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<インタビュー>吾妻光良 & The Swinging Boppersのニューアルバムで味わう抱腹絶倒、ご機嫌ブルースの世界

インタビューバナー

Interview & Text:Kyoko Sano (Do The Monkey) / Photo:SHUN ITABA

 結成45年を迎える吾妻光良 & The Swinging Boppersがニューアルバム『Sustainable Banquet』をリリースする。日本屈指のブルース・ギタリスト、吾妻光良を中心に総勢12人で繰り広げる懐の深い上にご機嫌な音楽は、長年にわたり熱い支持を獲得。9枚目となる新作も、ユーモア溢れるオリジナル曲やいにしえの名曲を日本語詞で歌う曲などを一発録りの抜群の演奏力で収録。来年1月からはビルボードライブ・ツアーを開催する平均年齢67.2歳(!)のBoppers率いる吾妻光良に、“持続可能な宴会”と称した新作の聴きどころを楽しいエピソードとともにたっぷり語ってもらった。

結成45周年を迎え、9枚目の新作をリリース

――5年半ぶりのニューアルバム『Sustainable Banquet』がリリースされます。前作『Scheduled by the Budget』は新旧のリスナーに大好評でしたね。

吾妻光良:前作のときはまだ私も本業を退職する前でしたね。コロナ禍の2021年に退職して、高円寺・JIROKICHIのYouTubeチャンネルで「プロ入り宣言」緊急会見までして。


【ブルーズ界の偉人、会社員時代のトラブル暴露。所有の珍しいギターコレクションも披露】

――The Swinging Boppers(バッパーズ)の皆さんは、吾妻さんも含めて会社勤めをしながら土・日や有休休暇を利用して活動を続けてきたわけですが、この数年で状況が変わり、ライブの本数も増えました。

吾妻:キーワードは「儲からないが忙しい」(笑)。でもね、会社を卒業すると、俺はまだけっこう若手だなと思いました。3ヶ月に一回、会社の先輩後輩と昼飲みをやっているんですが、10人集まって、俺が下から4番目。高齢化社会には上には上がいる(笑)。

――結成45周年を迎えての9枚目の新作はどのような経緯で制作に至ったのでしょうか。

吾妻:レコード会社の担当者が社内でプレゼンをしたらなぜか企画が通ってしまったので、楽団内からの疑問の声もありましたが、じゃあこの際、作っちまおうと。ただ、アルバム用に書いた新曲は2曲くらいで、あとはライブでやってきた曲やアルバムとは関係なく作った曲、EGO-WRAPPIN'と共演した曲など、まぁ何とかアルバムの体裁はついたかなと。

――アルバムはタイトルの『Sustainable Banquet』(=持続可能な宴会)を象徴するような「打ち上げで待ってるぜ」で軽快に始まります。

吾妻:あちこちで「45周年ですね」と言われると、結成した日のことを思い出すんですよ。ライナーノーツにも書いたんですが、1979年に早稲田大学の音楽サークル、ロック・クライミングの定例コンサートで、交流のあった別サークルのメンバーとライブを企画したのがそもそもの始まりなんです。俺の高校の同級生が東大農学部にいて「東大の学祭に出ないか。ギャラが出るぞ」と。それで早稲田と東大と二本立てのライブをして、みんなで池袋に飲みに行ったことをなぜか昨日のことのように覚えている。それ以来45年間、ライブの度に打ち上げで飲んでいるわけです(笑)。


吾妻光良 & The Swinging Boppers『打ち上げで待ってるぜ』(Full ver.)

――前作の「ご機嫌目盛」もライブではすっかり人気ナンバーになりましたね。

吾妻:「打ち上げで待ってるぜ」は、「ご機嫌目盛」「最後まで楽しもう」に続くシリーズ3部作ですね。渡辺康蔵 (A.Sax, Vo.)の二人で歌って盛り上がるような曲を作ろうと。コロナ禍で仕事関係でも打ち上げが一切無くなって、ショックを受けたこともどこか関係していると思いますね。

――「Jeepers Creepers」では、いよいよ“おじいちゃん”の境地に?

吾妻:まぁ、バンドのメンバーの平均年齢も67.2歳となりましたんで。ジャイヴ・グループのスピリッツ・オブ・リズムにいたレオ・ワトソンというスキャットの天才が大好きで、彼の歌っている「Jeepers Creepers」が〈じいちゃん、おじいちゃん〉に聞こえてきたんですよ。空耳アワーのように(笑)。洋楽は日本語の歌詞にする場合、許諾が必要になるので「こんな歌詞は絶対通らないだろう」と思っていたら、なんとOKが出ちゃった! 向こうの気が変わらないうちに早くレコーディングしてしまえと(笑)。



――吾妻さん自身が日本語の歌詞をつけて歌う、古(いにしえ)の洋楽カバーは毎回楽しみですが、許諾のハードルは高いんですね。

吾妻:「日本語にして歌わしてもらえるならこちらはお金は要りません。許可さえいただければ」と申請しているんですが、まったくNGな場合もあれば、返事さえいただけないこともありまして、この曲はラッキーでした。




――「Old Fashioned Love」はパブリック・ドメイン(著作者の没後70年が経過した著作物。著作権が消滅するため、複製、出版などが可能になる)の曲ですね。





吾妻:そう。原曲も“昔ながらの恋が好きなんだ”という歌詞なんですが、コロナになりたての頃に家で聴いていて、今、この曲をZoomで会うような恋はイヤだって日本語の歌詞にして歌うのはいいんじゃないかと思ったんです。調べてみたら「やった、PDだ! 自由に歌える!」って。

――「昼寝のラプソディ」はバッパーズの円熟味のある演奏が素晴らしい。

吾妻:退職してから昼飯を食べると眠くなっちゃうんですよ。うたた寝してると鳩の鳴き声が聞こえてきたりして、この曲は大食漢じゃなくて、退職感ありますね(笑)。あと、NHKみんなのうたで放送された加藤千晶さんの「四つ角のメロディー」というめちゃくちゃいい曲がありまして、〈遠くの方から聞こえる 四つ角のメロディ〉という歌詞は昼下がりにふと思いつきました。



――途中に入る語りもいい雰囲気を醸しています。

吾妻:アメリカのドゥーワップ・グループって、オリオールズとかフラミンゴスとか鳥の名前を付けたグループが多くて、それらを称してバードグループと呼ぶんですが、その理由はインク・スポッツが「When the Swallows Come Back to Capistrano」という曲を歌ったからという説があるんです。そのインク・スポッツは曲中に語りを入れるのが特徴で、この曲には名取茂夫(Tp.)の語りを入れてみました。

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中坊がディープ・パープルをコピーして喜ぶのと同じ

――世知辛い世間をユーモラスに描いた「俺のカネどこ行った?」も秀逸です。〈給付金〉〈保証金〉〈還付金〉に〈無―い!、無―い〉のコール&レスポンスがリアルに響いて(笑)。

吾妻:歌っていることがしょぼいよね(笑)。でも、経験していない事は歌えないですから。




――生活者としての実感を伴う日常を切り取った悲喜こもごものバッパーズの歌は、吾妻さんの音楽のルーツとも深く結びついている?

吾妻:やっぱり、ルイ・ジョーダンをはじめとしたブルースなど、洋楽から来ていますね。「クレイジーキャッツとか歌謡曲の影響なんですか?」なんて言われると生意気にも全否定に入りますから。ブルース・ファンは歌詞カードなんて付いてない輸入盤でも必死に歌詞を聴き取るんですよ。それが若いときからの趣味(笑)。聴き取れたときのカタルシスがまた楽しい。ブルースは歌の音楽ですから、何を歌っているのか気になるんです。亡くなった小出斉くんの著書『意味も知らずにブルースを歌うな!』にあるように。

――ブルースを愛好するようになって歌詞を意識するようになったと。

吾妻:そうかもしれない。日本人でブルースを歌っている人は英語派と日本語派がいるんですが、日本一のブルース・シャウター、福嶋”タンメン”岩雄さんと俺はブルース日本語化協会の会長・副会長なんです。我々の世代は、「ブルースを聴かないヤツは人間ではない」という時代に青春を過ごしてきたので(笑)。

――「Boogie-Oogie」にはEGO-WRAPPIN' が参加。中納良恵さんは前作でも参加しましたが、今回は森雅樹さんもギターを弾いています。


吾妻:ここはひとつ、NHK 連続テレビ小説『ブギウギ』 の主題歌を歌った中納良恵さん、よっちゃんにちなんでブギウギ商法にあやかろうと(笑)。我々は1979年からブギウギを演奏しているんですが、ブームというものにあやかった試しがなく、50年代にニューオーリンズで人気を博したラリー・ダレルの曲で起死回生を狙いました。

――「Don't Hesitate Too Long」は英語で歌っていますね。

吾妻:ジャンプ&ジャイヴ・ビッグバンド、ラッキー・ミリンダー&ヒズ・オーケストラでアニスティーン・アレンが歌っている曲で、元々は日本語で歌っていたんですが、残念ながら許諾が下りなかった。というか返事もいただけなかった。ただ、この歳になるとコピーした曲をそっくり演奏できると単純に嬉しいんですよ。中坊がディープ・パープルをコピーして喜ぶのと同じです。スタジオで録音して「おい、俺たち、似てねーか?」って喜々としながら、その場でオリジナルをSpotifyで確認して興奮したり(笑)。


【吾妻光良 & The Swinging Boppers - レコーディング・メイキング映像】

――「俺の薬はデカい」は、ライブで既に一部高齢者に人気のナンバーです(笑)。

吾妻:これは数年前からコンセプトを温めていて、いつの間にか曲になったんですが、薬をブルースの歌詞でしばしば使われるMojoモノに絡めてみました。最近は天候不良で交通遅延もあるからツアーに薬を多めに持っていくようになり……って、若い人は分かんないでしょうけど、やっぱり、健康第一、音楽第二(笑)。「NO MUSIC, NO DRUG」? そりゃ、意味違うか(笑)。


――「正月はワンダフル・タイム」は、2007年に吾妻光良 with Ban Ban Bazarとして発表されていますね。

吾妻:これは40代に書いた曲で、Ban Ban Bazarバージョンとは歌詞を少し改変してみました。ビルボードライブのステージが1月にあったときに演奏して好評だったのかな? 柏手(かしわで)を打つところがおめでたくて好きなんですよ。


――ゲスト・ヴォーカルにLeyona さんを迎えた「L-O-V-E」は、昭和世代には馴染みのある洋楽の日本語詞カバーです。

吾妻:「L-O-V-E」は昔から演り慣れているナンバーで、Leyonaさんとは何度も共演しているし、これを吹き込まない手はないなと。しかも日本語詞がすでに付いているので許諾の問題もない。ブルースから入って黒人音楽を聴くようになり、初めてナット・キング・コールの「L-O-V-E」の日本語版を聴いたときは、ステレオの前で思わず拝んでしまいました。ナット・キング・コールは「L-O-V-E」を世界各国語で歌っているんですね。


――ゲスト・ヴォーカルを迎えるのはバンドとしていかがですか?

吾妻:うちはフルバンド的なしつらえなので、ゲストの伴奏をするときは気持ちが引き締まって、すごく楽しいんですよ。ライブでLeyonaやよっちゃんが歌って、ステージからいなくなった後は、火が消えたようになりますからね。その昔、都市の黒人たちが週末にクラブにフルバンドと歌姫を聴きに行って、日頃の憂さを忘れるという感じですね。


――「誰もいないのか」の歌詞は、昨今の居酒屋、ファミレス、タクシーの事情を反映した“あるある”ブルース。

吾妻:スローなブルース系の曲がないなと思って最後に作った曲で、歌詞はほぼ実体験。中野でライブの前に少し嗜んでいこうと居酒屋に入ったら、例のバーコードを渡されたもののスマホがうまく機能しない。諦めて次の店に移動したら今度はロボット(笑)! こういう曲はホントは色恋の歌がいいんだろうけど、この歳で歌うと不気味ですから。ストレート・ブルースの歌詞って難しいんですよ。



――長らくブルースを歌ってきた吾妻さんでも?

吾妻:英語の歌詞をまんま訳しても歌にはならないし、「あの娘が好きなんだけど、それは二人だけの秘密にしておけよ」とか、やっぱり恥ずかしい。甲本ヒロトさんくらいはっちゃけると歌えるんだろうけど、俺にはできないなぁ。ブルースをあまりにも長くどっぷり聴きすぎたせいかもしれないですけどね。だから、これくらいヒネらないと。

――「誰もいないのか」のオチから「BIG BUG BOOGIE」へ繋がるのも心憎いですね。

吾妻:そう。虫で繋げてみた(笑)。農業にちょっと憧れはあるんですよ。自分ちの畑で収穫した野菜を友人に振る舞うとかやってみたいんだけど、いかんせん、昔から虫が苦手で(笑)。「BIG BUG BOOGIE」は以前、許諾を申請して1年半後にやっと返事がきた曲。ビールに虫が入っているように見えちゃう、アル中の歌なんですけどね。


――今回もレコーディングは一発録りで、集中して行われたそうですね。

吾妻:順調だったと思いますよ。理想が低いから(笑)。レコーディングで演奏した後、「はい、自己申告がある人は?」とメンバーに聞くんですが、なるべくやり直したくないから、ちょっとした間違いなら「雑味」ってことでよしとする(笑)。それより早く予約しておいた3500円飲み放題に行きたい(笑)。

――来年1月からは、アルバムのリリース・ツアーが東京・大阪・横浜のビルボードライブで開催されます。バッパーズのビルボードライブも恒例になり、各地で大盛況です。

吾妻:退職したメンバーも増えて、ライブは以前より増えましたが、まだ働いているメンバーもいるので、日曜日はできれば避けたい。ビルボードライブは、毎回土曜日をブッキングしていただいてありがたいんですよ。コロナ禍が過ぎたら、外タレさんが増えて我々なんてお払い箱かと思いきや、ありがたい話です。今、一番気になるのは、2月の大阪公演。

――と、仰るのは?

吾妻:前にビルボードの大阪公演の打ち上げで楽しく飲みすぎて、メンバーの一人が靴を片方間違えて履いて帰ってしまったことがあったんで、気をつけたいなと(笑)。

――結成45周年を迎え、ますます抱腹絶倒のステージを期待しています。

吾妻:毎回、楽屋が居酒屋状態になってしまって申し訳ありません。ご迷惑をおかけしないように心がけて、楽しいステージにしたいと思います。

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吾妻光良&The Swinging Boppers EGO-WRAPPIN’ Leyona「Sustainable Banquet」

Sustainable Banquet

2024/11/20 RELEASE
MHCL-3059 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.打ち上げで待ってるぜ
  2. 02.Jeepers Creepers
  3. 03.俺のカネどこ行った?
  4. 04.昼寝のラプソディ
  5. 05.Boogie-Oogie
  6. 06.Don’t Hesitate Too Long
  7. 07.Old Fashioned Love
  8. 08.俺の薬はデカい
  9. 09.正月はワンダフル・タイム
  10. 10.L-O-V-E
  11. 11.誰もいないのか
  12. 12.BIG BUG BOOGIE (Bonus Track)

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