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<インタビュー>Ken Yokoyama、“90年代に鳴らされた音”を再定義したカバーアルバム『The Golden Age of Punk Rock』とは

インタビューバナー

Interview & Text:小野島大

 今年1月にアルバム『Indian Burn』をリリースしたばかりのKen Yokoyamaが早くも新作を発表する。そのものずばりの『The Golden Age of Punk Rock』というタイトルを冠したパンク・ロックのカバー・アルバムだ。古今東西、こうしたパンク・カヴァー・アルバムは数多く出ているが、取り上げる大半が90年代のアメリカのパンク、それもメロディック・パンクと言われる楽曲という徹底性は彼らならではだ。そうした楽曲たちを育んだ時代を『パンク・ロックの黄金時代』と呼び、これが俺たちの時代、俺たちのパンク・ロックだと誇りをもって宣した……これはそんなアルバムなのだ。選曲の中心を担った横山健(Vo./Gt.)と、南英紀(Gt.)に訊いた。

“90年代に鳴らされた音”を再定義

――今作はどういう風に持ち上がった企画なんでしょうか。

横山健:ザ・スタークラブが、『ゴッド・セイヴ・ザ・パンクロック』(1987年)っていうのを出したじゃないですか。あれ、僕はすごく強烈に印象に残っていて。

――セックス・ピストルズやザ・クラッシュなど、主に70年代オリジナル・パンクのカバー・アルバムですね。

横山:ですね。それがすごくカッコよく見えたんですよね。もし俺がこれを90'sパンクでやったらどうなる?って思って。去年の6、7月、『Indian Burn』をレコーディングしている時にメンバーに話をして。すぐ録ろうっていう話になりました。


――横山さんと南さんはほぼ同世代ですよね。通ってきたパンク体験も似通っている?

横山:そうですね。パンク以前の音楽もほぼほぼ一緒です。僕は90年代にHI-STANDARDをやって世界に出て。南ちゃんもKEMURIとして90年代はアメリカ、海外に行ったりしていて。この辺のバンド(今作でカバーしたバンド)と、本当に僕たちはシノギを削っていたんです。


――実際に交流のあるバンドもいくつかある?

横山:はい。大半はツアーやったりして交流があります。


――今回、選ばれている楽曲を見ると、90年代のものが多いですね。90年代の楽曲を主に選んだ理由は?

横山:90'sパンクというのは、オリジナル・パンクとか、ハードコア・パンクとかとはまた違ったムーヴメントじゃないですか。メロディック・パンクと言われたり、ポップ・パンクと言われたり。日本ではメロコアって言われたり。何となく実体のないもの、実態が掴みづらいもののような気がしていて。それを90年代に鳴らされた音というところで、再定義したかったんですよね。


――いわゆるメロディック・パンクと言われているものの存在をご自分たちが意識したのって、いつ頃ですか?

横山:僕の場合はね、91年の、ハイスタで初めてスタジオに入った時ですね。それまではスナッフしか知らなかった。NOFXもバッド・レリジョンもディセンデンツも知らなくて。




――最初の頃のハイスタはもっとハードコアだった?

横山:だと思いますね。はい。『GROWING UP』(1995年)を作った頃に、けっこうしっかりとメロディを打ち出したので。その前のミニアルバムの頃とかはもっと、もっとカオスです。その時に考えていたことを明確に覚えているんですけど。メロディがしっかりあって、それをパンクの疾走感の中でやりたいという。それってつまりメロディック・パンクなんですね。それを誰にも教わらずに、ちゃんと自分で発想したんですよ。


――90年代以降はお二人にとってはハタチを過ぎている頃で。ある程度自分の基盤が出来上がっていた。そのうえで自分のやりたいことを自覚してやり始めたのが90年代。

横山:うん、そうですね。今回のアルバムは同じ頃、同じような考えを持って、世界中に散らばっていた人たちを集めたという感じですね。やっぱり仲間意識はあります。94年とかになりますかね。グリーン・デイ、オフスプリングあたりがブレイクして。NOFXとか、バッド・レリジョンが名盤を出して。そのあたりで、あれ、もしかしたらこの辺と(自分たちは)本当にリンクしているかもしれないな、とは感じ始めましたね。実際、 ノー・ユーズ・フォー・ア・ネーム(今回「International You Day」をカバー)と2か月一緒にツアーして夜な夜な話をしてたら、僕たちが鳴らせるパンク・ロックって、初期パンクとは違うっていうとか、過去にどういう音楽が好きだったかとか、そういうのがすごく近かったんです。そういうのを持った子供が、世界中に散らばっていて、それがバンドを作っているんだなって。すごく不思議な気持ちになりましたね。

南英紀:僕はちょっと違うんですけど。KEMURIに入ったのが27か28歳の時だったんですよ(1998年)。だから、ここでやってるバンドは聴き手として普通に聴いていた。HI-STANDARDが出てきた時、日本にもこんなバンドいるんだってすぐにチェックしたけど、仲間とかいう意識はなく、ただ聴いていたので。だから健さんのこれに向ける思いとは違いますよね。でも健さんがこういうのをやりたいって言った時に、単純に楽しそうだなと思った。昔大好きで聴いていたものをカヴァーできるというのがね。


――なるほどね。あと、選曲の際立った共通点があって。アメリカの、それも西海岸ものが多いですね。

横山:本当はもうちょっと、色々選べられればよかったんですけど。意図はしていないですね。結果こうなった。


――たとえばオフスプリングとかグリーン・デイとか、そこら辺のポピュラーなバンドも入っていない。

横山:オフスプリングは、トライしたんですよ。でも、(ボーカルの)キーが高すぎて、できなかったです。


――(笑)。確かにデクスター・ホランドの声は高いですね。

横山:やりたかったんですよ、すっごく!すごくやりたかったんですよ。いくつかそういうバンドもあるんです。トライして、音も実際に出してみたけど、なんか俺たちがやるとカッコ悪いなぁとか。キマらないなというバンドはいくつかありましたね。


――実は私、一昨年にオフスプリングが来日した時に取材したんですよ。その時のテーマが90年代パンクで。彼らが出てきた背景とか、その時のことを聞いたんですけど。デッド・ケネディーズとか、そういう前世代のパンクと、あなた方のパンクって何が違うんですかって尋ねたら、やっぱり、メロディがあるかどうかじゃないか、と言っていて。

横山:うんうん。でもみんな、ハードコアだったり初期パンクだったり、みんな、そこに対するリスペクトはものすごくあるんですよね。それがなければ出てこなかったというか。そこでメロディに特化したのが90sパンクだと思いますね。




――そういうものが出てきた背景って、ご自分なりに考えたことありますか?

横山:うーん。僕の聞いてきた音楽と照らし合わせて考えると、80sのヒットチャートってみんな聴いてたと思うんですね。いろんなジャンル、いろんなタイプの曲がヒットチャートを賑わせていて。どれも並列で聴く耳が養われていたと思うんですよ。マイケル・ジャクソンがいてマドンナがデビューしてプリンスがいてブルース・スプリングスティーンがいて、ジョン・クーガーみたいな、ちょっとカントリー上がりの人がいて。そういうのを本当に分け隔てなくみんな聴いていたと思うんです。そこから、俺はメタルが好きだとかディスコが好きとか分かれていって、俺はパンクロックがやりたかった。僕らの世代の音楽ファンは、80年代で育てられたと思うんです。自分がバンドを組んだ時も、当然いろいろなエッセンスが入り込んでいて。それをパンクロックのスピードに乗せて演奏する、そういう発想に行くのって、そんなに突飛なことではなくて。


――自然な流れであったと。

:80年代、70年代の音楽は何でも聴いていたんですよ、流れてくるものは。で、高校生くらいになってちょっと気持ちがやんちゃになった時に、ちょっと反逆的な音楽ということで、出会うわけじゃないですか、パンクロックというものに。いわゆるメジャーなポップ・ミュージックなんてクソだと。パンク・ロックとかメタルとか、アンダーグラウンドなものにどんどんハマって行くんですけど。しょせん、自分の中にはもう、80'sが根付いちゃっているから(笑)。


――ポップなものがね(笑)。

:そうそう(笑)。例えば、パンクとかを聴いているうちに、ディセンデンツとかを発見するわけですよ。こんなにメロディがあって許されるんだ、ありなんだっていう。そう思ったときに、自分の中で、メロディの良いものが好きっていう気持ちとリンクしちゃうんですよ。

横山:そう。だから、不思議だと思うけど必然でもあったんだと思います。自分のライフスタイルとか、好きなものが自然と90'sパンクとピッタリ合っちゃった感じなんですよ。だから、先輩のパンクスとは明らかに違うことは感じていたんですよね。でもパンクだということには迷いがなかった。


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Ken Yokoyama「The Golden Age Of Punk Rock」

The Golden Age Of Punk Rock

2024/10/16 RELEASE
PZCA-108 ¥ 2,750(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Soothing
  2. 02.It’s A Fact
  3. 03.Stickin’ In My Eye
  4. 04.Too Late
  5. 05.International You Day
  6. 06.I’m The One
  7. 07.All My Best Friends Are Metalheads
  8. 08.You’ve Done Nothing
  9. 09.Time To Grow Up
  10. 10.Roots Radical
  11. 11.Crazy
  12. 12.All The Small Things
  13. 13.Break The Glass
  14. 14.21st Century Digital Boy
  15. 15.Holiday
  16. 16.May16

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