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<コラム>バーチャルガールズデュオ・VESPERBELLとは?――Vシンガーとしての加速度的な進化とEP『RUMBLING』を紐解く
Text:阿刀 “DA” 大志
日々変化と進化を繰り返していくYouTubeの世界に、自分のようにデジタルネイティブとは程遠い世代の人間がキャッチアップするのはかなり大変で、何かが流行ってしばらくしてから知るということが残念ながら通常だ。
なので、「Vシンガー」というワードを初めて知ったときも、しばらく頭の中をクエスチョンマークが飛び交った。要は、Adoや星街すいせい、Mori Calliopeなどのように顔出しをしないバーチャルシンガーのこと。顔出しをしないという一点に絞ると、日本には00年代からBEAT CRUSADERSのようなバンドがいくつかあり、顔を見せないという一見特異なアーティスト表現に対して日本の音楽リスナーは早くから寛容だった。令和におけるVシンガーの躍進には日本のミュージックシーンがもつ独特な土壌も関係ないとは言えないだろう。
だからこそ、シーンの進化は早い。これまで大きな人気を獲得してきたVシンガーはソロアーティストがほとんどだが、2020年6月にデビューしたVESPERBELL(ヴェスパーベル)は、「ヨミ」「カスカ」の2⼈からなるバーチャルガールズデュオ(キャラクターデザインはイラストレーター・ろるあが担う)。YouTubeでの活動を中心とし、水樹奈々×T.M.Revolution「革命デュアリズム」のカバーをスタートに、音楽一筋でストイックに動画を公開し続けた。ハイクオリティな動画を着実に発表していくことによってYouTubeのチャンネル登録者数はきれいな右上がりの直線を描き続け、現在29万人を突破している。
では、VESPERBELLがもつ一番の魅力は何か。誰もが挙げるポイントはヨミとカスカのボーカルスタイルとその融合ではないだろうか。まず、ヨミのボーカルはパワフルで、少しハスキー。男声曲のカバーでより躍動する彼女を感じることができる。特に、Vaundy「怪獣の花唄」やONE OK ROCK「完全感覚Dreamer」の乗りこなしが素晴らしい。喉の使い方が巧みで、シャウトも楽々とこなす。だからといって力まかせではなく、繊細な表現にも長けている。幼い頃からバンドや洋楽に触れていたそうだが、知らず知らずのうちにロックボーカリストとしての素養を身につけていたのかもしれない。
一方のカスカのボーカルは、ヨミとはまったく異なるベクトルでリスナーの心を震わせる。彼女の声を一聴して頭に浮かぶのは「かわいい」のひと言。立ち上がりが遅めで特徴的なボーカルはそれ自体が強力なフックになっていて、どの曲のカバーを聴いてもキュートさが際立ち、幅広い層に受け入れられるポップさも併せ持つ。SHISHAMO「君と夏フェス」のカバーはその最たるもの。この曲のもつポップさがカスカのボーカルによってより映えるのだ。しかし、それだけではない。YOASOBI「アイドル」やいとうかなこ「Hacking to the Gate」で聴かせる技術力には唸るしかない。
さて、ボーカルスタイル的に対極に位置するこの2人がオリジナル曲を歌うとどうなるのか。VESPERBELL初のオリジナル曲は、2020年11月に発表した「RISE」。ジャジーな雰囲気を漂わせるこのロックチューンでは、早くも2人の持ち味がフルで発揮されている。不思議なことに、互いの声が干渉することなく、見事に溶け合っているのである。今の2人と比べると初々しさこそあるものの、自分たちの声が起こす化学反応のすごさを改めて認識した上で、VESPERBELLとして目指すべき方向がこの頃から見えていたのではないか。実際、その後も「VERSUS」「RAMPAGE」と楽曲を重ねていくにつれて、デュオとしての色はより濃いものになっていき、2022年7月には初のフルアルバム『革命』をリリースするに至ったのである。
RISE / VESPERBELL [Official Music Video]
そして、「RISE」の発表から4年のときを経て11月22日にリリースされたのが、初のデジタルEP『RUMBLING』だ。6曲入りとなるこの作品は、メジャー1stデジタルシングル「Noise in Silence」や、ドラマ『私の死体を探してください。』のタイアップ曲「羽化」などを収め、これまで以上に幅広い世代へ向けた渾身の内容となっている。
今作におけるわかりやすい変化は、これまでどおりロックをベースにしながらも、シンセサウンドをふんだんに採り入れるなど、サウンドの幅が広がったことだ。特に、コロナナモレモモ(ホルモン2号店)での活動でも話題を集めたDJ・KSUKEが作曲を手掛ける「Bell Ringer」は、ハードなEDMチューンに仕上がっている。この手のサウンドは2人にとって初めてであるにもかかわらず、違和感がないどころか、抜群の相性のよさを見せている。
そもそも、VESPERBELLは今夏のメジャーデビュー以降、加速度的な進化を続けている。今作にも収録されている、Misty Mint が作詞作曲を手掛けた「Noise in Silence」では、それまでに比べて格段に難易度が上がった複雑なメロディを難なく歌いこなし、「羽化」では不穏に跳ねる打ち込みのビートの上で抑制の効いた歌唱を披露。どれも過去のVESPERBELLにはなかったアプローチだ。こういった流れからも、バラエティに富んだ今作の方向性は十分に予告されていたと言える。
VESPERBELL「Noise in Silence」Official Music Video
VESPERBELL「羽化」Official Music Video
しかし、VESPERBELLらしいロックサウンドも当然失われてはいない。「鳴動」「Trust Me」「Imperfect」では2人のロック魂が遺憾なく発揮されている。しかも、どの曲もこれまで以上にハイクオリティだと断言できる仕上がりだ。従来の作品よりもグッと上がったハードルを2人が楽しげに飛び越えているように感じるのは気のせいか。音楽性は関係なく、作品全体から漂ってくる空気感がそう思わせるのだ。何にせよ、音楽面においてメジャーフィールドへと拠点を移したことは彼女たちにとってかなりプラスに働いているといっていい。6曲入りのEPとはいえ、『RUMBLING』は現時点におけるVESPERBELLを存分に表現しきった作品であり、彼女たちの名刺代わりとなり得るものだ。
ヨミはメジャーデビュー時のインタビューで、「今もまだVTuberやVシンガーに対しての偏見みたいなものってあると思う」とシーンの現状を受け止めたうえで、「胸を張って、自信を持って活動していくつもりです。いつかは日本武道館とかアリーナとか、大きな会場でもライブができるようになったらいいなと思っています」と大いなる野望を語っている。それはただの大言壮語ではない。それは今作が証明しているし、彼女たちは『RUMBLING』とともに今、大きな一歩を踏み出そうとしているのだ。
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