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<年間チャート首位記念インタビュー>Creepy Nuts、「Bling-Bang-Bang-Born」が運んだ激動の2024年――未だ予想外の成績と、ふたりが思う“激動期”を振り返る【前編】
Interview & Text:Maiko Murata
2024年のビルボードジャパン各種年間チャート結果が発表された。CDセールスやストリーミング、動画再生回数など計6指標からなる総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”では、上半期に引き続き、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が総合首位を獲得。また、世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した“Global Japan Songs Excl. Japan”では同チャート史上最多となる通算24回の首位に輝き、こちらもダントツの成績で首位を獲得。その他チャートもあわせ合計12冠を達成し、まさに2024年の日本を代表する一曲となった。
世界各地のフェスを飛び回りながら、ニューアルバムの制作……と、超多忙ななかでの貴重な機会となった今回のインタビューでは、この激動の1年を駆け抜け、ふたりが“今”感じている素直な気持ちをたっぷりと語ってもらうことができた。総文字数は約1万7,000字、チャート首位インタビューでは前代未聞の2本立てでお届けする。
ヒットはまだ「ピンとこない」
――上半期に続き、「Bling-Bang-Bang-Born」が年間チャートでも、国内の総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”、グローバルチャート“Global Japan Songs Excl. Japan” を含む、合計12のチャートで首位を獲得されました。おめでとうございます! まずは率直な感想をお聞かせください。
DJ松永:……ちょっと、ピンときませんね……。
R-指定:そうなんですよ、現段階では脳の処理が追いついてないかもです。「えっ……すごい……」みたいな(笑)。
――上半期チャートのときのインタビューでもおふたり、ずっと「ピンとこない」っておっしゃっていて……(笑)。
R-指定・DJ松永:あはは!
DJ松永:全然きてないよ。
R-指定:うん。上半期のときよりはまだ、ライブの反応とか(で実感したり)……でもたぶん、皆さんが思う以上にピンときてない、とは思います。
DJ松永:未だに、何かのランキングの首位ってのがちょっと……なあ。
R-指定:そうね。
DJ松永:しかもそれがさ、逆に1つとかのほうが「おおーっ!」ってなってたかもしれないよな。12個とかになると「ええっ……!?」ってなる。
R-指定:「えっ……マジですか……」みたいな。びっくりしてる感じですね。
DJ松永:うん。理解の範疇を超えてしまう。
R-指定:ランキングに関してはほんまにそうです。ただ、曲を聴いてもらえてるんやな、みたいなのはもちろん、上半期のときよりは体感として鮮明にあります。
DJ松永:確かに。
――どんなところで体感されますか?
R-指定:海外でライブしたときの反応とか……海外のクラブでかかって、みんなが歌ってくれてる動画を見せてもらったりとかももちろんあるんですけど、結構、お子さんが聴いてくれてるみたいなことを、ラッパーの先輩や仲間から言われたり。「娘の運動会でかかってたよ」とか。それも「ほんまか?」と思ってたんですけど、「ほんまに子どもが聴いてくれてるんや」と実感したのが、普通に道を歩いてたら、たぶん登下校の時間だった小学生の男の子が歩いてきて、信号待ちで横並びになったんですよ。で、チラッと俺の顔見て、“ブリンバンバンの人”かどうか探るためかわからないですけど、しばらくずっと俺の後を、ちっちゃい声で歌いながら着いてきて。なんか後ろから「チート、gifted、荒技、wanted……」って……。
――頭から歌ってるんですか!?
DJ松永:あははは!!
R-指定:ずっとバースの部分を歌ってて。かわいかったんですけど、俺はちょっと照れちゃって(声をかけずに)行っちゃった。あぶり出そうとされたし(笑)、「あ、ほんまに聴いてんねや。ちゃんと歌えるんや」と思いましたね。今思えば、その小学生に振り返って「ありがとうな」くらい言ってあげればよかったなって。
DJ松永:大人だなあ~。
R-指定:でも、やってないから(笑)。実際は逃げたからな。
――小学生もあんな速いバースを歌えるほど、曲が浸透しているってことですよね。
R-指定:びっくりしましたね。
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 × TV Anime「マッシュル-MASHLE-」
Collaboration Music Video
――「Bling-Bang-Bang-Born」だとひとつ私もびっくりしたのが、7月にリリースされたデュア・リパの「Illusion」のリミックスは、「Bling-Bang-Bang-Born」が米ビルボードのグローバルチャート“Global 200”で8位にチャートインしているのを見たデュア・リパ側からのオファーで実現したということです。おふたりにとってもまさかのコラボだったと思うんですが、お話を聞かれたときの感想を教えてください。
R-指定:まさかのコラボやし、普通に(曲を)聴いてたりもしたので、「えっ!? デュア・リパやんな? ほんまに?」って。
DJ松永:ほんと、「また嘘みたいな話来たな」と思った。
R-指定:うん。ほんま、嘘みたいでしたね。「デュア・リパのリミックスの依頼が……」「はあ?」みたいな(笑)。
――今回のコラボは「日米ビルボード1位同士のコラボ」でもありました。日本の音楽が、USのグローバルチャート上位に入ってくるようになったのは2020年代に入ってからの話だったりもするので、こういう冠がつく時代になったこともすごいなと思います。
DJ松永:ビビりますね……本当に。
Illusion (Creepy Nuts Remix) / デュア・リパ
――また、「Bling-Bang-Bang-Born」の世界的ヒットの後も、次作「二度寝」もドラマと同時に盛り上がって、ストリーミング再生数は累計1億回(10月30日発表チャート)を達成しています。さらにその後の「オトノケ」がまた凄まじく、“JAPAN Hot 100”で首位(10月23日公開チャート)、日米ビルボードのグローバルチャートでも好成績を残しています。米ビルボード“World Digital Song Sales”では4度もの1位(10月19日付、11月2日付、11月16日付、11月23日付)も獲得され、まさに2024年、怒涛の活躍ですね。
.@Creepy_Nuts_' "Otonoke" debuts at No. 1 on this week's #WorldDigitalSongSales chart.
— billboard charts (@billboardcharts) October 15, 2024
It earns the duo its first No. 1 on any U.S.-based Billboard chart.
DJ松永:すげえ……。
R-指定:すげえなあ。
DJ松永:次、緊張するね?
R-指定:いや、そうなんよな。
DJ松永:やめちゃう? やめよっか(笑)。
R-指定:確かに(笑)。
DJ松永:早いとこ目覚まさないと。
R-指定:曲作って出すだけで本来、すごいことやから。「何位だ」とか、「前は1位だったのに次は……」みたいなんはやめましょう。そういうのは違う。
DJ松永:やめようやめよう。
R-指定:「オトノケ」も「Bling-Bang-Bang-Born」も、作った時期が結構近いんです。だから俺らとしては、「Bling-Bang-Bang-Born」がこういうヒットするとは全く想定していない段階で、同時進行で「オトノケ」も作ってて。「Bling-Bang-Bang-Born」は自信作やけど、俺らの作ってる瞬間の手応えとしては、「オトノケ」がいちばんあった。「うわ、これは聴いたことないやつできてんぞ!」みたいな。もちろん「Bling-Bang-Bang-Born」もそうなんですけど……それで、今年明けたときに結構「Bling-Bang-Bang-Born」が聴いてもらえて、「これ、こんなに聴いてもらえるんや」っていう喜びがありました。で、「まあ『オトノケ』もめっちゃ自信作やしな……」みたいに思いながら(リリースした)、っていう感じで。だから、「オトノケ」も受け入れてもらえてるのは、素直に嬉しいですね。
DJ松永:ありがたすぎてさ、このありがたさを前例とするのはちょっと……。
R-指定:確かに。……これはほんま、“あくまで”(笑)。
DJ松永:おまけみたいな感じ。世界線として(笑)。だってさ、今年出した3曲とも、作ってからわりと時間が経ってるから、その後も色々曲を作ってるわけじゃないですか。
R-指定:うん。
DJ松永:作った本人の手応えとか自信としてはさ、それを更新、もしくは同等くらいのものを今蓄えているとして、それが世に放たれたときに、前作を超えるような反応がくるかどうかは全然違う話じゃないですか。
R-指定:うんうん。
DJ松永:(超えるような反応が来なかったら)その時にさ、「ちょっと話違うんですけど!?」って絶対俺、思うもん(笑)。
R-指定:確かにな。だから、難しいですよね。アーティストにとってのランキングとか順位とかっていうのは、励みにもなれば……なんというか、劇薬でもあるなって。
DJ松永:ほんとですよ。
R-指定:だからそういうこと考えないためにも、あまり気にしないというか(笑)。
DJ松永:気にしない!(笑) その恩恵は受けつつも! 恩恵だけ受け取る!
R-指定:でもほんま、嬉しいしありがたいけど、それにあんまり考えを持っていかれずに……割と自分たち的には、そこ(チャートの成績)が目標ではないので。自分らなりの“いい”を更新するのが目標やから。新しい曲もその感じでずっと作ってます。
ふたりが思う“激動期”と、それを経た今
――「チャートの恩恵だけ受け取る」、チャートを作る側としても嬉しい話だなと思いました。今のような、“チャート成績の捉え方”みたいな話はいろんなアーティストさんにもよく聞く質問なんですが、本当に様々な回答をいただきます。たとえば、YOASOBIのAyaseさんは直近のインタビューで、「『アイドル』で、ずっと目標だったチャート(年間“Hot Artists”)の1位を獲れたことで肩の荷がおりて、今はすごく爽やかな気持ちで活動できている」とおっしゃっていました。
R-指定・DJ松永:ええっ!?
DJ松永:最初からの目標設定というか、どういう心づもりで音楽やってるかが全然違うね?
R-指定:確かにそうかもしれないですね。目標を達成したら、あとはこう(肩の荷が降りる)ってなるんですけど、俺らは……。
DJ松永:そんな宿命、背負ったことないもん。
R-指定:そう! そうなんです!
DJ松永:自分のためにしかやってないじゃないですか、もともと。多くの人に届くなんてもともと(考えてない)、そもそも始めた時点で、“ヒップホップで月15万稼げる”のが夢のまた夢という感じだったから、まずヒップホップで生活できたこと、バイトを辞められたことで肩の荷がおりた(笑)。バイトしながら夢を追う30代じゃなくて済む、みたいな。
R-指定:そうなるのが普通やし、そうなっても関係なく好きやから、ヒップホップやるやろうな、みたいなことを漠然と思ってたってくらいですかね。やり始めた頃なんかは。
DJ松永:そうですね。バイトをしながら続ける30代にもちゃんとリスペクトがあって。
R-指定:うん。バイトをしながら自分の好きなことを絶対貫くっていう生き方を、どううまくやっていくか?っていうのを考えてたな。頭の片隅で。だからこう、音楽で身を立てられたときに、その時点ですごいラッキーやな、やったあ、って思った。
DJ松永:ラッキーだったよね。あのとき……(ヒップホップで生活できた人)ほぼいなかったよね。
R-指定:うん。それが、周りを見渡せばみんな生活できるようになっていって、さらにはヒットする曲とかも出てきて……。この全部、日本でヒップホップが盛り上がっている状況を含めて、すごく嬉しいというか。
DJ松永:いや、ほんとだよな。
R-指定:「あの人がテレビ出てるやん!」とか「あの人がこういう場所でライブしてるやん!」みたいな、そういうびっくりもあるし、自分たちももちろん「俺らも音楽で生活できるようになった!」みたいな気持ちが、まだあるくらいなんで。世界で聴いてもらえる曲を作る予定ではまったくなかった。ほんまに、自分たちの“吐き出したいもの”とか、自分らの“溜め込んだ表現の解放”なので、基本的には。
――でも確かに、「Bling-Bang-Bang-Born」リリースの少し前には、舐達麻の「FEEL OR BEEF BADPOP IS DEAD」が“JAPAN Hot 100”でトップ10入りしたりと(9位/2023年12月13日公開チャート)、最近の日本のヒップホップの盛り上がりは、体感だけでなくチャートにも現れているなあと振り返って思います。
R-指定:不思議な感覚ですね。昔なんか、ヒップホップシーンの中で曲のやり合い(ビーフ)とかがあっても、知ってるのは俺ら(ヒップホップヘッズ)だけ。そうだったのが、ヒップホップを普段全然聴かん人が、そういうやり合いのカルチャーというか、バトルカルチャーみたいなものに触れるっていうのもすごいし、そういうところを抜きにして、単純にヒップホップのいろんな楽曲がいろんなチャートに入っていったり、そのアーティストの魅力を見かける機会が多くなるっていうのは、単純にすげえなって。
【ビルボード】乃木坂46「Monopoly」が総合首位、舐達麻が9位にジャンプアップ https://t.co/8nRSAW8icO
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) December 13, 2023
DJ松永:俺らとしては、やっと(音楽だけで)食えるようになったのが2016年の上半期とかなんですよ。そこから……革命的だったよね。『フリースタイルダンジョン』とか、地上波にいろんなラッパーが出てきてさ。
R-指定:そう。革命でしたね。
DJ松永:で、その後に俺らが、より想像してなかった景色が見えたなっていうのが、コロナ中だよね。2020年とか、それくらい?
R-指定:うん。
DJ松永:そっからだったからなあ。そのときのほうがいちばん、驚きがあったかもしれない。
R-指定:確かになあ。
DJ松永:景色の変化具合で言うと、あのときがいちばん大きくて。今年はもちろん、数字で見ると大きな振れ幅があるでしょうけど、体感の景色の変化で言うと、実は当時がすごい大きかったっていう感じなんだよなあ。
――2020年というと、8月にミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』リリース、11月に初めての東京・日本武道館公演がおこなわれた年でしたね。
R-指定:わかりやすくワンマンの規模が大きくなっていったり、フェスに出たりしても目の前のお客さんの数がガン、ガン、ガンって増えていって、ステージも大きくなっていったりして……みたいなのが、ちょうど2020年から2022年あたりかなあ。そのときはそのときで、自分らのキャパに合わんくらいの忙しさもあったから、驚きと、ついていくのでいっぱいいっぱいみたいな時期でしたけど。今はわりと、じっくり一個一個のライブや楽曲に向き合って……みたいな時間のほうが長いから、目に見えて何かがバーッて変わっていくみたいな体感は、実はしてないんですよね。内にこもる作業が、生活の大半を占めているというか。
Lazy Boy / Creepy Nuts
――なるほど。
R-指定:めちゃくちゃメディアに出まくっているわけでもないし。外に行きまくってるわけでもないんで、どっちかっていうと、こもって楽曲を作って、磨き上げて……みたいなのが日常のほとんど。だから、景色が変わんないんですよ。
DJ松永:そうだよね。変わんないよね。
R-指定:リリースした楽曲たちは色々羽ばたいていってくれていて、曲たちはその景色を見てるんですけど、当の作った本人たちは、そこまで景色の変貌は見られてない。海外にライブ呼ばれてっていう、今まさにそういう景色は見られているんですけど、日常的に変貌していっているさまはあんまり見てない感じですね。
DJ松永:あのときはいろんなメディアとか、むちゃくちゃ出まくってたからさ。本当……休みなく毎日稼働していろんな景色が新しく見える、みたいな感じだったけど、今はそういう活動もめちゃくちゃ絞って、基本、自分たちが目にするのはほんとに、仕事場というより日常。
R-指定:うん。
DJ松永:家とか、生活の周りの景色がほとんどだから。超穏やか。なんか昔、2016年以前――ヒップホップで食えるようになる前の、全然仕事もなくただダラダラやってたモラトリアム期間の景色のほうが近いというか。
R-指定:やってる中身とか、アウトプットするときの規模は全然違うけども、日常を過ごしてたり、磨いてたりする、その時間の感じはそのときのほうが近いなあ。
DJ松永:そうだよね。あのときくらい、一曲にああでもないこうでもないって時間をかけたりできるのがありがたいなあ。
R-指定:音楽のために贅沢に使う時間を手に入れた、っていう感じですかね。
DJ松永:それだな。
R-指定:めっちゃ贅沢に使ってる。だから、もちろんさっき言った2020~2022年くらいの目まぐるしく稼働してたときも忙しかったんですけど、今は稼働の忙しさじゃなくて、自分の表現を磨いたり、突き詰めたりする、外から見えない時間が超忙しい……みたいな感じですかね、俺的には。こもって、グアーッって考えて、「ああでもないこうでもない、じゃあこれ試してみよう」の時間が超忙しくなった。でも、やりたい表現を、ただただ贅沢に、膨大な時間を使ってやれるのは俺らとしては超喜ばしいこと。今はそんな感じかなあと思います。
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