Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>BURNOUT SYNDROMES FLOW/ASCA/CHiCOらとのコラボと多数の海外公演、そこで感じた“人との繋がり”が実を結んだニューアルバム『ORIGAMI』

インタビューバナー

Interview & Text:沖さやこ


 FLOW、ASCA、東山奈央、石崎ひゅーいなどとのコラボレーション楽曲のリリースや、世界各国でのフェス出演や海外ツアーなど、精力的な活動を行ってきたBURNOUT SYNDROMES。彼らが、自身5作目となる約3年半ぶりのオリジナルアルバム『ORIGAMI』を完成させた。既発曲4曲と先行シングル曲「Xross Road(×CHiCO)」に、新曲7曲を加え、さらにはボーナストラックとして「Good Morning [NEW] World! (×石崎ひゅーい)」とバンドの代表曲「FLY HIGH!!」のポルトガル語バージョンも収録するという大ボリュームだ。

 2023年から2024年にかけてバンドの外から様々な刺激を受けたことにより、熊谷和海(Vo. / Gt.)のソングライティングにも大きな変化が起こり、同時に自身の強みを再確認することも多かったという。19年半にわたりバンドが積み重ねてきたものと新たな要素が加わった同作は、BURNOUT SYNDROMES史上最もポップで素直な作品に仕上がったと言ってもいいだろう。メンバー3人に、今作ができあがった背景とバンドの現在を語ってもらった。

日本ならではの独特なもの

――Billboard JAPANでのインタビューは2023年3月にリリースされたベストアルバム『The WORLD is Mine』のタイミング以来ですが、それ以降も皆さんは世界各国でライブをなさって、今年は初のUSツアーも行いました。そのなかで新たな発見などはありましたか?

廣瀬拓哉(Dr. / Cho.):この前大阪でライブをしたのですが(【Good Morning [New] WORLD TOUR 2024 in TOKYO&OSAKA】の大阪公演)、いろんな人からパフォーマンスをすごく褒めてもらったんです。海外でのライブは言語が通じないことだけじゃなく、日本みたいに環境が整っていないことも多いので、そのたびにいろんな工夫を重ねてきたのもあって、自分たちも気付かないうちに技術もメンタルも鍛えられているのかもしれないなと思いましたね。パフォーマンス的にも仕上がってきている、ピークが来ているなと感じています。

熊谷和海:いろんな国を回れば回るほど、日本が自分の国であること、どうしたって日本人として生きていくしかないこと、自分のアイデンティティのひとつであることをはっきり感じるようになりましたね。強みと弱みがわかったし、自分のやれること、得意なことを伸ばすのがいちばんなんだなと思いました。


――そのマインドは今作『ORIGAMI』にも顕著に表れていますよね。サウンド面でも歌詞の面でも、日本人としての矜持を感じます。

熊谷:こんなに海外へ行っているのに、英語詞の曲を作ってないですもんね。今作のボーナストラックの「FLY HIGH!!」ポルトガル語版みたいに、リリースした曲を他言語に翻訳してもらって歌うことはあるかもしれないけれど、自分で英語詞の曲を作ることはまずないだろうなと。各国のトップアーティストの曲を聴くと、その国ならではのかっこよさがあるなと思うんですよね。

石川大裕(Ba. / Cho.):熊谷は各国の文化へのリスペクトがあるので、どの国でも「今この国では何が流行ってるんですか?」「どんなアーティストが有名なんですか?」と質問するんです。『ORIGAMI』も日本の良さを生かしたものと、世界各国から吸収したものが詰まった作品になっているし、聴いてもらったら僕らが海外で経験したことがわかってもらえるんじゃないかなと思います。

熊谷:その国ごとに独特の作法があって、音楽って何でもいいんだな、何をやってもいいんだなと思えたんですよね。だからこそ自分の得意技や、日本ならではの独特なものは何だろうと考えるようになりました。『ORIGAMI』にはそれが顕著に出ていますね。誰かの真似をするよりは、自分の中にあるものを伸ばしていくほうがスムーズだと思ったんです。そういう面もありつつ、『ORIGAMI』のテーマは“絆”なのかなとも思っていて。


――“絆”のシンボルとなるのは、コラボレーション楽曲ですよね。ここ2年ほど、BURNOUT SYNDROMESは様々なアーティストと楽曲を制作し、『ORIGAMI』にも新曲としてCHiCOさん、halcaさん、ブラジル人ラッパー・niLLさんとのコラボ曲が収録されています。

熊谷:『TOKYO』に収録した「逢いたい逢えない feat.CHiCO」という曲で初めてコラボレーションをして、自分では出てこない発想が面白くて突き詰めてみたくなって、自分の活動と重なった方々に次々とお声掛けしていきましたね。そうしていくうちにだんだん「音楽のなかで強さを持っているのは“人”なんだな」と思いました。人間が人生を重ねていくなかで育んできた力はとてつもないことがわかった。だから、自分が苦手なことやできないことを勉強してやるよりも、それが得意な人の力を借りたいなと思ったんですよね。


――だから熊谷さんも、ご自身の強みを活かすことを大事にし始めた。

熊谷:コラボレーションには、その人の生きてきた年月を貸してもらえるような感覚があるんです。自分たちだけだと30年分の人生でしか戦えないけど、いろんな人の力を借りればそのぶんの人生経験を曲にぶつけられる。アルバムを通して「絆こそ力である」と書きたかったんですよね。

石川:コラボレーションを重ねていくことで、熊谷のウェルカム精神やホスピタリティが発揮されているんですよね。「この人が歌うならこういう歌詞だとかっこいいだろうな」のような、コラボ相手を立たせる発想を曲から感じます。

熊谷:自分はある程度なんでも歌えるし、自分で作っているぶんコントロールが効くんですけど、他の人に歌ってもらうとなると、自分の曲を客観的に見ざるを得ない状況になるんですよね。声はその人の持って生まれた武器なので、それに合う曲を作りたかったし、「自分以外の人が歌うとなると歌いづらかったりもするのかな」「これはあんまりいいと思われないかもしれないな」と思うものはバッサリ切るようになりました。コラボ相手を立てたい気持ちが強いので、だからこそポップな曲が多くなったと思います。それはBURNOUT SYNDROMESに足りなかったところだったので、そっちに振った制作がしたくて、コラボではない曲もポップさを意識しました。

――確かに、ポップというとhalcaさんとのコラボ曲「I feel you」は意外でした。BURNOUT SYNDROMESにしてはかなりストレートな、インディーポップ的アプローチですよね。

熊谷:ハリー・スタイルズの「As It Was」が大好きで。あそこまでローファイにする勇気はなかったけれど(笑)、あの感じをやりたかったんですよね。これまでは歌詞の物語とサウンドアプローチを密接にしてきたけれど、それをもっとある程度分けて考えられるようになったから、ストレートなサウンドデザインも増えたのかもしれない。それってすごくポップス的ですよね。「I feel you」も、完成しているオケ(トラック)に対してhalcaさんとふたりで歌詞を書いたので、この仕上がりになったんです。


――自分の持ち味を活かすだけでなく、様々な要素が重なって自然と新しい手法に挑戦することにもなったと。人との深い関わりが熊谷さんに新たな発想を与えたんですね。バンドとしてもコラボレーションに充実感はありますか?

廣瀬:この前ブラジルでASCAさんとライブをやらせていただいて、自分たちだけで立つステージとは見える景色が全然違ったんですよね。僕らだけでは出せなかったノリが生まれて。タッグを組むアーティストによって全然違う空間が作れるので、バンドとしてもすごく新鮮で面白いです。

熊谷:ブラジルと言えば、ブラジル人ラッパーのniLLさんとのコラボレーションが実現したのは、ブラジルで石川がナンパされたことがきっかけなんです(笑)。

石川:ブラジルの【Anime Friends】というフェスで、FLOWさんと「I Don’t Wanna Die in the Paradise」を披露しているステージをniLLさんが観てくれたみたいで、後日「君のラップ最高だね!」ってDMが来たんですよ。Spotifyで調べてみたら、そのシーンではトップクラスのラッパーで。

熊谷:だから「I Don’t Wanna Die in the Paradise」がなかったら、石川がラップをやっていなかったら、niLLさんとのコラボ曲は実現していないんですよね。人が人を呼ぶってこういうことなんだなと思ったし、それがタイトル曲の「ORIGAMI」のテーマにもつながっているんです。大事なのは人と人とのつながりで、人と人が出会ってお互いどう変わっていくのかが面白いんだなと今更わかってきました。「Xross Road」(×CHiCO)はまさにそれをテーマにしているし、だからどのコラボ曲でも、BURNOUT SYNDROMESだけでなくコラボ相手にも気づきがあると思います。この前ASCAさんのライブにお邪魔させてもらったら、EDMの要素が増えていたんです。


――ASCAさんは元来ロック色が強いシンガーですが、BURNOUT SYNDROMESとのコラボレーション楽曲「KUNOICHI」は和楽器とダンスミュージックが融合した楽曲ですよね。

熊谷:ASCAさんはパワフルなボーカルが特徴的だけれど、私としてはアメリカのダンスミュージックみたいに、サビですら柔らかく歌ってほしくて。「サウンドでいかようにもできるから、歌で曲を引っ張っていかなくてもいい」とディレクションをしたら、ASCAさんにはそれが新鮮だったみたいです。そういう気づきが変化につながっていって……そういうのが面白いですよね。内にこもった制作をするよりは、外に向かっていろんな人と関わるほうが楽しい。だから歌詞でも何を書くか迷ったときは、人とのつながりを書くようにしました。

廣瀬:もともと振れ幅が大きかった熊谷の作る曲が、コラボすることによってもっと いろんな方向性に伸びていて、それがちゃんと成立できているのがすごいなと思います。どのアーティストさんともお互いの光るものが重なって、面白い曲が生まれているなと感じますね。

石川:僕はヒップホップが好きなので、いろんな人の書いた歌詞が混ざり合っているのが好きなんです。「I Don’t Wanna Die in the Paradise」でFLOWさんが書いたラップは熊谷が書かない歌詞だなと思うし、「I feel you」もhalcaさんの成分がふんだんに入っているがゆえの良さがありますよね。



KUNOICHI / BURNOUT SYNDROMES × ASCA


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楽曲提供、コラボを経て芽生えた
「自分が主人公なんだな」という意識

――歌詞の面で言うと、BURNOUT SYNDROMESの持ち味である小説を彷彿とさせる物語調のものもありますが、同時に熊谷さんが主人公なのかなと思う書き方が多いのが新鮮でした。

熊谷:これまであんまり自分のことを歌詞にしたいと思ったことはなかったけれど、楽曲提供やコラボレーションをたくさんしてきたぶん、BURNOUT SYNDROMESのみの曲の歌詞は「自分が主人公なんだな」という意識もちょっと芽生えてきたというか、ある程度「熊谷和海が歌っている」ということが見えたほうがいいのかなと思ったんですよね。自分に楽曲提供をしているような感覚というか。「Xross Road」で書いていることはほぼ実話ですし、サウンドも歌詞に合わせてシンセを抑えめにして、インディーズのギターロックみたいにしてみたりもして。

廣瀬:「Xross Road」はバンドの駆け出しの頃の物語が書かれた歌詞なので、自分の人生にも重なって、リハで叩いていたら思っていた以上に自然と気持ちが入って。昔を思い出しましたね。



Xross Road / BURNOUT SYNDROMES × CHiCO


石川:あと「Xross Road」は、熊谷が初めてサビで否定的な切り口をしているんですよね。やっと今そういうことを言えるようになったんだろうな、そういうことを歌にできる年齢になったんだろうなと感慨深くもありました。

熊谷:たしかに、20歳でこういうことを書いて歌ってもね。

石川:そうそう、「幼いなあ」「若いねえ」くらいの印象になってしまうんですよね。こういうことを言いたい人はたくさんいるだろうから、その人たちの気持ちを代弁する歌詞だとも思うんです。そういう曲がBURNOUT SYNDROMESにできて良かったですね。

熊谷:そうだね。バンドを19年続けて実際に世界に行かせてもらっている今があったうえで、CHiCOさんというBURNOUT SYNDROMESと別のブランドが確立されていて、これまでに関係性がある人と歌うことに意味がある曲なんだろうなと思いますね。積み重ねてきた人生の一つひとつが、楽曲にも影響を与えている。「BABEL」で書いているのもそういうことですね。私は飽き性だから、積みたくなるんですよ。


――と言いますと?

熊谷:ずっと同じところにいたくないんですよね。よくそれを「前に進む」と言うけれど、前って自分の向いている方角次第だから、「どっちが前なんだ?」「本当に前に進めているのか?」と不安になるんです。でも「上」はどんなときもはっきりわかる。「今日はこの練習をしよう」「これをテーマに1曲書いてみよう」と、少しずつでも積み重ねていけるんです。

石川:熊谷が積み重ねれば積み重ねるほど新しい景色が見えるので面白いんです。変な曲が来れば来るほど楽しいですね。

廣瀬:そうだね。せっかく学んだ技術が次のレコーディングではまったく使えないなんてザラにあるので、ちょっとつらいなあなんて思いつつ(笑)、頑張ってるし楽しんでます。

熊谷:バンドでやる曲、コラボでやる曲、楽曲提供する曲とアウトプットが増えたぶん自由に曲作りができるようになったので、すごくありがたいんですよね。これが自分のバンドの曲を作るだけだと「これはBURNOUT SYNDROMESではできないな」とアイデアがあっても完成に至らないことも多いし、ずっとバンドという同じ素材だけで料理をし続けるのはヘヴィで。だから人と人とのつながりはあればあるほど、私としては助かるんです。『ORIGAMI』で多種多様なポップスを作れたことで「バンドって悪くないな」と思えたし、実験できたのも面白かったですね。


――バンドという制約に窮屈さを感じている熊谷さんが、バンドを続けているのも面白いですね。

熊谷:バンドがマストだと飽きてしまうので(笑)、バンドサウンドが選択肢のひとつになっている状況はありがたいんです。でもライブで強いのは断然生楽器、バンドなんですよね。

廣瀬:打ち込み系のトップアーティストも、ライブではドラムアレンジをバチバチに入れていることがほとんどで、音源とは違ったかっこよさがあるなと感じるんです。音源でしかできないことと、ライブでかっこいいなと感じることはまったくの別物なので、熊谷にはこれからもバンドにとらわれず好きなように作ってもらえるのがいちばんですね。


――『ORIGAMI』というタイトルがぴったりの作品なんだなとお話を聞きながら思いました。いろんなものが折り重なって、1枚の紙がどんなものにも姿を変えるような。

熊谷:そうですね。折り紙の展開図ってあるじゃないですか。線の交わり方によってこういう作品ができるんだなと思って、それがコラボレーションと似ているなと思ったんです。ブラジルで観た日本をフィーチャーした展示に、折り紙がシンボルとして掲げられていて、「ブラジルの人でも知っている日本の文化なんだな」と印象に残っていたんですよね。「ORIGAMI」のサウンドもそこでBGMとして流れていた、ガラスが上下して音が鳴る楽器のインストを参考にしました。海外から見た日本のイメージってこんな感じなんだなと素直に思ったし、ブラジルで得た経験が大いに反映されたアルバムでもありますね。


――その経験が得られたのが日本の裏側にある国というのも、なんだか運命的であり意味があるとも思います。来年5月の結成20周年を前に、とても重要な作品ができたのではないでしょうか。

熊谷:ああ、なるほど。でも今はあんまり20周年とか考えられないかな……。『ORIGAMI』で出し切った感覚があって、何をしたらいいのかちょっと困っているというか、しばらくのんびりしたい(笑)。


――バンド名通りの燃え尽き症候群に(笑)。

廣瀬:そうもなると思います。熊谷はいろんな国で曲を書いていて、最後の追い込みがアメリカツアーのタイミング(※2024年8月)だったんですよね。どこに行っても曲作りをしていて、空港でピアノを出したこともあったね(笑)。

熊谷:「アメリカなのにWi-Fi入んねえ!」とか言いながら作ってました(笑)。でも『ORIGAMI』リリース日の翌日には東阪ワンマン【Good Morning [New] WORLD TOUR 2024 in TOKYO&OSAKA】の東京公演がありますし、活動しているうちにやりたいことは出てくると思います。この19年半、ずっとそんなふうに積み重ねてきたんですよね。


BURNOUT SYNDROMES「ORIGAMI」

ORIGAMI

2024/11/27 RELEASE
ESCL-6032 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Paradise of Birds
  2. 02.I Don’t Wanna Die in the Paradise (×FLOW)
  3. 03.Xross Road (×CHiCO)
  4. 04.魔王 (×東山奈央)
  5. 05.星屑ライダーズ
  6. 06.KUNOICHI (×ASCA)
  7. 07.I feel you (×halca)
  8. 08.初恋カプチーノ
  9. 09.Amateras
  10. 10.FORCA (×niLL)
  11. 11.BABEL
  12. 12.ORIGAMI
  13. 13.Good Morning [New] World! (×石崎ひゅーい) -Bonus Tracks-
  14. 14.FLY HIGH!! -Portuguese ver.- -Bonus Tracks-

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