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<わたしたちと音楽 Vol. 48>三原勇希×Rihwa 大人になって得た、エンパワーメントし合うシスターフッドの関係性
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回ゲストに迎えたのは、タレントやラジオパーソナリティとして活躍する三原勇希とシンガーソングライターのRihwa。三原が主宰するランニングコミュニティ「GO GIRL」にRihwaが曲を提供するなど、公私に渡って仲を深めているのだそう。二人に話を聞いていく中で見えてきたのは、連帯によって互いを支え合う“シスターフッド”の関係性。エンタメ業界で生きる2人が、今感じていることとは。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING])
仲間がいないとの声を聞いて、
輪を繋げていった
三原勇希:最初は私がMCをしていた『saku saku』という番組に出てもらったことで出会ったんです。
Rihwa:そうそう、私がデビューする前、インディーズの状態で番組に出させてもらったんですよね。地元・札幌から上京して間もなくて、「まだ友達もいない」って話したら、「(三原さんと)友達になれば良いじゃん」という話になって。そのときは社交辞令だと思っていたんですけれど、勇希が収録後に連絡先と「連絡ください」って書いた手紙をくれて。そんなことしてもらったの初めてですごく嬉しくて、すぐに連絡して遊ぶ約束をしました。友達の多い勇希を介して出会った人もたくさんいて、おかげさまで友達の輪ができました。
三原:仲良くなってからは一緒に山に登ったり、音楽フェスに行ったりアクティブなこともしているし、2人で家でダラダラすることもあるよね。それぞれラジオを始めるタイミングも同じだったりして。
――それからRihwaさんは、三原さんが浅野美奈弥さんと主宰する女性のためのランニングコミュニティ「GO GIRL」のために「GO GIRL」という曲をプレゼントすることになるんですね。三原さんはどうして、この活動を始めたのでしょうか。
三原:私がランニングをしていることを発信すると、女性たちからさまざまな声が集まってきたんです。「ランニングしたいけど、続かない」とか「運動したいけど何から始めればいいかわからない」とか、あとは「仲間がいない」という声もありました。ランニング総人口から見ても、若い女性の割合って少ないんですよ。それはそれで良いし、みんなほかに楽しいことも多いから時間がないとか、年齢的に体力もあるから意識が向かないとか理由もわかるんですが。ただ、最初は部活の延長で辛いイメージもあると思いますが、大人になってからする運動はもっと自由で楽しい。その体験を女性たちで分かち合うためにも、いろいろなものと組み合わせて、楽しく運動を続けられるプログラムを作っています。
Rihwa:そうやって活動している勇希を見ていて、すごく素敵だなと思って。誕生日プレゼントとして、曲を作りました。走る時に聞いてもらえるようになるとは思っていなくて、単純に「あなたはすごい! カッコいい!」というのを伝えたかったんです。
ライフステージが変化して、
変わるもの、変わらないもの
――それから三原さんは、妊娠・出産も経験していますが、どんな変化がありましたか。
三原:郊外に引っ越して、仕事も減って家にいる時間が増えて、ライフスタイルは本当にガラッと変わりました。あとはすべての子どもに対して抱く愛情が強くなったという良い変化もありましたけど、根本は変わっていないですね。
Rihwa:勇希は、ライフスタイルの変化も含めて一貫して楽しんでいるように見える。人に「悩みとかあるの?」って聞かれたら「あるよ!」って答えるじゃないですか。勇希はそこで「悩むことは、別にないかも」って答えるの。常に楽しんでいるから、悩みの概念が違うのかなって思いました。
三原:今すごく恵まれているってことなんだけどね。そう言われると、そうかもしれない。常に考えることはいっぱいあるし、もちろんうまくいかないこともたくさんあるんだけれど、それを“悩み”と捉えていないのかもしれないですね。
――三原さんのようにライフステージの変化も関係していると思うのですが、女性であることは人生やお仕事にどんな影響を与えていると思いますか。
Rihwa:女性だからなのか、私のキャラクターが原因なのかは分からないんですけれど、業界の中では“若い子”の扱いをされることが多くて、特に異性の関係者からは「お世話してあげる」という振る舞いで接されることが多かったですね。それに助けられた経験ももちろんあるんだけど、子供扱いして信頼されていないと感じることもあって、私が違うキャラクターだったり男性だったりしたら違ったんじゃないかって。だからか、異性がいる現場だと「舐められないようにしないと」って戦闘モードに入っちゃうときもあるっていうか……。
三原:業界には、男性のほうが多いしね。私は情報番組のリポーターや司会のアシスタントをしたりしていると、特に“若い女性”として扱われているのを感じることはありました。若い女性だからこそのポジションだとも思うし、芸能界でステップアップするにはグラビアをやれば売れるよ、必要な段階だよとも言われました。年齢や経験を重ねるうちに、そういう扱いをされることも減るし、自分自身もビビらなくなる。周りが変化していなくても自分が変化して、スタンスも変わりましたね。もっと発言して良いんだって思えたから、いろいろなことを言えるようになった。
女性同士の連帯によって
より自由でいられる
――昔の自分にアドバイスをするとしたら?
Rihwa:私は在日韓国人4世で、母親はマイクロアグレッションやフェミニズムについてもよく話をしてくれましたし、彼女自身が「女はこうあるべき」というジェンダーバイアスに対して抵抗する姿を見せてくれました。私も大人になって、「痩せろ」って見た目のことばかり言われたり、「これって女性だからじゃないかな?」と抑圧感に気がつくようになって。今は友達ともそういう話ができるようになったから、女性同士で支え合うってすごく大切なことなんだと身をもって体験しています。だから、若い世代のアーティストにも、そういう話ができる場があったら良いなと思います。
三原:私は「言われた通りにやらなくていいんだよ」でしょうか。おかしいと思ったことがあっても「そういうもんだから」と周りの大人に言われてきた。台本をもらって読む仕事だとしても、自分が思ったことがあれば相談してみても良いだろうし。これはどんな仕事でも当たり前のことなんですが、そう思えなくなっていたんですよね。与えられた仕事を与えられた通りにやるだけよりも、自分の頭で考えてやったほうが良くなることもあると今は思えます。
Rihwa:そう、私もそんな勇希にエンパワーメントされたんです。「こうあるべき」って周りから押し付けられることに対して、自分の考えをちゃんと伝えていこうと思えるようになりました。
三原:私も、Rihwaに勇気づけられてるよ! すごくユーモアのセンスがあって、いつも笑わせてもらってる。みんないろいろな経験をしてだんだん純粋無垢ではいられなくなっていくと思うんですけれど、Rihwaは年々自由になっていって、爆発している感じ。
表に出る人も裏で支える人も、
みんなが働きやすい環境を
――お二人は、すごく良い関係を築いていらっしゃるんですね。そうやって仲間を見つけることは、自分自身の強い支えになると思いますが、エンタテインメントの業界で女性が活動しやすくなるには、何が必要だと思いますか。
三原:私は13歳でデビューして20年になりますが、SNSがなかった時代に比べると、今は「こうあるべき」と提示されるシステムやイメージを脱して、自分らしさを強みにして活動ができるように、エンタメ業界も変化してきているとは思います。より良くするとしたら、妊娠や出産、育児のサポートがあったらもっとできることがあるかなぁ。出演者側は会社員と雇用形態も違うので、制度が整っているとは言えなくて。レギュラー出演している局がサポートしてくれたりして、産休や育休が使えるといいなと思います。あとは昼夜も休日も関係ない業界なので、女性のスタッフさんは特に、業界全体に働き方改革は必要ですよね、難しいけれど。
Rihwa:私も、結婚や妊娠・出産のことも考えるけれど、仕事を休んだら収入がなくなってしまうので、生活はどうなるのか心配。これって、会社の偉い人たちの男性率がすごく高いからなんじゃないかと思うんだよね。男性が築き上げたシステムの中で、みんなが働いている感じがするのと、がむしゃらにたくさん働くのが良しとされていた時代の名残もあると思う。上層部に女性が増えたら、同じ女性として分かりあえることもある。毎月生理による体調の波もあるし、妊娠・出産のタイミングもあるし、女性として向き合わなくちゃいけないことを共有したいですよね。
三原:そうだね。女性に限らず、さまざまなジェンダーや年齢の人がエンタメ業界の裏方に増えていったらいいよね。
プロフィール
雑誌『nicola』モデルとしてデビュー。tvk『saku saku』で4代目MCに抜擢されるなどさまざまな番組への出演を経て、現在は音楽、映画、スポーツ、カルチャーなど多方面への造詣の深さから、ラジオパーソナリティや番組MCを務める。2019年より、女性のためのランニングコミュニティ「GO GIRL」を主宰。マラソン出場歴は14回。2023年に出産し一児の母となった現在もアクティブに活動中。著書に「令和GALSの社会学」。
中学卒業後、単身カナダへの留学を決意し、高校生活3年間をカナダ・ベルビルにて過ごす。在学期間中に出演したボーカルクラスの音楽イベントで、初めて多くの観客を前にケリー・クラークソンの「Because of You」を披露し、音楽が与えるパワーに衝撃を受ける。以降、カントリー・ミュージックをベースにした楽曲制作を始め、帰国後、北海道内を中心にライブ活動を開始。インディーズ・レーベルより「privateシリーズ」と題したシングル3枚とフルアルバムをリリースし、2012年7月にメジャー・デビュー。
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