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<コラム>伝説のファンクバンドZapp(ザップ)――サンプリングやカバーで受け継がれるその遺伝子
Text: 林 剛
Photos: cherry chill will.
心弾む音楽で人々をハッピーにさせるファンク・バンドが、12月のビルボードライブに戻ってくる。
故ロジャー・トラウトマンの遺志を引き継ぎ、トークボックスを駆使した独自のサウンドでブラック・ミュージックの歴史にその名を刻み続けるザップ。
数多のカバーやオマージュを通して、彼らの存在は後進アーティストに大きく影響を与えていることが分かる。 そんなバンドの歴史、そして近年のシーンの盛り上がりにフォーカスしてみれば、彼らの音楽が時代を超えて愛され続ける理由が見えてくるだろう。
気分はザッピー。ザップ初の全国ヒットとなった「More Bounce To The Ounce」(80年)には、そんな能天気で素っ頓狂な邦題がつけられていた。バンドの要であった故ロジャー・トラウトマンがトークボックスのチューブを咥えて旧知のブーツィー・コリンズと共同制作したエレクトロ・ファンク。彼らの曲では最もサンプリング使用頻度が高く、その数は300を超える。
前身のロジャー&ザ・ヒューマン・ボディを経て、Pファンク軍団の総帥であるジョージ・クリントンの口利きでワーナー・ブラザースと契約したザップは、ソウル、ファンク、ジャズ、ブルース、ドゥーワップなどを呑み込んだ心弾む音楽で人々をハッピーにしてきたブラック・エンタテインメントの塊のようなグループだ。遊び心と洒落っ気があり、エッジが効いていながらメロウでレイドバックした雰囲気もある。“気分はザッピー”とは言い得て妙ではないか。
オハイオ州で結成されたバンドでありながらカリフォルニアのイメージが強いのは、Gファンクに代表される西海岸ヒップホップの曲で頻繁にサンプリングされてきたことが大きい。そのイメージは2Pac の「California Love」(95年)にロジャーがトークボックスで客演したことで決定的なものとなった。トークボックスを操るDJクイックや(東海岸の人だが)テディ・ライリーへの影響もよく知られている。ロジャーが91年に発表したソロ作『Bridging The Gap』のタイトルにちなんでいえば、ザップはファンクとヒップホップ(世代)のギャップを埋めた存在であった。
2Pac ft. Dr. Dre - California Love (Official Video) [Full Length Version]
こうして後進アーティストからの再評価で第二の黄金期を迎えつつあったザップ一派。だが、1999年4月、金銭トラブルが発端となってロジャーが実兄ラリーもろとも悲劇的な最期を迎えてしまう。それでもエンタテインメントの塊であるザップはポジティヴな心意気で前進。ロジャーの遺志を受け継いだ兄弟のレスターとテリーを中心とする新生ザップは、21世紀以降もレコーディングやツアーを続けていく。チカーノ・ラップの代表格であるMr.カポーン・Eとのコラボ作もリリースした。
現在ロジャーのポジションは実弟のテリーが引き継いでいるが、トークボックス奏者としてロジャーに迫る後継者といえば、ブルーノ・マーズ「24K Magic」(2016年)の冒頭を鮮やかに飾ったMr.トークボックスことバイロン・チェンバースだろう。
EPIC LIVE TRIBUTE TO FUNK LEGEND BOOTSY COLLINS BY MR. TALKBOX & MONO NEON
その彼が参加したのが、2018年に発表した現時点での最新作『Zapp VII - Roger & Friends』。同じくザップに影響を受けたタキシードなどの後進からフィードバックを受ける形で今の空気にフィットするブギー・ファンクを展開した快作だ。
サンプリングやカバーで彼らの曲に再会することは今も多々ある。時代が一回りした現在ではザップやロジャーの曲をサンプリングしたヒップホップやR&Bソングを使った、いわゆる“孫使い”も少なくない。そうした中、近年目立つのが「Computer Love」(85年)の再利用だ。ザップ一派のシャーリー・マードックやギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソンが声を交えたこのメロウでバウンシーなスロウ・バラードは90年代からリサイクルされ続けているが、ロジャーの他界20年を迎えたあたりから、カバーやオマージュを含めて同曲に対するシンパシーが高まっている。
ジャスティン・ビーバーを迎えたグッチ・メインの「Love Thru The Computer」(2019年)は表題から愛着を感じさせるサンプリング例のひとつだ。
Gucci Mane - Love Thru The Computer (Official Audio)
2020年には、「Computer Love」のフレーズを口ずさんだNE-YO とジェレマイの「U 2 Luv」のほか、アッシャーの「Bad Habits」、アリ・レノックスを迎えたデュランド・バーナーの「STUCK.」が同曲をサンプリングした新曲として登場。NE-YOは、2022年の「After Party」でザップ&ロジャーの「Slow And Easy」(93年)も使っていたが、同年には「Computer Love」へのオマージュ的なシドのスロウ・ファンク「CYBAH」(ラッキー・デイ客演)が出ている。そして今年、ジャズ・サックスの奇才カマシ・ワシントンは最新作『Fearless Movement』で同曲の独創的なカバーを披露。ゲストのひとりにDJバトルキャットを迎えているように、これはGファンクのシーンでザップが愛されてきたことを踏まえたトリビュートでもあるのだろう。
それらを念頭に置きつつ、昨年9月に続くビルボードライブ公演に足を運ぶのもいいと思う。だが、そうした視点を抜きにしてもザップのライブは楽しい。「More Bounce To The Ounce」が流れれば“ 気分はザッピー”。永遠不滅のお家芸がハッピーを運んでくれる。
この記事は、2024年11月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.202 12月号』内の特集を転載しております。記事はHH cross LIBRARYからご覧ください。
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