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<インタビュー>上野大樹がEP『光り』で歌う、“日々の小さな光”と“過去を肯定すること” ――「小さい感情や優しさに気づいてもらえる音楽を作りたい」

インタビューバナー

Interview & Text:沖 さやこ
Photo:Goku Noguchi



 今春、杉咲花主演カンテレ・フジテレビ系月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』の書き下ろしオープニングテーマ「縫い目」が話題となったシンガーソングライターの上野大樹。彼が同曲を含む新作EP『光り』をリリースする。

 「カロリーメイト」WEB動画『TeamMate お前がいなければ、』テーマソング「景色」や、実祖母が亡くなった際に書いたタイトル曲の「光り」、友人に向けて書き下ろした「ベティ」などを含む全5曲を収録。日常的であり、忘れてしまっていた小さな感情や景色、普段見過ごしてしまいがちな小さな視点や感情を綴った楽曲たちは、聴き手の思い出に染み込む。彼はなぜ思い出にフォーカスした楽曲制作を行ったのか。「縫い目」の制作以降、どんな変化があったのか。上野大樹が考える過去と現在の関係性とはなんなのか。じっくりと話を聞いた。

いいものを書いていたら、いつか誰かの元に届く

――TVドラマ『アンメット』のオープニングテーマ「縫い目」、大きな話題になりましたね。

上野大樹:本当にありがたいですし、とても楽しい3ヶ月間でしたね。毎週月曜日にイベントがあるような感覚で新鮮でした。「オープニングが始まる導入として、イントロを本編のバックで使いたい」や「ミステリアスな雰囲気で」というリクエストをもとに制作を進めて、ドラマが後半に進むに連れて物語ともすごくいい化学反応が起こってきて。その結果、自分が想定していた以上の相乗効果が生まれていました。


――より広く上野さんの音楽が広がったきっかけにもなったのではないでしょうか。

上野:ドラマの制作チームや出演者さんがいろんなとこでレコメンドしてくださって、とてもうれしかったです。仕事をするうえで、受け手からのリアクションは達成感のひとつだと思うんですけど、いつも以上にいろんなところからお声をもらえて社会貢献できた感覚がありました。もっともっと届くように、より一層、一から頑張ろうと思えましたね。



「縫い目」Music Video


――このたび「縫い目」を含む5曲入りEP『光り』がリリースされます。「誰もが知っている景色、感情、葛藤、希望、そこから生まれる”思い出を照らす”作品に」とのことで、「縫い目」時のインタビューでおっしゃっていたことも作品のテーマに反映されている印象を受けました。

上野:「縫い目」で新境地にトライして自分の表現にも広がりを感じたので、その状態で今まで音楽にしてきた“思い出”をアウトプットしたかったんですよね。「さよならバイバイブラックバード」は2年前に書いて1年前にレコーディングを済ませた曲なんですけど、リード曲の「光り」、「景色」、「ベティ」は今年の6月ごろに作った曲です。ライフワークとして自分から素直に出てきた曲がそのまま作品になりましたね。いつも僕は頭の中でずっと独り言を言っていて、たぶんこれはきっとみんなが人知れず考えていることと似ているんだろうなとも思っているんです。


――それが上野さんがよくおっしゃっている、“小さな感情”ということですね。

上野:僕の曲を聴いてくれている人は、イヤホンやヘッドホンでひとりで聴くことが多い印象があって。だからみんなももうひとりの自分と会話してるような感覚になってほしいし、みんながひとりで心の中で抱えているもやもやを歌いたいんですよね。ふと思い出した瞬間に胸がグッとなる思い出ってあるじゃないですか。でも“黒歴史”にもいい思い出はあると思うし、何よりどうしたって過去は変えられなくて。


――そうですね。

上野:でも変えられなかったとしても、認めてあげることはできると思うんです。自分も最近ようやくそう思えるようになってきたから、みんなの過去を肯定できる作品を作りたかったし、みんなにもそうやって封じ込めてしまった過去を思い出してほしいなという気持ちもあったんです。「光り」や「景色」は僕個人のことを歌っている曲だけど、個人的なことを歌うことでどこかの誰かに「わたしのことを歌っているのかも」と深く刺さってくれる曲になるんだとも思っています。


――個人的なことを歌うのは、聴き手のことを思ってのことであると。

上野:なんで音楽を作り続けているかというと、聴いてもらえるからこそなんですよね。昔は自分のことしか考えてなかったけど、メジャーデビューをして書き下ろしのタイアップ曲を書く機会や、友達から「こういう曲を作ってよ」と言ってもらうことが増えて。それくらいから自分が思っていることを吐き出す充実感を、自分の作った音楽で喜んでもらえる充実感が上回ったんです。やっていることは変わらないかもしれないけれど、そこに至るまでの気持ちが昔と変わった気がします。


――お祖母さまが亡くなったときにお書きになったという表題曲「光り」を聴いて、わたしも大切な誰かを失ったときの感情が克明に蘇ってきました。

上野:身近な人の死は誰しもいずれ必ず訪れるし、そういう機会が今自分に訪れたのならそれを歌にしたいなと思ったんです。僕も知らせを受けてから2、3日は落ち込んだけれど、考え事を曲にしていくと気持ちが整理されるし、自然と「もっと頑張ってこう」と思えるようになるんですよね。だからおばあちゃんが僕に曲を書かせてくれたというか、ポジティブに自分の仕事につなげられています。



「光り」Music Video


――上野さんにとって“光”はどういうモチーフですか?

上野:パワーのあるものだなと思っています。すれ違う人や街の木々を見ていても「生きているものは光ってるな」とこの半年間ぐらいすごく思っていて。すごく落ち込んでいる人も、もうすぐ命が消えてしまいそうな人も、生きている限りは絶対に目の奥が微かにでも光っているし、その微かな光にもしっかりとパワーは宿っているんですよね。どれだけ心身が弱っているときでも聴いてもらえる曲にしたかったので、そぎ落とされたアレンジや、あたたかい音が多くなりました。


――確かに今作は歌にスポットが当たった、アコースティック色の強い楽曲が多いです。

上野:流行を生み出す、新しい発明のような音楽を作りたい気持ちもあるけれど、やっぱりみんなが死ぬまで聴いてくれるような、自分が死んだ後も誰かの心に残るような曲を作りたいんですよね。絶対的に自分がいいものを作っている自負はあるんです。いいものを書いていたらいつか誰かの元に届くし、「縫い目」のようにいろんな縁がつながっていくと思うので、それを信じて作り続けるしかないんですよね。このEPも歌がいちばん活きるアレンジを考えた結果こうなったので、なるべくしてなったサウンドだとも思っていて。簡単そうで難しいことを、もがき苦しみながら書いていたいです。



『光り』全曲試聴トレーラー


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曲がちゃんと届くライブをしたい

――4曲目の「景色」は、タイアップ曲ながら上野さんの過去がありありと描かれているのではないかとも思いましたが、いかがでしょうか。

上野:昔を思い出しながらも、今の自分の感覚でも書いている曲です。先方からは「部活」「光が当たらない人たち」というテーマと、「上野さんらしく書いてほしい」と言っていただいて。部活だけでなく、音楽活動をしていてもフラストレーションがたまって考え込むことは多いんですよね。〈当てもない心の行き先、迷えば迷うほど確かにここにある〉という歌詞は、迷うのは大事だと思うから書いたものなんです。


――確かに迷うからこそ気づくこと、見えることはたくさんあります。

上野:負け続けたからこそ言える言葉があるし、見える景色がある。迷っている人や迷っていることを肯定したかったんですよね。僕も忘れ物がひどかったりとか(苦笑)、小さい失敗をたくさんしているし、遠回りをしたり、落とし穴に落ちたからこそ書けた曲があるので、そのときはつらくても人生経験が増えてラッキーだなとも思うんです。挫折した側の人間だからこそ、挫折した人間だから得られる強さがあるんだぞと歌いたかったんですよね。


――「景色」は「光り」と同様に、朝がキーワードになっています。上野さんにとってどういうモチーフですか?

上野:昔は夜を歌っていたんですけど、2年くらい前から徐々に「眠れないまま迎えた朝」とかを書くようになったなとは思っていて。たぶん、その頃くらいから少しずつ物理的な光が好きになったんですよね。昔はカーテンをしっかり閉めて朝でも昼でも真っ暗の部屋にいたけど、最近はちゃんと光が当たる部屋で過ごしているんです。それはコロナ禍が明けてからライブも増えて、いいライブをするためにも健康でいようと思うようになったことも影響しているかも。


――自分の心だけでなく、他者にまで意識が向き出したのは、そういう物理的な変化も大きいのかもしれません。

上野:音楽を作るだけでなく、作って届けるまでが自分の役割だなと思うようになってから変わってきたのかもしれない。だから生きているものが輝いて見えるようになったのかな。やっぱり自分で曲を作って歌っていると、生活と音楽は密接になるんですね。5曲目の「ベティ」は、友人の実家の飼い犬がそんなに長くないという話を聞いて書いた曲で。誰かを思って曲を書くのは、その人と会っているような感覚があるので、ただ自分の心に向き合う曲作りより楽しいんです。音楽と生活が近くなればなるほど、書ける曲が増えている気がしますね。


――そのように生活が色濃く出た曲もあれば、誰もが一度はある忘れられない人との思い出を綴るという、広い視点で描かれた「さよならバイバイブラックバード」もあるのが今作のポイントでもあると思います。

上野:自分に素直な曲を書くのは大事だけど、それが自己満足になるのは違うと思っていて。キャッチーなポップスを書くことからも逃げたくないんです。「さよならバイバイブラックバード」はまさにポピュラーなラブソングの延長線上に、上野大樹の書く思い出の様子が交わった曲になったと思っています。バッとメロディと言葉が降ってきて、そのまま10分ぐらいで書きました。答えのない短編小説みたいなものになりましたね。


――1年前にレコーディングを済ませた同曲を聴いて、感じることなどはありますか?

上野:うーん、僕は完成した曲に対して「もっとこうすれば良かったな」とは思わないんですよ。そのときの雰囲気や空気感がこの曲を作ったから、それでいいんです。どの曲もそのときのベストを尽くしているし、今の自分は絶対にその曲は作れないじゃないですか。「もう二度とこんなネガティブな言葉を歌詞に使わないだろうな」と思うものも、タイミングを逃さずに書き残せて良かったなと思うんです。


――先ほどおっしゃっていた「過去は変えられないから、どんな過去も肯定したい」という考え方と似ていますね。

上野:だからどの曲をいつ聴いても「当時のベストが出ていていいな」と思いますね。そのときの自分が書くものを曲にしたいから、僕は普段からあんまりメモとか取らないようにしていて。体調が悪いとき、すごく落ち込んでるとき、ハッピーなとき、それぞれ自分はどんな曲を作るんだろう? と毎回楽しみながら書いています。いい曲を書きたいけれど、うまく作ろうとは思っていないから、そういう後悔はないのかもしれない。ただ、常にフラストレーションは溜まっているんですよ。もっと曲を書きたいし、もっとたくさんの人に聴いてほしいし。


――上野さんの原動力には社会貢献の充実感だけでなく、苛立ちもあるんだろうなと。

上野:やっぱり自分の場合は、フラストレーションがなくなったら終わりだなと思ってます。「景色」みたいな気持ちを今も抱えながら音楽をしているし、いつの時代も真面目な人がバカを見ることってしょっちゅうじゃないですか。だからこそ普段気に留めないような小さい感情や優しさに気づいてもらえる音楽を作りたいんです。優しさと怒りって、ちょっと似てる気がするんですよね。


――10月19日からスタートする全国5か所を回るリリースツアー【光り-hikari-】も充実の内容になりそうですね。

上野:僕の思う“光り”を提示するんじゃなくて、お客さんと僕で“光り”の答え合わせをしていくツアーにしたいですね。人のおかげで自分が変わって、どんどんいろんな音楽が生まれているのが楽しくて。どの公演もみんなで“光り”を持ち寄ってきてもらって、各会場で化学反応が起こせればと思っています。あと音源が生演奏になったようなライブにもしたいので、本番に向けてストイックに腕を磨いていきたいですね。1年くらい前から、しっかりと音楽家になろうという意識が強くなっているので。


――音楽家、ですか。

上野:ケガをしてから暇つぶしで音楽を始めて、結構すんなりギターが弾けるようになって。でもそこから途轍もない領域まで突き詰められるのは、本気でストイックにやり続けた人だけなんですよね。自分に何が足りないのかも客観的に考えるようになったし、そこにたどり着くために逃げずにやっていきたいんです。だから曲がちゃんと届くライブをしたいんですよね。のらりくらりと音楽を続けるのではなく、みんなが尊敬して憧れられるミュージシャンになって、その上で30歳を迎えたい。でもまだまだ落ち着きたくはなくて(笑)。


――ははは。いい気概ですね。

上野:上野大樹という人間を研ぎ澄ましたうえで、音楽家に、アーティストになっていきたいですね。“アーティスト”を目指したら実体のない、ステレオタイプなアーティストになっちゃう気がしていて。だからしっかりと自分の刃は磨いておきたいんですよね。


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