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<インタビュー>Billboard International Power Players vol.9 藤倉尚 ユニバーサルミュージック合同会社 社長兼CEO

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 米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard International Power Players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが選ばれた中、ユニバーサル ミュージックCEOの藤倉尚氏が4年連続5度目に選出された。今回、本選出を記念し藤倉氏へインタビュー。

 社長に就任してからの10年間を振り返りながら、グローバル展開への課題について話を聞いた。(Interview: 礒崎 誠二/高嶋 直子I Text: 高嶋 直子 l Photo: 辰巳隆二)

就任当初は、グローバルの会議で名前を呼んでもらえなかったことも

――ユニバーサルミュージックの社長に就任されてから、10年目になります。この10年間、過去最高益を更新されていますが、振り返ってみていかがですか。

藤倉尚:様々な出来事がありましたが、共通しているキーワードは「つながる」です。就任当初は、グローバルの会議に出席しても名前を呼んでもらえなかったり、「パッケージの売上は減少していくから、そういう部署はなくしたほうが良い」と言われたりしていました。ですが、2014年当時の日本はまだApple Musicも上陸していませんでしたし、売上の80%はCDが占めていて。そして日本には再販価格維持制度があり、作品を一定の価格で販売することができます。本社とのつながりを強化する必要性があるなと感じ、「日本はデジタルとフィジカルの両方に力を入れていく」と伝え続けました。その結果、国内の市場や所属アーティストなどについて説明する機会をもらうことができ、就任当初は毎月のようにアメリカに出張していましたね。


――日本の状況を理解してもらうために?

藤倉:ええ。英語が得意ではないのですが「ストリーミングに全て振り切ってしまうのではなく、日本ではパッケージの需要が高いから、両方続けていくべきだ」ということを直接会って伝え続けました。結果的に、2015年に『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』、2016年に宇多田ヒカル『Fantôme』、RADWIMPS『君の名は。』など複数のミリオンセラー作品が出たことで我々の取り組みが正しいと理解してもらうことができました。この結果の積み重ねがBTS(2017年)やKing & Prince(2018年)など新しいアーティストとの契約につながったと思っています。


――それは、どういう意味でしょうか。

藤倉:我々は外資系ということもあり、どうしてもデジタル偏重だと見られることが多くて。ですが、パッケージも大切にしているし、作品を売る力があるということを実績とともに伝えることができました。その結果が、新たな出会いにつながったと思っています。


――Spotifyはグローバルでは2008年からスタートしましたが、日本ではApple MusicやLINE MUSICが2015年、Spotifyは2016年と遅れてのスタートでした。アメリカと日本の状況が大きく異なっている時代に就任されたのですね。

藤倉:ですので、まず結果を出せたことが次につながったと思っています。もう一つの“つながる”は社員です。私が社長になる1年前の2013年に、ユニバーサルミュージックとEMIミュージック・ジャパン(当時)が合併しました。仕事の進め方ひとつとってもやり方が違っていたため、突然同じ会社になって戸惑う声も多く、もっと社員と‘つながる’必要がでてきました。ですので、まず社長に就任した際、ひとりひとりの顔・名前を覚えようと社長室に全社員の名前と顔写真を並べた表を作りました。


――当時の社員数は、どのくらいだったのでしょうか?

藤倉:たしか500~600人ほどだったと思います。今、振り返るとマグネットに貼るなど効率的なやり方は他にもあったように思いますが、模造紙4枚くらいに直接書いたり貼ったりしました(笑)。“旧EMI”とか“旧ユニバーサル”のように社内で線を引いたり、いがみ合うのは本当に無駄だと思ったので、エレベーターで誰に会っても名前で呼べるよう心掛けました。

 そして、この10年間の取り組みで大きかったことのひとつは社員の正社員化ですね。それまでは大多数が契約社員だったので、次の年に契約が切られないように、“失敗しないやり方”ばかりに気を取られてしまっていたように感じていました。私自身も契約社員でしたし、短期的な視点で仕事をしてしまっていると感じることもありました。加えて、2015年からはストリーミングでの視聴が増えてきて、音楽業界のビジネスの形が大きく変わろうとしていました。CDの場合は発売日が売上のピークですが、ストリーミングは数か月かけて再生数が増えたり、場合によってはリリースから何年も経って急に聴かれたりするなど、ヒットの形も様々です。なので1~2年で社員が入れ替わって、単年度の成果だけにフォーカスするような雇用形態は合わないと思いました。


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レーベル同士で競争し切磋琢磨し続ける

――正社員化によって、社内の雰囲気は大きく変わりましたか。

藤倉:正社員化を実施した年(2017年)は大きく変わりましたね。1年以上働いている人で、希望する人は全員正社員にしますと、全社集会で伝えたんです。「社員から、きっと大きな歓声が上がるだろうな」と思っていたら、意外と静かで(笑)。もっとその場で喜んでくれると思ったのですが、ご家族やパートナーの方に報告できてよかったという話を後から聞くことができました。

 一方、正社員化したことで、皆の緊張感がなくなるのは良くないなと思い、人事評価制度の見直しとマルチレーベル化を進めました。レーベル同士で競争し、切磋琢磨し続けることによって、今のように様々なヒットアーティストを生み出すことができるようになったと思っています。

 そして、最後の“つながる”はリスナー・ファンの皆さんですね。我々のビジネスは、CDショップやストリーミングサービスを通して音楽を届ける、BtoBtoCです。ですが、この10年の間にファンダムの存在も非常に大きくなりました。そこでファンの方に集まっていただける場所として、ユニバーサル ミュージックグループの中でも世界初のコンセプトストア「UNIVERSAL MUSIC STORE HARAJUKU」をオープンしました。他にも昨年はディズニーやKing & Princeなど様々なアーティストの音楽と花火のショーをプロデュースするなど、ライブとは違う届け方にも取り組んでいます。

 常に意識しているのは、アーティストに選ばれる会社になりたいということです。マーケットシェアも増え、10年連続で成長できたのは、新しいアーティストと出会うことができ、キャリアの長いアーティストもユニバーサル ミュージックに居続けてくれているからだと思っています。


――アーティストに選ばれる会社であり続けるために社員の皆さんに常に伝えてらっしゃることは何ですか。

藤倉:社訓の『人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける』ですね。どの部署であっても、人と音楽が好きで入社したことを忘れないように、伝え続けています。グローバルでも同じように「We are the home for the music’s greatest artists, investors and entrepreneurs」というメッセージが大切にされていて、アーティストファーストであることと、アーティストにとってホームのような場所であり続けることは大切にしています。


――今年のBillboard JAPAN Hot 100ではMrs. GREEN APPLEが大きな存在感を示しています。ヒットの要因は、どこになると考えてらっしゃいますか。

藤倉:想像されている答えからすると、つまらないかもしれませんが、彼らの才能です。特別な戦略というよりは、大森元貴が作る楽曲、メンバー全員の素晴らしさを我々が信じ続けたことがこの結果につながっていると思っています。

 彼らは7月に横浜スタジアムで2日間公演を開催しましたが、10月にはKアリーナで8日間公演を行います。作品作りのためにインプット期間を設けるのではなく、止まることなく、活動し続ける、その姿を見ていると新型のスーパースターだと感じますね。


――2023年9月から、我々は世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した “Global Japan Songs Excl. Japan”をスタートしました。そこで藤井 風やimaseのグローバルヒットも可視化されるようになり、日本の音楽業界のギアが一段階上がったように感じています。日本は、まだまだフィジカルの売上が強い国ですが、今後グローバルでもフィジカルセールスに可能性はあると思われますか。

藤倉:あると思います。今、USやUK向けに日本盤のビートルズやローリング・ストーンズのCDやアナログ盤など輸出しています。フィジカルはもっと需要があると思っています。


代わりが利かないということが非常に大切

――7月に経産省が『音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書』を発表しました。今後、国との連携は加速していくのでしょうか。

藤倉:4月に音楽関連企業で自民党のクールジャパン戦略推進特別委員会でプレゼンもさせていただきました。当社も、様々なアーティストとともにチャレンジし続けたいと思いますし、日本の才能が海外に出ていくのを、様々な立場の人がサポートしてくださるのは心強いです。


――日本のアニメやゲームは、世界で一定のシェアを獲得していますが、音楽はまだまだだと思います。どのような課題が残されていると思いますか。

藤倉:オリジナリティですね。『ONE PIECE』は『ONE PIECE』以外にないし、『呪術廻戦』は『呪術廻戦』でしかないし、BTSはBTS以外の何物でもない。要は、代わりが利かないということが非常に大切です。K-POPは、フォーメーションダンスやビジュアルも含めた、言語を超えた独自性が多くの人の心を動かしました。だからBTSもどきでも、NewJeansもどきでも成功しないと思います。

 そして、ローカライズという点で、英語もふくめて様々な言語でファンとコミュニケーションをとること。グローバライズという点では、社内だけではなく海外のプロモーター、クリエイターのチームとも密に連携することが重要だと思います。

 BTSは防弾少年団という名前をBTSに変えました。海外で通じるためには、漢字だと浸透しにくいわけですよね。そして、日本のマーケットに向けた楽曲も作りましたし、英語の曲も作って、一歩ずつ広がっていきました。

 成功の方程式はひとつではありませんし、色々なパターンも生まれてくると思います。藤井 風はタイから広がりましたし、いろんなケースがありますが、そういうヒットの種が生まれたときに、いかに早く手が打てるかも重要でしょうね。


――最後に、「ヒットとは100人が100回聴くことか、1万人が1回ずつ聴くことか」、どちらを指すと思われますか。

藤倉:ずるい答え方かもしれませんが、両方ですね。音楽に限らず今の時代は、価値基準が1つではありません。100人の人がCDを1枚買うことと、1人の人が100枚買うことを、同じヒットと捉えて良いのか、私の中でも答えが出ていなくて。


――この質問を、これまで様々な方にしてきましたが、レコード会社の方やマネジメントの方は「100人が100回聴くこと」と答えられる方が多いです。一方、メディアの方は「1万人が1回聴くこと」という方が多くて。今、ヒットしている曲に対して、お互い共通した認識を持ちつつ、ヒットの定義にはズレが生じているのは興味深いなと思います。

藤倉:面白いですね。逆に質問しますが、音楽会社とメディアの感覚が一致したら、より巨大なヒットが生まれるのでしょうか?


――どうなんでしょう……。アーティストによって、1万人の人に1回聴いてもらうタイミングと、100人の人に100回聴いてもらうタイミングが、それぞれあるのかなと思っています。

藤倉:それは、間違いありませんね。


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