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<インタビュー>GLAY・JIRO、デビュー30周年を迎えて思うGLAYのスタンダード――“ピュアに音楽を楽しむのがGLAYらしさ”
Interview & Text:青木 優
Photo:興梠 真穂
自分たちはポップである、大衆的な存在であるというバンドの原点に向き合ったニューアルバム『Back To The Pops』。今作でJIROは「シャルロ」という、実に彼らしいパンキッシュな曲を書いている。このバンドのオープンなムードと足並みを合わせるように、実にポジティヴで、それでいて最高のベースラインを紡いでいるのだ。
そしてTAKUROのインタビューで明かされているように、GLAYの方向性や曲作りにおいて、JIROが与えている影響は非常に大きいようだ。今回のアルバムには収録されていないが、JIROが書いた「THE GHOST」が昨年のGLAYにもたらしたものはかなりのものだったし、それは本作の「シャルロ」についても同じようなことが言えそうである。しかし面白いのは、当のJIROはその時々の自分のフィーリングのまま、純粋に音に向かっているだけであるということ。そのことは、このインタビューからも伝わってくるはずである。
JIROの混じりっ気のない感性と感覚は、間違いなく、GLAYというバンドにおける宝物である。
『Back To The Pops』というタイトルを
よく考えついたなって思います
――サマーソニックでは、とても楽しませてもらいました。
JIRO:ああー、そうですか? それは良かった! ありがとうございます。
――あそこではあなたを含め、メンバーみんなが楽しそうに見えたんですけど。どうでしたか?
JIRO:そうですね……僕ら、フェス出演って、そんなにないんですね。一応フェスに出るのは初めてだというふうに言ってましたけど、過去に他の人から呼ばれたイベントとかには出たことがあったんですよ。で、バンド内には10年ぐらい前にも「フェス、ぼちぼち出てみる?」みたいな感じがあったんですけど、「いやぁ、俺たちが出るのは違うんじゃない?」「出るとしたら、こっちのフェスなんじゃない?」みたいな、ああでもないこうでもないっていう話はしていたんです。でも今はそういうのも抜けて(笑)、何でも楽しめる場があればいいや! みたいな感じでしたね。
――そうなんですね。それであの場を楽しもうとしていたと。
JIRO:はい。いや、実は僕、ステージもそうだし、会場ももっと小さいと思ってたんですよ。それがステージに上がって、あの光景を見たら「うわっ、でか!」みたいな(笑)。それで1曲目からみんながこっちに対して好意的な感じで見てくれていて、斜めから見てるような人は見当たらなかったので、そこで「ああ、普通にやれば全然大丈夫だな」って思いましたね。
――うんうん。だからフェスという場で、のびのびやってるように見えました。
JIRO:そうですね。たぶんファンの人とかお客さん、あと周りのスタッフとかのほうが(自分たちのことを)特別に見てるんじゃないかな? という節があるんですけどね。過去にも何度もそういったイベントに出ていて、「いやぁ、今日のGLAY、良かったね」みたいなことを言われるけど、こっちの意気込みとしてはそんなに変わらないというか。そんな印象です。
――GLAYのセットリストはいつもあなたが基本的なところを決めてるけど、今回のサマソニはそうじゃなかったらしいですね。
JIRO:うん、今回はHISASHIが決めました。なので、僕だったら、もしかしたら「whodunit」(2024年)はやってないかもしれない。まあ(「whodunit」の演奏の)途中でアンダーワールドの曲(「Born Slippy」)をやるような遊びを入れるのは、HISASHIがやろうと言ったことだし。あと「Blue Jean」(2004年)は、僕なら選択しなかったと思う。でも、あとはおおむね、(自分がセットリストを考えたとしても)そんなに変わらずという感じですね。
GLAY×JAY (ENHYPEN) / whodunit
――そうですね、12曲それぞれに意味があったと思うし、そんな中で「これ、やるんだ?」みたいな部分もあったし。しかもそれでお客さんが熱く盛り上がって、とてもいい空間だったと思いました。それでライヴが終わってSNSをチェックしたら大好評で、いろんな反応があったのも面白かったんです。TERUさんが「フジロック!」と言った疑惑とか。
JIRO:あはははは! 僕はそう聞こえなかったですよ(笑)。でも逆にそれが伝説になりそうだったりしてね。
――そう、僕もTERUさんは「後ろ!」と声掛けをしていたのがわかったけど、聞き間違えて「フジロック? またTERU語録が!」みたいに捉えてる人もいて(笑)。それから、GLAYを初めて観る人がたくさんいたわけだから、「SHUTTER SPEEDSのテーマ」(1996年)で「ベースの人も唄うんだ?」みたいに驚いてる人もいました。まあ、よく知らないとそう思いますよね。
JIRO:そうですね(笑)。そう考えると、やっぱりHISASHIの選曲ですね。自分がセットリストを作ってたら、「SHUTTER SPEEDSのテーマ」は入れないです。それだったらシングル曲、たとえば「グロリアス」なんかを入れたほうが絶対盛り上がると思うから。でも結果的に思ったのは、GLAYというバンドのカラーがちゃんと出るようなセットリストだったんだなということです。だからHISASHIは僕の見てるのとは違う目線でGLAYの楽曲を考えてたんだろうし。もしかしたら僕よりも、もっとバンド全体のことを考えて選曲したのかもしれないですね。
SHUTTER SPEEDSのテーマ
――よく考えられたセットリストだと思いました。で、今度のアルバムはGLAYのポップなところ、親しみやすいところがよく出ていると思うんですが、そこはどんなふうに感じてます?
JIRO:いやぁ、TAKUROは『Back To The Pops』というタイトルをよく考えついたなって思います。これはまさにGLAYの中のスタンダードな感じというか。なのでファンの人たちが聴けば、「わあ、このGLAY、なんだか懐かしい!」とか、「これこれ! 待ってました」というような曲が多いな、という印象です。
――このレコーディングは長期に渡ったんじゃないですか? 3年ぶりのオリジナルアルバムだから余計そうだと思うんですけど、作ってる時はどんな感じでしたか?
JIRO:本格的にこのアルバムの個人作業に入ったのは、去年の夏ぐらいですね。僕、ちょっと東京を離れて、しばらく山のほうにこもってたんですよ。そこが音楽を作れる環境だったから。そこにロサンゼルスにいるTAKUROから「JIRO、これにベース入れてくれない?」と言ってデモテープが届いて、それを朝から晩まで作業していて。それが結構長く……1週間から10日ぐらい続いた時があったんですね。で、最初は1曲か2曲かなと思っていたら、どんどんどんどん、次から次へと送られてきて(笑)。結局、「そうか、これがアルバムになるんだな」と思いながら、TAKUROに返してました。そこからHISASHIの作業が始まって、TERUの歌入れがあって。で、なんとなく楽曲が出揃ったところで、TAKUROが「自分なりにアルバムの全貌が見えたんで、この曲たちを秋からレコーディングします」みたいな感じで、10何曲を録っていった感じでした。その中に「whodunit」も入っていましたね。
――はい、あの曲の制作がそのぐらいだったとは聞いています。で、GLAYの公式サイトのインタビューでTAKUROさんが、あの曲はGLAYにとってはかなり過激な曲だったと話しているんですね(https://www.glay.co.jp/feature/interview_vol109)。そこで、その前にあなたが作った「THE GHOST」の存在がすごく大きくて、「whodunit」はその影響を受けてるとも発言されているんです。
JIRO:ああ、なるほど……たしかに(サウンド的には)似ているかもしれないですね。ベースがずっとループでつないでいく、みたいな感じがあるので。
――しかもTAKUROさんは、「whodunit」は自分なりの「THE GHOST」へのアンサーソングだとまで言っています。その話を読んで、そこまでだったんだ? と僕は思ったんですけど。このことは「THE GHOST」の作曲者として、どんなふうに感じます?
JIRO:うーんと……まずは去年、今回収録されてる「シャルロ」と「THE GHOST」の2曲を僕が作っていて、その2つの曲の手応えが良かったんですよ。で、「THE GHOST」に関しては、近年の自分の中で流行りだったR&Bの要素を入れた曲を作ってみようっていうことで出てきた曲なんです。で、それともう1曲、TAKUROに曲を渡すのに「シャルロ」の原型となる曲を……まあ、これはいかにも GLAYのJIRO曲っぽい感じの曲ですけど。その2曲の「どっちか手応えあるほうで歌詞書いてください、お願いします!」みたいな感じで送ったら、TAKUROが『「THE GHOST」の感じは今のGLAYでやると超新しい!』って反応してくれたんですよね。なので、その影響があったんじゃないかなと思います。で、「whodunit」の原型は、もうはるか昔からあったと聞いてました。
――そうですね、「whodunit」はMGMTの「KIDS」が下敷きにあったというくらいですから(https://www.billboard-japan.com/special/detail/4389)。ただ、それでいて今のメインストリームのダンサブルなポップソングとリンクしているとこともあって、そういう刺激をもたらしたのが「THE GHOST」だったのはわかる気がするんです。
JIRO:そうかもしれないですね。それはさっきも言いましたけど、もしかしたらベースラインにも関係してるかもしれないです。僕、去年のツアー中はヒマだったから、早めに楽屋に入って、自分の気になってるR&Bのいろんな曲を片っ端からコピーして、それからバンドのリハーサルをやって、そのあとに本番、というルーティンにしていたんですよ。そこでは自分が今までやってきてなかったような、たとえば休符を使ったり、裏のノリのベースラインをやったりしていて、それが「THE GHOST」につながったんじゃないかなと思うんですね。で、その流れで……僕は「whodunit」の原型を聴いた時、ちょっと手のつけられないようなヘンな曲だなと思ってたんですよ(笑)。元々は。
――(笑)。ヘンというか、異色ではありますね。
JIRO:でも本人(TAKURO)はすごく気に入ってるから、これはちゃんと形にしてあげたいなぁと思って。それでレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいな、大きいランニングベースっぽい感じの演奏とか、いろんなアプローチをしてみたんです。
――それも去年の夏に、東京を離れていた期間のことですね。
JIRO:そうです。(バンドとしては)オフでいながら、TAKUROから課題曲がいろいろと送られてくる中で、ベースのアレンジをいろいろ試していて。そこでは時間だけはひたすらあったので、朝起きたら前の日デモで収録したテイクを聴いて、「うーん、これはまだ良くないな」と思ったら修正して。で、昼ご飯買いに行って、それから戻ってきて、甲子園(の高校野球中継を)見ながら(笑)、またベースラインを考えると。それのくり返しの毎日だったんですよ。
なので、曲と向き合う時間がすごくたくさんあったんですよね。で、その中で「whodunit」に関しては、その前のツアーまでに練習してきてたR&Bの要素をうまく落とし込めるんじゃないかなと思ったんです。だから今回のアルバムは、自分の中でかなり時間をかけて取り組めたと思います。
GLAYにはたくさんの人たちに喜ばれる曲が
いっぱいあるなと思うことができた
――ひとりでじっくり考える時間があったんですね。その前に、なぜそういう環境に身を置くことにしたんですか?
JIRO:それはですね、まず東京があまりに酷暑で、東京にいたくなかったんです(笑)。そういうのもあって、ちょっと旅のつもりで行ったんですね。で、そこにはベースとかパソコンとか、あと録音できる環境はあったので。まあ自宅でやってるよりは簡易的なものなんですけど、べつに本番ではないから。それで気分良く作業できました。で、家にいると、やっぱりいろいろと「あれもこれもやりたくないな」と思ったりするんですよ。そこでは掃除もしたくなるし。なんだかいろんなことをやらなきゃいけなくなるんだけど、その環境下になかったんですね。やることが、ほんとにTAKUROから送られてくるデモテープにベースラインを入れるぐらいしかなかったんです。
――そのおかげで集中できたと。では、そこで何か発見はありました? ベースプレイに関してもそうですし、音楽面でわかったこととか。
JIRO:はっきり言えば、やっぱり時間をかければかけるほど、いいですね。もし弾きすぎても「ああ、これはやりすぎだな」と思ったら、それをやり直す時間があるわけだし。昔とかは、ほんとに時間がない中でレコーディングしなきゃいけなかったんですよ。「HOWEVER」みたいにリズム録りからミックスまで3日か4日ぐらいでやっちゃったようなパターンもあったんです。ただ、今はそこまで急ぐような感じでやりたくないなという気持ちもありますし。僕の場合は、時間かけて録った方ほうが自分なりにちゃんと納得できるものが作れるなと思います。まあ当たり前なんですけどね。
――そこで考えすぎて袋小路に入っちゃって、答えが見つからないパターンとかは?
JIRO:いえ。僕の場合は、それはないですね。
――ちゃんと行きたい方向に持っていけると。もしかしたらプレイヤーとしてちょっと進化したというか、ひと皮むけたような感じがあるんでしょうか?
JIRO:ああ、そうですね。僕はコロナ中にやることがなくて、YouTubeを見ながらR&Bのベース……モータウンとか、あのあたりをひたすらコピーしてたことがあったんですけど。
――その流れで、ベーシストの多田尚人さんと交流を持ったという話でしたよね(https://www.billboard-japan.com/special/detail/4130)
JIRO:はい、その尚人くんがスタジオミュージシャンで、R&Bに詳しい人なんです。で、僕と彼と、LITEというバカテクのインストバンドの井澤(惇)くんの3人でよくご飯を食べたり飲んだりするんですね。それがお互い、全然違うタイプのベースなんですよ。で、僕の作業部屋に来て、酔っぱらった勢いでベースとか弾いたりしたことがあったんですけど、同じベースという楽器なのに、それぞれの特色が違いすぎて(笑)。その中で、「ああ、俺には俺の良さがあるな」「このビートの躍動感みたいものは自分の持ち味なんだな」ということを再確認できたのも大きかったんじゃないかと思います。
――へえー! そんなことがあったんですね。
JIRO:はい。GLAYにはギターが2人もいるし、「ここは弾きすぎるよりは、僕はリズムで躍動感を作って橋渡しをすればいいんじゃないかな」と思ったことも、今回はありました。
――なるほど。そこでどんなプレイをするべきなのかという、いい意味での客観性が生まれてるというか。
JIRO:うん、そうですね。まあ前からそういうところはあったんですけども、今回も「たぶん、ここはベースを弾けと要求されてるな」「そんなふうに曲に呼ばれてるな」という感じもありましたし。その一方で、実際にデモを録ってみて、その自分の判断がほんとに良かったのか……「いや、さすがに弾かなすぎだな」とか、そんなふうに考える時間もいっぱいあったので。
――徹底的に取り組むことができたアルバムなんですね。で、そんな中で、先ほど話に出してくれた「シャルロ」はあなたが書いた、とてもポップでパンキッシュな曲なんですが。これを作った時にはどんなイメージがありました?
JIRO:いや、このへんに関しては、もう自然と出てきた感じですね。「THE GHOST」みたいな曲を作ったので、「もうちょっと、ちゃんとした曲も書いとこう」と思ったらできた感じです(笑)。
――(笑)。「THE GHOST」は、GLAYにおいては新しいアプローチですからね。でも「シャルロ」は「そうそう、こういうのが好きな人だよな」と思えるというか。
JIRO:この曲に関してはGLAYでも、THE PREDATORS(ザ・ピロウズの山中さわお、ELLEGARDENの高橋宏貴と活動しているオルタナティブ・ロック・バンド)でも様になりそうだなって思える、ほんとに自分らしい曲だなと思いました。
――歌詞はTAKUROさんが書いていて、そこではパンクスに言及した言葉も出てくるし、ライヴでも盛り上がる曲になると思います。こうしてアルバムを作り終えて、何か思ったことってあります? 特にGLAYというバンドについて。
JIRO:そうですね……30周年の記念シングルの「whodunit」が、自分たちだけじゃなく、コラボだったっていうことがGLAYらしいなと思いました。
――つまりそれは新しいことに挑戦しているからですか?
JIRO:いえ、挑戦というよりも、ピュアに音楽を楽しんでるっていうことです。純粋だなぁ、っていうか(笑)。
――ああ、わかります。今もGLAYには純粋なところがありますし、それはこのアルバムがまさにそうだと思います。となると、このアルバムのツアーはどんな構成のセットリストにしようと思っていますか?
JIRO:それが、まだ現時点では何も考えてないです(笑)。まだもう少し先ですからね。ただ、アルバム曲をやるのはもちろんあるんですけど、でも30周年イヤーは継続していますからね。それで……今年は6月にやった埼玉・ベルーナドームもあったし、クイーン+アダム・ランバートとの対バンも、箭内(道彦/アートディレクター)さんのイベントでの怒髪天との対バンも、それにサマーソニックもそうでしたけど、GLAYにはたくさんの人たちに喜ばれる曲がいっぱいあるなと思うことができて。だから30周年の間は、それをきっちりやりたいなと思ってます。25周年とか20周年の時は、そこまでそういう気持ちになってなかったというか。「いや、周年だけど、もうちょっと攻めようよ」みたいな気持ちだったと思うんです。
それが今は……そういった曲たちがあったからこそここまで続けられてたんだな、というか。「みんなの思い出の中にいっぱい宿ってる曲たちをやってあげたいな」という気持ちでいるかな。なので、次はアルバムツアーではあるんですけど、継続してヒットソングとかいっぱいやるようなツアーにはしたいと思っています。
――なるほど。そこも『Back To The Pops』というアルバムと、ムードとしてつながっていますよね。
JIRO:そうかもしれないですね。どちらかと言えば、今まではそういうことをあまりやってこなかったんですよ。「今、ライヴ会場に熱を持って足を運んでくれる人たちに向けて」という気持ちが強かったし、次のツアーでもそういうファンは多いとは思います。でも今は、せっかく来てくれたのに、「あの曲やらないんだな」と思われるのも寂しいな、という気持ちがあって(笑)。それこそクイーンの時とか、怒髪天の時も、この間のサマソニも、GLAYのことをあまり知らなかったけど観に来てくれた人たちに「うわぁ、やっぱりいいね!」って言ってもらえるようなライヴにしたいですから。
――そう思うと代表曲というか、よく知られているGLAYの曲をパフォーマンスするのもポジティヴな気持ちでできるわけですね。
JIRO:はい。それをやりきったら、また31周年目から、ちょっと攻めた、本当にコアなファンの人たち向けのことをやればいいから。そういうメリハリみたいなのをつけて、今回はとことんやりきろうと思っています。
――わかりました。では引き続きの30周年と、そして次のツアーも楽しみにしています。
JIRO:はい、頑張ります。ありがとうございます!
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