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<インタビュー>武藤彩未×林哲司『サーフサイド・メモリー』80'sポップス対談公開!「真夜中のドア」世界的ヒットの理由にも迫る



<インタビュー>武藤彩未×林哲司『サーフサイド・メモリー』80'sポップス対談公開!「真夜中のドア」世界的ヒットの理由にも迫る

 ソロデビュー10周年記念1stアルバム『Memorial HOTEL』を12月10日にリリースする武藤彩未。アイドルグループ・可憐Girl's/さくら学院で活動するずっと前、物心がついたときにはアイドルを中心とした80'sポップスに夢中になっていた彼女が、その当時からファンであった昭和シティポップの巨匠・林哲司と邂逅。前述のアルバムにも収録される新作『サーフサイド・メモリー』を手がけてもらうことに至った。

 11月10日に先行デジタルシングルとしてリリースされるこのタイミングで、武藤彩未×林哲司の世代を超えた80'sポップス対談インタビュー記事を公開。作詞家・売野雅勇も参加した『サーフサイド・メモリー』についてはもちろん、林哲司が手掛けた「真夜中のドア~Stay With Me」(松原みき)など80'sポップスの時空を超えた世界的リバイバルブームについて、そのブームが起きるずっと前から80'sポップスを愛し歌い続けてきた武藤彩未のストーリー。そして、彼女もビックリの今後のふたりの展望について。ぜひご覧頂きたい。

Interviewer:平賀哲雄

80年代の曲を聴けば聴くほど林哲司さんの名前が出てくる

--武藤さんと林さんが出逢った経緯から伺わせてもらえますか?

武藤彩未:昨年、林哲司さんの50周年記念コンサートに出演させて頂いたときが“はじめまして”の出逢いで。

林哲司:その公演でアイドルの曲を披露したくて。それは僕の中で必須だったんですけど、そのオリジナルアーティストが物理的に出演できないと。それで誰か代わりに歌って頂ける方を探していたら、ディスクガレージ(イベンター)のプロデューサーから「松本隆さんのトリビュートライブで歌っていて、すごく良かったから」と、武藤彩未さんを推薦してもらったんです。

武藤彩未:それで出演できることになって、私からしたら「私で良いんですか?」っていう感じだったんですけど。

林哲司:松本隆さんと僕。キャリア50年を超える作家に立て続けに呼ばれちゃったから(笑)。

武藤彩未:本当に感無量でした!「80年代の曲が好き」と言い続けていたので、そしたら林さんからもお声掛け頂いて、今回「サーフサイド・メモリー」という楽曲も手掛けて下さったので、言霊ってあるんだなと思いました。本当に歌い続けていてよかったです。

--林哲司さんの50周年記念コンサートでは、何を歌われたんですか?


▲武藤彩未 Special Movie「DANG DANG 気になる」

武藤彩未:河合奈保子さんの「デビュー~Fly Me To Love」と、中村由真さんの「Dang Dang 気になる」を歌わせてもらいました。コンサート当日はずっと緊張していたんですけど、いざ歌い出したら、すごいミュージシャンの皆さんの演奏に包まれてのステージだったので、すごく興奮しちゃって! 夢の中で歌っているような気分で楽しく歌うことができたので、本当に嬉しかったです。

林哲司:実際に初めて会ったのはコンサートだったんですけど、彼女はその前に「Dang Dang 気になる」をカバーしてくれていて。それで、僕がプロデュースした松城ゆきのというシャンソンを歌うアーティストが「テレビに出る」と聞いて観ていたら、同じ番組で武藤さんが「Dang Dang 気になる」を歌っていたんですよ。それで初めて武藤さんの姿を観たんですけど、歌が上手いから印象に残っていて。

武藤彩未:嬉しいです。それまで私が「Dang Dang 気になる」をカバーしていることは知らなかったんですか?

林哲司:知らなかった。

武藤彩未:作曲した方に連絡っていかないものなんですかね?

林哲司:いや、連絡はあるんだけど、あの曲もカバーする人が多いから把握しきれなくて(笑)。

--そんな運命的な縁もあって『サーフサイド・メモリー』なる新曲を林さんに作曲してもらえたわけですが──

武藤彩未:正直、書いて頂けるとは思っていなかったんですよ。林さんは多くの名曲を生んだ凄い方ですから。でも、当たって砕けろじゃないですけど、頼まずに後悔するよりは、頼んでダメだったほうが諦めがつくので「お願いだけはしたいです!」とマネージャーさんに訴えたら、林さんが受けてくれまして……本当にありがとうございます!

林哲司:いえいえ。そりゃ受けますよ。

--80年代の音楽が好きということで、林さんの手掛けてきた名曲も聴いていたと思うんですけど、どんな印象を持たれていましたか?

武藤彩未:80年代の曲を聴けば聴くほど林哲司さんの名前が出てくるので「これもか、あれもか!」って毎回驚かされていて。

林哲司:そもそもなんであの時代の歌が好きになったの?

武藤彩未:両親の影響ですね。お母さんが松田聖子さんの大ファンで。なので、おなかの中にいたときから、幼い頃からずっと聴いていて、物心がついたときには自然と80年代の曲を口ずさんでいたんですよね。で、そのうち作詞作曲のクレジットも調べるようになっていって、そしたら林哲司さんの名前がいっぱいあって「こんな凄い人がいるんだな」と認識しました。「この曲、好きだな。良いな」と思って調べると、そこに林哲司さんの名前があるんですよね!

<インタビュー>武藤彩未×林哲司『サーフサイド・メモリー』80'sポップス対談公開!「真夜中のドア」世界的ヒットの理由にも迫る

▲武藤彩未

--そしたら未来でこうして巡り会ったと。

武藤彩未:人生って本当に何が起こるか分からないですよね。当時の自分に「その曲をつくった人と未来で逢えるんだよ」って言いたいです!

--そんな武藤さんの生歌を初めて聴いたとき、どんな印象を持たれましたか?

林哲司:ボーカルがしっかりしてるなと思いました。

武藤彩未:そんなこと言われたら本当に嬉しいですけど、恐縮です!

林哲司:「デビュー~Fly Me To Love」って河合奈保子さんも歌唱力がある人だから結構難しい曲になっているんですよね。


▲デビュー ~Fly Me To Love~ - 河合奈保子 (cover by 武藤彩未)

武藤彩未:難しいです(笑)! 聴いているとすごく気持ち良さそうに歌われているので「歌いやすい曲なのかな?」って思うんですけど、実際に歌ってみると本当に難しくて。

林哲司:みんな、そう言うんですよ。

武藤彩未:なので、ステージで歌わせて頂くまでたくさん練習して。

林哲司:しかも5000人のキャパシティのところで歌うわけですから度胸もいるし、ましてや早い出番だったから緊張したと思うんですけど、堂々たるステージと歌唱でしたよ。

武藤彩未:お客さんも80年代の曲が好きだったり、その世代の方も多かったと思うので、そうなると皆さんお耳が肥えているわけじゃないですか。下手すると「全然ダメだ」と思われちゃうだろうから、これは頑張らなきゃと思って。でも、有難いことに私が大好きな80年代のアイドルさんの曲だったし、本当に小さい頃から聴いてきた歌で馴染みがあったので、結果的に楽しく歌わせてもらうことができました。

--いわゆるアイドル(可憐Girl's~さくら学院)時代は、そのグループのコンセプトに合った楽曲を歌っていたと思うんですけど、いつ頃から自分の大好きな80年代の音楽を表現できるようになったんですか?

武藤彩未:2014年にソロデビューするんですけど、その前にライブ会場限定で80年代のカバーCDを出させてもらって。松田聖子さんの「青い珊瑚礁」とか、浅香唯さんの「セシル」とか、斉藤由貴さんの「悲しみよこんにちは」とかアイドルさんの曲をカバーさせて頂いて。そこからはブレずに80年代の世界観の音楽を発信させてもらっています。

林哲司:本当に好きなんだね。

--その時期って、今みたいに80年代のアイドルソングやシティポップがリバイバルブームを起こしてないじゃないですか。TikTokを通して海外で日本の音楽が評価されるようなこともなかったし。

武藤彩未:まだインスタがギリギリあったかないかぐらいの時期でしたし、そういう空気はなかったですね。

林哲司:そう考えると、だいぶ早いよね。

--かなり先行していますよね。

武藤彩未:たしかに(笑)。

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「真夜中のドア~Stay With Me」だけでも数億回再生されて

--林さんに関しては、先行どころか数十年前に作曲したナンバーが時代を超えてまた注目されている状況だと思うんですけど、今の80'sポップスのリバイバルブームにはどんな印象を持たれていますか?


▲「真夜中のドア~stay with me」/ 松原みき Official Lyric Video

林哲司:最初は「不思議な現象だな」と思いましたよ。誰かが何か仕掛けて起きている現象ではなかったから、ましてや海外から流行っているところもあるじゃないですか。だから、やっぱりネット社会になってからの新しい音楽の聴き方が浸透して、それによって起きたムーヴメントなのかなと感じています。あと、僕らの時代は、アメリカやイギリス至上主義の音楽の力関係みたいなものがあった気がするんだけど、今はアニメとかファッションとか日本の文化が受け入れられた土台があるから、それも大きかったんじゃないかと思いますね。その中でニュートラルに海外の人たちが「良いな」と思う……もちろん受け入れられやすい音楽の特徴もあるんですけど、それを話すとすごく長くなっちゃうからここでは控えますね(笑)。

--またどこかで、ぜひ聞かせてください。

林哲司:とにかく「誰が書いた」とか「誰が歌ってるか」とかそういう注釈なしで、本当に自然体で「良いな」と感じ取ってくれたモノがだんだん人気を博して、発信国である日本に逆輸入されるみたいな不思議な現象が起きている。その中で自分の作品が何曲か取り沙汰されているということは、作家として本当に嬉しいことだなと思います。

武藤彩未:やっぱり良いモノは時代とか国とか関係ないんだなって思いますね。ちゃんと残るし、広がっていく。

--それを日本の80'sポップスが実証してみせた。ずっと大好きで歌い続けてきた武藤さんにとっても嬉しいことですよね。

武藤彩未:本当に嬉しいです。私も認められたような気分(笑)。

--自分の好きなモノが認められると、自分も認められた気分になりますよね。そのリバイバルブームのきっかけになったと言っても過言ではない、松原みきさんの「真夜中のドア~Stay With Me」を林さんは作曲されているわけですが、あの曲が2020年代に世界的ヒットすると思っていました?

林哲司:さすがに想像していなかったですね。45年ぐらい前の曲ですから。「時空を超える」という状態を実際に体験しているような感覚なんですよね。時間だけじゃなくエリアも超えていますし。日本ではないところで流行っているというのも不思議な感じがして。でも、メロディの普遍性ということに関してはね、あんまりそれを意識していたわけじゃないんだけど、しっかりとしたメロディを書いてきたつもりだったから。あと、今は今の音があると思うんですけど、その対極としてデジタルとは違う「こういうモノも面白いな」という対象になったのかなと思いますね。

武藤彩未:たしかに。新しいモノがあるからこそ、当時の音楽の良さも際立つというか。

林哲司:あとは、音楽の聴き方が変わったでしょ。かつてはCDを買ったり、もっと前はレコードを買って聴いていたわけだけど、その行為は明らかにピンポイントでそのアーティストが好きだったり、その曲が好きで「自分のモノにしたい」という意思がすごく働いていたじゃないですか。それはそれですごく良いことだと思うんですけど、今は例えば海外の人が「良いな」と言っていた曲をどんなもんだろうと思って簡単に聴ける環境があるから、そういう文化が確立されたからこその現象でもあるのかなって。「真夜中のドア~Stay With Me」だけでも数億回再生されていますからね。面白い時代になったなと思いますし、本当に嬉しいです。

<インタビュー>武藤彩未×林哲司『サーフサイド・メモリー』80'sポップス対談公開!「真夜中のドア」世界的ヒットの理由にも迫る

▲林哲司

--その林さんが制作された曲を今、遥か下の世代の武藤さんが歌っている状況も含め面白いですよね。

武藤彩未:80年代の音楽がずっと好きで良かったです。

林哲司:武藤さんなんて娘というか、下手したら孫の世代? そういうジェネレーションを超えたタッグが組めている。これは音楽家として、或いは歌手として面白いことですよね。

武藤彩未:あと、林さんは数え切れないほどの曲を創ってきて、良いメロディもいっぱい生み出してきて、50周年を超えてもまだまだソレが出てくる。本当に凄いことだなって思います。

林哲司:それは武藤さんみたいに声をかけてくれる人がいるからですよ。親の影響もあるんだろうけど、今の曲もいくらでも聴ける環境がある中で、80年代の音楽を好きでいてくれて。だから僕もこうしてまた新たな曲を生み出すことができる。

武藤彩未:今の曲も今の曲で良さはあると思うんですけど、やっぱり私の心がトキメくのは80年代の曲で。本当に恋しているような……胸がキュンとなるんですよ。「あー、良い曲~。しあわせ~」ってなるんですよね。それは子供の頃から今に至るまでずっと変わらないんです。何回聴いた曲でも「あー、やっぱり素敵!」って思える。

--そんな武藤さんに林さんから質問してみたいことってあります?

林哲司:あります。80年代って松田聖子さんとかソロのアイドルがキラキラしていたじゃないですか。そこへの憧れはある?

武藤彩未:もちろんです! そこに憧れて「私も歌いたいな」と思ったので。最初はアイドルグループに所属していたんですけど、卒業してからは幼い頃から好きだった松田聖子さんたちのような存在を目指したいと思って活動してきているんですよね。

林哲司:でも、時代的にはアイドルグループが流行っているじゃないですか。それでもソロで歌いたいと思ったんだ?

武藤彩未:そうですね。グループのほうが安心しますし、プレッシャーも分散されるんですけど、でもやっぱり私が目指していたのは、それこそ80年代のひとりで歌う人たちの姿だったので。なので、卒業後は「ソロで歌っていこう」と決意しました。

林哲司:最初から最後まで自分の表現になるもんね。

武藤彩未:本当にそうですよね。ソロはパート割りもないから誤魔化せないですし、ソロデビューする前は正直「自分の実力ではまだまだかもな」と思っていたんですけど、やっぱり夢は諦められないなと思ってすごく練習しました。

林哲司:それで夢を叶えたんだ。

--武藤さんはソロになってから2年半ほど活動休止していた期間がありますよね。で、2018年末に活動再開してから、それこそ80年代の世界観をより濃く打ち出すようになっていった印象があったんですけど、この間にはどんな変化があったんですか?

武藤彩未:私は「こういう音楽をやりましょう」と言われて歌うというよりは、自分の好きな音楽への想いが強すぎたので、それを表現するほうが合っていたと思うんです。そこは、80年代の松田聖子さんやアイドルの方々とベクトルが違うかもしれないんですけど。皆さん、プロのアイドルとしての自分をつくられていたというか。

林哲司:そのギャップが面白いよね。そういうアイドルとして完成された人たちに憧れながらも武藤さんは「こういう音楽がやりたい」という主体性がハッキリしている。

武藤彩未:そうなんです。つくられた武藤彩未じゃなくて、そこに憧れている武藤彩未、80年代の音楽の良さを伝えたい武藤彩未がどんどん強くなって。ソロデビュー当時はそれこそ「こういう曲を歌いなさい、これをやりなさい」と言われていてソレに応えようと必死に頑張っていたんですけど、だんだん窮屈になって「私はこういう音楽を表現したいのにな」という葛藤も大きくなってきたので、いったん自分を見つめ直そうと思って留学したんですよ。

--活動休止=留学期間だったんですね。

武藤彩未:音楽の世界に戻るか戻らないかも決めずに留学しました。小さい頃から芸能活動を続けていてその世界しか見ていなかったので、違う世界を見たらやりたいことが見つかるかもしれないと思って。でも、結局、異国の地でも80年代の曲を聴いていましたし、歌っている自分がいたんですよね。それで「日本に戻ったら自分のやりたいことをちゃんとやろう」と決めたんです。なので、リスタートしてからのほうが80年代感はより強くなっていると思います。

--そこで「やっぱり私は80年代の音楽が好きなんだ!歌いたいんだ!」と思って活動再開したら、その少しあとに世の中も「やっぱり80年代の音楽良いよね」という空気になっていったと。

武藤彩未:たしかに! すごいタイミングですよね!

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--そして、林さんと出逢って「サーフサイド・メモリー」を制作してもらうことになる。ドラマティックだし、運命的な流れですよね。

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▲左から:武藤彩未/林哲司

林哲司:それで面白いなと思ったのは、最初に打ち合わせで彼女の事務所へ行ったときにね、武藤さん本人がいたんですよ。さっきのギャップの話にも繋がるんだけど、武藤さんは「80年代の音楽が歌いたい」という主体性がハッキリしているじゃないですか。でも、あの当時のアイドルってスタッフワークでその人の歌う音楽性を決めたり、あらゆるサポートをしていた。そこに大きな違いがあるんですよ。で、その違いを如実に感じたのは、本人が打ち合わせの席にいたこと。僕「本人と打ち合わせするの?」って驚いて。

--当時で言うと、松田聖子さんの新曲の打ち合わせに松田聖子さんはいらっしゃらないですもんね。

林哲司:それがあたりまえだったんですよ。例えば中森明菜さんの「北ウイング」も明菜さんから発注されて制作したわけじゃなくて、「この人に書いてほしい」と言ったのは明菜さんかもしれないけど、ディレクターと打ち合わせをして「こういう曲にしましょうか」と決めて制作していく流れだったわけです。でも、武藤さんは打ち合わせにいたんです(笑)。それは彼女自身が「こういう曲を歌いたい」と直接伝えたい主体性があったからだと思うんですよね。

武藤彩未:林さんとお会いしたかったのもありますけどね(笑)。

林哲司:なので、武藤さんの意見を今回の曲には反映しているんですけど、実は自分の中で事前に「こういうタイプの曲が良いんじゃないかな」と思って用意していた曲もあったんですよ。でも、本人と会って話してみたら、それとは違うタイプの曲のリクエストが出てきて。それで制作したのが「サーフサイド・メモリー」なんです。

--武藤さんは林さんとの打ち合わせで、具体的にはどんなリクエストをされたんですか?

武藤彩未:それこそ「デビュー~Fly Me To Love」みたいなザ・アイドルソングも好きだけど、書き下ろして頂けるなら、今までにない新しい私を林哲司さんに書いて頂きたいなと思って。本当に迷ったんですけど、そっちをお願いしました。

林哲司:最初に用意していた曲はもうちょっとキラキラしている、跳ねた明るい曲だったんです。それも武藤さんが歌ったらきっと合うとは思ったんだけど、彼女の希望はちょっと大人っぽい哀愁歌みたいなイメージだったので、黄色い感じからブルー系にシフトしようと。

武藤彩未:デモを聴いた時点で「さすがだな!ありがとうございます!」と思いました。1回聴いただけでメロディがスッと入ってきて「これです、これを求めていました!」みたいな。最近流行っている音楽ってスルメ曲が多いと思うんですけど、これは一発で「あー、良い曲!」と思って、すぐにお気に入りになりました。

林哲司:サビのメロディに関しては、自然に流れるメロディともうちょっと哀愁感漂うメロディの2パターン用意したんですけど、やっぱり哀愁のほうを取りましたね。

武藤彩未:そこは本当に迷ったんですよ! 逆に「林さんが決めてください!」と思うぐらい迷っちゃって。それぐらいどっちも良かったんです。でも、これまでの自分にない大人っぽさや哀愁感を今回は求めていたので、ビビッと来たそっちのほうを選ばせてもらいました。

林哲司:それで正解だったと思うよ。今回、売野雅勇さんに作詞をお願いしたんですけど、それがまた80年代的な濃い歌詞で。最終的なオケを仕上げる前にその詞をワンコーラスだけ貼り付けて聴いてみたんですけど、その時点で哀愁感漂うメロディに変えて良かったなと。

--実際、歌ってみていかがでした?

武藤彩未:林さんにはお伝えしたんですけど……難しかったです(笑)。私がこれまで歌ってこなかった曲調というのもあるんですけど、レコーディングは今まででいちばん苦戦したかもしれない。やっぱり聴くのと歌うのとでは違って、音程を取るのが難しかった。

林哲司:杉山清貴くんからも言われるからね。僕の曲は難しいって(笑)。

武藤彩未:私だけじゃなかった(笑)。でも、冒頭の「あんなに誰かのこと 切なく求めたり 愛せないから」というフレーズからして感情が入りました。大人っぽいなと思って。でも「夏服の妖精たち」とか可愛いフレーズもあって。

林哲司:あれ、良いよね。

武藤彩未:そういうギャップもあって。「白いシャツを揺らす」とかそういう女の子らしい可愛さもありつつ、大人の切なさもあるので、詞曲ともに大満足でした。こんな豪華な作詞作曲の並びの楽曲をいただけるなんて夢のようです。

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▲武藤彩未

--そんな「サーフサイド・メモリー」。どんな風に世に響いてほしいと思いますか?

武藤彩未:今の人たちにも届いてほしいですし、それこそ「真夜中のドア~Stay With Me」みたいにずっと聴き続かれるような曲になってほしいなと思います。

--ちなみに、今後またご一緒できる機会があったら、どんなことをしてみたいと思いますか?

武藤彩未:二択で迷ったもうひとつの曲が歌いたいです! 図々しいと思うんですけど、「あるならください」みたいな(笑)。正直どっちも歌いたかったので! 次は王道のアイドルソングを歌わせて頂きたいです。

林哲司:僕はですね、50周年コンサートでカバーを歌ってもらった流れでやってみたいことがあって。【SONG FILE LIVE】シリーズという、自分自身がステージに立ってバンド仲間と一緒に作品をお届けする公演をここ5年ぐらいライフワークとして続けているんです。そのバンドの中には、大和邦久、iCHiHO、富岡美保と、男性ひとりと女性ふたり、ボーカリストもいて、そういうバート・バカラックと同じような形式でやってるんですけど、アイドルの曲を披露するときってやっぱり年齢的なものを気にさせる曲もあったりするから、そういう曲を武藤さんにゲストで出てもらって歌ってもらいたいなって。

武藤彩未:えぇー! ウソでも嬉しいです!

林哲司:いやいや、ウソじゃなくて(笑)。それは実現できるんじゃないかなと思って。

武藤彩未:本当ですか? 歌が上手い方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、80年代の、特にアイドルさんに対しての愛は誰にも負けないと思っているんで! その愛も曲に乗せて歌わせてもらいたいです。もし機会があったらぜひお願いします!

林哲司:あと、武藤さんの10周年記念アルバム『Memorial HOTEL』がリリースされるということで、自分も「サーフサイド・メモリー」で参加させてもらったんですけど、次は逆提案で僕のニューアルバムに参加してもらえたらなと思っているんです。

武藤彩未:え? ちょっと泣いちゃいそうです……。

林哲司:今回「サーフサイド・メモリー」がすごく良い作品になったこともあって、いろんな可能性を感じることができたので、参加してもらえたら楽しいだろうなって。

武藤彩未:もう胸いっぱいです。まだまだ辞められないですね!

--そりゃそうですよ! 51年目の大先輩がここにいるわけですから。今の話を聞いた感じだと、林さんにとっても良い出逢いだったんですね。

林哲司:そうですね。これだけのキャリアを積んでいると、僕のこれまで創った曲のオリジナルを歌っている人たちもそれなりの年齢になっているんで、もう活動されていない人もいて。それで、僕の【SONG FILE LIVE】ではヒット曲ももちろんやるんですけど、拘って創って「絶対に聴いてほしいな」と思うアルバムの中の曲とかもあるんですよ。そのアーティストのファンは知っているけど、一般的には知られてない曲たちそれもやっていきたいと思っているので、これを機にぜひ武藤さんにそういう曲も歌っていってもらえたら嬉しいなと思っています。

武藤彩未:今から片っ端から林哲司さんの曲を聴いて過ごしたいと思います。何を歌わせて頂けることになってもいいように!

<インタビュー>武藤彩未×林哲司『サーフサイド・メモリー』80'sポップス対談公開!「真夜中のドア」世界的ヒットの理由にも迫る

▲武藤彩未『サーフサイド・メモリー』

--本当に歌い続けてきてよかったですね。今後の共演も楽しみにしています。では、最後に、読者の皆さんにそれぞれメッセージをお願いします。

林哲司:等身大の彼女のファンの人たちをコアとして、やっぱり若い人たちに「サーフサイド・メモリー」を聴いてほしいですね。今の歌は今の歌としてね、例えばYOASOBIも良いと思うんだけど、今はいろいろなカテゴリーの音楽があって、昔ほど王道と呼ばれるモノがなくて、それぞれが自分の嗜好で好きなモノがある時代になったじゃないですか。だからこそ、武藤さんの歌を好きで聴いてくれる人たちをもっと広めていける曲に「サーフサイド・メモリー」がなったら嬉しいなと思います。

武藤彩未:12月10日に10th ANNIVERSARY 1stアルバム『Memorial HOTEL』をリリースします。私が10年間築き上げてきたモノを形にできたかなと思っています。いろんな曲調の10曲入りになっているんですけど、どの曲もどこか懐かしさを感じてもらえるレトロポップな1枚になっているので、ぜひ聴いてほしいです。そのアルバムにも収録させて頂くのですが、11月10日に先行デジタルシングルとして「サーフサイド・メモリー」もリリースされるので、このインタビューを読んで気になった方はぜひチェックしてみて下さい!

林哲司:10周年おめでとうございます。

武藤彩未:林さんにお祝いの言葉をいただけるなんて本当に嬉しいです。ありがとうございます!

Interviewer:平賀哲雄

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