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<インタビュー>DEZERT・SORA 初の武道館ワンマンに向けた“スペシャルアルバム”から振り返るこれまでと、今考えていること
Interview & Text:柴那典
12月27日に、自身初の東京・日本武道館でのワンマンライブ【DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」】を開催するDEZERTのドラマー、SORAへのインタビューが実現した。
今年1月にメジャーデビュー、ビジュアル系シーンを牽引するバンドとして存在感を示し、めきめきとスケールアップしている彼ら。9月25日にはスペシャルアルバム『傑作音源集「絶対的オカルト週刊誌」』がリリースされた。これまで13年のキャリアの中で発表してきた楽曲から22曲をセレクト、「心臓に吠える」と「私の詩」という2曲の新曲を加えた2枚組全24曲の内容だ。
インタビューでは、武道館公演を前にしたバンドの今について、キャリアの変遷について、そして2022年にライブイベント【V系って知ってる?】のオーガナイザーをつとめてからのSORA自身の意識の変化と、シーンを超えた交流の広がりについて語ってもらった。
“名刺がわり”の一枚
――まず、なぜこのタイミングで初期から現在までの楽曲を集めたアルバムをリリースしようと考えたんでしょうか?
SORA:武道館でワンマンライブをやるんですけど、今までやってきた中でいちばん大きなキャパシティで、そこを埋めるとなったら、シンプルに今まで来たことある人たちにも、ない人たちにも、たくさん来てほしい。挨拶したいじゃないですか。そのためには名刺が欲しいなと思って。それに値する楽曲たちを選びました。もちろん選ばれていない曲がダメだったわけではなくて、「今、これを聴いてほしい」という曲を1、2か月かけて選んでいった感じです。
――ここ最近、新しくDEZERTというバンドを知った人、好きになった人が増えている。それが大きな理由であり、その実感がある。
SORA:実感はありますね。「ない」って言ったら、僕らを応援してくれている方々に対して失礼かなって思うようになりました。
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――バンドのキャリアの中でも、今年2024年は大きなターニングポイントの一年になっていると思いますが、どういう時間を過ごしている感覚ですか?
SORA:音楽以外の活動、日々の過ごし方も、全部ステージと音楽のために過ごしている感覚がありますね。ずっとスイッチがオンになっている。だから、疲れはとれないけれど調子はいいです。あと自分がワーカホリックなんだなってことに最近改めて気づきました。
――アルバムは再録曲も多いですが、レコーディングは大変でした?
SORA:ドラマーとしては全然大変じゃなかったですよ。レコーディングは楽しくやりました。これはDEZERTの良さでもあるんですけれど、バンドって10年以上やっていると曲も増えてくるから、昔の曲をあんまりライブでやらなくなる傾向があるじゃないですか。でも、うちのバンドはそれが全くないので。思い出す作業というのもないし、普通に今の僕らをパッケージングしたという感じです。
――再録には、ライブで大事なポジションを担っている曲を今のDEZERTとして表現する、という意味があったということでしょうか。
SORA:そうですね。だから僕らの“今”という感じの音源になったと思いますね。
――選曲の基準はありました?
SORA:基準としては、やっぱり自分たちの“今”のライブを伝えたい、今の状態をさらに伝えたいということなので。僕としては、ライブで自分が“憑依できる”曲たちを基準に提案しました。他の曲がそうじゃないということではないですけれど、人の感情をプッシュさせる作用が眠っている曲、そうさせるために自分が音に入り込める曲という。
――メンバーそれぞれに基準があったんでしょうか。
SORA:あったと思います。たとえばみーちゃん(Miyako/Gt.)だったら「このギターソロは今ならもっとかっこよく弾ける」とか、そういうギタリストっぽい考えもあったと思うし。Sacchan(Ba.)は俯瞰で見る天才なので「この曲は再録しなくていいんじゃない? 俺らのエゴじゃない?」みたいなのもあっただろうし。千秋(Vo.)はやっぱりフロントマンとしていろんな感情が蠢いている人なので、僕らにも素直に言えないことだってあっただろうし。
――新曲2曲を入れるということも最初から決まっていた?
SORA:そうですね。
――SORAさんから見て「心臓に吠える」「私の詩」という2曲の新曲は、どういう位置づけ、バンドにとってどういうものを象徴する曲と捉えていますか?
SORA:曲を書いた千秋もおそらくそうなんじゃないかと思っているんですけれど、「心臓に吠える」は僕らの“覚悟”ですね。「心臓」というものを僕らの楽曲の比喩と捉えていて。それが共鳴できるのがステージであり、その鼓動をみんなと共有したい。13年経った今だから言える覚悟を武道館でどう展開するのか、その先どうするか、今からワクワクしている感じですね。「私の詩」に関しては、「The Heart Tree」と「僕等の夜について」との3部作だと千秋が言っていて。千秋の中で、誰かのために歌うことが自分のためになる、自分のために歌うことが誰かのためになるという実感が、この2~3年で生まれたんだろうなって、後ろで見ていて思います。悩み方も変わったし。そういう3部作の最終章が「私の詩」という風に僕は捉えています。彼の中では最高傑作というか、もう本当にいい曲だ、いい歌だって言っていたので。僕としては、いかに支えるかという感じでレコーディングしました。
――この2曲も含めて、バンドの“今”を形にできた実感がある。
SORA:ありますね。これが今の僕たちですよ、どうですか? 武道館来ませんか?みたいな。そんな感じですね。
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――アルバムを聴いて改めて感じたことなのですが、DEZERTはビジュアル系のバンドであるけれど、ハードコア・バンドだし、ギター・ロック・バンドだと思っているんですね。ハードコアからスタートしたDEZERTというバンドが、少しずつ歌心に辿り着いていく過程が収録された24曲だと思います。
SORA:ありがとうございます。その通りですね。
――なので、「心臓に吠える」と「私の詩」という2曲の新曲が、過去から変わっていないDEZERTと、千秋さんが内面を表現するようになり、メロディーが大きな意味を持つようになった「ミザリィレインボウ」以降のDEZERTという、その両面を表現しているという風に思います。
SORA:その通りだと思います。嬉しいですね。そこまで聴いていただいて。
バンドに手応えを感じ始めたのは、ここ2~3年
――改めて、キャリアを振り返った話も聞かせてください。最初にSORAさんがバンドに加入した時って、今の未来をどれくらい思い描いていましたか?
SORA:全く思い描いていなかったです。結成した時は、前も後ろも右も左も分からなくて。ただ、縦社会に揉まれていた少年時代を過ごしていたから、上と下だけは分かっていたんですけど、進み方も下がり方も分からないから、がむしゃらにドラムを叩いていただけで。右も左も見る必要がなかったし、見たら誰かの真似事になっちゃう。そういう感じで活動していましたね。ただ、僕らの指標として、Sacchanと千秋が「ダサくなったらやめようね」っていう約束でバンドを始めているんです。だから、今(バンドが)続いているっていうことはダサくないってこと。そこは想定していた未来というか、ブレていないだろうなというのはあります。
――SORAさんはバンドには誘われて加入したんですよね。
SORA:そうです。バイトしていたスタジオでSacchanから声をかけられて、千秋と飲みに行って。ただ、その時やっていたバンドが活動休止になり、でも「いつかまたやるから」ってファンに約束していた部分があって。だから僕、最初は「入れない」って言っていたんですよ。でも前の(バンドの)メンバーに話して、バンドをやるのは良いことだし、またいつか集まれたらいいね、くらいの感じだったので、「じゃあいいのかな」っていうことで筋を通して。当時のDEZERTよりもっと知名度のあったバンドに誘われて、そっちのバンドに入ろうと思った瞬間もありました。その時は17か18とかでまだ若かったし、経験になるほうを選びたかったんで。それで千秋と喧嘩もして。結局、紆余曲折あって、DEZERTの道を歩むことにしたんですけど。
――もっと動員やセールスがあった他バンドの誘いを蹴ってDEZERTを選んだというのは、どういう理由だったんでしょうか?
SORA:親父に言われたんですよ。ゲームを始めた時に最初からレベルマックスだったら面白いの?って。「すぐ飽きるだろうね」って言ったら、親父が「そのバンドももう一方のバンドも俺は知らんけど、まだ若いんだから、いろんな苦労も経験しながらバンドをやった方がたぶんお前の人生のためになるんじゃない?」って言われて、なるほどと思って。DEZERTに入ろうって、千秋とまた話した記憶があります。
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――以前にも取材で聞かせていただいたとおり、SORAさんにとっては、hideさんが自分にとっての憧れの存在であり、そこから広がっていろんなバンドを聴いてきたというのがSORAさんのルーツだったわけですよね。そういう視点からは、どういう風にDEZERTというバンドの可能性を感じていましたか?
SORA:当時の僕は、バンド始めるまでにわりと好き放題生きちゃっていたんですよ。勉強せずやんちゃばかりして、好きなことしかしなくて。それに飽きてバンドを始めたから、バンドを真剣にやりたかったんですよね。でもその時の千秋は逆で、学生時代にすごく勉強していたと思うし、当時やれなかったことを、バンドを始めてからめちゃくちゃやっている感じがあったんですよね。水をぶん撒いたり、自分のギターを壊したり、それまでの窮屈な世界から解放されたかのように、すごく自由にライブをやっていた。昔の僕が中学校の時にやっていたことをステージでやっているみたいな。だからやっぱり、「こういう人好きだな」「解放的に音楽やってるんだな、この人」っていう感じで見ていました。
――初期を振り返って、最初にバンドに手応えを感じた時は?
SORA:昔は手応えを感じたことはないですね。手応えがないまま好き放題やっているのが、わけのわからない噂になり、みたいな感じだったんじゃないかな。だから手応えを感じ始めたのは、ここ2~3年ですね。
――そうなんですね。
SORA:バンドを始めて5~6年は、ただただがむしゃらに好き放題やっていて。音楽じゃなくそういう僕たちを観に来る、サーカスを観に来るような感じのお客さんが増えて。でも、“動員1,000人の壁”っていうのが出てきて。1,000人以上集めるためには音楽的な要素も当たり前にないとダメなんだ、暴れ散らかしてるだけじゃダメだ、っていうのにメンバー全員気づいた。それでできたのが『TODAY』ってアルバムですね。千秋が、本質をここで歌っていいんだ、歌わないとダメなんだって気づいた。昔の彼は学生時代にできなかったことをステージで爆発させていて、それは彼にとってポップなことだったと思うんです。ムカつくから「殺意」とか普通に言いたかっただろうし。でも、やっぱり彼にとっては、誰かのための曲を作るっていうことのほうが人生の挑戦だったと思うので。『TODAY』の時のほうが、彼は“ロックしてた”と思うんですよね。反骨心を持って、できないって思っていたことをやろうとしていたから。だから手応えを感じ始めたのは最近ですけど、その辺ぐらいから考えて行動するようになったというか。決意と覚悟を持ってもがき始めたのがその頃だったと思います。
――ここ2~3年で手応えを感じ始めたというのは?
SORA:最近になって、その決意と覚悟が世間に伝わり始めたのが【V系って知ってる?】をやった頃だと思います。そこから、この2~3年でいろんなことをして今があるという。サーカスみたいなことやっていた時期があって、決意を持って一歩踏み出そうと決めて『TODAY』という作品を出した時があって、そして「心臓に吠える」と「私の詩」という曲を出す今のタイミングっていうのが、僕らにとってさらに覚悟を決めることになると思うので。それを僕らにとっての“心臓”と比喩したときに、その鼓動が鳴り響くのはステージだけだから。そんな時間がずっと続けられるように、僕は楽しいことを考えるだけかなって。
――『TODAY』を作る前には、どこかしら「このままじゃダメだ」ということを思う時期があった。
SORA:ありましたね。でもその時、僕は人任せだったんですよ。バイトも忙しかったし。千秋とSacchanがいろんなことを考えてくれていたから、邪魔しないほうがいいんだと思って。僕はがむしゃらにドラムを叩いて、「下手くそ」って言われながら練習して、バイトしていただけだった。ただ、暴れ散らかしているだけで人気があったとしても「20年後もできんのかな」って思っていたのは覚えていますね。
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【DEZERT SPECIAL ONEMAN LIVE at NIPPON BUDOKAN「君の心臓を触る」】
OPEN 17:30 / START 18:30
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