Special

<対談インタビュー>【歌ってみた Collection ~2024 Spring~】 __(アンダーバー)と原口沙輔が明かす、歌コレ・ボカコレに対する本音



インタビューバナー

Interview & Text:ヒガキユウカ


 2020年にスタートし、5年目を迎えるボカロの祭典『The VOCALOID Collection』(通称ボカコレ)。2022年春からは歌ってみた動画にフォーカスした『歌ってみた Collection』(歌コレ)も開催されている。

 歌コレ2024春では、歌い手の__(アンダーバー)が、原口沙輔の「イガク」をアカペラカバー。オケを使わずにすべての音を自らの声で再現し、TOP100 ランキング5位に輝いた。__(アンダーバー)は “ネタい手”としても知られ、ネタとして歌った動画は「フリーダム」、真面目に歌った動画は「フツーダム」と呼ばれる。今年歌い手デビュー15周年を迎えるベテランで、YouTubeのフリーダムチャンネルは登録者数105万人にのぼる。

 原口沙輔は5歳で作曲を始め、15歳のときにSASUKE名義でメジャーデビュー。代表作「人マニア」でボカコレ2023夏TOP100ランキングに参加し、その後ビルボードジャパンの「ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20」で18週連続首位を達成した。なお「イガク」についても、同上半期チャートにて4位を獲得している。

 今回は11月22日からの歌コレ2024秋開催に寄せて、そんな両者の対談が実現。互いのリスペクトを明かす中で話に花が咲き、最終的にはそれぞれがボカコレ・歌コレに抱く本音が飛び出すこととなった。

きっかけは「ようかい体操第一」の歌ってみた

――お互いを知ったきっかけを教えてください。

原口沙輔:僕が__(アンダーバー)さんを知ったのは、小学生の頃に……。

__:し、小学生!?

原口沙輔:確か2015~6年ぐらいだったと思うんですけど……。

__:2015~6年に小学生!?

原口沙輔:(地元では)当時、インターネットを見せてもらえる家庭の子供がまだ少なかったので、そういう話ができる人で固まっていたんですよね。それで、友人に「これ面白いよ」って__(アンダーバー)さんの「ようかい体操第一」の動画を見せてもらったのが最初だったと思います。


▲フリーダムに「ようかい体操第一」を歌ってみた【__】

__:一番教育に悪いな……。僕はニコニコ動画のランキングに上がっていた「人マニア」をお聞きしたのがきっかけですね。聴いた瞬間、「天才が来たな」と感じました。

原口沙輔:ありがたいです。

__:芸術的というか、映像と曲の構成がめちゃくちゃカオスで、それがすごくぶっ刺さりました。バリバリに尖っていて、衝撃を受けましたね。

――__(アンダーバー)さんはその後、前回の歌コレで「イガク」をアカペラカバーされました。

__:「人マニア」の時点で歌いたかったんですけど、ちょっとタイミングが合わなくて。何かの機会で歌いたいなと思っていたところに「イガク」が投稿されて、「そういえば歌コレも近いな」と思い、挑戦してみました。

――なぜアカペラにしたんでしょうか?

__:音づくりの時点で、他のボカロPさんと違ってかなり特殊な印象を受けたんですよね。アクセント的に効果音が入ったり、男性の声が入ったり、僕ああいうのがすごく好きで。「これを自分の声でやってみたい」と思ったんです。特に「ユ」ですよね。あれをどこまでインパクト強く言えるかに挑戦したくて。
普通のギターとかベースじゃない特殊な音の構成を、口で表現できたら面白そうだなと。ステムデータを公式で配布されていたので、それも参考にしました。

原口沙輔:リミックスとかに使ってもらえるのかなと思っていたので、まさか歌ってみたに活用されるとは(笑)。アカペラは驚きましたが、僕はもともと__(アンダーバー)さんを見ていた側なので、フツーダムの方じゃないことがすごくうれしかったです。もちろん普通に歌っていただくのもうれしいんですけど、こっちで歌ってくれてよかったなって。

――原口さんはボカロ曲を制作するとき、2次創作したくなるポイントを意識されているそうですが、具体的にうかがえますか?

原口沙輔:いくつかあるんですけど、1つは「曲が短いこと」ですね。よく「TikTokやショート向けにそうしているんじゃないか」という考察をされるんですが、実はそうではなく、歌録りを気軽にしやすくするためなんです。僕は商業の制作で仮歌を録ることもあるので、歌う人の気持ちもわかるんですが、短いとうれしくて。一部の曲はサビが同じ歌詞になっているので、最悪コピーしても良いですし。

――お2人の作品づくりの大きな共通点として、音MAD的仕掛けがあると思います。それぞれ、好きな音MADを教えていただけますか?

原口沙輔:ありすぎる……。

__:無限に見てきたからなあ。今ぱっと浮かんだのは松岡修造さんですね。アップテンポなものにMAD素材がぱぱぱぱっと入ってくる、瞬間的なアクセントが強いものが好きなんですよ。中毒性があって、めちゃめちゃ気持ちいい。かと思えば、あらぬところから変なセリフがポーンと入ってきたり、ワードチョイスが絶妙だったりして、僕もフリーダムシリーズではその感覚を活かそうと頑張っています。

原口沙輔:僕はアルカノイドですね。それと、僕は音MADをほぼ音楽だと思って聴いていて、上京してすぐの頃は、家事のBGMなどにしてほかの音楽と同じように流していました。MADはリズム感やキメが非常に重要で、そういう所は「なるほど、こうやるのか」と思いながら聴いていました。 実際、「人マニア」を作る少し前くらいの時期に、海外の音MADのような文化にハマっていたんです。DariacoreやHyperflipと呼ばれるジャンルが海外にあるんですけど、若いトラックメーカーやインターネット音楽の人たちの間で、サンプリングしたサウンドを元にうるさめの音楽を作るムーブメントがあって、あれはほぼMADの文脈だと思うんですよね。 逆輸入でMAD界隈にそういう曲が流れ込んだりしていた時期だったので、「お、これはちょっと合体できるかも」と思ってボカロ曲を作ってみた部分はあります。

「実写で伸びたい」原口沙輔の映像制作のルーツ

__:僕、音はもちろんなんですけど、原口さんの映像がすごく好きなんですよ。言い方が難しいんですが、低コストであれだけハイセンスでおしゃれな動画を作れるのがすごいなって。昨今は歌ってみたもそうですけど、いかにお金をかけて良い映像を作るかみたいな戦いが繰り広げられているじゃないですか。

原口沙輔:「アニメのオープニングかな?」というMV、ありますもんね。

__:そうなんですよ。しかも実写であのおしゃれなコラージュ感を生み出せるのがすごい。「この発想があったかー!」って思いますね。

――原口さんは、映像面だと何がルーツにあるんでしょうか?

原口沙輔:見てきたものは、かなり偏っていると思います。CMや『デザインあ』『ピタゴラスイッチ』などでお仕事をされている映像作家さんたちが、まだ若手だった頃の作品をよく見てきました。「映像作家100人」のDVDとか。一般にはなかなか受け入れがたいけど、その代わりに中毒性が強いシュールな映像が多いんですよね。

――ボカロ曲を出すとき、MVを人に依頼しようという発想にはなりませんでしたか?

原口沙輔:「人マニア」は投稿の3日前からつくり始めたので、シンプルに人に映像を依頼できるような時間がなかったんです。あと曲が変すぎて、これをクリエイターさんに渡しても困るだろうな」と思っていて。そうこうしているうちに時間がなくなってしまった。
それで自分で用意したんですが、実写にするのは最初から決めていました。もともと仲の良かったボカロPたちと通話をしていたときに、「実写が伸びなくて悔しい」という話があったんです。当時は真ん中にイラストがあって、歌詞が出て……というMVが多かった時期なんですが、「じゃあ実写で伸びるにはどうしたらいいか」と考えて、映像についてはずっとそのテーマでやっています。

――逆に原口さんから、__(アンダーバー)さんのクリエイティブでリスペクトしているポイントはありますか?

原口沙輔:それこそ小学生のときから見ているので、いまだに「フリーダム」で同じスタイルを貫かれていることを尊敬していますね。時間が経つ中で、途中でいなくなっちゃう方もいるじゃないですか。飽きてしまうケースもあるでしょうし。

__:もう、こればかりずっとやってますね。今年でちょうど15週年になるんですけど、15年間、変な声を出し続けています。それこそ原口さんが見つけてくださった2015~6年はアカペラを始めた頃で、そういうふうにいろいろと寄り道をしたりはしていますけど。

原口沙輔:相当難しいことだと思います。

__:でも、「フリーダム」のスタイルもだいぶ変わりました。ご時世柄や流行もありますし、最近はコンプラをとにかく気にしています。昔はワードチョイスもかなり自由にやっていましたが、今はフリーダムといいつつフリーダムではないというか(笑)。

原口沙輔:何年もかけてこの活動スタイルを確立していくのではなく、最初から確立されていたじゃないですか。それもすごいですし、一方でやることの手は広げていらっしゃる。見ていて楽しいですし、新しいことを拾うスピードも本当に速くて。「そこまで網羅するの!?」っていうくらい。

__:もともとお祭りごとが好きなんですよ。同世代のニコニコ動画投稿者のあるあるかもしれませんが、お金目当てじゃないという点が大きくて。これは今と昔の大きな違いで、今は広告収入だったり、メジャーやプロを目指したりすることを前提に活動を始める方が多いんですけど、当時は広告収入はないし、有名になったからといってメジャーデビューできたりテレビに出られたりするわけではなかった。
始めるきっかけが「流行っていてなんか楽しそうだから」がベースだったんですよね。自分の中でそれは今も変わっていなくて、ちょっと面白そうな流行りがあると、「自分もまざりたい!」って欲が出てきちゃうんです。最近だと「強風オールバック」が流行ったとき、サカナクションさんの「多分、風。」と混ぜたマッシュアップが上がって、一部の界隈ですごく盛り上がっていたんです。自分はそれを、アカペラでカバーさせていただきました。


▲【強風オールバック】「多分、強風。」を歌ってみた【__(アンダーバー)】

――ニコニコ動画の活動者として、非常にピュアな部分が残り続けているんですね。

原口沙輔:__(アンダーバー)さんのそういう所が本当にいいなと思います。僕の身の回りの人もわりとそうなんですが、僕は自我より創作を優先してしまう人が大好きなんですよね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. ボカロ曲の歌ってみたなら、それぞれが正解になれる
  3. Next >

関連キーワード

TAG

関連商品