Special
<インタビュー>Aile The Shotaが今考える、「リアル」で「ポップ」であるということ――より自らと向き合い、“J-POPSTAR”への道を固めた1stアルバム『REAL POP』
Interview & Text:高橋梓
“J-POPSTAR”をテーマに掲げ、独自の世界観を表現した楽曲を放っているAile The Shota。A.G.O、tofubeats、Soulflex、Ryosuke "Dr.R" Sakaiなどとタッグを組み、制作&リリースした楽曲は多くのリスナーの心を震わせてきた。そんな彼が、11月20日に1stアルバム『REAL POP』をリリースする。「本質的で大衆的であること」をコンセプトに、そして「踊れるポップス」をテーマにして制作した楽曲が収録されており、Aile The Shotaの世界を知るための重要なファクターとなり得る作品だ。そんな同作についてはもちろん、2025年3月16日におこなわれる【Aile The Shota Oneman Live 2025 at 東京ガーデンシアター】について、そして自身についてなどたっぷり語ってもらった。
「REAL POP」という言葉が
僕の名刺代わりになっている気がしている
――まずは、できあがったアルバムをご自身で聴いた感想から教えてください。
Aile The Shota:「Aile The Shotaとは?」という統一感のようなものがあって、『REAL POP』というタイトルで1stアルバムを出すことに納得がいきました。あとは全部いい曲だな、と(笑)。僕はいい曲をつくる人でありたいんですが、このアルバムを聴いて自信につながりました。
――このアルバムを通して、リスナーには「Aile The Shota」がどんな人物に見えていると思いますか?
Aile The Shota:3年間アーティスト活動をしてきた中で、「REAL POP」という言葉が僕の名刺代わりになっている気がしているんですね。その「『REAL POP』って何?」という疑問は、このアルバムを聴いてもらえるとわかるんだろうなと思っています。僕が今まで聴いてきたJ-POPが持つメロディ感に、R&BやHIPHOPの影響が出ている音楽がAile The Shotaの曲なんですよね。僕の楽曲って、総じてメロディがいいんですよ。しかも懐かしさもある。でも、バースの部分などでは重心の低い、カルチャー臭が強いものが入っていて。いわゆる「カラオケで歌いづらい曲」も多いんです。そんな楽曲の中に「さよならシティライト」のような「カラオケで歌える曲」=「POP」もある、と。それに加えて、Chaki(Zulu)さんやSoulflex、BUZZER BEATSのSHIMIさんなどにトラックを作ってもらっていて、R&B、HIPHOPのマナーにもしっかりこだわっています。それが「REAL」の部分。そこにどこまでも嘘のない、僕からしか出てこない歌詞が乗ってAile The Shotaの楽曲になっている、と。そういったものがわかってもらえると思います。
――「本質的で大衆的であること」というコンセプトにも繋がっていそうですね。
Aile The Shota:そうなんです。でも、そのコンセプトが反映されている『REAL POP』という言葉は後付けなんですけどね。もともと『◯◯ POP』というタイトルにしようとは思っていて、最初は『ATS POP』という抽象的なものになる予定でした。でももう少し踏み込んだタイトルにしたいと思って日髙さん(SKY-HI)とChakiさんに相談したんです。その中で「何にこだわっていて、なぜただのPOPじゃ満足しないのか」「なぜここまでカルチャーに傾倒してやり続けているのか」「なぜ偶像視されないことにこだわっているのか」と考えて出てきた答えが、「リアルでいたいから」。「リアル」というワードが、これまでを説明するうえでいちばんしっくりきたんです。それで『REAL POP』。つまり、「本質的で大衆的であること」がこれまでの僕を説明するすべてであり、今後の自分の指針になっているんです。
――この作品は、ある種「これまでの活動のまとめ」のようなものだったり?
Aile The Shota:そうですね。僕はこれまで何百曲もアーカイブがあるわけではなかったので、アーティストとしてまずはしっかり自己を確立しなくちゃと思っていました。なので、「Aile」の頭文字を取った4枚のEPを出すことを最初に決めていて。その中で、アンダーグラウンド・カルチャーへのアプローチにこだわっていたり、どこまでもメロディがポップだったり……と、自分を理解していきました。そうやって自分と向き合い続けている期間に、Chakiさんと「踊りませんか?」という曲が生まれて。この曲は僕の物語じゃない物語が歌詞になっているので、はじめは「リアルじゃない」楽曲で。書くことに抵抗があったんです。でも、それをポップへ昇華することができました。そういった意味でも、今アルバムを出すのはしかるべきタイミングだったなと思います。Aile The Shotaとしてやるべきこと、Aile The Shotaが何者かがきちんとわかったからこそ、このアルバムでやっと1歩目が踏み出せるイメージです。これまでがAile The Shotaの序章。今からAile The Shotaを見てもらってもいいくらい、アーカイブを整えることができました。

――もうひとつ、同作には「踊れるポップス」というテーマもあります。収録曲の中には、いわゆるダンスナンバーではない曲も収録されていますね。
Aile The Shota:日本ってやっぱり特殊で、(ライブで)フロアが踊らない国なんですよね。もちろん踊らせることができるアーティストの方はたくさんいますが、一般的に見ると踊らせることはなかなか難しい。そんな中でも僕は踊ることにこだわりたくて。僕自身がダンスにルーツがあるということもあって、怠っちゃいけないものだと思っています。楽曲の鳴り方や僕のリズムの取り方なども含めて、聴いていて体が揺れる曲を作っていきたいんです。ライブで「Hands up!」と言われたから手を上げるんではなく、勝手に体が動いてしまう曲、というか。SIRUPくんや星野源さんなどが近いのかな。僕はそれが「踊れるポップス」だと考えているので、激しいダンスナンバーではないのが特徴かもしれません。
――「勝手に体が揺れてしまう曲」=「踊れるポップス」だ、と。その考え方も「本質的で大衆的」ですよね。
Aile The Shota:嬉しい! でも、自分でもそう思います。多分、僕の曲を2~3歳から聴いていたら絶対踊れる子、ノリのいい子に育つと思うんです。僕は母の影響でDREAMS COME TRUEを聴いて育ってきたのですが、ドリカムもブラック・ミュージックへのリスペクトと愛に溢れている「踊れるポップス」をやっている方々だと思うんです。あとは宇多田ヒカルさんもですよね。そういったJ-POPアーティストが与えてくれた影響はとても強いので、僕もそういった存在でいたいなと思っています。
空を読む (from DWL 2015 Live Ver.) / DREAMS COME TRUE
――なるほど。そして今作のリード曲「さよならシティライト」は、「踊りませんか?」を経てChakiさんとの再タッグです。
Aile The Shota:僕の中でのリード曲は、実は「踊りませんか?」なんですよ。新曲ではないので、便宜上「さよならシティライト」がリード曲になったという裏話があったりもします(笑)。メロディ、トラック、歌詞の意味などを含めると、「踊りませんか?」が僕の掲げる「踊れるポップス」なんです。でも……角度を変えて見るとすべての曲がリード曲と言えるかも。
――となると、「さよならシティライト」はどんな位置づけの楽曲になるのでしょうか。
Aile The Shota:「カラオケで歌える楽曲」なので、今作の中でも特にポップな部分を表している1曲ですね。「踊りませんか?」の後に制作をしたので、Chakiさんとの共通言語、共通認識がすごく増えている状態で制作をしていて。それで、「いい曲を作ろう」でできたのが「さよならシティライト」。それと、自分のことを書くことにこだわっていた僕が、女性目線で歌詞を書いていて。まだ開けずにいた扉を開けた感覚です。「本気でポップス、やっちゃうよ?」という感じ(笑)。で、やってみるとめちゃくちゃ難しい。J-POPって、手に取りやすい音楽なので簡単でわかりやすいと思われるんですね。僕自身も「感覚をJ-POPに“落とす”」というイメージがありました。でもフタを開けると、J-POPはすごく上にある存在だったんです。良いメロディを生み出すことの難しさを知りました。
――良いメロディはどうやって生み出していったのですか?
Aile The Shota:ひたすらインストを聴きながら、いろんなパターンのメロディを考えました。なので、1回レコーディングをしたけど取り下げて作り直す、ということもありました。
さよならシティライト / Aile The Shota
――Chakiさんと制作を進めていく中で、再タッグだからこそできた制作方法もありそうですね。
Aile The Shota:ありますね。僕、抽象的に歌詞を書くこともあるのですが、Chakiさんとセッションをすると「わかりにくい」と言ってくれるんです。その指摘を受けて「たしかに」と気付かされることがとても多かったです。そうなったのはやっぱり「踊りませんか?」の制作を経て、ふたりで見えているゴールが一緒だからだと思うんです。そのうえで、僕の心境をChakiさんがわかってくれて。めちゃくちゃ心強いんですよ。陰のプロデューサーには日髙さんがいるし、楽曲制作で進むべき矢印をChakiさんが教えてくれるし、このふたりに支えられています。
――今作でいうと、Chakiさん以外にもいろんな音楽家の方と組まれています。
Aile The Shota:素晴らしい方々ばかりなのですが、Taka Perryは面白かったです。「Eternity」も「Foolish」も、ふたりとも何もない状態でスタジオに入って、1日でできた楽曲です。色々準備をしていくと、一旦持ち帰ってしまって決まらないことも多いんですよね。でもTakaはトラックを作りながら、僕が歌詞を書くのを待っているんですよ。「歌詞、どんな感じ?」とか言ってきたりして(笑)。僕も「書かなきゃ!」という気持ちになって、思いついた言葉をメモに書いて。それを音に乗せてみて、微調整しながら作っていきました。なのでアウトプットのスピードがすごく速いんです。僕は、山下智久さんの「Loveless」がすごく好きで、2010年代ごろがJ-POPの黄金期だと思っていて。「Eternity」はその頃のトレンドを取り入れたR&Bを意識して作りました。こういった相談もTakaとその場で喋って、反射で作っていて。そういったセッションが楽しくて毎回いい曲が作れています。

――BMSGの皆さん、特にShotaさんからはアウトプットすることを楽しんでいるのを感じます。
Aile The Shota:楽しむようになっちゃっていますね。でも、まさに去年から今年の頭くらいまで、そのことで悩んだこともありました。僕の中で、“Aile The Shota”と“渡邉翔太”(本名)の距離がめちゃくちゃ近いんですね。それを大切にして、すべて自分の言葉にしてネガティブもポジティブも歌っていく作業って、人間じゃなくなっていく感覚があって。それを嫌だなと思う感情があったんです。でも、「NEBULA」に出てくる〈Just an artist and a human〉=「どこまでも人間で、どこまでも表現者」という言葉で腑に落とすことができました。ただ、しんどいと思う時は今もありますよ。「Foolish」の歌詞なんて、僕そのまんまですもん。〈誰も傷つけないような 優しい人でありたい〉なんて、普通言わないじゃないですか。でもそれが僕なんです。〈雨の日も 風の日でも 笑顔で空気を読んでる〉んですよ、僕(笑)。この日は酔っ払って歌詞を書いていましたね(笑)。
――そうだったんですね(笑)。
Aile The Shota:たしか、前日に大学時代の友人と飲んでいて。Aile The Shotaになる前の感覚に戻っていたから、普段ならなかなか見えない自分の心の中を書けました。〈全てさらけ出して愛されたらマジでありがたい〉とかもそう。でも、めっちゃ気に入っています。自分の感情を吐き出すことの怖さはありますけど、「俺はこういう人間だしな」って。
――でも、それによって素晴らしい曲たちが生まれているんですね。
Aile The Shota:感情があっちに行ったり、こっちに行ったりしますが、その時にしか出てこないフレーズも絶対ありますからね。それによって、より自分という人間の解像度も上がります。
Foolish / Aile The Shota
- < Prev
- 「本質的でありたい」と思わなくても
本質的な楽曲を作れるようになった - Next >
1.7k