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<インタビュー>AI、デビュー25周年イヤーがスタート これまでのコラボレーションを振り返る
Interview & Text:村上ひさし
2024年11月からのデビュー25周年イヤーを目前に、さまざまなタイアップやコラボ曲を発表してきたAI。最新曲は、完全新作アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』のエンディングテーマ「NAKAMA」。幼い頃から同シリーズに夢中だったというAIに、『ドラゴンボール』への募る愛から、EDM界の寵児ゼッドとの同曲での初のコラボレーションについて、これまでに行ってきたさまざまな海外アーティストとのコラボの逸話について語ってもらった。そしてもちろん25周年イヤーで計画している企画や、未来に向けての意外とも思える現在の心境も明かしてくれた。
「『ドラゴンボール』をずっと観てきたファン、愛してきたファンの方々を考えながら作りました」
――『ドラゴンボール』は、コミックや映画、テレビシリーズなどがありますが、どのような形で接してこられましたか?
AI:最初の頃は漫画だったと思いますけど、一番濃かったのは、それはもう本当にテレビでしたね。まさにその世代でしたから。テレビでやっていた時は、ずっと観ていました。海外に行って一時期離れかけたこともありますが、そしたらまた映画が始まったりして。『ドラゴンボール』のキャラの財布や筆箱などを買ったり。子どもの頃にハマったものの1、2を争うぐらい大好きでした。
TVアニメ「ドラゴンボールDAIMA」ノンクレジットエンディング映像 | 「NAKAMA」
――今回『ドラゴンボールDAIMA』のエンディングテーマ「NAKAMA」を担当すると知った時には、どのようなお気持ちでしたか?
AI:最初にスタッフから「これ、新しく始まるドラゴンボールのDAIMAって言うんだよね」ぐらいな説明で、動画を観せられたんですよ。たぶんそれがオフィシャルトレーラーだったと思うんですけど、移動中の車の中で「ヤバいね」とか言いながら。そしたらマネージャーから「このエンディングやるから」って言われて、瞬間にポワッと涙が出ていたんです(笑)。子どもの頃からずっと好きだったし、本当にもう嬉しすぎて「ええっ?」って感じでした。『ドラゴンボール』のことは、私だけじゃなくてみんなが好きだと思いますが、私は好きなものを言わないタイプなんですよ、どちらかというと。でもスタッフは知っていたみたいで(笑)。
――今回「NAKAMA」で共演したゼッドの方は、以前からコスプレ写真をSNSにアップしたりして、『ドラゴンボール』愛を猛烈にアピールしていたのとは対照的ですね。
AI:そうなんです。遠くから観ているタイプ(笑)。本当に好きすぎて、触れてはいけない神のような領域なんです。
――ゼッドと一緒に写っている写真も見せてもらいましたが、楽曲の制作自体はどのように進められたのですか?
AI:エンディングテーマのお話が決まった後に、ちょうどゼッドさんが日本に来るタイミングがあって、その時に会って一緒に「こういう感じの曲にしよう」とかって話をしました。その後アメリカに戻られてから、待っていたら動画を送ってくれて、彼がピアノ1本で弾いてる動画だったんですけど「このコード進行の感じ、すごくいいな」と思って感心させられました。ただ明るいだけじゃなくて、エンディングぽい感じもあるんです。
――ゼッドは、音色やサウンドのニュアンスなどすごく細かい部分にまで拘るアーティストですが、一緒にコラボして大変ではなかったですか?
AI:いや、全然。というか、もう、すぐオッケーみたいな感じでした(笑)。それに彼の作ってくれたあの曲自体、日本語が乗りやすかったです。逆に英語がすごく難しいなと思ったんですが。
――歌詞を作る上では、どのようなところに拘りましたか?
AI:私も負けないくらい好きですが、何よりも『ドラゴンボール』をずっと観てきたファン、愛してきたファンの方々を考えながら作りました。
――今回ゼッドとの初共演が実現しましたが、これまでにも多数の海外のアーティストとコラボをされてきました。その中で最も印象深かった人を挙げるとすれば?
AI:うわぁーそれもういっぱいいすぎて…みんなが印象的ですからね。(しばらく考えて)うん、でも今一番最初に頭に浮かんだのは、やっぱりチャカ・カーンですね。チャカはいい意味で、すごく普通の感覚をもっているんです。スター、スターしてなくて、本当に自然。私が「いつか【グラミー賞】とか取れたらいいな」ってことをボソッと言ったら、「そんなの簡単よ」みたいに言っちゃうわけ。もうチャカにとっては、そういう感じなんでしょうね。自慢してるとか威張ってるとかじゃなくて、彼女にとっては受賞云々よりも、もっとメッセージとか、心の中から溢れる感情だとか、そういうことを大切にしている気がします。そういうことに突き動かされている人なのかなと思います。
――チャカは歌ってる時と歌ってない時では違ってたりするんですか?
AI:いや、もう全然変わんない。チャカが一番変わらないですね。普段もあの調子で、でっかいファン(扇子)とか持って「へへ〜い!」って感じだし(笑)。
――でも、AIさんも包容力的には近いものがある。対等に話せるんじゃないですか?
AI:いや、それは彼女がそうしてくれるから。彼女がそういう人だから、すごい人だからなんですよ。私はリスペクトしすぎて、ちょっと緊張しすぎたりして、あんまり自分からは行けないんです。でもチャカの方からどんどん入ってくるから話がどんどん進んでいく(笑)。「One More Try」を一緒に歌った時は、その前にビルボードライブで彼女のステージを観させてもらってたんですよね。その時に指が全部被るみたいな長い指輪を私がはめてたら、それをこんなふうに上に持ち上げてマジマジ見つめて「ワー!!オー!!」とか言うわけよ。そんなに好きなら、チャカに貰ってもらえるなら「どうぞ」って差し上げてました(笑)。チャカのコンサートでは、出てきて一発目の声を聞いて涙が出たこともあります。あの調子でニコニコ笑いながら出てくるんだけど、「アアー!」っていうあの声だけで、わっと涙が出てきたんです。全然悲しい曲でも何でもないけど、あの声だけで…。声のパワーですかね。幼い頃から親もチャカ・カーンが大好きで、昔ママもコンサートに行ったりしてたり、いろいろと想い出があるんです。面白い話もいっぱいありますよ。
「Through the Fire with Chaka Khan」 from DVD/BD 『伝説NIGHT』at 日本武道館 with 超SPECIAL GUEST大勢!!!
――チャカの次に印象深いのは?
AI:マジもういっぱいいるんだけど、「Incomplete」で共演したボーイズIIメンは、本当にすごかった。もう歌声が完全に天使でしたよね。あの人たちのレコーディングを見れて、私、本当に勉強になったなあと思いました。コーラスの入れ方とかも、普通の「アーアーアー」とかいった平坦なのじゃなくて、「アアーアァア、アアーアアァー」みたいに、余分なものをいっぱい入れてくるんですよね。まっすぐじゃなくて、あちこちに。彼らの声の動きが自由自在だから、できること。すごいんです。それぞれの声も全員が素晴らしい。安定感があり、エアリーな声もできれば、張り上げることもできて、両方を上手く使い分けている。一番勉強になりました。あとトレイ・ソングスも、やっぱり天才でしたね。私が会った頃は、彼はまだ若かったんですけど、すごくいい子って感じでした。「Beautiful(Remix)」のレコーディングを一緒にした時には、もうアメリカでは知られてたんですけど、日本ではまだそれほど知られてなくて。曲も作れて、歌えて、自分でエンジニア的なことも全部できてしまう。R&Bをすごく愛してるんだなと感じたのを覚えています。
- 「自分が成長していく過程も、今後みなさんに届けていきたい」
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「常に新しいことをして感動を忘れたくないです」
――スヌープ・ドッグはどうでした?
AI:実は今日もスヌープを着てるんだけど(とスヌープの大きな顔がプリントされた黒Tシャツを見せてくれる)、スヌープと一緒にやった「Let It Go」は、レコーディングは別々だったんだけど、ビデオを一緒に撮ろうということになり「マジ?」って感じでLAまで行ったんです。で、準備して待ってたんですよ。こんなキツくて苦しいドレスみたいなの着て、ハイヒール履いて待ってたんです。でも全然来ない。1時間待っても来ないからスタッフに言ったら、「いや、もうすぐ来るから。すぐに撮影入れるように準備しといて」みたいに言われて。だから、そのまま待ってたんですけど、来たのが6時間後とか。さすがの私もスヌープ・ドッグだろうが何だろうが、ちゃんと言ってやろうという気満々で待ってたら、来るなり「曲も最高だけど、君の声がいいよね」とか言われて…もうそれで私は何かラブ〜(笑)。褒めてくれるんですよね。それに子どもたちと一緒に来て「じゃ、オマエ2階で宿題やっとけ」みたいな話をしながらセットに入ってくるし、「どこ行ってたの?」って聞いたら「教会に行ってた」とかって言うし。私の怒りもだんだん薄れちゃって、結局は普通に楽しくビデオを撮ったって感じでしたね(笑)。
「Let it go feat. Snoop Dogg」
――てっきりザ・ジャクソンズが一番印象に残っているんじゃないかと思っていたのですが。
AI:いやー、ザ・ジャクソンズは、胃が痛くなりましたね。私にとってジャクソンズは、もう全てを超える存在というか…『ドラゴンボール』みたいな存在なんですよ。ありえない存在というか。絶対会える人たちじゃないって思っていたんです。
――MUSIC ON! TVの『AI Miss MICHAEL JACKSON 〜KING OF POPの奇跡〜』というシリーズで、アメリカに渡ってジャクソン一家の取材をされましたよね。長時間にわたって、あれだけじっくりジャクソン家の素顔に迫った日本人は後にも先にも他にいないじゃないかと思います。
AI:長時間も長時間。本当に長時間だったし、しかもタイトだった。いろんな人に失礼のないように気を遣いながら、でも聞かなければいけないこともいっぱいあって。リアルな話をしてくれた人、知らない話をしてくれた人もいっぱいいて、とにかく感動の連続でしたよね。
――それが共演曲「Letter In The Sky」のレコーディングに繋がったわけですよね。
AI:いや、だからそれは、私としては逃げたかったわけよ。もうすごすぎるというか、できれば触れたくない存在の人たちだから。番組ではマイケル・ジャクソンが亡くなった後、彼のルーツを辿ろうという内容だったじゃないですか。その中でお兄ちゃんたちと出会ったものだから、そこから急展開。じゃ「トリビュートイベントがあるから一緒に歌わない?」っていう話になったんですよ。もうあの時期は、何かがあったとしか思えないことの連続でしたね。もうそれからずっと胃がキリキリでしたよ(笑)。
「Letter In The Sky ft. The Jacksons」
――昨年リリースされたアルバム『RESPECT ALL』でビル・ウィザースの「Lean On Me」を取り上げられました。G7広島サミットの“Lasting Peace Project”でも同曲を披露されていましたが、おそらくずっと親しんできたあの曲を、なぜ今歌いたいと思われたのですか?
AI:G7広島サミットで歌わせてもらうことが決まった時、やはり世界にメッセージを届けたいし、ピースなメッセージがいいよね、ということで、子どもたちと一緒に歌いたいと思ったんです。「アルデバラン」と「Not So Different」と、あともう1曲はカバーにしようと考えて、いろいろ候補はあったんです。マイケル・ジャクソンの「Heal The World」、ジョン・レノンの「Imagine」とか、あるじゃないですか。でも、そんな「世界を変えよう」とか「世界をこうしよう」といった大それたメッセージソングではなく、「人生いろいろあるよね」みたいなこの曲の感じ、誰かと一緒に喋っているような感じが、一番自分らしいかなと思ったんです。説教臭くないし、本当に自分が一番言いたいメッセージでもあるし。それに結局ピースにも繋がる素晴らしい曲だと思ったんです。その後で、レコーディングもしようという話になって、シンプルにピアノだけで歌いました。
Lasting Peace LIVE from Hiroshima
――そうだったんですね。子どもたちと歌った「Lean On Me」もそうですが、ツアーでゴスペル合唱隊を率いたり、デビュー20周年のベストアルバム『感謝!!!! -Thank You for 20 Years New and Best』でゴスペルバージョンを制作されたり。やはり初心に戻るとゴスペル、みたいなところがありますか?
AI:そうですね、やっぱり大好きなので。ああいう声の集まりというか、パワーですよね。普通にまっすぐ歌っているだけじゃなくて、いろんな技が入ってたりとか、そういうところに「うわっ」て興奮します。
「Lean On Me」
――自分1人だけじゃないという点も大きいのでしょうか?
AI:それもあるかもしれない。やっぱり1人より、みんなで歌ってる方がパワーが倍増するし、うん、それはありますね。
――英語の方が伸び伸びと自由に歌われているような印象もあります。ご本人としてはどうですか?
AI:もはや喋るのは日本語の方が得意だけど、ただ歌うのは、歌うものによっては、やっぱり英語の方が発音しやすいし、歌にハマりやすいのはあるかもしれないです。でも逆に日本語じゃないと、という曲もありますから…う〜ん、一概には言えないですね。曲によってですかね。
――この11月からデビュー25周年イヤーが始まります。その前哨戦として、コンスタントに積極的にタイアップやコラボ曲を発表されています。映画『ゴジラ x コング 新たなる帝国』の日本版主題歌Yaffle x AI「RISE TOGETHER feat. OZworld」、新曲「Untitled feat. PUSHIM, DABO」、Awich「bad bitch 美学」のリミックス参加、BAD HOP「Mukaijima」参加など。25周年のベテランなのに、すごくフットワークが軽いですよね。
AI:そこらへんは、元々Hip HopとかR&Bがやっぱり大好きだし、「いい音出してるな」、「いい歌詞だな」と思って魅力を感じたら一緒にやりたいと思うんです。もちろん曲によりますよ。曲がイマイチだと、やってないと思います。でも本当に素晴らしいアーティストたちは曲もいいし、やりたいことが定まっている。もしそこに自分が加わることで、いっそう良くなるんだったら嬉しいし、ありがたいです。そもそも声を掛けてくれること自体が嬉しいですし。
Yaffle x AI 「RISE TOGETHER feat. OZworld」
――そうやって声を掛けてくれたり、タイアップが多いのは、やはりAIさんのポジティブな生き方や歌の力が大きいのではないかと思うのですが、そのあたりの拘りを教えてほしいのと、あと逆に求められることで少し大変だったりすることはないですか?
AI:そうなんですよ。ハッピーでポジティブで、希望のある歌のタイアップが多いんですが、実は暗い曲も好きなんですよ。それはアルバムの中でやったりしています。映画のこういうシーンで使ってくれたら絶対いいのに、とか思う曲もありますから。そういう違った部分も見てほしいし、常に新しいことをして感動を忘れたくないです。
――25周年イヤーというので、いろいろと企画をされていますか?
AI:はい、ツアーもアルバムもあります。もうスケジュール見るとマジで胃が痛くなります(笑)。
――「Story」のニューバージョンの予定は?
AI:それはまだ考え中。やっぱりオリジナルが一番かなというのもあるし、みんなにすごく愛されて、本当にありがたいなとは思っています。
――以前に取材させてもらった際に「【グラミー賞】が欲しい、取りに行きます」みないなことを宣言していたのがとても印象的でした。今でもそのお気持ちは変わってないですか?
AI:取りに行きたいです。それは今でも変わらないです。でも、当時は説得力がほしくて、それだけで【グラミー賞】って言ってたように思うんです。手っ取り早くて、一番有名だからって。とにかく昔は若いうちにいろいろやらないと、という考えがあったでんすよね。でも、もう今は、別にすぐじゃなくてもいいかな、という感じです…。あ、でも言ったからにはやりますよ。全部やり終えたいです、死ぬまでに。でも別に今じゃなくても…まだまだ元気そうだし、大丈夫かなって(笑)。
――長い目で見て、今後の目標というのは?
AI:今はもう子どもに集中していて、すごい訓練されてる感じです。自分の書くこと、言うこと、毎日の行動、態度、リズムなどの全部が崩されてる状態です。こんな経験は、たぶん他にないだろうと思うくらい。すごくいい修行みたい。修行僧ですね(笑)。だから一回自分を崩されて、そこからどう立て直していくのか。本当は25周年とかも私は意識してないんです。周りが意識してそう言ってるだけで。言われて初めて「あ、そうか」というくらいな感じ(笑)。自分としては、たぶんもうずっとやるだけ、とにかくやるってこと。それが大切だと思っています。毎日無事に終わりますように、と思いながら生きています。
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