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<年間チャート首位記念インタビュー>Creepy Nuts、「Bling-Bang-Bang-Born」が運んだ激動の2024年――「オトノケ」、フェス出演、アルバム制作で見えた新しい“俺ら”【後編】
Interview & Text:Maiko Murata
2024年のビルボードジャパン各種年間チャート結果が発表された。CDセールスやストリーミング、動画再生回数など計6指標からなる総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”では、上半期に引き続き、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が総合首位を獲得。また、世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した“Global Japan Songs Excl. Japan”では同チャート史上最多となる通算24回の首位に輝き、こちらもダントツの成績で首位を獲得。その他チャートもあわせ合計12冠を達成し、まさに2024年の日本を代表する一曲となった。
インタビュー後編となる本記事では、「Bling-Bang-Bang-Born」に続くグローバルヒットとなった「オトノケ」の“この世界にない”リリックとトラックが生まれた経緯や、今年も引っ張りだこだった国内外でのフェス出演、そして制作真っただなかのアルバムに表れている今のモードについて語ってもらった。
>>>前編はこちら
韻で縦に、トラックで横に広がった「オトノケ」
――「オトノケ」について、もう少し聞かせてください。今まさに“Global Japan Songs Excl. Japan”で8連覇中、グローバルヒットを続けるこの曲ですが、特に印象的なのが海外からのコメントの多さです。動画のコメント欄、UGC(二次創作動画)はもちろん、毎週発表しているビルボードジャパンのチャートにも、「オトノケ」が上位を記録した際はさまざまな外国語でのリアクションが届きます。おふたりにも何かリアクションは届いておられますか?
R-指定:海外じゃないですけど……どの曲のときもそうなんですけど、信頼しているラッパー仲間とかから、「よかったな」「いいな」みたいなリアクションをもらえたりして、それはだいぶ自分の中では嬉しいですね。……でも、「オトノケ」に関しても、まだ反応は体感できてないですね。
DJ松永:全然。海外のリアクションとか入ってくる? 俺全然わからないかも。
R-指定:そうね。ほんまに、友達からの「めっちゃよかった!」とか、それだけなんです。今俺が肌で感じてるリアクションは(笑)。まだ、チャートのワーッていってる感じとかは味わってないですね。
DJ松永:俺、Rのそれすらないから。
R-指定:おーい!(笑)
DJ松永:トラックメイカー仲間から「おーい!」とかないから(笑)。やっぱ、トラックメイカー仲間とかが俺あんまりいないからさ。俺も(曲が)できたら「うぇい!」とかリアクションしあう同業仲間を……そうだなあ……元からいなかったのか、いつからか俺からいなくなってしまったのか……。
R-指定:ああ、さみしい!
DJ松永:俺のせいなのか、ちょっとわからないけど……。ちょっと、そういうさみしい人生から脱却を試みたいです(笑)。本当……全国、他のトラックメイカーの人たちは、どうしてるんですか?
R-指定:あははは!!
――「オトノケ」のトラック、バース部分のピコピコした音が「ピクミンみたい」っていうリアクションありませんでしたか?
DJ松永:ありましたね!
――松永さんもXで投稿されていましたよね……?
DJ松永:血眼になって探したんです。
R-指定:ははは!
DJ松永:YouTubeのコメント欄で、俺が「ピクミンみたいだ」っていうコメントを見つけて、「見つけたァッ!」って。
R-指定:ピクミン……確かにな……。
DJ松永:で、これ見よがしにXで反応したんです。
R-指定:なんかさ、わかりやすく「すごい」とかじゃないっていうね(笑)。「ピクミンみたい」とかじゃなくて、音のヤバさをもっと言語化……言語化、むずいんよ、やっぱ。
DJ松永:音だから。「いい感じ」とかしかない。感覚的なもんだからな。
R-指定:そうなんよ。
DJ松永:本当に悲しいですよ。助けてくださいよ(笑)。
――ピクミンもグローバルなキャラクターなので、そこで通じた部分はあると思いますよ……?
DJ松永:確かにね。ピクミン「だから、いい」っていう感想になってれば嬉しいですね。ピクミン「ゆえに、あんまり」だったら……(笑)。
R-指定:それは嫌やな(笑)。
オトノケのトラックってピクミンっぽいの?笑
— DJ 松永(Creepy Nuts) (@djmatsunaga) October 18, 2024
――うまくトラック面のフォローになれば嬉しいんですが……「オトノケ」を初めてフルで聴いたときに真っ先に驚いたのが、先にアニメPVで公開されていたフック部分と、その前のイントロ~バース~ブリッジ部分が、別の曲なのかと思うくらい全く印象が違ったことです。バース~ブリッジの展開には、『ダンダダン』アニメ1話でキーになる“トンネルを抜ける”ような感覚もありました。まさに「これまでにない作り方をされた」んだと思ったのですが、今回の制作はどう進められたのか教えてください。
R-指定:いつもと順番が逆なんですよ。いつもは松永さんからビートをもらって、俺が(ラップを)乗っけてっていうやり取りなんですけど、今回に関しては、それこそ「Bling-Bang-Bang-Born」と作った時期が近いから――「Bling-Bang-Bang-Born」がヒットするとかまったく思ってない、ただ単にあの感じが好きで、同じマインドの延長線上で全然違うとこ行ったろ!と思って作ってたんです。言語ではない、根源的なリズムをキーにして曲を作りたいなって思ってた時期で。で、〈Bling-Bang-Bang-Born〉ってフレーズが出てきて、こういう非言語的なリズムってのがいいなあっていうのもあって。ちょうどその『ダンダダン』の(タイアップ)ってこともあったから、じゃあ「ダンダダン」をそのまま取っかかりのリズムにして作ってみようと思って、(イントロの)〈ダンダダンダンダダン〉っていうところから、この「ダンダダン」と同じ韻でバースはいこうと。その同じライムのまんま、メロディーをつけよう。さらに抜けたメロディーをつけよう。みたいに……リズムはずっと「ダンダダン」なんですけど、メロディー、テンション、抜け感が変わっていくっていう、言語になってないスキャットみたいなのを録って、松永さんに送って。そこからトラックを肉付けしてもらったみたいな。
――なるほど! “韻”先行なんですね。
R-指定:そうなんですよ。だからこのフロウというかメロディーというか、それをアカペラで〈ダンダダン〉って続けていた音が、どんどん言語になって、ちょっとゆっくりしたメロディーになって、より跳ねたメロディーになってっていう、リズムは同じで味が変わっていく、みたいなのを作って。俺は直線的に、登っていくような感じにしかイメージしてなかったんですけど、そこを松永さんがトラックで横に広げてくれた感じですかね。映像みたいに。
オトノケ / Creepy Nuts
――おおお。
R-指定:だから、あのイントロ~バースがあって、ブリッジ、〈ハイレタハイレタ……〉ってくるところで景色がグワッて変わるのは、お互いやり取りしている最中、言語が乗ってない状態のときに送ったスキャットの段階で、ブリッジのところに思いっきりひらけたというか、今の全然違うことになる展開を足してくれたから。それに伴って歌詞もあそこで〈ハイレタ〉になったんですよね。そっからまた自分の言葉が変わって、「これは“入った”感じするな」って。自分が、いわゆる“音の怪”――音楽の化け物やとしたら、あの、グワンって景色が変わる瞬間にたぶん、俺は耳を通して人の脳内に入れるんやろうなあ、みたいな。そんな感じがしました。だからこの、やり取りの中で言葉も出てくるっていうのはありますね。
――普段と作り方を変えたことで、トラックも広がり方など変わったところはありましたか?
DJ松永:今回よかったのは、Rが同じ韻とか同じ譜割りで行ききっているアカペラが先にあったからこそ、トラックでめちゃくちゃ展開をつけられたっていうのはありますね。どんなに変えても、ラップ自体が同じグルーヴを保ちながら展開していくんで、まったく崩れない。そういう担保を先に作ってもらってたんで、普通じゃありえないような大胆な展開ができた。(そんなトラックを)作るだけならいつでもできただろうけど、それを作ったうえで、めちゃくちゃきれいに成立する、みたいなことはなかなか、やろうと思ってもできないから。
――……すごい相乗効果ですね。なんだか鳥肌立ちました。
DJ松永:恐縮です。
R-指定:あははは!
――海外のお話も聞かせてください。上半期チャートのインタビューは、まだ海外を飛び回られる前のタイミングでした。その後にアメリカ、韓国、台湾、また韓国と海外フェスに続々出演されているわけですが、海外公演の手応えはいかがですか?
R-指定:やっぱり、曲を知ってくれてる、反応してくれてるっていう瞬間があったりするから、それはだいぶ嬉しいですね。でも、ほんまの感触がわかっていくんはこっからかな?と思います。まだそこまで、「これが海外のお客さんか」「これが海外の反応かあ」って思えるほどまでにはいけてないというか。めちゃくちゃノリ良かったり、盛り上がってくれてたりっていうのはもちろん感じるし、自分の中でも、ちょっとまだ分析しきれてないですかね。
DJ松永:全部、我々がツアーやってないからってのが大きそうだよね。ドジャースタジアム(【AFEELA PREGAME PERFORMANCE】)もそうだけど、ニューヨーク(【Anime NYC】)も韓国も台湾も全部イベントで。それぞれの国もまったく違えば、その国の中においての客層も全部違うから、比較できるほどの……。
R-指定:データがないよな、まだ俺らの中に。しかもまあ、ニューヨークに関してはアニメフェスやから、アニメ主題歌になってる曲とかはすごい上がってくれたり。違いをより体感していくとかはこっからって感じですかね。
DJ松永:まだ1周目というか、エントリーした段階って感じするよね。日本に置き換えても、“呼ばれる系”のフェスっていうのはイレギュラーな場所だもんね。
R-指定:うん。
DJ松永:だから、自分たちのツアーとかやって、“呼ばれる系”のイベントに出て、それを足して割って、体感がつかめてくるというか。
R-指定:ああ、やっとわかるくらいな感じかな。こっからですね。
【THE HOPE】と【ロッキン】ひたちなか、
国内フェスでの新たな経験
――では今度は、国内公演のお話も聞かせてください。ひとつ印象に残っていたのが、9月のフェス【THE HOPE】出演時に、最後Rさんがひとり「生業」をアカペラで歌ってステージを去ったパフォーマンスが、SNSを中心に、Creepy Nutsのファン以外にもすごく刺さっていたことでした。「生業」は今年3~6月開催の【Creepy Nuts ONE MAN TOUR 2024】では披露されていなかったこともあり、この曲を今、フェスで披露されたことにはなにか意味があったのでは?と感じたんですが……。
R-指定:ツアー、そうか、(セットリスト)入ってなかったか……!
DJ松永:久しくやってないよ。
――そうですよね。特にご自覚なかったですか?
R-指定:でも確かに、「生業」を作ったときのマインドと変わってしまってる部分のほうが大きいから、ツアーでも入れてなかったし、しばらくそんなにやってなかったっていうのはありますね。
DJ松永:相当前(のリリース)だもんね。
R-指定:5年前ですね。だからもう全然、主張も、考えも変化している部分が多いから……。
DJ松永:サウンドも。
R-指定:ね。サウンドも、ラップの仕方も「もう5年も前のものやから」っていうのはあるからやってなかったんですけど……。【THE HOPE】はけっこう、持ち時間が短いんですよね。その中で、自分らのいろんな側面を見せたいし、ブチかましたいし、インパクトも……みたいなのもあって。特に「生業」に関しては、自分らのまさしく“生業”、ヒップホップについて歌ってたり、それへの自分の向き合い方について歌ってたりしているものなんで、【THE HOPE】でやるのはぴったり。だけど、言いたいことも変わってるし、ビートの感じも変わってるから、「どうしよう……」ってなったときに、松永さんが「これさ、鬼だけど、Rがアカペラでいける?」みたいなことを言い出して(笑)。
――松永さんの発案だったんですね!
R-指定:そう、最初は松永さん提案でしたね。「あー、でも、鬼やけど、できたら“鬼”よな」みたいな(笑)。
DJ松永:大技を要求しているなって感じではありました。トラックも、ちょっとあの流れで(音源のものを)出すのもなあ、みたいな。ラップの乗せ方もきっと変わってるから、今のRの乗せ方でもう一回再解釈するには、ちょっとトラック無いほうがいいなあ、と。
R-指定:内容も、言いたいことも変わってるから、そこを自由律俳句じゃないけど自由に動かして、なんやったらその場のフリースタイルとかも含めて、みたいなんができたら……。けっこう、ヒップホップは“そいつ/そいつらにしかできないもの”ってすごく大事じゃないですか。ああいう【THE HOPE】みたいないろんなラッパーが出てくるところで、みんなと同じことやってもなあと思って。じゃあ、俺らしかできないやつってなんやろ?と思ったところで、たぶん自ずと出てきたのがあれやったんかもしれないですね。
DJ松永:Rはしかも、MCとラップをシームレスに行き来できるくらいの技量に到達している人だから、できるだろうなあという。俺がやるわけじゃないけど(笑)。
R-指定:あははは!
DJ松永:で、Rがいちばんブチかませる方法を考えたんですよね。それがあれだった。【THE HOPE】に我々が出るにおいて、Rがラッパーとしていちばんブチかませたほうがいい。そう考えて、俺もステージからはけるっていう。
R-指定:(ライブの)目的が全然違うような気がしてて。ワンマンやったらじっくりいける、ロックフェスやったら全員を巻き込んで、ドカンってやりたい。じゃあヒップホップのフェスって何が目的かな?って思ったら、たぶん“ショック”や“インパクト”というか。それがいちばん最終目的地なのかなと思って。
DJ松永:そうなんだよな。ロックだと、矢印がお互いを向いている感じで終わるのが気持ちよかったりするけど、ヒップホップは俺らからお客さんへでっかい矢印がドンッ!って一方通行にあるのが、いちばん“ブチかます”っていう結果になるよね。
R-指定:やし、それがたぶん、お互い気持ちいいというか。ヒップホップの聴く側とやる側のこう、なんか……言葉にはしない何かがあるんですよ。
DJ松永:ブチかまされたい、圧倒されたいっていうのが、ラッパーに対してあるよね。
R-指定:ある! 自分が聴く側のときもそうやもん。食らわされて「ああ……」って終わりたい、みたいな。
――すっごくわかります。
R-指定:ね! で、俺らがやるってなったら……「全部したいし、全部できる」ってのも俺らの強みやなって思ったから、もちろん自分らの持ってるヒット曲で全員を跳ねさせるっていう、“みんなを巻き込む”型も入れたし、松永さんのルーティン――他のDJが100パーできないであろうとんでもない技術、世界一の技術をしっかりそこで見せるっていうのも入れたし、最後はラップの地肩だけで殴って帰る、みたいな。全盛りというか、あの短い時間に俺らのできることをギューッと圧縮したら、あんな感じになりました。
DJ松永:そう。あんな感じ。全部終わったときに俺、拍手中にはけるっていう。
R-指定:ふふふ(笑)。で、客席で観てたんやろ?
DJ松永:客席で観てた。前からRのライブ観ることないから、これちょっといいなあって思って(笑)。
R-指定:軽いノリやな!(笑)
――さっき、ロックフェスでは「矢印がお互いに向く形が気持ちいい」というお話をしていただきましたが、それをまさに感じたのが、その2日後に出演された【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA】でした。最後、サザンオールスターズのステージではおふたりも含めた、その日の出演者全員が勢揃いする場面もありましたよね。サザンとの共演も、きっと想定外のできごとだったのではと思うのですが……。
R-指定:想像してないし、俺にとってサザンオールスターズはヒップホップに出会う前、音楽を意識的に聴く以前から当たり前に流れている音楽でしたからね。おとんとおかんがめっちゃ好きで。自分がラップやり始めてから、「おとんが聴いてたあのアルバム、もっかい聴いてみようかな」みたいな感じで聴いたら「うわあ、やっぱヤバいんやサザン!」と思って、サザンも桑田さんのソロもめっちゃハマって。ことあるごとに、ラッパー仲間と「サザン、ヤバいよな!」「桑田佳祐……ヤバすぎへん?」みたいなことを話して、カラオケで歌ったりしてました。松永さんにももちろん、「桑田佳祐がなぜこんなに凄いのか」みたいなことをずっと講釈たれたりとか(笑)。
DJ松永:昔から聞いてたもので……。
――(笑)。
R-指定:「サザンのこの曲は~」とかひたすらしゃべり続けてたから、逆に(ご本人に)会った時、あんまりしゃべれなかったですね。
DJ松永:ほんとに。「いやこの人はね、昔から……」って、(桑田さんに)俺が言うっていう(笑)。
R-指定:あははは! 好きすぎて、あんまりちゃんとしゃべれなかったんですよ。「桑田佳祐やん……サザンオールスターズ……おるわ……」って。
DJ松永:その2日間、同じ音楽ライブでもこんなに違うかと思ったもんな。【THE HOPE】とお客ひとりもかぶってねえじゃねえか!って思う。
R-指定:面白い経験ですよね、両方できるなんて。
DJ松永:いやほんと、ありがたいよなあ。
R-指定:ありがたい。こんな、両方の経験できるなんてなかなかないですよ。両極端な現場を踏ませていただけるなんて。
DJ松永:ほんとね。両方絶景でしたよ。今後も、両方経験できるように頑張りたいなと思いますね。両方楽しいよな。
R-指定:確かにな。両方かましたいよな。
――どちらでもブチかませるのはおふたりならではの強みですよね。まだ少し早いですが、2024年はおふたりにとってどんな一年でしたか?
DJ松永:ありがたいですね。ありがたすぎる。
R-指定:そうやなあ……2024年……。
DJ松永:でもあれじゃない? Rはプライベートの変化もあるから。
R-指定:子ども……確かに。
DJ松永:激動だね? R。
R-指定:激動っすね。……まあ、なかなか一個で振り返るのはむずいですけど、そこの変化はありますかね。永遠に体調悪いしな。やっぱ子どもがもらってくるものを……。
DJ松永:あー、家族内感染! やばいね。
R-指定:そうそうそう。で、またきょうだいが増えるから、これね、ループ。
DJ松永:やばい!
R-指定:さらにグルーヴが……。
DJ松永:生まれる?
R-指定:生まれてくるっすよね。
DJ松永:やばいね。
R-指定:でも、ほんまに2024年どうやったかは、このあとの仕事や自分らの中での課題を頑張ってやることによって、どうやったかが言えるかなって感じではありますね。リアルなところ。まだ全然あるもん。
DJ松永:いやほんとね。色々、曲を作ったりもあるもんな。
R-指定:それを終えて、やっと2024年が語れるかな。
DJ松永:……ありがたいことは間違いないな。
R-指定:そう、「ありがたい」は間違いないです。
よくないものはよくないまま表現して。
その勇気も、いま一度持てた感じがする
――では最後に。上半期チャートのインタビューでは、「Bling-Bang-Bang-Born」ヒット後の制作や活動について「俺は楽しみですね。きっといま想像してないものが(できる)……全曲そうなるんだろうなって(DJ松永)」「他の影響をどんどん受けて変わっていくことによって、見たことないもんが生まれていくのかなあと期待してもいるんです(R-指定)」と語ってくださっていました。制作のタイミングとしては、おそらく今「制作中」と明かされているニューアルバム収録の新曲が、その“変化後”の曲なのかな?と思っています。また、2025年2月11日に開催される東京ドーム公演【Creepy Nuts LIVE at TOKYO DOME】は、10月の時点でチケットが見事完売。加えて、大晦日には初の『紅白歌合戦』出場決定と、年末~来年にかけてすでに盛りだくさんのトピックが控えておられますよね。ここから先への活動の展望を聞かせてください。
R-指定:そうですね。年末~来年以降みたいなところを「いい感じ」にするために、俺の中で必要な目の前にあるもの……アルバムを今まさに作っている最中やから、そこでまだ頭がいっぱいっていう感じですね。展望というよりは、今、次の一小節や次のワンラインを「うーん、どうしようかな……」っていうか。「あ、こんなん思いついた」って。さっきも……。
DJ松永:うん。さっき(インタビュー前)も延々とその話してた。
R-指定:そう! 延々と、「いや、どうするよ?」みたいな。テーマやアイデアをほかほかな状態で出し合ってたから、今それが頭の中で占める割合がいちばん大きいですかね。それがまさしく、この先の展望というか。来年のこととイコールになることなので。それですかね。
DJ松永:俺もそれだわ。俺も私生活、もう9割それだから(笑)。残りの1割で生活。家の掃除とか(笑)。
土産話 (Live at 日本武道館) / Creepy Nuts
――それって、ちょっと前にお話しいただいた2016年ごろの生活(※前編参照)と、考え方としては回帰してる、みたいな感じですか?
R-指定:考え方、戻ってるかもしれないです。むしろ、2013~2014年、ほんまに(Creepy Nutsを)やり出した頃と、曲の内容とかもけっこう進化して成長したうえで、なんていうんやろう……これ、言い方が見つからへんけど、進化して……退化とは違うねんな……「回帰」とかになんのか。でも回帰でもないねんなあ。進化したうえでもう一回、初期の感じの……。
DJ松永:振り出しに戻ってるよね。
R-指定:うん……。
DJ松永:なんだろう。でもめっちゃわかる。その感じ。
R-指定:わかるやんな? なんというか、進化もしてるし……。
DJ松永:表現としては進化したうえで……。
R-指定:うーん……。いや、これ確かにうまい表現が見つからへん。でも、アルバム聴いてもらえたらわかるかもしれないです。
DJ松永:一昔前に完全に戻ってるよね。レベルが、社会的には下がる。
――社会的には……!?
R-指定:あははは!
DJ松永:社会的には下がる(笑)。やっぱその……仕事とか、人前に立ったりとか、メディアや広告に出たりとか……音楽を作る以外の、企業の人たちとかと関わっていくと、どうしてもそれに伴って社会的責任も出てきますから。なんか、そういうものがあったなと思います。また音楽に特化したような生活の仕方に戻った今となっては、前くらいの“無責任さ”みたいなのが戻ってきてるなっていう感じはありますね。
R-指定:それかも。2020~2022年とかの、わかりやすく目に見えてステージが上がっていって、忙しくて、メディアとか稼働で出ずっぱりだったときがずっと続いてたら、たぶん「ちゃんとしたことしか言ったらあかん」ってなってたかも。楽曲の中で「“いいこと”を言おう」としてたかもわかんないですね。で、それだけになってたかも。でも、それをバッとやめて、音楽とか、自分の表現とか、自分の好きなものだけに向き合った結果、まあもちろん“いいこと”というか、自分なりに前向きなことも成長した目線から言うけど、ラップ始めた頃とかに思っていた、自分の中の“よくなさ”というか……自分の中の、人間としてのダメな部分、よくない部分とかも、無責任に表現として解放していけるかもって。だから、“ちゃんとする”ために音楽をやってないんです。なんかその、(胸からお腹あたりをさすって)この中の、ぐちょぐちょした部分というか、汚いものをそのまんまの形で表現できるところに、ヒップホップの面白さを感じたので。
DJ松永:確かに。よくないものはよくないまま表現して。
R-指定:聴いている側としては「こいつ、これはあかんで!」と思いながら、そのダメさとかクレイジーさとかに、ヒップホップとしてブチ上がっちゃうというか。その中に、「こいつ、たまにいいこと言ってるな?」みたいな(笑)、そのバランスですかね。ひと言で表現しにくいですけど、進化したところもあるし、「いやいや、もともと全然ダメよ、人間として」みたいなところもある。「まともな人間がやるわけないやん、こんなこと」みたいな。
DJ松永:ほんとにね。
R-指定:そこも開き直って表現できるかな、みたいな感じはあるっすね、次は。
DJ松永:その勇気も、いま一度持てた感じがする。
R-指定:取り戻せた感じよな。危なかった、あのまんまやったら。
DJ松永:いや、ほんとだよな!
R-指定:「ちゃんとしなきゃ!」「人前に立つ人間なんだから」みたいな。いやいや、その前にラッパーやからなあ……。ラッパーとトラックメイカーというか、ヒップホップやってるやつやからな。
DJ松永:そうなんだよ。
R-指定:いやいや、ダメダメ!そんなやつらは! そんなやつらは、“そもそもの人”たちですよっていう(笑)。その前提で表現できるかなってのはありますね。
DJ松永:いま一度“戻って”きて、なんか……自分の中だけで言うと、勝手ながらバランスが取れた。人から見たらどうかわからないけど、今のほうが本来、自分としては冷静に近いというか。……当社比、自分比ですけど。
――でも、インタビューに入ってきてくださったとき、上半期のインタビューのときよりも、おふたりともリラックスされていたというか。なんだか生き生きとお話しいただけて嬉しいなあと思っていたんです。いい“無責任さ”を手に入れて、自由になった、解放されたところがあったのかなと感じました。
R-指定:なんやろな……矛盾やなと思いますね。無責任さと……いま自分は父親でもあるので、大切にせなあかん責任もあって。それを、本来たぶん、どっちかの顔だけをしないといけないんでしょうけど、「いや、どっちも出そうかな」と思えるというか。
DJ松永:その葛藤、自分ができるかっていったらできない。すごいわ。
R-指定:でもなんか、自分で振り返ったときに、「いや俺のおとん、自分の周りの大人がどうやったかって、そんなにちゃんとしてたか?」って。だから、それくらいでいいんかなみたいに思いましたね。
DJ松永:……俺、戦ってるなって思うなあ。それは。
R-指定:まあ、後々出てくるんでしょうね。でも、そんときはそんときやな。
DJ松永:今も、別に悟りを開いてるわけでもなく、考えの着地点でもないから。2年後、3年後になって、また急に俺らが何かに縛られ出したりとかもあるよね。
R-指定:あるある。あるし、「やっぱちゃんとしなダメですよ!」とか言ってるかもしれないです。
DJ松永:間違いない。たとえば、凄惨な事件なんかが起きた日には、また考えが変わったりとか全然あるだろうからね。数年前はこんな考え方になってると思ってなかったし、Rにも家庭ができたし。世間の流れも変わってくるだろうから、どうなってるかはわからないけども。Rがラッパーをやっていく限り一生、そういうことを全部考えながら、折り合いをつけながらやっていくんだろうなあ。書きながら、生きていきながら。そう思うと、いやあ……凄まじいことですよ。
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