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<わたしたちと音楽 Vol. 47>奥津マリリ(フィロソフィーのダンス) 自分らしくいるための、メンタルヘルスとの向き合い方

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、フィロソフィーのダンスの奥津マリリ。シンガーソングライターとしての活動から、アイドルに転身して9年が経った。ポッドキャスト番組『B-side Talk ~心の健康ケアしてる?』では、MCとしてメンタルケアの大切さを発信している。メンタルの不調によって“一番大切なもの”を見つけられたという奥津さんによる、ありのままの自分でいることのススメ。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Shinpei Suzuki)

ソロアーティスト時代に感じた、
外見ばかりを評価される戸惑い

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――アイドルになるまでの経緯を教えてください。

奥津マリリ:アイドルになる前は、シンガーソングライターとして活動したり、バンドをやったりしていました。「アイドルになりませんか?」と誘っていただいて、全く知らない世界だけど、一度きりの人生だから挑戦してみようと思ったんです。踊ったこともなかったけれど、飛び込んでみました。


――アイドルになる以前はどんなキャラクターだったのでしょうか。

奥津:アイドルになる前には、もっと自分のこだわりが強かったと思います。ロックな音楽が好きでカッコよく演奏しているつもりでも、「(胸が大きいことを指摘されて)スタイルが良いよね」と言われたり、「もっと可愛い曲を歌えば良いのに」と言われたり、自分が評価してほしいところを見てもらえない憤りがありました。当時は今よりももっとロックだったので、そう言われたらギターの音をさらに大きくして、歪ませて、反発していました(笑)。服装も自分が好きな戦闘服を着てステージに立ちたいし、自分が一番輝くために必要な姿でいたいですよね。


理想のアイドル像から解き放たれて
素の自分を輝かせていく

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――それまでの活動と異なるアイドルの世界に、戸惑うことはありませんでしたか。

奥津:今、アイドル活動をスタートさせて9年目なのですが、ファンの熱量が高くてすごく温かい世界だと感じています。最初は「期待されるアイドル像に応えなくては」という思いが強くて、模索していました。大きなリボンをつけてみたり、フリルのついた洋服を着てみたり、飲み物や食べ物も“可愛いもの”を選んでみたり(笑)。一生懸命に自分のキャラクターを探っていたのですが、本来の自分と違うものを目指しても続かなくって。「無理! 無理!」となって素の自分を出してみたら、とっても楽になったんです。アイドルとしての活動においても、人生においても、自分が自分でいられることが大切だと気がついてからは、あまり繕わずありのままの姿が素敵でいられるようにしようと心掛けています。


――取り繕わない自分を見せるのも勇気がいると思うのですが、そういった勇気が出ない場合はどうしたらいいでしょう。

奥津:鎧を身につけて自分のキャラクターを作り上げられるのも、それはそれで素敵だと思うんですよ。鎧を身につけていられるだけの体力と気力があるということだから。どちらが良いか、悪いかではなく、自分が選択したことならばどちらでもいいと思います。


――自分で選択して鎧を脱いだことによって楽になった経験がある奥津さんらしい、説得力ある言葉ですね。ありのままの奥津さんは、どのようなキャラクターなのでしょうか。

奥津:そうですね……アイドルになってもうひとつ戸惑ったのは、恋愛に関する歌が歌いづらくなったことなんですよ。それまでは自分の経験を元に感じたことを歌うのが良いと思っていたけれど、アイドルのファンは高い熱量で応援してくれているぶん、恋愛は御法度とされていたりするし、私は何よりファンの皆さんを悲しい気持ちにさせたくないと思うんです。それがファンとの信頼関係のような気がして。でも思い切って「私はいつか結婚したい!」と声を大にして表明してしまうことで、その壁を乗り越えました(笑)。だって、いつか結婚したいし子供が欲しいという思いがあるのも事実だから。いつか突然発表してショックを与えてしまうよりも、「この子は結婚がしたいんだ」ということを刷り込んでいく作戦です。今では、ファンから「まだ結婚しないの?」って言われたり、心配までされるようになっちゃいました(笑)。


長くアイドルを続けるために
自分の心に素直でいたい

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――戸惑いを自分らしく解消しながら9年間活動を続けられていますが、長く続けるために大切にしていることはありますか。

奥津:メジャーデビューして結果が出せなければ次の若い世代に移り変わってしまうんじゃないかって、アイドルとしての賞味期限についての不安はずっと頭の片隅にあったと思います。でも、なんだかんだここまで9年続けられた。それには無理をしないことが大切でした。相手に悪意がなくとも、心が疲れてしまったときや進みたい方向とは違う方向に進みそうになったときには、自分を大切にして「NO」が言える状態であるべきだと思います。


――若さが重要視されるというのも、アイドルの現状でもありますね。

奥津:体力も意欲も満ちている“若さ”はすごく強いものだけれど、今のフィロソフィーのダンスもすごく良い状態に仕上がっていると思うんです。若さゆえのがむしゃらではないかもしれないけれど、落ち着いた状態の大人の女性というか……!?「これはこれでいかがですか?」という感じです。


――奥津さんがそこまで真っ直ぐに、活動を続けられているのはどうしてなのでしょうか。

奥津:一度、メンタルの調子を崩してしまったことがあって。そのときに一度立ち止まって「自分が本当にやりたいことってなんだろう」と考えて、音楽を続けていくのが人生最大の目標だ、と決心がつきました。一番大切なことを決められたので、そのタイミングでアルバイトも全部やめて、その後のさまざまな選択の優先度が明確になりました。


カウンセリングを受けてみて知った
名前のつかないモヤモヤとの向き合い方

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――ポッドキャスト番組『B-side Talk ~心の健康ケアしてる?』では、MCとしてメンタルケアについて発信していらっしゃいますが、印象に残っているエピソードはありますか。

奥津:いつも興味深いのですが、「スポーツとメンタルヘルス」がテーマの回で、勝利至上主義はスポーツ選手のメンタルを苦しめてしまう要因の一つになりうる、というお話を聞いて、アイドルやエンタテインメントの世界での活動にも親和性があると思いました。“売れたい”って欲望は特に良いカンフル剤になるかもしれないけれど、心をすり減らしてしまうこともある。だから結果を出すことだけにとらわれず楽しく活動してくのが大切なんだって。自分には遠いジャンルかなと思っていた話も、メンタルヘルスに繋がっていることも多くて、驚きました。


――株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントは、エンタテインメント業界で活躍するアーティストやクリエイターを、心と身体の両面からサポートするプロジェクト「B-side」を展開しています。カウンセリングなどさまざまなプログラムが提供されているとのことですが、その制度について知ったときはどう思いましたか。

奥津:素直に、嬉しかったです。アーティストからすればすごくありがたいことですし、私たちを商品として消費するのではなく、人として大切にケアしてもらえるのは心強いです。実際に、カウンセリングを受けてみたことがあるんですよ。カウンセリングってあまり聞いたことがなかったし、私は特に何か悩みはなかったので、「そんな状態で行ってもいいのかな?」という思いもありました。悩み事に対して、それが合っているか間違っているのか、どんなことをすべきなのかアドバイスを受けるものだと思っていたのですが、実際のカウンセリングは、自分自身と対話をする感覚が強かったんです。自分で話すことで頭の中が整理されて、「私はこれが嫌だったんだな」、「これが不安なんだな」と、答えを見つけるための道をカウンセラーさんが整備してくれるような。漠然としたモヤモヤがある人はカウンセリングを受ければ、こんがらがった紐を解いていくことの助けになると思います。


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