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<インタビュー>石丸幹二が楽友と作り上げた“自分色の12曲” カバーアルバム『with FRIENDS』完成

インタビューバナー

Text & Interview: 田中久勝
Photos: HIRO KIMURA / Sony Music Labels Inc.

 ミュージカルシーンには欠かせない存在として数々の名作に出演、舞台や映画、テレビでも大活躍中の石丸幹二が、初のカバーアルバム『with FRIENDS』を発表。タイトル通り親交のある一流ミュージシャンや、リスペクトするアーティストが参加し、石丸がこれまでに感銘を受けた多彩な名曲達をセッション。2025年にデビュー35周年を迎える石丸の円熟味が増した美しく伸びやかな歌と、そしてサックスプレイを楽しむことができる一枚だ。「自分と関りがあるミュージシャンの特徴を生かしたアルバムを作りたかった」と、エネルギーとエネルギーをぶつけ合い、楽しみながら作り上げたこのこだわりのアルバムについてインタビューした。

──2020年の30周年の際にはベスト盤『The Best』と多彩なゲストとのデュエットを集めた『Duets』の2枚をリリースされましたが、カバーアルバムの構想はいつ頃からあったのでしょうか?

石丸幹二:テレビ番組でToshl(龍玄とし)さんと共演した際に「デュエットしようよ」と言ってくださって、Toshlさんのカバーアルバムを聴いたのですが、そのときに「カバーってすごく魅力的だな」と思ったんです。自分が好きな曲を、自分の声に染め上げていく。いつかチャンスがあったら、そういうアルバムを作りたいということをレコード会社のプロデューサーには話していて、そこから5年ほど経った今、ようやく実現しました。

──参加ミュージシャンが多彩で、一曲一曲のアレンジにもすごくこだわって、石丸さんの音楽愛が詰まっていると思いました。

石丸:ありがとうございます。『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)の司会を長年やらせていただいていて、そこで知り合った仲間が参加してくれたこともあって、今回クラシック系のミュージシャンが多くなりました。なおかつクラシックの方々にポップスを演奏してもらうとどうなるのかなという好奇心もありました。とにかくみなさんと楽しみたいと思いながら作りました。

──レコーディングはなるべくテイクを少なくして、セッション感を大切にしたとお聞きしました。

石丸:そうなんです。それがやりたかったんです。ライブをやっているような感じ。お互いの丁々発止のようなものを音に残したいと思っていたので、もちろん微調整した部分はありますが、どの曲も一発録りの“ドン”っていうあの感覚を大切にしました。

──以前、別媒体のインタビューでいつかライブアルバムを出したいとおっしゃっていました。

石丸:いつか出したいなとは思っていますが、今回のアルバムがそれに近いような。ライブハウスや狭い空間でやるような感じの音を目指しました。

──参加ミュージシャンのクレジットを一曲一曲見るだけでワクワクしてきます。

石丸:そこも狙いでした(笑)。贅沢ですが、あえて全曲ほぼ違うメンバー、アレンジャーでいきたいとプロデューサーにリクエストしました。音楽通の方にはワクワクしていただけるはず、と思っていました。

──ボーナストラックの「さくらガーデン」を含めると12曲収録されていますが、候補曲は何曲くらいあったのでしょうか?

石丸:150曲はありました。プロデューサーと一緒にカラオケボックスに行って、とにかく歌ってみました。僕が発案した曲もあるし、以前からライブで歌っている曲、よく聴いていたけど曲名がわからなかった曲や、オススメされた曲もあります。そこから12曲に絞りました。

──石丸さんが影響を受けた曲、アーティストを教えてください。

石丸:今回のアルバムでいうとToshlさんと一緒に歌ったクリスタルキングの「大都会」、谷村新司さんの「昴 -すばる-」がそうですが、学生の頃からカラオケに行ったら必ず歌っていた曲も入れました。それと今回は女性アーティストの歌が多いのもポイントで、しかもこれまであまり歌ったことがない歌が多く、そこはチャレンジでした。

──1曲目は坂本九さんの「心の瞳」ですが、一音一音、一言一言に思いが込められていて、感情を揺さぶられる歌声でした。ギターとチェロが作る情景も相まって、歌の世界に引き込まれました。

石丸:嬉しいです。この曲は坂本九さんの遺作になったシングル(『懐しきlove-song』)のB面の大好きな曲で、1曲目をどの曲にするかスタッフと一緒に悩みましたが、宮田大さんのチェロと大萩康司さんのギターがインパクト大なので、この曲からアルバムの世界にどっぷり浸ってほしいと思いました。

──チェロの音色が深みを感じさせてくれます。

石丸:僕もその音色に惹かれていて、チェロは高校生の時に少し弾いていたことがあって、一番好きな楽器と言っていいくらいです。だからこそ今回、名手の宮田さんにお願いしました。宮田さんと大萩さんはおふたりでよくライブをされているのですが、僕もずっと一緒にやりたかったので、ここで実現しました。

──大萩さんのギターも物語を広げてくれて、包みこんでくれる音色です。

石丸:僕ら3人の柔らかい部分が、この曲にフィットしたのかなと思います。

──「切手のないおくりもの」はチューリップのナンバーで、コンサートでもよく歌っていらっしゃいます。

石丸:この曲は最初、歌番組で出会い、すごく好きになりました。それ以降、自分のレパートリーにしています。

──クリヤ・マコトさん(ピアノ)、納浩一さん(ベース)、則竹裕之さん(ドラムス)のトリオでの演奏というのは石丸さんのアイディアですか?

石丸:はい、コンサートでもお世話になっている仲間で、彼らの引き出しでこの曲をやったらどんなふうになるのか楽しみでした。ジャズセッションをしているような感覚で演奏できたのが嬉しかったです。

──トリオが作るクールかつドラマティックな音と、石丸さんの歌が交差して、グッとくる1曲です。Toshlさんとのデュエットが実現した「大都会」はこのアルバムの中でもスペシャルな1曲になっていると思います。

石丸:『うたコン』(NHK)でToshlさんと共演したときに、今回アレンジを手がけてくれたフラッシュ金子(隆明)さんがコンダクターだったんです。個人的にこの曲が大好きで、ずっと誰かと歌いたいと思っていましたが、なかなか相手が見つからなくて。Toshlさんが快諾してくださって、果敢にオリジナルキーで攻めてみました。これはもう、自分にとってもお宝の音源です。

──オリジナルのアレンジをリスペクトしつつ、おふたりの歌をより立てるアレンジになっていると思いました。

石丸:金子さんのアイディアで、コーラスを入れて三声にしてみようということになり、最後の大サビのところを三声にしたので、クリスタルキングのオリジナルとは少し違う仕上がりになっているところも特徴ですね。

──当時「大都会」を初めて聴いたとき、衝撃的でした。

石丸:本当にそうでした。誰もが歌える曲じゃなかった。声の高さとあの雰囲気は、子供ながらに「歌いたい」って思うだけではなく、心から「かっこいい」と思った曲でした。

──カラオケでは歌わなかったんですか?

石丸:それこそ一緒に歌ってくれる相手がいなかったんですよ(笑)。

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60歳を前にして、「歌っちゃえ!」って感じなんです(笑)

──「あの鐘を鳴らすのはあなた」では、石丸さんのサックスを楽しむことができます。

石丸:アレンジを手がけてくれた伊賀拓郎さんとは『題名のない音楽会』でよく共演していて、(サックス参加は)伊賀さんのアイディアです。オルガンを使う発想にもビックリしました。アッコ(和田アキ子)さんのブルース調の歌唱がとてもインパクトのある曲ですが、今回、伊賀さんからゴスペル調のアレンジが上がってきて、すごくおもしろかったです。オルケスタ・デ・ラ・ルスの伊波淑さんが参加してくれていて、パーカッションやホーンを入れた賑やかなアレンジを伊賀さんが仕立ててくれました。

──アッコさんの歌のイメージが強烈なので、難易度が高い曲だと思います。

石丸:そうですね、パンチも出さなくてはいけないし、なおかつ女性のために書かれている曲でもあるのですが、女性っぽく歌うのではなく自分らしく歌おうと心して臨みました。難しかったですね。

──これまでミュージカルをはじめ、様々なジャンルの曲を歌ってきた石丸さんでも、やはり難しいと思う曲があるんですね。

石丸:もちろんです。その人がその人らしく歌っているものを、その人に寄らないように自分らしく歌うのって、すごく難しいんです。いわゆる昭和歌謡にはそういう曲が多いのですが、大好きだし、歌いたくても歌えなかったものを今、60歳を前にして、「歌っちゃえ!」って感じなんです(笑)。「あの鐘を鳴らすのはあなた」はかなり聴きこんで、アッコさんのカラーや要素も残さなければ曲として成立しないと思ったので、バランスを大切にしました。ただ、このバランスがとても難しい。でも、僕は今回のこの音源は好きです。

──この曲も含めて石丸さんの歌を“届ける”力に改めて感動しました。その歌を立てつつ演奏もしっかり主張している、そんなアルバムになっていると感じました。

石丸:今回は自分の中で、誰に向けて歌うかをテーマとして決めていて、例えば若い人に向けて歌っているものもあれば、先輩にターゲットを絞って歌っている曲もあります。「あの鐘を鳴らすのはあなた」は若い方々に向けて歌っていて、僕の物語にもなっているのかなと思っています。

──「手紙~拝啓 十五の君へ~」も若い人へ向けたメッセージですか?

石丸:そうです。歌詞は今の自分と過去の自分に向けての話ですが、僕は今を生きる若い人たちに向けて歌いました。

──吹奏楽器のみという斎藤ネコさんのアレンジが斬新でした。

石丸:実は最初、ネコさんに「弦カルテットでやってみたい」と相談しました。ネコさんから「サックスカルテットはどうですか?」というアイディアをいただき、最終的に木管五重奏というスタイルになったんです。

──最初に上がったデモを聴いたときはどんな印象を持ちましたか?

石丸:オリジナルと全く違う雰囲気で、これくらいイメージを変えないとアンジェラ・アキさんのあのインパクトには立ち向かえないんだろうなと思って、ある意味、冒険でしたがおもしろいアレンジだと思いました。

──ネコさんとは石丸さんが出演した音楽番組『Sound Inn S』(BS-TBS)が出会いだったとお聞きしました。

石丸:そうなんです。2023年に同番組の“服部良一スペシャル”に出演させていただいて、ネコさんのアレンジで「蘇州夜曲」を歌ったのですが、そのときにネコさんがマリンバの名手をバンドに入れておられて、そのアレンジに感動しました。オリジナルのアレンジにネコさんカラーが加わって、また違う輝きを与えるというか。まさに今回の「手紙」もネコ色です(笑)。

──「手紙」は以前からよく聴いていた曲ですか?

石丸:もちろん知ってはいましたが歌ったことがなくて、今回、女性の曲を歌うコンセプトもあったので入れたいと思いました。「NHK全国学校音楽コンクール・中学の部」の課題曲として、たくさんの人に歌われていたことを後から知ったのですが、その感覚も入れたらおもしろいと思い、こういうクラシカルな感じとギターで、ちょっと思春期の青い香りもする仕上がりになって、さすがネコさんだなと思いました。

──角野隼斗さんのピアノでの「Tango」も驚きました。

石丸:(角野)隼斗君とも『題名のない音楽会』繋がりで、彼と何か1曲やりたいという思いがあったんです。彼は非常に多忙で、レコーディングは半年くらい前、このアルバムの始まりの1曲でした。彼は坂本龍一さんのことをとてもリスペクトしているので、こちらから「Tango」を提案しました。龍一さんご自身も、大貫妙子さんも歌っていらっしゃることを知り、僕も歌ってみようと思いました。

──世界的に活躍しているマリンバ奏者の塚越慎子さんがポップスの「ダンスはうまく踊れない」を演奏しているのも注目です。

石丸:彼女も『題名のない音楽会』で知り合いました。確かにこの曲は彼女のフィールドではないかもしれませんが、快く引き受けてくれました。これは僕の勝手なイメージですが、酔っぱらっている人がフラフラしながら気持ちよく歌っている姿が、マリンバの音になっているような感じがあるんです。酔っているときの“フィルター感”というか、それがマリンバの音色にピタッと合っていて、伊賀さんのアレンジがやっぱりすごいです。

──加藤登紀子さんの「時には昔の話を」は、石丸さんが長年、作品やコンサートでタッグを組んでいるリュート奏者のつのだたかしさんとのコラボです。

石丸:この曲はつのださん世代の曲なので、つのださんがリュートで爪弾いた世界観をカタチに残したいと思いました。

──まさに染み入る感じです。

石丸:他の曲とは全く世界が違うと思います。つのださん、〈ひげづらの男は君だね〉という歌詞を「自分のことを歌っているようだ」なんておっしゃってました。

──角田隆太さん(モノンクル)のアレンジも素敵です。アルバム『武満徹のうた』(2016年)を3人で作っています。

石丸:そうなんです。その流れもありますし、隆太君はベーシストで、お父さんのたかしさんとは全く違う色を持っているので、ここで彼のアレンジが入るとどうなるのかという化学変化を楽しみました。

──「人生のメリーゴーランド」(『ハウルの動く城』メインテーマ曲。作曲:久石譲)もクミコさん歌唱の女性曲です。

石丸:ジブリの曲を歌いたいと思っていたんです。クミコさんが歌ってらっしゃって歌詞もあるし、アルバムのコンセプトにも合っていると思いました。成田達輝さん(ヴァイオリン)と萩原麻未さん(ピアノ)は『題名のない音楽会』繋がりです。ふたりとのセッションも刺激的でした。スタジオで3人で一発録りしたのですが、控えめな部分があったり、逆に挑発しあった部分があったりして、とても楽しい時間でした。

──斉藤和義「歩いて帰ろう」はブラスセクションが印象的で、ラテンっぽいアレンジです。

石丸:この曲も歌番組で初めて歌った際にいい曲だなと思って、伊賀さんにアレンジをお願いしました。ラテンフレーバーが効いていて、これもオルケスタ・デ・ラ・ルスの伊波さん(パーカッション)に参加していただきました。

──「昴-すばる-」は『題名のない音楽会』から出てきた若手の林周雅さん(ヴァイオリン)をコンサートマスターに起用しています。

石丸:彼は『題名のない音楽会』の企画で葉加瀬太郎さんが講師を務める「題名プロ塾」の出身です。ジャンル問わず色々なことができる音楽家で、私が芸術監督を務めている、まつもと市民芸術館でのコンサートにもストリングスチームを率いて出演してもらっています。今回、僕が大好きな「昴-すばる-」を一緒にできて嬉しかったです。

──ボーナストラックとして盟友のジャズピアニスト、クリヤ・マコトさんアレンジの「さくらガーデン」が入っています。

石丸:この曲は本来ピアノソロの曲なのですが、数年前、クリヤさんから歌詞をつけて歌ってみないか、とお声がけがありました。今回、レコーディングにあたり、クリヤさんがCメロを加えてくれました。この先、どんなふうに進化していくか、こちらとしても楽しみですね。まさしくジャズナンバーのように発展させていきたいですね。

──来年はデビュー35周年で還暦を迎えますが、これからの野望や希望を聞かせてください。

石丸:60歳っていい意味で節目だと思います。通常のコンサートホールのみならず、様々な場に出かけていき、歌っていきたい。歌う時間を大切に、たくさんの人に届けたいですね。

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