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<インタビュー>【CDJ】出演決定、緑仙が語る『ゴチソウサマノススメ』とVTuberが結び付ける音楽と視聴者の接点

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Text & Interview: 小町碧音

 【COUNTDOWN JAPAN 24/25】の12月28日にVTuberとして初めて出演する、にじさんじ所属のバーチャルライバー・緑仙。前回の取材でひとつの到達点として掲げていた「フェス出演」を、ついに実現させる。

 11月13日にリリースされた3rdミニアルバム『ゴチソウサマノススメ』は、約4か月前にリリースされた2ndミニアルバム『イタダキマスノススメ』と地続きで、“食”と“人生”を描いた作品。前作から本格的に作詞にも挑戦し、ステップアップした緑仙が、今作で表現したかったものとは――。想像するに、取材中の緑仙の瞳には、これから訪れるフェスの光景が眩しく映っていた。

──今年10月に開催されたベガルタ仙台クラブ設立30周年記念試合で、2024年ベガルタ仙台応援ソング「Blowin’ Wind is blowin’」を初歌唱されました。まずは当時の感想から教えてください。

緑仙:メモリアルセレモニーが本当にすごかったんですよ! 陸上自衛隊のヘリコプターがユアテックスタジアム仙台の上空を飛行してボールを投下したり、仙台市消防団の方たちが階子乗りを披露したり、特別感が満載で。そんな派手な演出の中で、緑仙が歌うという(笑)。

──30周年記念に相応しい演出ですね。

緑仙:地元愛溢れるイベントに緑仙を入れてもいいと判断してくださったことも、すごく嬉しくて。サポーターの皆さんも、一緒に拍手してくれたり、サイリウムを振ってくれたり、温かく迎えてくれました。今後の活動の自信にも繋がりましたし、これからもベガルタ仙台を応援していきたいです。

──『ゴチソウサマノススメ』の制作はいつ頃スタートしたのでしょうか?

緑仙:前作『イタダキマスノススメ』をリリースしてすぐに、始まりましたね。

──スケジュールが詰まっていたのでは?

緑仙:テトリスみたいに隙間なく予定をぎゅうぎゅうに詰めていくのが好きなんです(笑)。でも、歌詞制作だけは、まだ作詞の経験が少ないので、どれくらい時間がかかるか読めないんです。すごく調子がいいときは15分くらいで書けるのに、全然ダメなときは5時間かけても一行しか進まないとか、本当にバラバラで。「今日は丸一日歌詞のために時間を取ったぞ!」と意気込んでも、30分で終わってしまって一日中暇になってしまった、なんてこともあったので、意外と余裕はありました(笑)。

──今作と前作で大きく違ったところはどこでしょう?

緑仙:前作は自分の体験や考えを元に作ったんですけど、今作は「人生の後半戦」という大きなテーマで、将来のこと、自分の中でまだ答えが出せていないことについて想像しながら歌詞を書きました。「自分は感じたことないけど、こういう風に感じる人もいるだろうな」という視点も入れつつ、空想や想像を膨らませて作った感じです。


──緑仙さん節が炸裂した前作とは違って、今作は全体的に落ち着いた印象を受けました。ご自身の感情にフォーカスしなかったことも、その理由のひとつでしょうか?

緑仙:自分の気持ちだけを表現しようとすると、前作の「独善食」みたいな暗い曲になってしまう。そういう部分を、あえて明るい話に持っていこうとしたからこその仕上がりだと思いますね。

──1曲目の「カルカリナ」から、今作全体が温もりに満ちています。

緑仙:まず、どこから始めようかと考えたときに、大人になってから思い出す幼少期の記憶がぴったりだなと感じたんです。そのひとつが、友達からもらった『星の砂』の記憶です。自分が行けない場所のお土産を受け取ったみたいな、何とも言えない、もやっとした感覚があって、でもそれを親に話してもどうにもならないと思って心にしまっていました。大人になってからそれが有孔虫の死骸だと知ったとき、あの時の憧れがちょっと虚しく感じて……。今ならその砂浜にも行けるけど、実際にはまだ行っていません。

子供の頃は知らない場所が輝いて見えて、「いつか行きたい」と強く願っていたんですよね。大人になって「どこへでも行ける」状態になってから振り返ると、そのときの気持ちがすごく小さくて愛おしく思えて。その愛おしさだけを抽出したいと思ったところから制作を始めました。

──不思議なことに、もやもやとした気持ちを超えた輝きが感じられますね。

緑仙:たぶん、前作に収録されていたら、きっと幼少期の暗い歌になっていたと思います(笑)。過去をきらきらと輝かせる星の砂を連想させる歌詞ができたのは、加藤さんのデモのきらきらしたサウンドがあったからこそで、自分でも予想外の仕上がりです。

──歌詞が完成するまでのスピード感はどんな具合でしたか?

緑仙:「カルカリナ」はアルバムの中では、驚くほど早く書き上げて、麻雀をテーマにした応援ソング「all-last」は一番苦しみました。ベガルタ仙台の応援ソングは、ベガサポとしての経験や気持ちがベースにあったからこそできたもの。でも「all-last」は、誰が聴いても「応援されている」と感じてほしいと思ったんです。それって本当に難しいことだなと実感して。

ただ、応援してきたし、逆に応援される場面もあった“麻雀”というコンテンツがあったと思い出したんです。それに対する思いを少しでも歌に込めようと。応援の方向性が見えてからは、制作がスムーズに進みましたね。

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音楽に何度も救われてきた僕だからこそ、みんなにもいろんな音楽を楽しんでほしいです

──顎木あくみさんの最新作『宵を待つ月の物語 一』のテーマソング「夜明けの詩」。RUCCAさんとの共作は、どのような流れで進められたのでしょうか?

緑仙:完成前の段階と、完成版に近い小説を読ませていただきました。どちらにも共通して、人間同士の関わりという本質が描かれていて、作者の伝えたいメッセージが見えた気がしたんです。直接ミーティングもさせていただいたので、そこで自分が感じたことや、主人公の視点に立った言葉、歌詞に入れたいフレーズなどをまとめたプロットをRUCCAさんに共有しました。その後、書けるところまで書いた歌詞をRUCCAさんに見てもらって……といったやりとりを何度も重ねました。


小説『宵を待つ月の物語 一』ブックカバー

──作品との相性はいかがでしたか?

緑仙:初のタイアップがこの物語で本当によかったです。タイアップで曲を書く難しさももちろんありました。でも、個人的にも主人公に共感する部分がたくさんあって、主人公の心情や行動の理由が理解しやすかったので、作詞はスムーズに進めることができましたね。

──どんなところに共感したんですか?

緑仙:この物語を「運命」という言葉だけで片付けたくないんです。主人公がこれまで行動してきたからこそ、出会えた人たちがいる。主人公が強くて素敵な人だからこそ、周りに素敵な人たちが集まってくる。そこが、すごくグッとくるポイントで。強くてかっこよくて、愛おしい主人公。そして、主人公を取り巻く温かい人たち。それが曲を通して伝わったら嬉しいです。


──前作の「しあわせクッキー」でもさりげなく猫は登場していましたが、「猫の手を貸すよ」は、完全に猫視点の曲ですね。

緑仙:ある時、猫を飼っていない人から「猫っていつも寄り添ってくれるでしょ?」と言われたんですけど、そんなことはなくて。猫が勝手に寄ってきてるだけなんですよ。猫が伝えたいことは、「ご飯ください」「撫でてください」「僕を見てください」の3つくらい(笑)。確かに実際には役に立たないけど、そばにいてくれるだけで“手を貸して”くれている感じがするのが猫なんです。そこから、猫に「こんな風に思っていてほしい」という、人間の願望を込めた歌詞を書きました。猫の視点で語りながらも、実際は人間側の都合で書かれた歌詞ですね。

──歌詞の中で、猫が自分のことを〈可愛くて愛おしい僕〉と認識し、飼い主のことを〈可愛くて泣き虫な君〉と見ている視点が面白いですね。

緑仙:猫って、人間のことを「大きい猫」だと思っているらしいです。「大きな猫が何かしているな」って見ている感じも入れられたら面白いなと思って書きました。


──特に印象深い収録曲は?

緑仙:「君の好きなところ」ですね。心の中にいる架空の恋人に「私のどこが好きなの?」と問い詰められるシーンを想像しながら、好きなところを100個作り始めました。「顔」と答えたら、「最初に顔なの?」と返されてしまって(笑)。次に「性格」と適当に答えたら、「もっとちゃんと説明してよ」と詰め寄られてしまって……。後半になるにつれて、どんどん具体的で細かい部分が増えていく(笑)。

──100個となると、想像するだけでも大変(笑)。

緑仙:まずは100個分詰め込んだシートを、(作曲・編曲の)ebaさんにお渡ししたんです。そしたら、「100個入れると、10分を超えますよ」と言われてしまって(笑)。さすがにそれは困るので、今の形に落ち着きました。

──リード曲「終着駅から」はどうでしょう。

緑仙:去年の6月頃、母方の祖父が亡くなりまして。定期的に会っていた身近な家族を失ったのは初めてでした。悲しいはずなのに、思い出すのは楽しかった思い出や感謝の気持ちばかりで。「あの時は楽しかったな」「嬉しかったな」「幸せだったな」と思い返すたびに、寂しい気持ちがどこかへ行ってしまう。もちろん寂しさもありますけど、それ以上に祖父との楽しい思い出や感謝の気持ちのほうが大きくて、自分でも不思議な気持ちでした。祖父にどんな言葉を届けられるだろうかと考えて、ようやく形になったのが、この曲です。

──今作の中でも唯一、緑仙さんの素直な気持ちが溢れていると。

緑仙:祖父の人生はここで終わりかもしれないけれど、同時に新しい何かの始まりでもあるのかもしれない。そして、僕たちの人生はこれからも続いていく。明日も必ずやってくる。その中で、どう生きていけばいいんだろうと。

人生は終着駅で終わりではなく、終着駅から何かが始まると思っています。特に、ショックを受けていた母には、少しでも元気になってほしいという気持ちもありました。

──【COUNTDOWN JAPAN 24/25】への出演は、前回の人生年表で触れていたフェス出演の目標が叶う形になります。同フェスの別日には星街すいせいさんも出演予定で、【CDJ】にVTuberが登場するのはおふたりが初めてだと伺っていますが、まさに年表通りのタイミングでの実現だったんでしょうか?

緑仙:早すぎ、早すぎ(笑)! 想定よりだいぶ早く決まったので、早くその先を書かなきゃと焦っています。大きめの旗をどんどん立てていきたい。すいちゃんとは会社は違えど、プライベートでも仲がいいですし、ずっと一緒にVTuberの音楽について語り合ってきたので、同じタイミングで出演できることがすごく嬉しいです。すいちゃんも、業界の中で「VTuberの音楽を外に広げていこう」という思考を持った仲間のひとりなので、一緒にVTuberの音楽を広げていけたらなと思いますし、僕自身、楽しみです。

──【CDJ】で実現したいことは何ですか?

緑仙:たぶん叶えられると思っていることで、今一番楽しみにしているのは、今まで音楽にあまり触れてこなかった人に、僕を通して、音楽の素晴らしさを知ってもらうことです。VTuberの視聴者って、意外と音楽に馴染みのない方が多い。なので、僕は、いろんなジャンルの曲を配信で歌って、動画にしているんです。

音楽に何度も救われてきた僕だからこそ、みんなにもいろんな音楽を楽しんでほしいです。特に、フェスでの音楽との出会いは、僕にとってすごくいい経験だったんですね。フェスでは、大きな音だけでも感動しますし、音楽を楽しんでいる人たちの姿も一緒に目にして、体感することができる。

僕自身がVTuberという新しい形だという自覚があるので、だからこそ、これまでフェスや音楽を楽しんできた人にも新しいものとして、いい音楽を届けたいという気持ちが強くて。今から楽しみです。

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