Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>Billboard International Power Players vol.8 黒岩克巳 エイベックス株式会社 代表取締役社長CEO

インタビューバナー


 米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard International Power Players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが選ばれた中、エイベックスCEOの黒岩克巳氏が、2年連続で選出された。今回、本選出を記念し黒岩氏へインタビュー。ONE OR EIGHTの手応えや、グローバルヒットを生み出すための課題について話を聞いた。(Interview: 礒崎 誠二/高嶋 直子 l Text: 高嶋 直子 l Photo:岩田 慶)

自分たちで外貨を取りにいかないと、生き残れない

――AEGXとしてエド・シーランやテイラー・スウィフトの来日公演を成功させたことが、【Billboard International Power Players】で評価されました。ポストコロナになり、AEGとのコラボレーションが本格化してきたのではないでしょうか。

黒岩 克巳:2月のテイラー・スウィフトの公演は、東京ドームで4日間開催したのですが、国内外問わず多くの方々から応募がありました。特に中国や東南アジアなどを中心に海外からも多数で、経済的な効果も大きかったと思います。


――新聞などでニュースにもなりました。

黒岩:テイラー・スウィフトの公演はアジアでは東京とシンガポールだけでしたので、注目度も非常に高かったと思います。このような大物アーティストがアジアツアーをするときに、日本が選ばれないということだけは絶対に避けたいと思っていて。アーティストにとって日本で公演を実施することが一つのステイタスになるよう、AEGのメンバーと密にコミュニケーションを取りながら高いホスピタリティを心がけました。


――昨年のインタビューでは「様々なアーティストが挑戦していくことで、線になり面になってマーケットを作り上げていければ」とおっしゃっていました。先日、ボーイズグループのONE OR EIGHTがデビューし、8月28日公開のHeatseekersチャートでも首位を獲得していましたが、手応えはいかがでしょうか。

黒岩:今年の5月にAvex USAを通してアメリカのマネジメント会社S10 Entertainmentへ戦略投資をし、海外展開を強化しました。そのため、ONE OR EIGHTはAvex USAと密に連携し、デビュー曲「Don’t Tell Nobody」のプロデューサーにワンリパブリックのライアン・テダーと、デヴィッド・スチュワート、スタッフはアメリカ、日本、韓国という様々な国籍のチームで運営しています。

 グローバルでヒット曲を生み出すというのは非常に難しいテーマではありますが、我々は三大メジャーレコード会社ではないので、自分たちで外貨を取りにいかないと、生き残れないと思っています。


――グローバルでヒットするために、アニメタイアップは必要だと思いますか?

黒岩:喉から手が出るほど欲しいですね(笑)。Creepy Nutsさんも、YOASOBIさんもすごいなと思っています。ただ、何でもタイアップを付ければ良いというわけではなく、アーティストの世界観との相性が大事です。アニメ産業と音楽産業では輸出額が大きく違うので、日本の音楽をグローバルで展開するための一つの要素として、アニメは重要だと思っています。


NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. 最もやってはいけないのは、日本で少し売れたあと、いきなり海外を目指すこと
  3. Next>

最もやってはいけないのは、
日本で少し売れたあと、いきなり海外を目指すこと

――2023年9月から、我々は世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した “Global Japan Songs Excl. Japan”をスタートしました。日本の音楽業界のギアが一段階上がったように感じています。日本は、まだまだフィジカルの売上が強い国ですが、今後 グローバルでもフィジカルセールスに可能性はあると思われますか。

黒岩:国やアーティストによると思います。先日、久しぶりに韓国へ行きましたが、韓国ではCDの売上がここ数年大きく伸びています。音楽の聴き方がCDに戻ったのかというとそうではなく、マーチャンダイズのような扱いですので、それを音楽ランキングに含めるべきかという議論が起こっているようです。先日CDとアーティストオリジナルのプレイヤーがセットで販売されているのには、驚きました。ものすごく売れていて、ショップに訪れる3~4割は日本人だそうです。ですが国によって価値観も聴き方も違うので、同じビジネスがアメリカでも実現できるかというと、難しいと思います。


――日本のアーティストの可能性については、いかがでしょうか?

黒岩:ビルボードのチャートを見ていても様々ですよね。初週で上位を獲得してもすぐにランクダウンする場合もありますし、Mrs. GREEN APPLEさんのようにずっとチャートインし続けているアーティストもいます。当社ですと、ここ最近のDa-iCEのヒットは頼もしく見ています。

 今後もグローバル展開に力を入れていきますが、日本国内でのヒットもしっかりと生みだしていく必要があると思っています。最もやってはいけないと思うのは、日本で少し売れたあとに、いきなり海外を目指すケースです。日本でヒットするのと、アメリカでヒットするのとでは、進め方ややり方が異なるため、そのあたりの意識を変える必要があると思っています。


――日本のアニメやゲームは、世界で一定のシェアを獲得していますが、音楽はまだまだだと思います。どのような課題が残されていると思いますか。

黒岩:ゲームやアニメと比べると、日本の音楽市場が本格的に世界に向けて挑戦したのは、ここ最近だからだと思います。日本で発売されている家庭用ゲーム機も、発売当初から世界中を市場として捉えていたと思いますし、アニメも約30年以上前から【アニメ・エキスポ】を開催したり、世界に向けて発信し、文化を作り続けてきました。

 話が逸れますが、我々は講談社、集英社、小学館等と一緒に『アニメタイムズ』というアニメ見放題のチャンネルを運営しているのですが、海外でも展開するときに一番課題になるのが、字幕や声優さんのキャスティングで。そのあたりをクリアするためにAIが活用できるのではという議論が行われています。オリジナルの声優の声とともに、各地の言語でアニメを見ることができれば輸出の追い風になるでしょう。なので、アニメはまだまだ海外展開の広がりがあると思っています。

 一方、音楽はこれまで海外の人に聞いてもらおうと思って作ってきた人は、すごく少ないと感じていて。日本で人気を獲得してから、海外を狙ってみるなど、日本での制作がベースになっているため、音楽が世界で独り歩きできなくなっているのではないでしょうか。

 アーティストもスタッフも、どこに向かうかによって、作り方が全然違います。ここ数年、数多くのアーティストが挑戦することによって、“挑戦する”という土壌はできてきました。徐々に成功例も出てきています。今後、結果を出すアーティストが生まれてきて、それが一つの塊になってくると、コンテンツ産業の中の重要な一つになれると思います。

 韓国は、官民一体になることでそれを実現することができました。我々も彼らを参考にしながら目指していきたいですね。


――御社は、AEGやS10 Entertainmentなど、海外の企業と積極的にパートナーシップを組みながら成長を続けてらっしゃいます。今後も事業を拡大していくために、社員の皆様に伝えてらっしゃる理念を伺えますか。

黒岩:「常に話題を作り続けていくこと」と、「挑戦し続けること」ですね。家族や友人から、「あなたの会社、すごいね」って言われるような話題を提供することが、結果的に業績向上に繋がると思っています。あとはタグラインとしても掲げている「Really! Mad+Pure」です。マッドばかりでも受け入れられないし、ピュアだけでも話題は作れない、その両方をバランスして発信するのが、当社だと思っています。

 当社は日本のレコード会社としては後発で1988年創業です。CDセールスが全盛期を迎えるあたりに隙間を見つけながら、誰もやっていないことを熱狂的に取り組んできました。そういった隙間を見つけて挑戦していくというマインドは、これからも絶対に失ってはいけないと伝えています。


関連キーワード

TAG