Special

<座談>優先すべきは求められる姿か、本当の自分か――ポーター・ロビンソンとGalileo Galileiが語る音楽追求に付随するリスクと覚悟/ファンとの関係性 2月の共演ライブのヒントも

インタビューバナー

Text & Interview: 小川智宏
Photo(左): George Muncey

 ポーター・ロビンソンのニュー・アルバム『スマイル! :D』は、これまでの彼の作品とは一線を画すタッチをもつものとなった。とくに前作『ナーチャー』ではとても内省的な世界観を提示していた彼だが、今作では巨大な名声を得たポップスターとしての自分も、その裏側にある苦悩する自分も、すべてを曝け出している。先行シングルとなった「チアリーダー」のミュージック・ビデオではギターをかき鳴らして歌う彼の姿を見ることができるが、今まで表に出してこなかったエモーションを爆発させるそのさまは、アーティストとして新たなブレイクスルーを刻んだ今のポーターを象徴している。

 そんなアルバムのリリースを記念して、彼が敬愛するGalileo Galileiのメンバーとの座談が実現。彼らは昨年ポーターが来日した際に「サークルゲーム」を一緒にセッションして濃密な時間を過ごしたが、今回もとても濃く、本質的な対話になった。予定されていた時間を遥かにオーバーして(しかもポーターがいるアメリカは深夜だったにもかかわらず!)繰り広げられた熱い会話、ぜひ楽しんでもらいたい。ポーターは来年再びジャパン・ツアーを開催するが、その東京公演と大阪公演ではGalileo Galileiとの共演も実現する。そのライブもきっと忘れられないものになるはずだ。

▶お互いの愛とリスペクトが溢れた2023年のセッションの様子はこちら

──ポーター、まずはアルバムのリリース本当におめでとうございます。すばらしい作品だと思います。

ポーター・ロビンソン:ありがとうございます。このアルバムで重要だったのは、羞恥心から逃れることと、これまで怖くてできなかったことに向き合うことだったと思います。たとえば、僕はスタジオでアイデアがあっても、「誰かがネガティブなことを言うかもしれない」とか「これは馬鹿げたアイデアかもしれない」とか考えてしまってやめてしまうことがよくあるんです。でもこのアルバムでは、アイデアが浮かんだら、恐れずに、恥ずかしがらずに「イエス」と言って、そのまま進んでいくことにトライしました。アルバムの前半の大げさでラウドなサウンドは、そうやって生まれたものなんです。でも同時に今回は僕が初めてギターで曲を書いた作品でもあって、ギターはとても繊細な楽器だから、正直で繊細な曲もたくさん生まれることになって……すみません、いきなりたくさん喋っちゃいました(笑)。

──いえいえ、大丈夫ですよ(笑)。

ポーター:もうひとつ言いたいことがあるんですけど、このアルバムは、名声、そしてオーディエンスとの関係をテーマにしていて。僕はこれまでこのテーマを取り上げるのを怖がっていたんです。理由はふたつあって、ひとつは、ほとんどの人は有名になったことがないし、オーディエンスとは無縁の話だと思っていたから。もうひとつは、みんなポジティブな経験について語られることを期待していると思っていたから。でも人生には浮き沈みがあるものだから、恐怖に立ち向かうなかでそのことについて書こうと思ったんです。少し怖かったのですが、リスナーはとても気に入ってくれて、自分が正直に書いたことに共感をしてくれました。

──名声ということでいうと、「ノック・ユアセルフ・アウト XD」では〈Bitch, I’m Taylor Swift〉というインパクトのあるフレーズも出てきますね。

ポーター:あれは本当に馬鹿らしいラインだといつも思うんですけど(笑)、このあいだのアルバムのリスニング・パーティーで初めてファンの前でその曲を披露したんですけど、その夜いちばん大きな声でみんなが叫んでくれたのが、あの歌詞だったんですよね。僕のファンはみんな僕に似て、ちょっとシャイな人たちだと思うんですけど、だからこそみんな、そういうふうにちょっとルールを破ってみたり、一線を越えてみたり、ちょっと型破りなことをすることで、カタルシスを感じてくれたんじゃないかなと思います。馬鹿馬鹿しいことを叫べるという自由を、みんな求めていたんだと思います。


──そういう部分も含めて、今作はこれまでのポーターの作品とはニュアンスやタッチが違うものになったと感じます。どういうメンタリティの中でこのアルバムはできあがっていったのでしょうか?

ポーター:このアルバムを作っているときは間違いなく落ち込んでいるときでした。アーティストなら賛否両論の意見を受けることはあると思うんですけど、僕はとてもセンシティブな人間なのでそれがとても辛かったんです。みんなが僕をいつも優しい人間であることを期待していると思って、前作の『ナーチャー』では、自分のいい部分だけを伝えました。責任感があって、良心的で、思慮深くて、正しいことをしようとしている部分を。でもそれだけでは正直ではないし、人間としての全体像を伝えきれていないと思いました。常にポーズをとっているわけではないということを伝えることで、みんなからの期待を少しリセットしたかったんです。それで自分自身の醜い一面も、話すのが怖かったこともオープンにしてみたら、とても生産的になって、インスピレーションも溢れるようになったんですよね。

──うん。すごくリアルだし、醜い部分も美しい部分も含めて、トータルでポーター・ロビンソンという人間を表現できたアルバムだと思います。サウンド的にも、ラウドでアッパーな曲から繊細で内省的な曲まで、バラエティが豊かです。

ポーター:僕が見せたかったのは……インターネット上ではもはやアーティストであることはある意味不条理なもので、そこでのオーディエンスとファンの関係は不釣り合いなものだと思うんです。彼らはアーティストのことをよく知っていると思いますが、アーティストはそのスケールの大きさゆえに、個々のファンをそれほど密接に知ることはできません。これは奇妙な状況で、ファンはアーティストのことを知っていても、実際に彼らが見ているのはアーティストのごく限られたバージョンだけなんです。初対面の人にいきなり「好き」と言われたり、逆に嫌われたり。それは不自然なことでありながら、すごく中毒性があるんですよね。僕みたいにシャイでナードな人間が、突然、人生で初めて注目されるんですから。僕がこのアルバムを通して描きたかったのはそういう不条理や奇妙さで、だからセレブっぽかったり虚勢を張っていたりする部分も繊細な部分も共存させることで、何かを感じさせるものになったんだと思います。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. ポーターから影響を受けたGG
  3. Next >

関連キーワード

TAG

関連商品

MANTRAL
Galileo Galilei「MANTRAL」

2024/09/25

[CD]

¥3,300(税込)

MANSTER
Galileo Galilei「MANSTER」

2024/09/25

[CD]

¥3,300(税込)

スマイル!:D
ポーター・ロビンソン「スマイル!:D」

2024/08/28

[CD]

¥2,970(税込)

スマイル!:D
ポーター・ロビンソン「スマイル!:D」

2024/08/28

[CD]

¥3,520(税込)

ナーチャー
ポーター・ロビンソン「ナーチャー」

2021/04/28

[CD]

¥2,420(税込)

MANTRAL
Galileo Galilei「MANTRAL」

2024/09/25

[CD]

¥3,300(税込)

MANSTER
Galileo Galilei「MANSTER」

2024/09/25

[CD]

¥3,300(税込)

スマイル!:D
ポーター・ロビンソン「スマイル!:D」

2024/08/28

[CD]

¥2,970(税込)