加入発表前に録った作品で、曲作りのタイミング的にアレンジには参加していなかったので、今回のEPは初めて全部自分でドラムアレンジした作品になりました。マツリからもらったデモを聴いて、どうアプローチしたらいいか考えて、けっこうポップなテイストを入れてみたりしたので、「みんな、どういう反応するかな?」っていうのはあるんですけど……。
ヘッツ:けっこうテクいフレーズもあるよね。
チカ:私は音楽専門学校出身でテクいフレーズも勉強してきたので、「こういうのを入れたら面白いかな?」っていうフレーズもけっこう入れましたね。あとは、海外のドラマーからの影響もあります。「GAMBLER」に関しては、私はアンチノック(ライブハウス「新宿ANTIKNOCK」)での下積み時代を経験していないので、みんなから話を聞いたり、参考になるドラマーの方を探して勉強したり。けっこう重たい曲なんですけど、細かいフレーズをいっぱい入れたりしてこだわりましたね。
――そして、「ボーナス☆ぎるてぃたいむ」ですが、この曲はもう、アニメのキャラソンですね(笑)。
マツリ:よーーくわかってらっしゃる……! 私はメンバーのキャラソンが欲しいんですよ! 第1弾は『来世は偉人!』でヘッツに歌ってもらった「我は宇宙最強のインベーダーちゃんである」なんですけど、私はとにかくチカに歌ってほしくて! でも、チカは人前で歌うことがあんまり得意じゃないというのを知っていたので、「歌じゃなくてラップみたいな感じだったらどう?」みたいなアプローチをしたら、「それなら大丈夫かもしれない」って。
チカ:アイデアを聞いたときはびっくりしましたけどね。「大きい声は出ないし、高い声も出ないけど、大丈夫?」って。
マツリ:でも、チカは“地声が中毒になる”タイプなんですよ。それをスルメ曲として入れたくて。それで海外ツアー中のオフ日に、ホテルで自分が仮歌を入れて、セリフパートはユキナにお願いして、チカがそれをしっかり聴いてきてくれたので、レコーディングはめっちゃ早く終わりました。いいテイクばかり出してくれて。
チカ:家でこっそり練習してきました。(小声で)〈I am chika☆〉って。
マツリ:かわいい!(笑)
――この曲の歌いきれてない感じというか、拙い感じで萌えさせようとしているんだろうなと思いましたよ。
チカ:〈そんなわけないない〉というところでリズムがちょっとクチャッとしているんですけど、レコーディングのときに「今ちょっとリズムがよれてましたね、もう1回録りますか?」って聞いたら、「いや、そのままでいい」って言われて、「それが私なんだ」と。
マツリ:カチカチにするとチカの曲じゃなくなってしまうんですよ。だから、そういうちょっとした“よれ”も含めて必要性まみれなテイクだったんです。
ヘッツ:そのままのチカでいてほしい。
――今作は攻めている曲が多いのに、最後にこの曲が来ることで攻撃性の高さがいい具合に中和されるんですよね。では、このEPはどういった位置付けの作品になるんでしょうか。
マツリ:楽曲面に関して、私的には次のフルアルバムの序章です。
ユキナ:あとは、今作は原点回帰がコンセプトだったので、あえて(先にリリースされていた)「GIRL’S TALK」は入れていないんですよ。
――原点回帰というコンセプトからズレるから?
マツリ:そうですね。あと、「東京」とか「平成感」というテーマに通ずる曲だけを集めたくて、「GIRL’S TALK」はちょっと大人すぎる感じがしたので、この曲は今後ぴったり合う作品に入れたいですね。
――さて、来年はどんな一年になりますかね。
マツリ:10周年!
ユキナ:結成から10年が経とうとしています。10年続いたというのはひとつの節目だと思うので、自分たちをいったん褒めてあげて、「よし、また頑張るぞ!」みたいな感じです。春には神奈川・KT Zepp Yokohamaで主催イベント【春の大解放祭 2025】もあるし、ドイツのフェス【Wacken Open Air 2025】や他のフェス出演も発表になりましたので、国内外含めて花冷え。をぶっちぎりで盛り上げていきたいと思います!
EP『ぶっちぎり東京』ティザー映像
リリース情報
関連リンク
関連商品