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<コラム>アジアで人気爆発中のタイラ、2025年のさらなる躍進に期待
Text:辰巳JUNK
〈こんな可愛いヨハネスブルグ出身の女の子は初めて 皆ひと目見て 今じゃ話題の中心〉。自己紹介ソング「ジャンプ」で宣言されるように、南アフリカ出身歌手として異例の世界的成功を遂げているタイラ。デビューアルバム『タイラ』がリリースされた2024年には、パリ五輪の前夜祭や米ヴィクトリアズ・シークレットのショーでのパフォーマンスを果たしている。
アジアでの人気も上昇中だ。この夏、【サマーソニック】で来日した際には、舞台裏でK-POPグループ、BABYMONSTERと自曲「アート」ダンスを披露。BLACKPINKのLISAや日本人ラッパーのAwichとも対談し、おたがいの才能を讃え合っている。
@tyla_ @babymonster_yg ♬ ART - Tyla
タイラの人気を爆発させたのは、【グラミー賞】を受賞した大ヒット曲「ウォーター」。自分に水をかけるセクシーな振り付けにより、サッカーファンやK-POPスターも参加するTikTokセンセーションを起こした。米人気ラッパー、トラヴィス・スコットも気に入ってリミックス版への参加を申し出たというから、その人気の幅は広い。
「ただのポップスターではなくアフリカのポップスター」を目指すタイラの魅力は、キャッチーでありながら地元文化のエッセンスも色濃いことにある。このたびリリースされたデビューアルバムのデラックス版『タイラ +』には、「アマピアノが流れると、みんなの気分が一変するのがわかるの。だからこそ、R&Bやポップなど自分の好きなジャンルとアマピアノを混ぜて、自分のものにしたいと思ったの。この3曲は深く考えず、ただ楽しんでほしい!Shake AHHHH!」という本人からのコメントからも感じられるように、そのエッセンスが光る新曲が収録。追加された3曲を軸に、魅力をたどってみよう。
『タイラ +』開幕を飾る「シェイク・アー」は、タイラが世界に広めた「アマピアノ」の魅力にいざなう一曲だ。ダンス文化豊かな南アフリカ発祥のジャンルで、ハウスやジャズの要素が混ざり合うミッドテンポが特徴。2002年に生まれヨハネスブルグで育ったタイラは、14歳のころに聴いたKwiish SAの「Iskhathi (Gonggong)」に衝撃を受け、このサウンドで歌手になると決心したのだという。悲しい音色でも聴く者を踊らせるアマピアノの魅惑は、アルバムの閉幕を飾る失恋曲「トゥー・ラスト」で染みわたる。
2番目の追加曲であるポップ流アマピアノ「プッシュ・トゥー・スタート」こそ、本領かもしれない。ジャスティン・ビーバーやリアーナに憧れてきたタイラは、母国のアマピアノと西洋ポップR&Bを融合させたサウンド、名づけて「ポピアノ」の創造につとめてきた。
代表曲となった「ウォーター」は、ポピアノのひとつの完成形と言える。「メロディと構成はポップとR&B、ビートが故郷の真髄」と説明されたように、R&Bをトップラインに、サウンドプロダクションにアフロビートの要素を取り入れ、アマピアノを特徴づけるログドラムのリズムを基調としている。歌詞の面では、愛する人をセクシーに誘う内容ながら、ほのめかし表現によって汗ばむような魅惑を際立たせている。(おそらく米国などと比べてあけすけではない)保守的な家庭に育った彼女の南ア流の表現なのだという。こうした露骨ではない詩情にしても、日本のリスナーと相性が良い一因かもしれない。
3曲目のR&B「バック・トゥー・ユー」では、タイラのボーカリストとしての魅力に浸ることができる。幼少期よりホイットニー・ヒューストンを歌ってきたというだけあり、何度も恋人のもとに戻ってしまう愛を奥深く表現している。R&Bファンには、アリーヤ風のしっとりしたパーティーソング「オン・アンド・オン」もおすすめだ。
「完璧なデビューアルバム」と謳われた『タイラ』は、さまざまなジャンルをシームレスにつなぎ合わせることで南アフリカ流グローバルポップを打ち立てている。本稿で紹介した曲以外にも、米歌手のベッキー・Gが参加するラテン風トラック「オン・マイ・ボディー」など、多様なサウンドが華を添えている。
「2024年は自己紹介の年だった。来年はただ楽しんでいきたい」。制作2年にわたるデビューアルバムを成功させたタイラは、自由な進化を予告している。実際、来日後に発表された「ブリーズ・ミー」のミュージック・ビデオでは、大阪観光を満喫する自然体を見せた。ちなみに、ここで着用している阪神タイガースのユニフォームは、自身のファンダム「タイガース(Tygers)」とかけたスタイリングと思われる。
作風の拡張も予告されている。チャレンジしたいサウンドはデンボウやジャージークラブで、コラボしたい相手として挙げられたのは、ジャスティン・ビーバーやドレイク、そしてBLACKPINKのLISA、BTSのジョングク。アジアや北米、ラテンの文化とクロスオーバーしながら進化していく南アフリカ流ポップスターに要注目だ。
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