Special
<インタビュー>ココラシカ、初のタイアップ曲「花瓶」に込めた思い「自分にとって大切なものを考えるきっかけになってほしい」
Interview:岡本貴之
ココラシカがニューシングル「花瓶」を11月12日に配信リリースした。今作は、韓国で大人気のBL作品の実写化となるドラマ『未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~』(読売テレビで11月4日より放送開始)のエンディング主題歌に起用されており、バンドにとって記念すべき初のタイアップ曲だ。ノスタルジックな鍵盤の音色と優しい歌声が印象的な美しいバラードながら、10代の瑞々しい感性と、前作に続きプロデューサーを務める保本真吾との相乗効果による独特なサウンドアプローチが光るこの曲は、こうき(Vo./Key.)、らな(Ba.)、こた(Dr.)の3人にとっても新たな挑戦でもあったようだ。ドラマのテーマとも繋がっていくメッセージ性を含んだ楽曲へのこだわりと思いを語ってもらった。
初のドラマタイアップに奮闘
――「花瓶」はドラマのエンディング主題歌に起用されるということですが、初のタイアップについてどのように受け止めていますか。
こうき:僕はもともと、1つの大きな目標としてドラマや映画のタイアップをしてみたくて、メンバーにもずっと言ってたんです。それが結構早い段階で実現できるということで、お話をいただいたときには、ウハウハでした(笑)。実際にやらせていただくと大変な部分もあったんですけど、うれしかったですね。
こた:僕は率直に言うと、タイアップが決まったときはウハウハよりも怖い気持ちがありました(笑)。今回の曲がよければ次のお話があるかもしれないなって考えて、すごく不安になったりしたんです。楽曲の方向性とかもまだ決まってない状態ではあったので、「力不足にならないかな?」とか「ここから間に合うかな」とか。でも実際やってみたら、すごい楽しくできたので、曲もできてリリースも決まって良かったです。
らな:私はワクワクしてました(笑)。タイアップでエンディング主題歌をやらせていただくということは、自分たちの作った曲がドラマの一部になって、その作品を一緒に作り上げてくということなので。もちろん不安もあったんですけど、完成するのがすごく楽しみだなって思いました。
――三者三様の思いがあるわけですね。タイアップということで今までの曲作りと違ったアプローチもあったのではと思いますが、ドラマ制作側からのリクエストはあったんですか。
こうき:「こういう雰囲気で作って欲しい」って大枠はいただいていたんですけど、その中で僕らが解釈して、デモをいくつかお渡ししたら、「この曲でお願いします」って言われて、そこからは僕たちの方で自由に作らせていただきました。僕が今までボイスメモに貯めてた曲のアイディアをリストアップして、3人で選んだものを僕がわかりやすいようにデモにしてお渡しした感じです。
――前回のインタビューで、「ホワイトボードに書いたりしながら曲を作る」とおっしゃっていましたけど、それは今回も同じだったんですか?
らな:歌詞の大枠はこうきが一通りの流れを作ってきたものを3人でスタジオでまとめたんですけど、でもやっぱりホワイトボードは登場しました(笑)。
こた:スタジオで何をするにしても、絶対ホワイトボードに書き出すんですよ(笑)。
らな:こうきが作ってくれた歌詞を書きながら、「こっちの方がいいんじゃないか」って訂正したりとか。あとはタイトルの「花瓶」の表現が何回も出てくるんですけど、「どういう花瓶がいいのか」という話をホワイトボードを使って詰めていった感じです。
こうき:もともと、ボイスメモの段階でもワンコーラスのコード、ピアノ伴奏と歌と歌詞がある程度出来上がっていたんです。そこから延長線上で膨らませていった感じですね。
――「花瓶」というモチーフはどこから出てきたんですか?
こうき:自然に出てきました (笑)。僕はボイスメモに曲を録るときに、ニュアンスで「これいいな」みたいなものをとりあえず録音してることが多いんです。だから「花瓶」って言葉が出てきたことは、ドラマとはあんまり関係なかったかもしれないです。
こた:その「花瓶」にどう意味を持たせるかみたいなところで、こうきがかなり奮闘してました。
この3人だから好きなことができている
――かなりタイトなスケジュールの中で制作したみたいですけど、どういう状況だったのでしょうか。
らな:(「花瓶」の)制作期間が自主企画ライブとちょうどタイミングがかぶってたんです。並行して他にもやることがあったので、結構時間がなかったんですよ。
こうき:最初のデモの締め切りが自主企画の次の日で、「ヤベえ」ってなってて(笑)。3人でガッツリ話し合って意見をまとめてってなると時間がかかっちゃうので、僕がある程度アレンジまで済ませたものをプロデューサーの保本真吾さんにお渡ししました。そこから保本さんとのコミュニケーションで試行錯誤する時間はそこまで取れなかったんですけど、でもその短い時間の中でも、「どうやって曲に引っかかりを持たせて面白く聴かせるか」ってことを少ないラリーで進めていくことができました。
――保本さんがプロデューサーを務めているのは、前作「溶けないで」の感触を踏まえてのことですよね。
こうき:そうです。新しいサウンドに挑戦するっていうときに、ものすごくいろんなことを教わりました。アレンジ、音作りとかいろんなところでものすごく学ぶことも多く、信頼関係も築けていたので、今回もお願いしました。
――編曲は保本さんとバンド名義になっていますね。それぞれどんなところにこだわって曲を作りあげているのか教えてください。
こうき:バラードってすごく書きやすいんですけど、逆にシンプルになりすぎちゃうっていうのが、僕だけじゃなくて3人とも課題に思っていて。そこをいかにシンプルに聴かせないかっていうのと、ただ変なことやりすぎちゃうとバラードとしての美しさも乱れちゃうから、美しさの中に引っかかりを作った上で、聴き心地を良くするためにどうするかということをすごく悩みました。そういうところで、保本さんのアレンジだったり、音作りをすごく参考にさせてもらって、バラードじゃないような音作りで面白いサウンドが作れたなと思います。保本さんは本当にプロフェッショナルで、僕らの意見もちゃんと噛み砕いた上で考えてくださってるんですけど、すごく信頼しているので、保本さんが「これは絶対こっちの方がいいよ」っておっしゃるときには、一旦やってみたりしました。たとえば今回はメロトロンが入っていたりするんですけど、きっと僕らだけじゃ入れてなかったですね。そういうことを思い切ってやってくれるのが、保本さんと制作するときに僕らが勉強になっているところです。
こた:「溶けないで」で保本さんと一緒にやったときも、ドラムをめちゃめちゃミュートしたんですけど、今回はそのときよりもさらに、「普通はここまでミュートをかけるわけないよな」ってぐらいミュートしまくったんです。理由はシンプルにカッコよくて他と違う音にしたいということだったんですけど、あそこまでミュートをかけたら、僕らだけで普通にスタジオで録ったらかっこいい音にはならないと思うんですよ。でも保本さんとのレコーディングって、マイキングへのこだわりがすごくて、他にない音になったと思うし、僕たちのストッパーを外して引き出してくれたと思ってます。それと、バラードでどうやったらリズム隊の存在感を出しつつ、曲を支えられるかって考えたときに壁に当たったりしたんですけど、そこも3人と保本さんで話し合いながらがんばった部分です。
――ミュートをかけつつ、すごく情感豊かに演奏している印象です。
こうき:情感豊かなのは、こたの元からの性質かも。僕とらなが最初にこたのドラムに惹かれたのは、そういう歌心があるところなんですよ。最初は初心者だったので、今動画を見返すと結構めちゃくちゃなんですけど(笑)。その中にも歌心がある。普段はそっけなさそうにしてたりしても、ドラムを叩いたらめっちゃ表現力が豊かになるっていうところに、僕ら2人が魅力を感じて誘った感じもあって、そこは最初からこたの武器だなと僕は思ってます。
こた:そうらしいです。いやあ、気持ちいいですね(笑)。
一同:ははははは(笑)。
――らなさんもサビで裏メロ的なベースラインを弾いていますよね。バラード曲についてどのように考えて制作に臨みましたか?
らな:やっぱりバラードのシンプルな良さもあるんですけど、今回はただ良い曲にするだけじゃなくて、特徴的なところや面白さを加えてカッコよく作ろうと考えていました。シンプルで違和感のない美しいベースラインを弾くのもいいんですけど、たとえばラスサビのところでベースラインが動いたりとか、あとはグリスで「ドゥドゥーン」ってやってるところも、レコーディングの日に「やっぱりここに入れてみよう」ってその日に決めたんです。その一音のグリスをどれだけかっこよく弾けるかってところにレコーディングで一番時間がかかりました。音作りもタイトで、バラードじゃない要素が入ってるのにうまく融合してる、そういうリズム隊を目指してやりました。
――こたさんからすると、らなさんはどういうベーシストですか。
こた:マジで良いベースを弾くなと思います。今までは他の楽器に耳を向ける余裕がなかったんですけど、最近自分にも余裕ができてきて。改めてらなのベースを聴き直してみたら、僕のドラムがヨレがちなところを、すごくしっかり弾いてくれていた。らなのベースに乗っかって演奏したら、グルーヴが崩れない。どっしり構えた安定感と、らな自身が持ってるリズム感とグルーヴ感がうまくマッチしてると思うので、すごく信頼のおけるベーシストだなって思います。(「花瓶」で言うと)個人的に好きなのは、2Aの歌の後ろで鳴ってるベース。あれは個人的にめちゃくちゃ「これは!」って思いました。
こうき:こたのドラムは表情豊かに叩く分、今でこそ安定してきたんですけど、最初の頃は走ったり遅れちゃったりが割とあるタイプで。それに対してらなのベースは、めちゃくちゃ安定感のあるしっかりした音を出すし、グルーヴに対する考え方もちゃんとあるんですよ。僕ら2人は勢い任せにいっちゃうところもあるんですけど、そこを安定させてくれてるというか、ベースのプレイ的にもそうだし、3人の関係性的にも整えてくれてる存在ですね。それはこの楽曲にも出ていると思います。今回、ベースの音はわりとそのままの音を録った感じがあるんですけど、すごく綺麗でナチュラルな音をしていて、太くしっかり支えてくれるベースを弾いてもらえたなって思ってます。
――この3人だからこそ、それぞれが補い合って上手くバランスが取れているんですね。
こた:そうですね。この3人だから好きなことができていると思います。
らな:話し合いもちゃんとできるし、それぞれが持ってないものを持ってるところがあって、3人で1つのバンドが完成してるって感じます。
――お2人から見た、こうきさんはどんなボーカリスト、プレイヤーですか。
らな:こうきは、小さい頃から音楽をやっていた環境にいたということ以上に、努力が見える。環境に頼らずに、本当に音楽が好きでそこに対する探究心とか、努力を怠らない姿勢があって、自分がやりたいことは何なのかっていうのをちゃんと考えてやってきたからこそ、今のココラシカの楽曲、彼が作る楽曲があるなって思ってます。それが楽曲にも出てるし、自分たちがバンドをやる意味も含めてすごくクリエイティブに引っ張っていってくれる存在です。
こた:こうきは基本的に個人の意見は尊重する人なので、自分のことも客観的に見るし俯瞰して見られるタイプの人間なんですけど、音楽的なことで言うと、逆に俯瞰して見すぎて気付けてない部分みたいなところもあったりするんです。そういうポイントを、らなが指摘したりすることもあったりして、それが積み重なって3人のバンドとして成り立ってると思います。でも、結局そうさせてくれてるのは、こうきなんだなって思うときもあるんですよ。
らな:うん、それはある。
こうき:僕が1人で音楽をやらない理由としては、自分がまとめ役となってみんなの意見をしっかり乗せてうまくやっていくってところが、自分にとってはすごくやりがいがあるからなんです。その中でこの2人じゃなきゃ駄目だったっていうのはもちろんあって、バランスよく3人のバンドとして成り立ってるのかなっていうのは思いますね。
気持ちに向き合うことが、自分の本来の優しさに繋がる
――そういえば、バンド名の由来を訊いても良いですか? 今さらなんですけど(笑)。
らな:もともと、3人でバンドを組んだときに大体音楽の方向性が先に決まって、その方向性がおしゃれな音楽をやりたいというのが最初にあって、そこからバンド名もつけようってなったときに、「カクテル言葉ってちょっとロマンもあるしおしゃれなんじゃないか」って話になって。それで3人でどんなカクテルがあるか調べたら、「ニコラシカ」ってカクテルが目に留まったんです。結構語呂が良くて、その「ニコラシカ」の「ニ」を「コ」に変えると、「こうき・こたろう・らな」で3人の頭文字が入るんですよ。なので、3人の名前も入っていて、おしゃれで、そして「覚悟」ってカクテル言葉もあったので、「覚悟を持って3人でやっていこう」って意味も込めてこのバンド名にしました。
――SNSとかのプロフィールを見ると「ギターレス3ピースバンド」って謳ってますけど、曲づくりをする上でギターの存在を意識することってあります?
こうき:今となっては、この3人でどういう音楽をやるっていうのが自分たちの身についてるのであんまり意識していないですけど、最初の方は別にギターレスで行くつもりはなかったんですよ。3人ならではのことをやってみようよって意識はあったんですが、それがだんだん「これって結構魅力じゃない?」って気がつきました。
――そうなんですね。ギターを入れてライブをやったことってないんですか。
らな:ないですね。
こうき:僕がギターを弾けるので、SNS上で「恋よ、踊り出せ」を僕がギターで弾いてこうきが歌うってプロモーション動画を上げたことはあるんですけど、ライブではないですね。だから、ギターレスかギターのみかの二択です(笑)。
――今後はアルバムの制作も考えていますか?
こうき:そうですね、そこに向けても動いてはいます。
――これまで配信シングルのリリースが続いてるわけじゃないですか? 今の10代のアーティストにとって、CDって作りたいものなのか興味があります。
こうき:やっぱり、形には残したいよね?
らな:私たちの世代も、小学校の頃はCDで聴いていたんですよ。CDを買ってそれをウォークマンに入れて聴いたり、家でCDプレイヤーで流すっていう世代だったので。今はサブスクがメインですけど、やっぱりCDに馴染みはあるので、自分たちが作った作品が1つの形として手にできたらうれしいだろうなっていうのはすごく思います。
――最後に、改めて「花瓶」の歌詞にどんな思いを込めているのか聞かせてください。
らな:普段自分たちも体験することが込められていて、友だちでも恋愛でも何でもそうだと思うんですけど、本当はどっちも好きだけど、すれ違っちゃってうまくいかないこととか、それで1回離れようかなとか、やめようかなとか、そういう思いになることがあると思うんです。だけど、そうなってる原因って自分で自分の気持ちをないがしろにしちゃってることが根本的にはあったりとかして。それは割といろんな人に当てはまると思うし、このドラマでも結構そういうことが描かれているんです。みんなそういう気持ちになることはあるけど、本当に大事なものを思い出したときに、それを失うべきではないんじゃないっていうことを再確認できる歌詞になったのかなってすごく思いました。
こた:僕は気に入ってるワンフレーズがあって、それが〈錆びついた心の花瓶に 種を植えたい〉ってところなんです。3人でも話し合ったんですけど、花瓶って厳密に言うと種を植えるものじゃないから、「花を”挿した”方が良いんじゃないの」って提案したんです。でもこの歌詞は、「何もない状態からこの花瓶に何かを与えていく」という意味で、すごく立体的な歌詞だなって。このワンフレーズがあることによって、ここから思いを積み重ねていくって部分に繋げていけるんだって考えに至ったときに、別に型にはまる必要はないんだなって思ったんです。自分が今まで当たり前だと思ってたものに焦点を当てて、自分の固定概念を変えていく歌詞というか。
――そういう表現にこそ、作家性が出ますもんね。
こた:そうですね。それに、このドラマ作品にもマッチするなって。だからそこはすごく気に入っていて、全体的に見てもすごく親和性が高いなって思いました。
こうき:もちろん恋愛のことをベースにして歌っているんですけど、この曲がエンディング主題歌として流れることを考えたときに、メッセージ性をつけたいなって思いがありました。誰でも、自分の意見を置き去りにして、周りの人に合わせてしまうことはあると思うんです。たとえばこのドラマで言ったらテーマがBLで、男の子同士が愛し合ってることで「やっぱり自分って人と違うんだな」って感じたときに、その気持ちを置き去りにして、周りに合わせようとしちゃう。こんな言い方はちょっとおかしいかもしれないけど、それって自分のことを守ろうとしちゃってる気がするんです。そんなときに、自分にとって大切なものは何かというのを見つけることよりも、その気持ちに向き合っていくこと自体が、自分の本来の優しさに繋がっていくような気がしています。この曲を通じて「自分にとって大切なものって何だろう」ってことを考えるためのきっかけになってほしいなって思います。