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<インタビュー>小さな日々こそがプレシャス――10年ぶりのアルバムを完成させた竹内まりや、時代に寄り添う“普遍的な音楽”への想い【MONTHLY FEATURE】
Interview:Takuto Ueda
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、およそ10年ぶりのオリジナル・アルバム『Precious Days』をリリースしたシンガーソングライター、竹内まりやのインタビューをお届けする。
映画『あいあい傘』主題歌の「小さな願い」、ディズニー映画『ダンボ』日本版エンドソングの「ベイビー・マイン」、Netflixシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』主題歌の「君の居場所(Have a Good Time Here)」、映画『最高の人生の見つけ方』主題歌の「旅のつづき」など、数多くのタイアップ・ソングも収録した本作。アルバムを制作するにあたり、特定のテーマやコンセプトは設けなかったが、自然と「人を励ます、元気づける曲」を作ってほしいというオファーが多く集まり、結果的に“かけがえのない日々”の尊さを再認識する一枚になったという。
それは不安を抱きやすい現代人の暮らしと根付いたものでもあり、昨年末にデビュー45周年を迎えた竹内自身が抱く、当たり前の日々を大切にしていきたいという想いの表れでもあるのではないか。バラエティに富んだ曲調を揃えつつ、様々な角度からリスナーの日々を照らす本作の手応え、さらには昨今のシティポップ・リバイバルのこと、ブレずに続けてきた曲作りのスタンスについてなど、話を聞いた。
『Precious Days』が時代に寄り添った作品になった理由
―まずは今回、アルバムの制作に至った経緯を教えてください。
竹内まりや:今回に限らず、私の場合は『Variety』(1984)からずっと、曲が少しずつたまっていったら、それをまとめて「じゃあどんなタイトルにしようか」というアルバムの作り方をしています。(山下)達郎の体が物理的に空かないと、私のほうのアレンジやレコーディングはできないので、どうしてもテンポが遅くはなるんですけど。
―制約もありつつ、それが竹内さん自身の曲作りのスタンスでもある。
竹内まりや:今回に関してはコロナ禍もありましたので、そのあいだにできること、例えばどなたかから楽曲提供の依頼があれば書きますし、達郎が関われなくても、林哲司さんや杏里さんとコラボしてみたり、若いアレンジャーの方にセルフカバーのアレンジをしていただいたり、そうやって少しずつ曲がたまっていったので、今だったら出せるなという状況が来たんです。18曲入りは今までで一番多いかもしれないですね。
―オリジナル・アルバムとしては10年ぶりになりますもんね。
竹内まりや:期間が空くことはわりと普通のことなんですけど、やっぱりコロナ禍もありましたし、プラス、達郎自身が『SOFTLY』(2022)をずっと作っていたので。彼のは11年ぶりだったんですよね。ツアーもコンスタントにやっているので、特に今回はこちらに回せる時間が少なかった。でも、そのおかげでいろんな人と一緒にやれたのは良かった部分でもあります。オーケストラとの洋楽カバーを入れたり、いつもと違ったことも多少できた。
―だからこそアルバムのトラックリストも多彩で。
竹内まりや:アルバムをコンセプトありきで作る方もいらっしゃると思いますが、私は基本的に五目味でバリエーションに富んだ内容になっているほうが好きなんです。
―それと同時に『Precious Days』というタイトルも象徴している通り、かけがえのない日々の尊さがアルバム全体のムードとして、ひとつのテーマにもなっている。
竹内まりや:もちろんタイアップの楽曲のときは、いただいたテーマに即して曲を書くんですけど、ここに来て、人を励ますとか、元気づけるとか、そういったテーマでの依頼がすごく多かったんですね。それは時代をある程度、反映しているのかな。いろいろと不安な時代で、みんな心細いから励まされたい、というか。
―やはりコロナ禍以降は特に?
竹内まりや:以前からそんな感じはありましたよね。それがコロナ禍で余計に。私自身も家にずっといるようになって、例えばウクライナでの戦争とか地震とか、世の中の動きを見て「先が不安な時代だな」と実感するようになりました。そんなことも影響して選ぶ言葉が少し変わったということはあるかもしれない。失恋の曲は入ってますけど、若い時のように単純に楽しい恋愛の曲の発想は出なかったし。「色・ホワイトブレンド」みたいなね。
―世相からの影響というか。
竹内まりや:逆にあってもいいと思うんですけどね。暗い時代なら。だから『ポケモンコンシェルジュ』の「君の居場所(Have a Good Time Here)」はうんと明るく作ったんです。
―結果的に時代に寄り添ったアルバムになったと。
竹内まりや:そうなったと思います。常に世代に関係なく歌いたいという想いがあって、それはわりと実現できたかなと思っているんですね。大人な世界もあれば、ポケモンのような世界もある。そういう普遍性は追求できたかもしれないなと。どんな世代、どんな性別の人にも違和感なく聴いてもらえるような作品になったんじゃないかなと思いますね。
シティポップのリバイバル・ヒットは
日本のプレイヤーが世界へ行けるだけの力量があったことの証明
―これまでのキャリアを通しても、竹内さんは幅広いリスナーに音楽を届けてきたのかなと思うのですが、今回、その想いをあらためて意識したのは何故なのでしょう?
竹内まりや:特に世代を意識して書いているわけではないんですけど、でも、共通して求められる心情みたいなものはあるはずだと思っていて。それは言葉もそうだし、音作りも普遍的な、20年30年経っても決して古いと感じないようなものにはしたいと思っています。そこは達郎がいちばん気をつけているところなんですね。彼自身の楽曲制作のときもそうだけど、私の作品のプロデュースをするときもそう。
―そういう美学が昨今のリバイバルにもつながっているんでしょうね。竹内さん自身、シティポップをはじめとする80年代、90年代の音楽が国内外で再評価されていることに関して、ご自身で体感する機会も増えましたか?
竹内まりや:最近多くなりましたね。それこそ「プラスティック・ラブ」という曲がどういう人に聴かれているか調べたときに、ロシア語があったり韓国語があったりして。カナダに住んでいる姪っ子がいるんですけど、「プラスティック・ラブ」を歌っているのが自分の叔母だと言うと、みんなが驚くとか。あとは昔、イリノイ州に留学していたことがあるんですけど、当時のホストシスターの孫が家電屋さんに行ったら、お店の人が達郎や私の曲をずっと流していたらしいんです。「その人、うちのお婆ちゃんちに1年いたんだよ」と言うと驚いていたって。感謝ですよね。だって40年前の曲なんですから。
―それこそ“普遍的な音作り”の賜物ですよね。
竹内まりや:そのときのトレンドだけで作っていたら、たぶんこの現象はなかったと思います。
―いわゆるシティポップと呼ばれる音楽のどんな部分が世代や国境を超えて愛される理由になったのだと思いますか?
竹内まりや:画一的なマシンの音ではなく、アナログ時代の80年代に日本人プレイヤーが人力であのような洋楽めいたことをしていたことが、もしかしたら稀有に見えているんじゃないかなと思います。達郎のアレンジの妙も含めて、あの時代に自分たちが知り得なかったアジアの若者たちが、本場を意識してこんなことをやっていたという、そういう驚きがたぶんあったんじゃないかなって。
―時を経てようやく見つけてもらえた、というか。
竹内まりや:もちろん私たちは「良いものを作ろう」とか「洋楽を意識した音作り」を目指してはいたんですけど、でも、それは洋楽のマーケットで売れようとしていたわけではなく、「そのほうがカッコいいじゃん」ぐらいの感じでした。でも、何しろパワーがあったんですよ。スタジオ・ミュージシャンの演奏力もそうだし、何よりも達郎のアレンジがパーフェクトだった。ドラムのビートやベース、それから彼自身のギター・カッティングやソロ、それに絡まるブラスやストリングスのアレンジを一人で全部やっているので。そこに大貫妙子さんがコーラスで入ったり、本当にシティポップの原型みたいなことを84年にやっていた。それが時を経ても持ちこたえるコンテンツになったんだと思います。そうやってレコーディングされた音楽って今、世界でもなかなか少なくなっていると思うので。プレイヤーたちの演奏にも世界へ行けるだけの力量があったことの証明なので、本当にうれしい現象ですよね。
―そうですよね。
竹内まりや:あと、私のボーカルの部分で言うと、思いを強く入れようとかではなく、ただサウンドに合う音で、すごく漠然と歌っているので、歌詞の内容はともかく、一つのサウンドとして聴いてもらえているんじゃないかなって。でも、「プラスティック・ラブ」というタイトルなので、日夜不毛な恋をしている主人公の孤独な感じはニュアンスとして伝わっているかもしれない。ちょっと退廃的なあの頃の東京という都市が持つ孤独感というか。
―ああいったシティポップ・リバイバルも、今作の普遍性につながるきっかけになったりしましたか?
竹内まりや:そもそも出発点でもあるんですよ。私がデビューしたときから、ポップスと呼ばれるものは、いろんな形態があるにしても、長く聴かれて、歌われて、スタンダードになり得るものを目指そう、というところから始まっている。そこはブレずに、そういう姿勢でずっとやってきたつもりです。「今、何が流行なのか」を考えながら音楽を聴くのは楽しいけど、それを作るのは他のアーティストがたくさんやっていらっしゃるので、「じゃあ私に求められていることは何だろう」ということはいつも探しているんですね。今おいくつですか?
―私は32歳です。
竹内まりや:そういう世代の方にインタビューをしてもらう時代が来るとも思っていなかったんですよ。自分がそんな時代までレコードを作り続けるとは思っていなかった。まさか70近くになってもアルバムを作っているとは。そういう意味でもありがたいことなんです。
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Precious Days
2024/10/23 RELEASE
WPCL-13607 ¥ 3,410(税込)
Disc01
- 01.Brighten up your day!
- 02.小さな願い (2024 New Remix)
- 03.ベイビー・マイン (日本語Ver)
- 04.君の居場所(Have a Good Time Here)
- 05.Smiling Days (2024 New Remix)
- 06.Watching Over You
- 07.遠いまぼろし
- 08.Subject:さようなら
- 09.夢の果てまで
- 10.TOKYO WOMAN
- 11.旅のつづき (2024 New Remix)
- 12.Coffee & Chocolate
- 13.Days of Love
- 14.歌を贈ろう
- 15.今を生きよう(Seize the Day) (2024 New Remix)
- 16.All I Have To Do Is Dream
- 17.今日の想い (2024 New Remix)
- 18.May Each Day
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