Special
倖田來未 『TRICK』インタビュー
倖田來未、久々の登場!
過去最高に攻撃的なアルバム『TRICK』の完成を受けて、各収録曲の楽曲解説はもちろん「どうして倖田來未はここまで攻め続けるのか?」というポイントにフォーカスした質問にもいくつか答えてもらった。また「倖田來未が日本の音楽シーンの底上げのために何を考え、何をしようと思っているのか?」そんなおそらくこれまで語ることのなかった領域にも踏み入れてくれたインタビューとなっているので、ぜひご覧頂きたい。
エンターテインメントショーの始まりだ!
--今作『TRICK』の選曲基準はどんなものだったの?
倖田來未:前作『Kingdom』はデモテープが100曲ぐらい集まってきて、そこから良いものを厳選していく感じだったんです。「この曲で歌詞を書きたいな」とか、全曲PVを撮るというコンセプトもあったので「この曲でPV撮って踊ってみたいな、演じてみたいな」って思った曲を選んでいって。それに対して今作『TRICK』は、初めてツアーを見据えて選曲をしていったアルバムなんですよ。
--なるほど。
倖田來未:200曲以上あると思われるデモテープを全部聴いて、これだったらライブで映えそうだなと思った曲を選んでいって。あと前作を引っ提げたツアーが、第1幕がバンパイアで、第2幕がドレスのバラードで、第3幕はおとぎの国だったんですけど、どっちかと言うと可愛い系のライブだったと私は感じてるんですね。でも私は『Black Cherry』のツアーのときのような、パイレーツだったりロックだったりの強めの攻めの演出を見せたい想いが強いんです。なので今回はそのことを意識して選曲していったので、そういう意味ではJ-POP色が薄いかもしれません。これまでのように半分J-POP、半分HIP-HOPみたいな選曲じゃないんです。なのでこれからみんなに聴いてもらってどんな評価をされるのかドキドキしてるんですけど。でも本当に自分でも自信の持てるアルバムになったし、ツアーも良い意味でのサプライズが多いものになると思うので、楽しみにしてもらいたいです。
--そうしたコンセプトはあったからこそ、衝撃的なナンバーばかりが収録されていますよね。
倖田來未:私も全曲大好きですね。例えば『Hurry Up!』はロック色の強い曲を探している中で選んだんですけど、これまでの『人魚姫』みたいなロックとは違って、初めて四つ打ち系のロックなんですよ。この曲を歌ってみたら自分でも新しいし聴いてくれる人にインパクトもあるかなって思いました。一方『Bling Bling Bling feat.AK-69』は今までも好きなHIP HOPですね。あと確かこのアルバムに一番初めに入れることが決まったのが『show girl』なんですけど、この曲の主人公がしたたかなんですよ。PVも撮らせて頂いて、その中ではメンズにフラれた女の子が「見返してやる」と思って努力してダンサーオーディションを受けて、そこでナンバーワンになっていくんです。で、男性からもプレゼントを貰うだけ貰ってでも簡単には落ちなくて。それで楽屋ではガールズトークみたいな。想い描くエンターテイナーのしたたかな女性ですね。プライベートの私は全然違うですけど(笑)。
--(笑)。
倖田來未:やっぱりエンターテイナーっていうのはある意味腹黒くなきゃいけないのかなと。私自身もいろんなことを想像して考えながらアルバムもライブも作るんですよ。いつもたくさんのサプライズを考えてます。『TRICK』のジャケット写真もそうですけど、ぶっちゃけ家族にも「誰だかわかない」って言われました(笑)。でもこれを見るファンのみんなを驚かせたいんですよ。楽曲もファンのみんなが聴いてくれて喜んでくれたりとか、前に進もうって思ってくれている姿を想像して作ることが私にとっても一番の原動力ですね。そこは天然や適当じゃできませんから。
--そんな倖田來未のエンターテイナーとしての在り方が重なった『show girl』がまずあって、今作『TRICK』の世界観が固まっていった感じ?
倖田來未:この『show girl』がアルバムの基盤と言ってもいいかもしれないです。「エンターテインメントショーの始まりだ!」みたいな感じでこの曲を『TABOO』のすぐ後に持ってきてるんで。この曲があったから『TRICK』っていうタイトルも出てきたんだとも思いますし。1曲1曲が倖田來未なんだけど赤になったり黄色になったりして、曲の数だけ変化していく。そうしたコンセプトを固めるのにも重要な曲でした。
Interviewer:平賀哲雄
自分の前では息を抜いてくれてるんだな
--また、今作には『This is not a love song』という、倖田來未の中では今までになかった絶望の歌が収録されています。
倖田來未:そうなんですよ。この曲では「神様に願ってるだけでは何も起こらないよ」ということを表現したかったんですよね。やっぱりまず自分自身が歩き出さないと、何も人生変わらない。あとね「やっぱりたくさんの恋愛をしてほしい」という想いがあって。恋愛は辛い思い出と幸せな思い出の両方を噛み締めさせてくれるものだって思います。泣いたり這い上がったりすることで自分を成長させてくれる。そして嫌なことも経験したことで幸せを知ることができると思うんです。なので若いときにいろんな恋愛をして、人から愛してもらうことや、逆に人に裏切られることもひとつの経験だと思っています。そして人を許すということを覚えたり「この人のためなら」ということを感じることでまた一歩を踏み出せるのかなって。そういう意味で『This is not a love song』には、神様に「私を助けて」と願うこともいいけど、その前に自分自身が歩き出さなきゃいけないっていうメッセージを込めてるんです。
--あと『Your Love』と『Joyful』が男性目線の曲になったのは、どういう経緯や理由から?
倖田來未:『Your Love』は『TABOO』と同じ方に作って頂いたんですけど、元々歌詞が乗っていたんですよ。それでスタジオに入って仮歌をうたってみたときに、自分で男の人の言葉を歌っているのにすごく包み込まれた気持ちになったんですよ。そんなの初めてで。で、基本的には詞は自分で書くのですが、この『Your Love』に関してはすんなり入ってきて。「何かが弾けたみたいに君の前だとこんなにも涙が零れる」っていうフレーズもあったり、男性でもこんなことを感じるんだ!って驚いたんですけど。これを歌ったときに「あ、私もこういう風に好きな人に言ってほしいなぁ」って思って。なのでDメロ以外は全部元々あった歌詞をそのまま歌わせて頂いて。
私は男性に対してちょっと抜けてるぐらいの方が絶対素敵だと思ってるんですよ。例えば、パジャマが脱ぎ捨てられて8の字になって放置されているぐらいの方が(笑)この人も人間なんだって思える。そういうふとした人間らしいところを見せてくれる人の方が「あ、魅力的だな」「自分の前では息を抜いてくれてるんだな」って感じられるし、安心してくれてるのかなって。そういう意味で『Joyful』っていう曲は、もっともっと人間らしい君を見てほしいと歌ってるんですけど、世の男性たちが女の子にそんな風に接してくれたらいいなと思って書いた曲ですね。--逆に女性目線の歌詞を書くときは、どんなイメージを膨らませて書くことが多いんでしょう?
倖田來未:インスピレーションが多いんですよ。曲を聴いた瞬間に「この女の子は28才ぐらいで、こういうOLさんで」って浮かんでくるんです。例えば『Moon Crying』は、ワガママになって何もかもあたりまえになってしまって失恋した女の子が「もう一回あなたに会いたい」って思う。まずそういう設定を作りつつ、聴いてくれる人のことをイメージするんです。最寄りの駅で降りて「今日もこんな時間まで仕事しちゃった。疲れたなぁ。こういうときにあの彼に支えてほしいなぁ」って思いながら空を見上げたら、そこに月があって。そんな帰り道にこの曲を聴いてほしいなぁって想像しながら書くんですよね。『stay with me』であれば、よく彼と待ち合わせした駅という設定をまず浮かべて。私も先々週ぐらいに山手線に一人でぷらっと乗ってみたんですけど、そういうみんなが日々生活している場所をイメージしつつ書いたり。
--友達や周りに人たちが題材になることは?
倖田來未:それもたくさんありますよ。今作で言えば『JUST THE WAY YOU ARE』は、プライベートの友達に3人ぐらい来てもらって、遊園地に行ってPVを撮ってきたんです。それこそ普通にガールズトークをしたり、みんなで「これ乗りたい」「占い行きたい」って騒ぎながら。那須の母って人に占ってもらったんですけど(笑)。そんな感じでプライベートも私がどんなにテンションが下がってるときでも友達さえいれば、テンションが上がるんですね。一緒にいて楽しい気持ちにさせてくれる。だから嫌な気分のときこそ一人で家にこもるんじゃなくて、いろんな人に会いに行く、そんなことを想像しながら『JUST THE WAY YOU ARE』では、女友達に向けて「いつも支えてもらってたよ」っていうことを書いています。なのでこの曲は歌っていてすごくリアルでしたね。
--そんな様々な視点やスタイルで表現された楽曲を堪能できる『TRICK』なんですが、個人的には『TABOO』という楽曲をなしにこのアルバムは語れないなと思っていて。僕はあの曲を聴いたとき「倖田來未、完全攻撃モードによる最高傑作がここに誕生した」って思ったんですよ。
倖田來未:ありがとうございます!
Interviewer:平賀哲雄
格好良いから売れるわけじゃない
--流行と倖田來未のこれまでのキャリアで培われた個性がこの上なく美しく一体化した作品だなと思って。あの楽曲を世に打ち出せたことは、倖田來未がこれから音楽を続けていく上ですごく重要なことだったんじゃないですか?
倖田來未:そうですね、自分がどれだけ格好良いって思っても、それがみんなに受け入れてもらえるとは限らないし。格好良いから売れるわけじゃない。良いものが良いってなかなかならない。それでもビルボードとか見て「海外ではこんな格好良い曲が流行ってるんだ」って思ったりするわけですよ。そう思うと純粋に倖田來未という中で表現してみたくて。メロディが覚えにくいとしてもクラブで聴いて格好良い様な曲を年に何回かは創りたいなって思っています。今回もfeat.にAK-69さんをお迎えしたり、あえてその曲をTVでも歌ってみたりしました。アンダーグラウンドに近い音楽には本当にかっこいい曲もアーティストさんも本当にたくさんいるから。それで『FREAKY』とか『BUT』みたいな曲をリリースするようになって。でも『TABOO』は怖かったです、正直。サビも淡々としていて、みんなで歌うような曲じゃないからライブでも盛り上がるか不安だったし。でも意外なことにチャートで1位を頂いたので、チャートが全てではないですが倖田來未としての自信に繋がりました。アルバムである意味攻めの選曲をすることにもなりましたし。なので『TABOO』は自分の音楽の幅をすごく広げてくれたし、自分自身のステップアップに繋がった楽曲でした。最初にライブで歌うときもちょっと不安でしたね。
--でもしっかりと受け入れられました。
倖田來未:そうなんですよねぇ!もう本当に良かった。ドキドキでしたぁ。
--で、僕は『TABOO』が今回のアルバムの中で際立って攻撃的な曲になるのかなと思ってたんですけど、結構攻めの曲がたくさんあって。ここまで攻めまくったアルバムは初めてですよね?
倖田來未:そうなんです。でもそこはライブを見据えて作ったからでしょうね。なので今はこの作り方で全然おかしくなかったなって。逆になんで今までこうやって作らなかったのか不思議に思うぐらい。
--その攻めの姿勢っていうのはどこから沸き上がってくるんですか?というか、何が一体そこまで倖田來未を駆り立てるんですか?
倖田來未:やっぱり作品を聴いてくれてる方が「幸せになってくれたらいいな」っていうのが一番強いですかね。デビュー当時は「有名になりたい」とか「オシャレな服を着たい」とか、正直そういうことを思うことも強かったんですね、でもヒットに繋がらなかった。やっぱりそれは人を幸せにしたいと思う、歌手を目指したきっかけの気持ちを忘れていたからなのかなって。でも今は自分が楽曲を作るにあたって「どういう風に聴いてくれている人を幸せにしたいのか」とか「どうやって恋にもう一回向き合ってもらおうか」っていうのをすごく考えいますね。ファンレターでも、恋愛や夢に挫折をした人がすごく多いから、やっぱりそういう人たちの背中を押してあげたいと思うし。まず人の幸せを願う。そして創った曲をみんなが歌ってくれる。「あ~良かった」って私も笑顔になれる。人を幸せにできないで自分が幸せにはなれないんですよね。なのでファンのみんなの声がなくなってしまったら、私も曲を創る原動力を失ってしまうかもしれないなって思ってるんです。
--そんなときがやってくるんですかね?
倖田來未:ライブなどでファンのみんなに元気をもらって、その元気でまた頑張ってどんなに激しい演出も、ハードな撮影スケジュールも乗り越えられます。ファンのみんなもそうですけど、プライベートでも友達や家族から栄養をもらって、作品に育てていく、そんな仕事だと思っています。プライベートもちゃんと充実していないと良い作品が創れないときもあります。そういう意味では、みんなに助けてもらいながら倖田來未でいることができてるのかなって。みんなとの繋がりがあるから成立してるんだと思います。
--そんなみんなと共に歩みながら、今の倖田さんが目指したい未来、掴みたい未来ってどんなものですか?
倖田來未:これはずっとそうなんですけど、人のやっていないことをやり続けていきたいと思ってます。あと一日でも多く歌い続けたい。そのためにも今与えられている環境で、今ある食材でどれだけ美味しいものを作るかっていうのも大切ですし、今目の前にある選択肢をしっかりとジャッジしながら、一日でも長く歌っていられるように歩いていきたいですね。
--僕は勝手にそれは生涯続いていくものだと思ってますので、どこまでも追い掛けていきますよ(笑)。
倖田來未:そのためにも頑張りますよ~!ちゃんと追い掛けてきてくださいね。気付いたらいないのだけはやめてくださいね(笑)!
--あと、近い未来の話で『TRICK』を引っ提げたツアーなんですが、どんな内容になりそうですか?
倖田來未:もう自分の頭の中では6,7割出来ていて、ちょうど今はそれのコンペ中なんですよ。とりあえず衣装の点数も増えると思います。今までは少しでも長くステージにいたいって気持ちで(笑)あまり着替えにひっこまなくて、本編中は3回しか着替えなかったんですが。でも今回のコンセプトではもうちょっといろんなシーンを作って、衣装も着替えて、めくるめくおもちゃ箱みたいなコンサートにしたいなと思ってるんで。アルバムのコンセプトでもありますけど、1人の女性が次々と変化していくっていうところを見せたいです。
Interviewer:平賀哲雄
TRICK
2009/01/28 RELEASE
RZCD-46171 ¥ 3,204(税込)
Disc01
- 01.INTRODUCTION FOR TRICK
- 02.TABOO
- 03.show girl
- 04.Your Love
- 05.stay with me
- 06.This is not a love song
- 07.Driving
- 08.Bling Bling Bling feat.AK-69
- 09.That Ain’t Cool
- 10.Hurry Up!
- 11.Moon Crying
- 12.JUST THE WAY YOU ARE
- 13.Joyful
- 14.愛のことば
関連商品