Special
<インタビュー>エスペランサが7年ぶり来日公演開催――ミルトン・ナシメントとの冒険と創造のプロセス
Interview & Text:柳樂光隆
21世紀のジャズの進化の象徴ともいえるベーシストでボーカリストのエスペランサが、久々に来日公演を行う。定期的に来日していたエスペランサだが、今回は7年ぶりの来日となり、しかも東京、横浜、大阪を回るツアーを行うのはかなり貴重だ。ビルボードライブが発行するフリーペーパー『bbl MAGAZINE』では、そんな彼女にオンライン取材を敢行。誌面では掲載しきれなかったインタビューの再編集版を公開する。さらなる完全版は、今回インタビューを担当した柳樂光隆氏のnoteにて公開されるので、そちらも併せてチェックしてほしい。
エスペランサは、この7年の間にコンセプチュアルな『12 Little Spells』『Songwrights Apothecary Lab』、即興の魅力にあふれた『Alive At The Village Vanguard』を発表し、いずれも高い評価を得た。コロナ禍も含め、エスペランサはアーティストとしてずっと進化し続けていた。
そんなエスペランサが今年発表したのは、ブラジルの伝説的なシンガー・ソングライターであるミルトン・ナシメントとのコラボ・アルバム『Milton + Esperanza』。エスペランサはこれまでにもミルトンの曲をカバーしたり、自作のゲストに迎えたりもしていたが、ついに連名でアルバムを制作した。彼女のこれまでの作品の中でも特に大きな話題になっているこのアルバムについて、エスペランサに話を聞いた。
制作のプロセスとストーリー
――新作の中でミルトン・ナシメントとの共同作業を行った楽曲に関して、特に印象深いプロセスを経て完成した曲があれば、そのエピソードを聞かせてもらえますか?
エスペランサ:それは全部(笑) 曲のすべてが、それぞれ独自の冒険を繰り広げて作られたから。どの曲も、その曲がどのようにして生まれたのか、全く異なる物語を持ってるの。コラボレーターやレコーディングしたタイミング、書かれたタイミングが曲ごとに違うから、すべてのプロセスが印象深い。そもそも、このレコードが出来上がったという事実だけでも本当にすごい冒険だと思う。何かをよく覚えているというより、それが起こったということが信じられない。2022年9月を振り返ると、当時は2024年8月(※取材時)にこのレコードの話をしているなんて予想だにしてなかった。時々振り返って、「待って、何が起こったの?」なんて思っちゃう(笑) まるで奇跡が起こったみたいで、制作期間が魔法や夢だったように感じる。
――スタジオで共に曲を作り上げていく際に、ミルトンはあなたたちにどんなアイデアを出したり、どんな指示を出したりしたのでしょうか?
エスペランサ:ミルトンは、私に曲も選ばせてくれた。でも、もちろん私は彼もやりたい曲を選びたかったから、彼が本当にやりたいと思う曲をいくつか挙げてもらったの。そしたら、彼はマイケル・ジャクソンの「Earth Song」とビートルズの曲、特にポール・マッカートニーが書いた「A Day in the Life」を選んだ。あと、これは彼のアイデアではなかったけど、彼の息子がポール・サイモンのために書いた「Um Vento Passou (para Paul Simon)」のことを教えてくれたから、私がその曲をアレンジしてレコードに収録しようと提案したの。そしたら彼も賛成してくれた。それがレコードの柱になって、他の曲は、その柱に合いそうなものを見つけていった感じ。

――『Clube Da Esquina』(クルビ・ダ・エスキーナ)や『Native Dancer』に代表されるようにミルトンはコラボレートのスペシャリストです。ミルトンの共同作業におけるすごさを感じるエピソードがあれば聞かせてください。
エスペランサ:声を聴けば、それがミルトンの声だとすぐにわかる。彼の曲は、彼そのものなの。ミルトンは、彼は地球を心から愛しているし、人類のことも深く愛している。友情を大切にし、ストーリーを愛している。そして彼は自由を愛し、子供時代や青春時代を愛している。そしてもちろん素晴らしいミュージシャンでもあるし、彼はとても賢くて、巧みで、耳がよく、音のすべてを理解しているから、彼とは本当にスムーズに仕事ができるのよね。彼との作業は、すごく自由だった。そして悦びにあふれ、遊び心があり、私を完全に信頼してくれた。私がアレンジやアイデアを持ち込んだら、ほぼ毎回それを受け入れ、試してくれたの。
――「A Day in the Life」は様々な音楽がコラージュされているようなアバンギャルドなアレンジになっています。どんな話をしながら、どんな経緯を辿ったらこんな曲になったのか聞かせてください。
エスペランサ:その曲に関しては、あまり会話はしなかった。あれはミルトンがやりたかった曲で、私はレコード制作のために4月にブラジルにいった時にその曲をやると初めて知ったの。でも、私はジャスティンもレオもマットもエリックもコーリーのことも1000%信頼しているから、とりあえずやってみようと思った。スタジオでどんな感じになるか様子を見てみよう、ってね。それで、スタジオに入って色々なことを試してみた。プロデューサーとしての私の仕事は、イエスかノーを言って正しい方向に導くことだったけど、レオが中盤でストライドピアノをプレイしたらクールだなと思って、それを提案した。あと、オリジナルのやり方の代わりに、ポール・マッカートニーが“Woke Up~”と歌う部分を私は全員に歌ってほしかった。でも、歌ってみたらちょっと変だなと思ったから、やっぱりみんなで叫ぼうってことになった。そんな感じで、言葉で例えると、作業の流れはまるで「早送りのガーデニング」みたいなもの。色々と種を植えて、それが周りの他のものと作用しあってどう成長していくかを見る、みたいな。途中で何かを加えたり、取り除いたり、刈って整えたり、水を増やしたり、そんな感じ。私の音楽の作り方は、時には綿密なアレンジをすることもあるんだけれど、ほとんどの場合はリアルタイムで反応を見ながら作業をすることの方が多いかな。
▲Milton Nascimento, esperanza spalding - 「A Day in the Life」Official Audio
- < Prev
- ミルトンからの影響
- Next >
リリース情報
アルバム『ミルトン+エスペランサ』
2024/8/9 RELEASE
公演情報
【esperanza spalding】
神奈川・ビルボードライブ横浜
2024年11月1日(金)
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 / 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
公演詳細
東京・ビルボードライブ東京
2024年11月3日(日・祝)
1st Stage Open 15:00 Start 16:00 / 2nd Stage Open 18:00 Start 19:00
公演詳細
2024年11月4日(月・振休)
1st Stage Open 15:00 Start 16:00 / 2nd Stage Open 18:00 Start 19:00
公演詳細
※大阪公演終了
関連リンク
ミルトン+エスペランサ
2024/08/09 RELEASE
UCCO-1243 ¥ 2,860(税込)
Disc01
- 01.ザ・ミュージック・ワズ・ゼア
- 02.カイス
- 03.レイト・セプテンバー
- 04.オウトゥブロ
- 05.ア・デイ・イン・ザ・ライフ
- 06.インタールード・フォー・サシー
- 07.サシー (ft.ギンガ)
- 08.思慮深い鳥のための翼 (ft.エレーナ・ピンダーヒューズ、オルケストラ・オウロ・プレト)
- 09.ザ・ウェイ・ユー・アー
- 10.アース・ソング (ft.ダイアン・リーヴス)
- 11.モーホ・ヴェーリョ (ft.オルケストラ・オウロ・プレト)
- 12.パネール航空の記憶(バルでの会話) (ft.リアン・ラ・ハヴァス、マリア・ガドゥ、チン・ベルナルデス、ルーラ・ガルヴァオン)
- 13.通り過ぎた風(ポール・サイモンに捧ぐ) (ft.ポール・サイモン)
- 14.ゲット・イット・バイ・ナウ
- 15.ほかの惑星
- 16.ホエン・ユー・ドリーム (ft.カロリーナ・ショーター)
37