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<インタビュー>ラウ・アレハンドロが新作で示す“僕たちのこと“、プエルトリコ出身グローバルスターが世界に刻む新たな道にMILLENNIUM PARADEも参加

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Interview & Text:宇野維正
Photos: Josiah Illoh, Sofiane Boucif
Interpreter: Aki Ota


 ここ数年グローバルのヒットチャートを席巻してきた、同時代ラテンポップを牽引するダンスミュージック、レゲトン。10月19日・20日に開催された【Coke STUDIO LIVE 2024】で、その本場の熱とヤバさを完璧に体現してオーディエンスから大きな反響を呼んだのが、プエルトリコが誇るスーパースター、ラウ・アレハンドロだ。そのステージで世界初披露されたMILLENNIUM PARADEとのコラボレーションによる「KIZAO」も話題を集める中、11月15日にラウの世界的人気を決定づけるであろう超強力なニューアルバム『Cosa Nuestra』がリリースされた。

 今回の来日の際、本人立ち合いのもと、世界に先駆けてまだトップ・シークレット状態だったアルバム『Cosa Nuestra』のリスニング・パーティーが東京で行われた。このインタビューは、その翌日に行われたものだ。アルバムのタイトルに込められたプエルトリカンとしての誇り、グローバルブレイクを果たした後の今作までの道のり、同作にも参加しているファレル・ウィリアムスとの交流から、MILLENNIUM PARADEへのエールまで、話題は多岐に及んだ。

成功にはとても感謝してるけど、
自分の心を満たすのは成功だけでは足りないんだ

――『Cosa Nuestra』というアルバムタイトル、そしてオーセンティックなサルサミュージックでアルバムの冒頭を飾るタイトルトラックから思い起こすのは、ウィリー・コロンの1969年の同名アルバムです。ウィリー・コロンはニューヨリカン、つまりニューヨーク生まれのプエルトリカンを代表するミュージシャンで、60年代後半から70年代にかけてラテンミュージックに新しい潮流を持ち込んだ第一人者でした。あなたはプエルトリコ生まれなのでその点では違いますが、ラテンポップの変革の最前線に立っているという点では、当時のウィリー・コロンと共通するものがあるように思うのですが。

ラウ・アレハンドロ:もちろん、ウィリー・コロンの『Cosa Nuestra』のことは意識にあった。ウィリー・コロン、そしてあのアルバムにも参加していたエクトル・ラボーは今でもプエルトリコ文化の象徴なんだ。歴史的にプエルトリコからの移民の多くはニューヨークに住んできたわけだけど、自分もニューヨークの街を歩いていると、その歴史の一部になったような感覚になる。「Cosa Nuestra」はマフィアのことを指している言葉としてよく知られているけど、直訳すれば「僕たちのこと」を意味する。自分にとっては仲間のことであり、家族であり、人生のことであり、社会における特定のグループのことであり、ファッションや文化のことでもある。僕が今回のアルバムで示したかったのも、そういうものなんだ。


10月18日、都内ホテルにて

――現在はあなたもニューヨークに住んでるんですか?

ラウ:そう、ニューヨークに住んでる。ウィリー・コロンやエクトル・ラボーがニューヨークから世界に僕たちのカルチャーを発信した、あの時代をもう一度生き直しているような気分だよ。


Rauw Alejandro x Mr. NaisGai - PASAPORTE (Official Video)

――2021年にアルバム『Vice Verca』で世界的にブレイクしてから、今回のニューアルバム『Cosa Nuestra』までの3年余りの間に、2022年のアルバム『Saturno』を筆頭に、あなたは本当にたくさんの作品をリリースしてきました。ただ、日本のリスナーからすると、どれが本筋にある作品でどれが傍流にある作品かちょっとわかりにくいところがあったように思います。それを踏まえて、この3年間を振り返ってもらえますか?

ラウ:この3年間、自分はアーティストとしてとても大きな成長ができたと思う。自分が歌を始めたのはラテンミュージックじゃなくて、R&Bやラップミュージックだった。これまでアルバムと並行してリリースしてきたEPの『Trap Cake』シリーズは、その原点に立ち返ったシリーズなんだ。一方、2ndアルバム『Vice Verca』は自分の音楽が世界中で広く知られるきっかけになった作品で、おかげでこうして世界中を旅することができるようになった。でも、その次のアルバムの『Saturno』を同じような作品にしたいとは思わなかったんだ。それぞれの作品には、音楽のスタイルだけじゃなく、固有のリリック、キャラクター、ファッションのスタイルがあって、タームごとにそれをすべて変化させていくというのが、自分の音楽のやり方なんだ。

――昨夜出席させていただいた『Cosa Nuestra』のリスニング・パーティーで、あなたは「自分の本筋にあるアルバムのアートワークには、どれも円(サークル)がデザインされている」と言っていて「確かに!」と気づかされました(笑)。

ラウ:円(サークル)が意味しているのは、人生のサイクルであり、時間のサイクルであり、そこで円環が閉じられているということ。だから、自分にとって円(サークル)をあしらったアルバムは、フォトフレームに入れて壁に飾った昔の写真のような感じなんだ。そして、リスナーからも「こっちはあの時のラウ」「あっちはあの時のラウ」って後から振り返ってもらえるといいなって思ってる。

――なるほど。このインタビューをしている時点ではまだ発表されていませんが、ということは、『Cosa Nuestra』のアートワークにも円(サークル)はある?

ラウ:あるよ(笑)!

――以前から、あなたの歌声を聴くと自分が思い浮かべるシンガーが2人いて、1人はマーヴィン・ゲイ、もう1人はファレル・ウィリアムスだったんです。

ラウ:本当に? アリガトウゴザイマス(手を合わせて日本語で)。

――だから、昨年末にその1人であるファレルの新曲「Airplane Tickets」にあなたが参加していたことにすごく興奮したんですけど、それに続いて、昨夜聴かせていただいた『Cosa Nuestra』収録の「Committed」にもファレルが参加していて。どちらの曲も素晴らしい仕上がりですね。

ラウ:子供の頃、僕はアメリカのR&Bに夢中だったから、プロデューサーとしてもコンポーザーとしてもファレルは雲の上にいるような存在で、ずっと大ファンだったんだ。彼の一番すごいところは常にゲームチェンジャーであろうとしていること。同じ場所にとどまることなく、常に新しいチャレンジをしていて、今もまだ走り続けている。音楽家としてはもちろんだけど、そういうアーティストとしてのあり方もすごく大きな影響を受けてきた。だから、一緒にスタジオに入るのは夢のようだった。今では、彼のことを敬意を込めて「おじさん」って呼んでるんだけどね(笑)。

――(笑)。ファレルから直接何か学んだことがあったら教えてください。

ラウ:彼にはすごく責任感と倫理観があって、時間にもとても正確なんだ。7時集合だったら、絶対に7時前にはいる(笑)。そういうところも、あそこまで大きな成功をした秘訣だと思ったよ。今回の「Committed」のコンセプトについても、ちょっと話しただけで一瞬で理解してくれて、そこから次から次へとアイデアを出してくれるんだ。また機会があったら、ぜひ一緒にやりたいと思ってる。

――MILLENNIUM PARADEとの「KIZAO」も大変驚きでした。非英語圏のアーティストでありながら、グローバルで大きな成功を収めたという意味で、あなたはMILLENNIUM PARADEが目指している先にいる存在とも言えます。

ラウ:音楽で世界に出るためには、まず自分の生まれ育った街を制覇して、その後に国を制覇してと、段階を踏んでいく必要があるんだ。そういう意味でも、MILLENNIUM PARADEはとても正しい道を歩んでいると思う。今、彼らは“Pasaporte”(パスポート。ラウの新曲のタイトル)と“Airplane Tickets”(航空券)を手にして、世界のいろんなカルチャーを知って、世界のいろんなアーティストとアイデアを交換して、探検を始めたところだ。僕もまだその探検の真っ只中で、そこで彼らと出会うことができた。音楽というのは、カルチャーを繋ぐもので、そこで何を伝えるか、そこで何を感じるかがすべてで、必ずしも言葉はそこまで重要ではない。それを僕は証明してきたと思うし、彼らも証明してくれると思うよ。


MILLENNIUM PARADE - KIZAO feat. Rauw Alejandro, Tainy

――2021年に「Todo De Ti」がグローバルヒットになった後、あなたはそれと似たような曲を続けてリリースすることなく、その後も自分のスタイルやペースを崩すことなく精力的に活動を続けてきました。今から思えば、それが現在のあなたのキャリアや作品の説得力に繋がっていると思うのですが、あの時はどういうことを考えていたのですか?

ラウ:確かに「Todo De Ti」のヒットは一大現象だった。でも、あの曲は2020年に自分がスタジオで作ってみたかった曲で、それは2021年の自分がやりたかったこととも2022年の自分がやりたかったこととも違った。ただ、それだけのことだよ。成功にはとても感謝してるけど、自分の心を満たすのは成功だけでは足りないんだ。「Todo De Ti」がヒットした理由ははっきりしていて、ラテンポップ界でああいうアメリカっぽいサウンドプロダクションの曲がそれまでなかったんだ。それは、きっと他のアーティストにとって大きなヒントにはなったと思うけど、一回機能したからといって、それを繰り返すことに自分は興味がないんだ。


Rauw Alejandro - Todo de Ti (Video Oficial)

――なるほど。最後に、あなたが人生で大切にしているものを3つ教えてください。

ラウ:家族。あとは、うーん、難しいな(笑)。

――何よりもまず、家族ですね(笑)。

ラウ:(笑)。健康。そして、人生を楽しむこと。

――音楽をやることではない(笑)?

ラウ:音楽は「人生を楽しむこと」に入ってるよ(笑)。音楽をやること、曲のキャラクターを演じること、そして旅をすること。それが僕にとっての「人生を楽しむこと」なんだ。

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