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<鼎談>セツコ(空白ごっこ)×澤野弘之(作曲・編曲・プロデュース)×オカモト(原案・監督)――TV アニメ『メカウデ』OP・EDテーマを紐解く

インタビューバナー

Interview & Text:須藤 輝


 10月4日に、空白ごっこのボーカル・セツコが歌唱を担当する3曲入りデジタルシングル『VORTEX』がリリースされた。

 収録曲の「VORTEX」と「karma」は、10月3日より放送のTVアニメ『メカウデ』オープニングテーマとエンディングテーマ。本作は、主人公のアマツガ・ヒカルが謎の“ウデ”型機械生命体アルマと出会い、事件に巻き込まれていく様子を描いた作品だ。

 今回は、セツコ(空白ごっこ)と『メカウデ』の原案・監督であるオカモト、作曲・編曲・プロデュースを手掛けた澤野弘之の鼎談が実現。それぞれの「VORTEX」「karma」への印象や制作エピソードなど、ここでしか聞けない話題が目白押しである。

『メカウデ』のかっこいい部分をサウンドで表したい

――セツコさんと澤野さんは、お互いの音楽に対してどのような印象を持たれていましたか?  また、コラボするにあたってどのようなことを考えましたか?


セツコ(空白ごっこ):澤野さんの作品はサウンドトラックよりもSawanoHiroyuki[nZk]のほうを聴く機会が多いんですけど、[nZk]の楽曲は、音楽としての土台は一緒なのに、ボーカリストによってかなり印象が変わるんです。それはボーカリストの選定によるものだけでなく、歌の余白を残して曲を作られているからなのかなって。じゃあ、そこで自分はどう立ち回ればいいのか…お話をいただいたときは、あまり自信がなかったというのが正直なところです。


澤野弘之(以下、澤野):僕はもともと『メカウデ』の劇伴を担当していて、その流れで主題歌も自分でプロデュースさせてもらえることになったという背景があって。だからオープニングの「VORTEX」もエンディングの「karma」も曲自体は先行して作ってあって、「ボーカリストはどうしようか?」という段階でセツコさんにお願いすることになったんです。セツコさんがやられている空白ごっこに関しては、僕はエッジの立ったサウンドが印象に残っていて。特に「VORTEX」はロック寄りのリズムの立った曲にしていたので、そこでのセツコさんの表現がどう生かされるのか楽しみでした。僕がもっとも重要視するのはボーカリストの声そのものというか、その声が自分の曲の中でどう響くかという部分に大きな関心があるんですよ。その意味では未知の部分もあったんですけど、それも込みで面白いことになりそうだなと。


――『メカウデ』の原案・監督であるオカモトさんは、セツコさんと澤野さんのコラボに対してどのようなことを期待しましたか?

オカモト:劇伴も含めて音楽全般は澤野さんにほぼお任せしている感じなのですが、オープニングは表面的な部分を、エンディングは内面を深掘りした部分を描いていただくことを期待していました。私は、澤野さんの音楽には普段から触れていたものの、セツコさんの空白ごっこに関しては恥ずかしながらあまりよく存じ上げていなかったんです。でも、だからこそお二人の音楽が組み合わさってどんな世界が表現されるのか非常に楽しみでしたし、先に答えを言ってしまうと、オープニングもエンディングも私の期待を遥かに超えていました。アニメの絵やシナリオでは描ききれなかった部分まで、音楽で表現してくださったと思っています。



TVアニメ『メカウデ』放送直前PV


――オープニングテーマの「VORTEX」は、澤野さんは「ロック」とおっしゃいましたが、僕はどちらかというとダンスミュージックだと捉えていまして。かつ、あまり装飾的ではないというか、シンプルに聞こえるように作られているという印象を受けました。

澤野:オープニングというともっとテンポの速い、イケイケな感じで表現する人もいると思うんですけど、僕の場合はBPM100ちょっとぐらいのテンポ感で作ることが多くて。言っていただいたようにダンスミュージック的なグルーヴがありつつ、ロックやエレクトロの要素を混ぜた感じのサウンドを目指して作っていきましたね。『メカウデ』のオープニングという観点からいうと、この作品は見ようによってはコミカルに見えるところもあるんですけど、やっぱりバトルシーンのかっこよさが一番の見どころだと自分は感じていて。なので、そのかっこいい部分をサウンドで表したいなと思いました。


セツコ(空白ごっこ):おっしゃる通り「シンプル」で「かっこいい」というのがデモを聴いたときの第一印象で、けっこう驚きました。というのも、私は『メカウデ』に対してコミカル要素の強い作品だというイメージを持っていて。もちろん戦闘シーンはかっこよく描かれているけれども、日常シーンはコミカルベースで、メカのフォルムやちょっとした仕種にも愛らしさを感じていたんです。だから全体的な印象としては澤野さんとほぼ一緒なんですが、ここまでソリッドな曲が来るとは思っていなかったので「歌、どう乗せよう?」と。


――つまり、悩まれたと。

セツコ(空白ごっこ):さっき澤野さんの楽曲には「歌の余白」があると言いましたけど、「VORTEX」のデモも、ある程度の決め事はありつつ、基本的には私に委ねられているような感じがしたんです。あと、事前に澤野さんと、「VORTEX」の作詞をしてくださったBenjaminさんとcAnON.さんとディスカッションする機会をいただいたときも「こういう歌い方をしてほしい」「こういう感情を表現してほしい」といった話は全然なくて。歌詞の半分以上が英語なので、どこで音節を区切るといいか、どう発音すれば日本語も英語っぽく聞こえるか、日本語と英語がきれいに混ざるかみたいな話が中心だったんです。


澤野:僕は、ボーカリストに対して事細かに歌の指示は出さないというか。サウンドとの兼ね合いでどうしても欲しいニュアンスがあった場合は「ここは強く歌ってほしい」とか「息多めに」とか大雑把に伝えたりするんですけど、それ以外の部分はその人から出てくる表現を楽しみたいんですよ。


セツコ(空白ごっこ):なので、歌唱表現に関しては自分で決めるべきなんだと思って、練習やプリプロも含めて用意は周到に行いました。




VORTEX(Music Video)


ラップバトルみたいなイメージで歌っていました

――オカモトさんは先ほど「ほぼお任せ」とおっしゃいましたが、楽曲の制作過程で何かオーダーを出すようなこともなかったんですか?

オカモト:なかったですね。デモは聴かせてもらっていて、一度セツコさんと打ち合わせしたときに「何かオーダーはありますか?」と聞かれたんですが、「自由にお願いします」とお答えした記憶があります。


セツコ(空白ごっこ):「自由に」と言われて、呆気にとられました(笑)。私はけっこう身構えて制作に臨んでいたんですが、蓋を開けてみたら驚くほど自分に委ねられていて。しかも、澤野さんのレコーディングは空白ごっこのそれとは180度違うんですよ。空白ごっこは感情重視で、どれだけリスナーを泣かせられるかとか、どれだけ自分が怒り狂えるかみたいな、出口の見えないレコーディングを何時間もかけてするんです。歌のディレクションは、作曲担当のkoyoriと針原翼の2人のうち、その曲を作曲したほうがしてくれるんですけど、例えば「この一節はもっと遠くの空を見るように」といったポエミーな指示が多くて、そこで自分なりに想像力を働かせる感じなんですね。でも、澤野さんはあくまでサウンド重視で、しかもボーカルのテイクも数本録ってスパッと終わったので「大丈夫なのかな?」って。たぶん、顔にも出ていたと思います。


澤野:大丈夫でしたよ(笑)。僕は誰に対してもそんなにテイクを録らないんですよ。極端な話、1テイク目がよければそれでOKでいいんじゃないかと。なので、レコーディングの進め方は速いほうかもしれませんね。


セツコ(空白ごっこ):なおかつ、すごくラフな現場でした。「VORTEX」では作詞のBenjaminさんとcAnON.さんが、「karma」では同じく作詞の茜雫凛(SennaRin)さんがそれぞれ立ち会ってくださったんですけど、澤野さんチームの雰囲気があまりにもラフすぎて。私はどうしていいかわからず、ちょこちょこ廊下に出て休憩していた記憶があります。


澤野:なんか、すみません(笑)。人の現場って、やっぱり勝手が違いますよね。


セツコ(空白ごっこ):私はめちゃくちゃ人見知りなので心に鎧をまとっていたんですけど、その鎧が大きすぎました(笑)。


――「VORTEX」のトラックは冷たく直線的ですが、セツコさんのボーカルは情緒的なうねりを伴っていて、すごくいいバランスだと思いました。

澤野:ボーカルはある程度、熱量というかエネルギーを感じるものにしたいとは思っていて。ただ、その温度差を狙ったわけではなくて、セツコさんの歌に委ねた結果というか、セツコさんがそういう答えを導き出してくれました。


セツコ(空白ごっこ):実は空白ごっこの針原が、澤野さんの熱心なファンなんです。それもあってプリプロでは、今までの澤野さんの曲の特徴とかを踏まえたうえで、「VORTEX」をどういうふうに歌ったらいいかをグループ内でかなり話し合いました。最初はトラックに合わせて淡々と歌うようにしていたというか、私は癖でボーカルの雰囲気がトラックに寄ってしまうタイプなので、平歌は冷たい感じで、サビでただ跳ねるみたいな歌い方をしていたんです。そこで針原に「冷たい感じといっても、オーバーサイズのパーカーを着て、顔を覆うようにフードを深く被って、目線を下に向けてズンズン歩いている感じだよね」と言われてから、ヒップホップ的なマインドの持ち方をしたほうが映える曲なのかなと思って。だからラップバトルみたいなイメージで歌っていました。


――パーカーのフードを深く被る感じって、めちゃくちゃ面白い例え方ですね。

澤野:ありがたいですね。いつもこうやってボーカリストの方たちがアプローチを考えてくれて、僕は助けてもらっているばかりです。


セツコ(空白ごっこ):トラックも歌詞も自己解釈ですけど、自分では納得できる表現でした。


――澤野さんの曲の歌詞、あるいは譜割って独特じゃないですか?

セツコ(空白ごっこ):独特ですね。だからもう、大変ですよ(笑)。


澤野:今回は2曲とも、僕は歌詞を書いていないんですけどね(笑)。でも、リズムの取り方とかは、独特な部分もあるかもしれないです。


セツコ(空白ごっこ):特に「VORTEX」はリズム、極端にいえばキックが言葉の乗せ方も歌のあり方も全部決めているような印象を受けたんですよ。歌い方を探ろうとまずは歌詞を読み込んだんですけど、歌詞に引っ張られすぎるとリズムにうまく乗れなくて。かといって歌詞を無視して歌ってみたら、今度はオープニングらしい華やかさを演出できない。私個人としては、歌の華やかさが大事だと思ったんですよ。トラックがシンプルだからこそ。なので、歌詞はフレーズ単位で情緒的に捉えたというか、例えばサビの入りの〈But you canʼ t〉〈Stop the feeling〉は歌詞のまま、感情のままに吐き出すしか方法がない。じゃあ、そこは逆らわずに歌えばいいし、そういう割り切り方ができたのは自分としても大きな収穫でした。


――オカモトさんは、完成した「VORTEX」を聴いてどう思いました?

オカモト:皆さんおっしゃっているようにシンプルでかっこいい曲ですよね。でもシンプルだからこそ、絵を付けるのが難しいなと同時に思ってしまいまして。実際、オープニング映像は私が制作したんですが、この曲をどうやって映像に落とし込めばいいのか、すごく悩みましたね。澤野さんのお話にもあったようにこの曲は『メカウデ』のバトルシーンに象徴されるかっこいい側面にフォーカスされているので、セツコさんの真似をするようで申し訳ないですが、私もラップバトルみたいな気持ちで映像を作っていったんです。ただ、これもお話にあったように『メカウデ』にはコミカルな要素もあるので、どこかでふざけたいと思ってコミカルなカットを入れてみたところ、そういう表現も受け入れてくれる楽曲になっていて。シンプルでありながら、ものすごく懐の深い曲だというのを実感しました。


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