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<コラム>MIYAVIが2部作で貫く“二面性”に迫る――ニューアルバム『Found In Pain』
Text:東條祥恵
MIYAVIが10月23日、ニューアルバム『Found In Pain』をリリースした。今作は、彼が2024年4月に発売したアルバム『Lost In Love』と対をなす作品として作りあげたもの。この2枚のアルバムを貫くテーマは「Duality(二面性)」。このようなコンセプチュアルなテーマを、アルバム2枚にわたって、2部作で表現したのはMIYAVI史上初の試みとなる。ロックミュージシャンとして、アクターとして、さらには人道支援活動家として世界を飛び回っているMIYAVIがこうしてオリジナルアルバムをリリースするのは、3年ぶり。そうして誕生したこの2部作で、MIYAVIは既存のパブリックイメージを軽々と飛び越えて、いままで見せなかった新境地を堂々と開拓してみせた。アーティストとして、ニュー・チャプターへの突入を告げる予想もしなかった衝撃的意欲作がここに完結する。
そもそも彼は、なぜこのようなテーマを描こうとしたのか。MIYAVIの活動の根源にあるものは、自分が作り、奏でる音楽や人道支援活動で、人々に生きる希望や勇気、元気を与え、生き様を通して「私もこれから頑張って生きていこう」と思える存在になりたいという思いだ。だからこそ、これまでMIYAVIはサムライ・ギタリストとしてステージに立ち、ロックスター然とした輝きを放ちながら、強い存在感でギターをかき鳴らし、声を張り上げて叫ぶエネルギッシュな歌とステージパフォーマンスで、人々を鼓舞して、ポジティブなエールを送ってきた。だが、その「頑張れよ」というストレートなエールに元気をもらう人がいる一方で、目の前の現実に打ちのめされ、頑張りたくても頑張れない人がいるのも事実。そんな人々に簡単に「頑張れよ」といえない場面も、過去に行なってきた人道支援活動で体験してきた。そこで今回、MIYAVIは自分自身がロックスターならではの孤独や痛み、苦しみ、恐怖、葛藤と向き合ったとき、そこでどうもがきながら弱い自分と対峙して乗り越え、新しい自分を見つけていったのか。そのプロセスを描くことで、そんな人々に寄り添い、メッセージを届けたいと考えた。それが、今回の2部作なのだ。
この2部作では、リリックのアプローチがこれまでの作品とはまったく違うところにまず注目してもらいたい。さらに、その繊細な心境の移り変わりを表現する楽曲、サウンドもこれまでとは違う。この2部作を通して、MIYAVIはもの凄い数の共作者、トラックメーカー、プロデューサーとセッションを繰り返し、楽曲を制作していった。『Lost In Love』では、ダークな要素を放つ楽曲や官能なミドルチューン、『Found In Pain』では陽気なダンスナンバーから本格的なバラードまで、これまでにはなかったタイプの楽曲にも果敢にチャレンジ。そこにのせた歌詞は、繊細な心境の変化、そのストーリー性を伝えたいという思いから、2作通して全編が英詞で統一されている。それにともなって、メロディーも、J-POPな歌メロを意識的に取り込むのではなく、洋楽的なグルーヴを感じさせる流れが一貫しているところも今作の特徴といえる。
一聴すれば分かると思うが、この2作のなかで、なによりもその存在感を放っているのが、MIYAVIのボーカルなのだ。ファルセットを使った歌唱、多重ハーモニーに妖艶でセクシーな声色、語りのようなウィスパーな歌のアプローチなど、これまで見せなかった多彩な歌声で様々なタイプの楽曲、歌詞に描いた心情をアクティングするかのように歌い分けていく姿は、まぎれもなくフロントマン。「この歌声がMIYAVI?」、「ギターではなく、歌でも感情をこんなに風に表現できる人だったの?」と、その才能の凄さに衝撃を受ける。この2作で、間違いなくボーカリスト、シンガーとしてのMIYAVIは覚醒していた。
こうして、メロディーを歌い、メッセージを届けていくボーカリストとしての自分をこのタイミングでここまでアピールできたのは、これまで世界と戦ってきたギターで、自身のアイデンティティーを確立できたという手応えがあったからこそ。それを示すようにこの2部作では、これまでのように楽曲をギターでどう歌うのか、どんなフレーズを入れ込んでギターを引き立たせるのかというアプローチは控え目。いつもならあとから自分のギターに置き換えていた鍵盤のフレーズや、MIYAVIではない人が入れたギターも、よければそのまま採用するという振り切ったスタンスで、より楽曲が、よりメロディーが放つエッセンスやテイストが映えるアレンジをこの2作品では最優先している。以前よりも狙いすましたポイントポイントで、鳴り響くMIYAVIのギターの細やかなフレージングや音色、プレイの一つ一つが、より存在感を増して浮き彫りになって届いてくるところも注目だ。
MIYAVIの今回の2部作、ぜひ2枚の作品を通して楽しんでもらいたいと思う。
「Intro」からダークサイド、心の闇の扉を開けるように始まる前編『Lost In Love』は、首振りダンスのパフォーマンスが印象的なロックアンセム「Broken Fantasy」、ファルセットを使った歌からラップへと展開していくヒップホップ調の「Real Monster」、ダークで胸を締めつけるメロディーとコーラスワークで運命に翻弄されておちていく「Tragedy Of Us」、ピアノとウィスパーな歌声、そこにMIYAVIのギターが雷のように響いてくる「Last Breath」で自分の闇、溺れた愛、痛みと決別していく。そこから後編となる『Found In Pain』は、ゴスペルのような聖なるコーラスワークがダンスビートに変わり、新たな自分が不死鳥のようによみがえり、飛び立っていく「Found In Pain」で幕を開ける。MIYAVIが10代の頃から戦い、歩んできた人生のリアルストーリーをフェンダー片手に叫ぶ「You Already Know」、ファンク界の重鎮であるジョージ・クリントンとコラボした「I’m So Amazing」、歌詞も歌も官能的なバラード「Put Your Hands On Me」などを経て、最後の「One More Time」、「Sanctuary」で、MIYAVIはどんなに夢や希望を見失っても、奏でるギターが羽となり、歌うたびに空高く飛んで、再び夢や生きる意味を見つけてきた音楽のなかこそ、自分と向き合い、新しい自分を見つけられる神聖な場所なのだと伝わってくる。
MIYAVIがあらゆる面で、新境地へと踏み出したこの超大作、このような音楽を本当にいま必要としている人たちにこの作品が届き、MIYAVIのこの音楽が、生きる勇気や希望を再び見つけるきっかけとなってくれることを願う。
Found In Pain
2024/10/23 RELEASE
LAMR-5031 ¥ 3,190(税込)
Disc01
- 01.Found In Pain
- 02.You Already Know
- 03.I’m So Amazing
- 04.If You Know How To Dance
- 05.Put Your Hands On Me
- 06.Don’t Make Me Love You Like The Last Time
- 07.Not Strong Enough
- 08.One More Time
- 09.Sanctuary
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