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<インタビュー>Little Black Dressが進化した原点回帰――移籍後初シングル『チクショー飛行/猫じゃらし』

インタビューバナー

Interview & Text:冬将軍
Photo:TUTU


 Little Black Dressがキングレコードへ移籍した。Little Black Dressはシンガーソングライター遼によるソロプロジェクト。11月22日に配信リリースされる『チクショー飛行/猫じゃらし』は、彼女の原点でもある“歌謡ロック”に回帰。「チクショー飛行」はストレートでメッセージ性のある歌と骨太なバンドサウンドを響かせ、「猫じゃらし」はピアノが美しい壮麗な曲である。なぜこの2曲を選んだのか。楽曲についてはもちろんのこと、運命的な出会いもあったという移籍について、そしてLittle Black Dressのアーティストの本懐に迫った。

「『チクショー!』と叫んで鬱憤を晴らせたらどんなにいいだろう」

――さて、キングレコード移籍第一弾配信シングル『チクショー飛行/猫じゃらし』についてお伺いします。ここ最近では川谷絵音さん提供の「恥じらってグッバイ」(2024年5月リリース)、アルバム『SYNCHRONICITY POP』(2024年6月リリース)と、シティポップのイメージが強かったのですが、今回は心機一転、歌謡テイストのフォークロックなナンバーで心を揺さぶられました。

:移籍感ありますかね(笑) 。


――めちゃくちゃあります!

:1stインディーズアルバム『浮世歌』(2021年5月リリース)がフォークやロック寄りだったんですね。そのアルバム自体が、ここからどんなジャンルにトライしても原点回帰できるアルバムとして作ったんです。なのでシティポップなどを経て、進化した原点回帰ができたかなと思っています。


――移籍というタイミングで原点回帰をしたかったのですか?

:とくにそう意識したわけではないんですけど、「チクショー飛行」は以前からリリースしようと思っていた曲で、1年くらい前に完成していたんです。だから今回、タイミングが合った感じですね。やっとこの曲をお披露目できる準備が整ったという。


――レーベル移籍ということで、意識的に変わったところはありますか?

:今まで他人(ひと)に書いていただいた曲を歌うチャレンジもしてきたので。そこを経て、表現力もより一層パワーアップしていると思うし、自分の思う存分の表現ができるという嬉しさ、喜びがありますね。





「チクショー飛行」ミュージック・ビデオ・ティザー


――スタッフさん含めて環境も変わったと思うのですが、いかがです?

:実は……キングレコードさんの制作ディレクターの方、(テーブルの端を指しながら)あちらにいらっしゃるんですけど、もともとLittle Black Dressを好きでいてくださった方なんです。(照れ笑)。今回移籍することになって、スタッフの方々とご挨拶するということで会議室へ行ったら「え!?」って(笑)。


――知っている方が居たわけですね(笑)。

:ものすごく運命的でした。そんなディレクターさんが私の『浮世歌』の世界観を好きでいてくださっていて、そこをベースに「好きなことやっちゃってください」と、大きな懐で構えてくださっているので、もう身を任せています。


――制作チームに昔からの自分の音楽の理解者がいるなんて、心強いですね。

:めちゃくちゃ心強いです! だからこの先も楽しみですね。やりたかったことを全部やっちゃうよ! という気持ちです。



――「チクショー飛行」は、リリースにあたってこの曲しかないと思ったのか、それとも他に候補があって選んだのですか?

:(ディレクターに向かって)どうでしょうか?

ディレクター:移籍の第一弾には遼さん自身を落とし込めている楽曲がいいと考えていました。「チクショー飛行」は遼さんの世界観に本当に合っていると感じていて。それに、遼さんが初めて編曲までされた楽曲でもあるので、新しいスタートにぴったりの曲だなと思って選びました。

:おおー、初めて聞きました。


――(笑)。

:ライブではやっていた曲なんですよ。それを聴いてくださっての決断ということですね。なんだか新しいですね、ディレクター目線を交えてのインタビュー(笑)。


――制作ディレクターとしてもオーディエンスとしても、お墨付きの楽曲なのですね。タイトルもインパクトがありますけど、新しいスタートということで、これまでの“悔しさ”も込められているのかなと。

:そこはご想像にお任せします(笑)。皆さん、人生の転機があると思うんですけど、私の最初の転機は中学生の思春期の頃でした。まだギターも始めていない頃で、学校でいじめられたり、思春期ならではの反抗期だったり。「自分はいったい何者なんだろう?」「勉強は本当にためになるものなのか?」とか、そうしたモヤモヤとした感情を音楽が代弁してくれた、救われたんです。そこから高校に入って自分で曲を作り始めたときに、自分が音楽で救われたいと感じる瞬間に自分が聴きたい曲を、自分で作ろうと思って作り始めたんですね。今この瞬間、音楽でこのことを叫びたい、そういうことを書いていきました。「チクショー飛行」はライブで、まさにみんなで「チクショー!」と叫んで鬱憤を晴らせたらどんなにいいだろう……そう思って、素直に書いた曲です。



――ライブといえば、フェンダーのリッチー・コッツェンテレキャスターを弾かれているじゃないですか。あのテレキャスター、僕も大好きなので勝手に親近感を覚えておりました。極太のネックが病みつきになるんですよね。

:私、モーリスのアコースティックギターを叔父から譲り受けてギターを始めたんです。それがネックが太くて弦高も高かったんですよ。それでエレキでもあの握り具合がちょうどよくて。初めて自分で買ったギターです。でもリッチー・コッツェンモデルとは知らずに、デザインで選びました(笑)。いい音ですし、カッティングもすごくしやすい。


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  1. 「これをいつか1曲にしたいなと思って、ようやく形になりました」
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「これをいつか1曲にしたいなと思って、ようやく形になりました」

――あの武骨なギターを弾きこなしているのはさすがです。話を戻しますが、曲作りにおいても原点回帰した楽曲なんですね。シンプルなメッセージ性のある曲で、昨今のJ-POPに足りないものを持っていると思うんです。サウンドもフォークロックで腰を据えたテンポをはじめ、歌に絡みつきながら咽び泣くギターであったり、80年代〜90年代初頭の歌謡ロックの趣があって。中島みゆきさんがお好きと聞いて納得しました。最初に聴いたとき、瀬尾一三さんの匂いを感じたんです。

:中島みゆきさん大好きです。瀬尾一三さんのアレンジですか。実は、この曲をライブでやっていた時、ギターに咽び泣いてほしいと思って、映えるようにギターゾーンを作ってアレンジしていったんですね。アレンジも今はAIでもできたりしますけど、“人間臭さ”というのが、人間ができる唯一無二のところで、私が歌で「チクショー!」と叫ぶように、ミュージシャンも音で「チクショー!」って叫ぶわけです。思う存分にそれを出してくださいとお願いしてレコーディングしました。情ですよね。情の塊です、2曲とも。


――いい意味での人間らしい泥臭さを感じます。ご自身で編曲まで手掛けたのは初めてというのは意外ですね。

:ある程度デモで世界観は作るんですけど、編曲の才能はないと思い、プロの方にお任せしてきました。とはいえ、全部お任せではなく一緒にアレンジすることが多かったんです。でもこれはライブで形ができ上がっていったのも大きいかもしれないですね。ライブで披露しながら「ここにこういうパート欲しいね」「こういうフレーズあったらカッコいいね」と進めてきた、そのおかげもあります。


――バンド的な作り方なんですね。そして「猫じゃらし」は打って変わって綺麗なバラード曲ですけど、この曲はいつ頃書いたものですか?

:出だしの<散々喧嘩もしたけど 憎いほどに好きだったんだ>というフレーズは高校生のときに書いたものなんです。よくアーティストの方が「降ってきた」って、カッコよくおっしゃるんですけど、この二行に関しては、ポロンポロンってギターを練習しているときにメロディラインが浮かんで、同時に歌詞も出てきたんです。そのままつぶやくように歌ったものがずっとスマホの録音に残っていて。これをいつか1曲にしたいなと思って、ようやく形になりました。



――あたためにあたためてきた1曲なんですね。

:はい。いろんな出来事があるたびに何回も書き直して、「リリースするのは今じゃない、いつか花が咲けばいいから」と思っていたんです。


――それが今だったと。

:今でしたね。


――その高校生のときに書いたフレーズは、ノンフィクションですか?

:うふふ……内緒です。でも、あるでしょう、こういうことは。誰にでも!(笑)。


――ありますね(笑)。

:恋愛に限らず、ね。友人同士かもしれないし、家族でもあることかもしれないし。きっと実体験ですよっていう感じで(笑)。


――そこはリスナーさんに当てはめてもらいつつ。歌詞や曲のモチーフになるものは、ご自身の実体験やリアルな出来事が多かったりします?

:多いと思います。でもそのままじゃないんですね。頭の中で実際にあった出来事を、本当はこういう結末にしたかったとか、こういうときの自分にこう声をかけてあげたいとか、そういう展開の仕方で書いています。


――なるほど。高校生のときに書いたものをずっと残していたということは、常日頃から思ったことを書き留めておいて、膨らませるのかなと思ったんです。

:でもこれは文字で見ると、美しい曲になっちゃったかなと思うんです。“事実は小説より奇なり”と言いますか。実際は人と人との事情ってもっとドロドロしてると思うので。自分は曲を書き上げた時点で、聴く人にあげるっていう感覚なんですよ。世に出した時点で「もう、これはあなたの曲です」って。だから、この曲はどういうときに書いたとかっていうのは今まで言ってこなかったんですよ。固定観念ができちゃうから。「猫じゃらし」はライブでやったときにインスタのコメントで、「亡くなった主人のことを思い出して泣きました」という方がいて。「主人は薔薇の花束をよくプレゼントしてくれたんです」「一緒にバイクに乗ってました」とか。実際にそうやって聴き手側の物語があるので、そこに寄り添えたらいいなと思っています。


――聴き手それぞれに委ねるわけですね。でも、意外と重いことを書いてますよね。

:え? 重いですか?(苦笑)。 ちょっと聞かせて下さい、どの辺ですか? 男性の意見を聞きたいです。


――<哀れな恋に溺れるならば いっそ嫌われてしまいたいと願ったの>。

:あー、そこですか!


――それがあって、<苦しくても 苦しくても 私はまだ死ねないのに>に繋がっていく。

:前向きでしょう?(ニヤリ)


――その前向きさが相手に重くのしかかるというか。

:アハハハハ! 「一生想い続けるわよ、あなたのことを」っていう重さですよね。情念!


――生々しくて、今のJ-POPにはない部分だなと。

:中森明菜さんがカバーした「難破船」あるじゃないですか、加藤登紀子さんの曲。それをよく聴いている時期に、これを書いたんですよね。


――納得です。そっち系ですよね。

:そっち系ですね! “「難破船」を現代風に今私が書くなら”っていうこともどこか頭の片隅にあったような気がします。


――アレンジに関しては、ピアノベースの比較的シンプルなものが狙いだったのですか?

:アレンジャーの曽我淳一さんとはシティポップのアルバムも一緒に作らせていただいたんですけど、いつも一緒にスタジオに入ってアレンジしていくんですね。「ドラムはどんな感じがいい? ピアノはどんな感じがいい?」って。最初に曽我さんが「まずピアノを打ち込もうか」というところからすごく素敵だったので、それをベースに足していきました。でもメロディーも歌詞も濃いから足しすぎると良くないと思って、引き算もしてあります。逆に「チクショー飛行」はいっぱい足してあるんですよ。サビがシンプルだから。引き算と言いつつも「猫じゃらし」のポイントとしてはサビの転調ですね。マイナーの曲なんですけど、サビでメジャーへ行くんですよ。最初は転調してなかったんです。曽我さんと「この1行目のメロディがすごくいいけど、このままだともったいないよね」って、試行錯誤して転調が思いついたんです。メジャーコードを弾いた途端、バーン!と世界が広がって。それを見つけたときは曽我さんと「これですね!」「きましたね!」って、大喜びしました。



――川谷絵音さんだったり、他人からの提供曲と自身で手がけた楽曲、そこへ向かう気持ちに違いはありますか?

:提供していただいた曲を歌うとき、レコーディングするときの心づもりとしては、自分だったらこの歌詞、この曲をどう解釈してどう伝えるか? というところですね。対して今回はどう歌ったら、どう表現したら、聴いてる方が鬱憤を晴らせるだろうと、少し視点は変わりますね。「チクショー飛行」はどうやったらライブで皆さんが一緒に叫びたくなってくれるだろうとか、「猫じゃらし」はあわよくば泣いていただきたい曲なので、どう表現したら涙を誘えるだろうとか、ありのままを出しています。提供していただいた曲は演じてるところもあるし、そこにプラスして自分の感情もあるけど、自分で書く曲はもう自分でしかないですから。


――歌謡ロックにシティポップなど、いろんなタイプの曲を歌われていますが、「どんな曲が来たとしても、自分が歌えば自分の曲になる」という自信をものすごく感じるんです。

:今はそう思えるんですけど、最初の頃は自信なかったですよ。ディレクターさんたちに「遼ちゃんらしくなってるよ」と励まされながらやってきました。でも、そういう期間があったからこそ、今がある。だんだん自信がついてきているのかもしれないですね。


――先ほど転機の話も出ましたが、アーティストとしての転機はありましたか?

:絵音さんに提供していただいたことですね。最初は葛藤がありました。やっぱり自分で“シンガーソングライター”を謳っているわけだから。自分で曲を書くことがプライドじゃないですけど…。でも本当に良かったです、一歩踏み出してみて。


――シンガーとして成長できたと。

:シンガーとしても、表現者としても。……あと、人間としても。


――悪い意味での“我”がなくなったという感じですかね。

:それ、すごく伝わりやすいかも(笑)。一時期そのプライドとわがままの違いを自分の中で考える時期があって。どこまで譲れるか、みたいな。そこを経たのは大きいですね、殻を破ることができた。


――アーティストとしてひとまわり大きくなれたのですね。では、遼さんがライブで一番大切にしてることはなんですか?

:面的なことで言ったらアイコンタクト。バンドのメンバーとお客さんの両方に向かってアイコンタクトしていく。そのときだけのもですから、ライブって。自分が歌っているときにお客さんの生の反応を見られる、生の空気感を感じられる。だからバンドさんにも、「本番では私がこういう歌い方になるかもしれないから、こういう感情になったらこういう感じで弾いてください」と、委ねることもあります。


――予定調和ではないものであると。最後に、今後の野望、目標はありますか?

:堕ちるところまで一緒に堕ちるアーティストになりたい。私の曲はネガティブとポジティブを両方持ち合わせていて。必ず最後には救われてほしいんです。世の中綺麗ごとだけじゃないから、弱さにも寄り添ってほしいじゃないですか、音楽には。一緒に悩んで、一緒に叫んで、一緒に堕ちて……最後の最後にすっきりした! そういう感情になって帰ってほしいなって。そういうライブができるアーティストになりたいですね。


――一緒に堕ちてくれるアーティストって大事だと思うんですよ、ファンにとって。皆で喜怒哀楽、共に感情を曝け出していくわけですね。

:「チクショー飛行」のミュージック・ビデオを撮ったんですけど、もう、感情むき出しなんです。私が曝け出して「うわーっ!!」ってなれば、見る人、聴く人も曝け出しやすくなってくれるかなと思いながら暴れました。全身筋肉痛になりながら(笑)。あざもできたし!直接的な歌詞に対して、芸術的なミュージックビデオになったと思うので、ぜひ先入観なく見てほしいです。


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