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木村カエラ 『どこ』 インタビュー
2008年も木村カエラにとっては飛躍の一年であった。ライブに足を運んだ人であれば分かると思うが、いわゆるスタークラスのアーティストの持ってる全部を飲み込んじゃう感じ。その手を高く掲げるだけでみんながそれに引っぱられちゃうようなパワーが今の彼女にはある。で、2009年。初っ端に初のバラードシングル『どこ』がリリースされるわけなのだが、これがまた否応なしに彼女を成長させる、新たなステージへと導く内容になっているのだ!そんなすげぇ曲に出逢ってしまった今のカエラの心境を訊いた。
音楽を演奏するときは楽しまなきゃダメだ
--アルバム『+1』リリースタイミング以来、約9ヶ月ぶりのインタビューになります。この期間は、カエラさんにとってどんな期間となりましたか?
木村カエラ:いろんなことをやったなぁって思います。本を出したりもしましたし、フェスにも出て、ツアーにも出て、イベントもやって、CM撮影もやって、いろんなことをしていたので、そういった意味では充実した一年だったなって。毎年毎年そうなんですけど、去年は活動範囲がまたちょっと広がった一年だったなと思ってて。すべてのことをちゃんと憶えていられないぐらい、いろいろありました。
--昨年もカエラさんのライブはかなりの数を観させてもらったんですが、まず『+1』を引っ提げたツアー。僕はNHKホールの公演を観させてもらったんですが、オーディエンスのカエラさんに対する熱狂ぶりや信頼感がより凄まじいことになってて。木村カエラが腕を振り上げれば、まるで津波みたいに誰もがその腕を振り上げて叫んでるっていう。あれ観て、泣きそうになりました(笑)。
木村カエラ:アハハハ!
--自身でもライブを重ねれば重ねるほど、会場の熱量がとんでもないことになっていってる実感はありますか?
木村カエラ:そうですね。デビューしてからしばらくは1人1人が個々に「私は木村カエラが好き」っていう感覚で来ていたと思うんです。で、私自身もしばらくは探り探りやっていたし、ファンの方たちが何を求めているのかすごく考えていたりもして。でも今はファンの方たちがガチッとひとつになって盛り上げてくれるから、単純に私はそれに応えたくなってテンションが上がる。そういう状態をみんなが作ってくれたので、今はもう何をしても怖くないんですよ。それはここ1,2年で変わってきたところだと思います。私だけじゃなくみんなも楽しい空間を作ろうとしてくれているので、それはすごく良いなって。ライブが安心する場になってたりもしますからね。もちろん「もっと頑張らなきゃいけないな」って思う部分も出てくるんですけど、それすらも面白いと思える。
--なるほど。僕は「木村カエラはここまで人の心を嬉しくさせるライブができる人になったんだなぁ」ってしみじみ思いましたよ。デビュー当時からのファンは鼻高々だと思うんです。「な、すげぇべ?カエラ」みたいな(笑)。
木村カエラ:アハハハハ!
--そんな域に入ってきたなぁと、去年は思いました。
木村カエラ:本当ですか!?ありがとうございます。
--で、当然、そこまでのライブができるまでの過程の中には、バンドとどう付き合っていくか?というのが大きなポイントだったと思うんですけど、実際のところはどう?
木村カエラ:そうですね。去年の『+1』のツアーの中でもいろいろありました。デビュー当時からずっと一緒に廻ってるバンドメンバーなので、もちろんすごく信頼してますし、自分もさらけ出してはいるんです。でもツアーのときは凄い緊張状態にあるので、リハーサルでスタッフと上手く行かないことがあったり、音が上手くまとまっていなかったりすると、自分自身の感情をコントロールできなくなったりするときがあるんですよね。でも私がそうなってることに気付くと、普段は後ろに下がってるバンドメンバーたちがサラッとフォローしてくれるんですよ。私が喋らなくなってしまったら代わりに喋り出したり。それを見てると「あ、もっとちゃんとしなきゃな」って思ったりすることもあるし、「自分だけが緊張状態にあるわけじゃないのに、こうなってる自分はおかしいな」って思ったりするんです。だからすごく助けてもらってます。『+1』のツアーでそこは改めて感謝しなきゃいけないなと思いましたね。あと、ちゃんと後からツッコんでくれるんですよ。「怖いよ」とか「やりすぎ」とか(笑)。それを言ってくれる人たちが近くにいるっていうのは、すごく有り難い。
--もはや、バックバンドというよりかは、木村カエラというバンドのメンバーみたいなところはあります?
木村カエラ:みんながどう思ってるかは分からないですけど(笑)。でも私はみんなから「音楽を演奏するときは楽しまなきゃダメだ」っていうことを教わってます。そんなことはあたりまえのように知ってることなのに、すごく難しいもので、応援してくれる人が増えるほど「仕事をこなす」みたいな感覚になってきてしまうこともあって。でもそうじゃないってことをみんなにいつも気付かされてます。
--そんな木村カエラの音楽をあらゆる面で支えてきた人のひとりが、今回のシングル『どこ』も手掛けた、しのっぴこと渡邊忍(ASPARAGUS)さんだと思うんですが、彼はカエラさんにとってどんな存在?
木村カエラ:みんなのテンションを一番握ってるのがしのっぴなんですよ。だからしのっぴが元気なければみんなも元気ないですし、しのっぴが元気だったらみんなも元気ですし、そういうムードメイカー的な部分もあるし、やっぱりすごく音楽の才能もある人なので、みんなを動かす力があるんですよね。
Interviewer:平賀哲雄
私の今までのこの4年間を!
--残念ながら僕はまだ渡邊さんとお会いしたことがないんですが、どんなキャラだったりするの?
木村カエラ:変。終始ふざけてますね。なのに突然落ち込んで、みんなが「どうしたの?どうしたの?」ってなっちゃうような。「しのっぴ元気なかったらみんな元気なくなっちゃうよ」ってみんなが言うような。それぐらい終始ふざけてる。ふざけてないと不安になるぐらいふざけてる(笑)。
--ちなみに、カエラさんが初めて渡邊さんと「一緒に作ろう」って言って作った曲は『You』でしたよね。あの曲が出来たことで、より渡邊忍という人が木村カエラの音楽をやっていく上で欠かせない存在になったっていうのはあります?
木村カエラ:あのときにはまだそこまで感じてなかったかもしれない。あの時期はいろんな方に曲を作ってもらうことに楽しみを覚えていたので、作曲家としてはその中のひとりとして見ていたと思います。でも『TREE CLIMBERS』だったり『Yellow』だったり、どんどん年を重ねながら曲を作ってくれている姿を見てると、それまでは気にしていなかった彼のバンド活動、ASPARAGUSでの活動だったりとか、彼の精神状況だったりとか、そういう部分も分かるようになるんですよ。で、今彼が大変な時期だと分かっていながら曲を書いてもらうこともあるんですけど、それでも良い曲にしようと頑張ってくれる。普通、人って自分のことでいっぱいいっぱいになったら他のものになんて手を付けたくないと思うんですけど、しのっぴはすごく一生懸命にやってくれる。そういう姿を見てると「いてもらわなくちゃいけない存在だな」って思うようになるし。今回初めてシングルでバラード作るってなったときにも「それだったら、しのっぴ」って言ってたし。どんなものが出来てくるかは分からないんですけど、絶対的な安心感が私の中ではあるので。そういった意味ではすごく大切な人です。
--『You』は、カエラさんと渡邊さんがお互いを見て、弱いところだったりとか、心配になる部分を書いた曲だったじゃないですか。で、その『You』で弱さを見せ合った人が今回、木村カエラ史上初のバラードシングルを手掛けるっていうのにちょっとしたドラマを感じていて。
木村カエラ:そうですね。実際に「『You』の進化系をくれ」って言って(笑)作ってもらいました。
--あと、そもそもこのタイミングでバラードを歌いたいと思ったのは、なぜなんでしょう?
木村カエラ:『+1』のツアーの打ち上げとかで、しのっぴが「いつかシングルのトータルプロデュースをしたい」って言っていて。「カエラちゃんのはいつもバラバラな人が作ってて、歌詞の内容もバラバラだから、それをまとめたい」って言ってきたんです。で、次のシングルをどうするか考えていたときに「寒い季節だから、バラードじゃね?」みたいな簡単なノリから「あ、じゃあ、バラードをしのっぴ書いてよ」って繋がっていったんです。
--この歌詞を初めて観たときはどんな印象や感想を?
木村カエラ:まず「一人で書き上げやがった」って思いました(笑)。一緒に書こうと思ってたんですけど、書けちゃったらしいんですよ。で、見てみたら「良い詞」って思ったのでこのまま行くことにしたんですけど、この詞は本当に凄いと思います。私には書けないですね。
--すごくシンプルですけど、人が生きていく上でのすべてがここにはあるじゃないですか。なんか、木村カエラがこれまで歌ってきたことをひとつにまとめるとコレだよなっていう。自分ではどう思いますか?
木村カエラ:本当にその通りですね。自分がいつもテーマとして持っていた「心がどこに向かっていくのか?どう道を作ってあげたらいいのか?」。私はそれだけを考えて今まで詞を書いてきて、50曲近くの曲が作られてる中で、これはそれをまとめてしまった曲なんですよね。だからすごく衝撃を受けたし、「あ、このタイミングで自分はもう変わらなきゃダメだ」ってすごく思えた。「まとめちゃった!」「私の今までのこの4年間を!」みたいな。
--「変わらなきゃダメ」っていうのは具体的に言うと?
木村カエラ:まずひとつのテーマから抜け出せなかった自分から変わらなきゃいけない。だからもっといろんなことに目を向けたいと思ってますし、何をどう変えるかはまだハッキリ見えてないんだけど、それをすごく今探してる状態で。だから・・・大変(笑)。
--もうすでにライブでは何度か披露されていますが、歌っててどんな気持ちになってますか?
木村カエラ:こんなに一行一行に心を込めて歌う曲はないなって思うぐらい、すべてに意味を込めて歌ってます。またその時々によって、自分がそのときに一番気になってる人のことだったり、自分が一番気になってる想いだったり、浮かんでくるものが違う。なんかね、歌ってみないと分からない。だからどんな想いって言うよりも、そのひとつひとつの言葉を大切にして「自分が今一体何を考えてるんだろう?」って思いながら歌ってたりします。
--最初にライブで披露するときは緊張しました?
木村カエラ:しましたね。でもその前にテレビの収録があったんで、その前の日の方がドッキドキで!シングルの曲をテレビで歌う前って大体練習しに行くんですけど、でも『どこ』は練習じゃ歌えないと思って。テンションが曲に付いていかないと、「伝えたい」っていう気持ちが自分の中に凝縮されないと歌えない曲なので、軽い気持ちで歌おうとしても歌えないんですよ。だから練習なんて以ての外で。
--年末のストレイテナーとの対バンで『You』と『どこ』を続けて披露したじゃないですか。もう完全に泣け!って言ってるなって思いました(笑)。
木村カエラ:アハハハハ!ごめんなさい(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
受け入れられる・・・強さじゃないんですよね
--今後のライブでも重要な曲になりそうですよね。逆に言えば、一番気を遣う曲と言うか。
木村カエラ:だと思います。とりあえず今は中盤に組むことが多いんですけど、だからこの曲の出番が来るまでは緊張しまくって、これが終わった瞬間に弾ける!みたいな。
--ちなみにそんな楽曲に『どこ』というタイトルを付けたのは?
木村カエラ:この曲には『どこ』しかないだろうって思ったんです。しのっぴと「タイトルどうする?」って話してるときに、この詞の中からタイトルを取るとしても「『どこ』じゃね?」みたいな。やっぱりそれしかなかったんですよね。何の迷いもなく『どこ』って。やっぱり心っていうのは常にどこに行くか分かんなくて、気付いたらこんな低いところにいたり、逆にすごく高いところにいたり、いろんなところに行く。それはコントロールできるものでもないので、だからこそ『どこ』が一番ピッタリだなって。
--そうやって生きていくもんなんだって知ってるからこそ歌える曲ですよね。そしてそれが歌えたっていうのは、今後の木村カエラの表現を考えるとすごく大きな出来事ですよね。
木村カエラ:大きいですね。だって散々今までこのテーマで書いてますからね。悩み悩みすぎてるぐらい。そう考えるとこの歌を今うたえるのは嬉しいです。
--どんな風にみんなのもとへ響いていってほしいと思いますか?
木村カエラ:世の中にはネガティブな人ももちろんすごくいるでしょうし、ポジティブな人もすごくいる。で、ポジティブな人からしてみれば「そうそう、こういう感じだよね」って感じると思うんです。でもネガティブな人って、そこから抜け出すことがまず大変だし、落ち込んでいる今の現実だったりを受け入れるのにも時間が掛かるし、その労力が悩みの種になるし。で、そういう人って絶対にたくさんいると思うんですよね。でも私自身がこの曲を聴いて再確認したのは、やっぱり落ち込んでる今の自分も受け入れられる・・・強さじゃないんですよね。それが「あたりまえなんだ」って思えることがすごく大切なような気がしていて。
--「あたりまえなんだ」と知っても、傷付いたり、泣いたり、落ちたりはするじゃないですか。でもそれを知ってると、その状況をどこかで笑い飛ばせる自分を手に入れられると思うんですよね。
木村カエラ:ですよね。やっぱり少しでもね、楽にならなきゃダメですよね。その楽になれるっていうことが一番重要なとこ。みんなハッピーになりたくて生きてると思うんですけど、そこを目指すが故に他人より頭も良くなきゃいけないし、いろんなことを知ってなきゃいけないし、いろんなことをできなきゃいけない。そうやって人の上に行かなきゃいけない感覚がみんなの心の中にすごく根付いてると思うんです。でもそれだけじゃ面白くないし、ハッピーにはなれない。その中で少しでも楽になれる方法を考えるのが良い。てか、そこが一番楽しい!
--では、毎度恒例ですが「木村カエラが今やりたいこと」のコーナーです(笑)。前回は、塩むすびがめちゃめちゃ上手く握れる人になりたくて、サメに会いたくて、坂本龍馬がまわったところ全部まわりたくて、ガンダムのモビルスーツを全部憶えたいと言っていたんですが。
木村カエラ:全部出来てない!
--では、それを全部置き去りにしたまま(笑)今は何がやりたいですか?
木村カエラ:5月30日に映画版「ROOKIES」が公開されるんで、その初日、できれば舞台挨拶に行きたい(笑)。あとひとつの夢としては、年内中に絵本を一冊描きたい。あと部屋の湿度を50%に常に保つ。あとは、美容に気を付けたいですね。去年、24才になる手前ぐらいで肌質が第二世代というものを迎えたっぽくて(笑)。話に聞いてはいたんですけど「そんな急にガラリと体の中が変わるなんてありえない」って思ってたんですけど。
--そんなに変わるんですか?
木村カエラ:っ!!!!!
--そんな絶句するほど(笑)?
木村カエラ:そうなんですよ。今までだったら強力なメイク落としを使っても全く荒れないし、脂も無くならないし、潤いもなくならないのに、最近はそれを使うとニキビや吹き出ものが出るんですよ!でもニキビが出るってことは脂性なのかな?と思ってもっと洗ったりすると、どんどんどんどん悪くなってきて。顔を洗う方が綺麗になっていくと思っていたのが覆されて、洗わない方が良いんだっていう。それぐらいガラリと変わったので、今は自分の肌に合うものを探す研究をすごくしてます。
--まさかあなたからそんな話を聞く日がやってくるとは(笑)。
木村カエラ:本当だよね!ビックリしました。なので今年は美容と健康に気を付けたいと思います(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
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