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<コラム>“今、一番聴かれているアーティスト”Mrs. GREEN APPLEの5か月連続リリースから読み取る、3人の“懸け”にあるもの
Text:小川智宏
2024年7月に兵庫・ノエビアスタジアム神戸と神奈川・横浜スタジアムで開催されたMrs. GREEN APPLE初のスタジアム・ツアー【ゼンジン未到とヴェルトラウム〜銘銘編〜】。2023年の埼玉・ベルーナドームにおけるライブ【Atlantis】からおよそ1年、さらにスケールアップしたミセスが魅せた一大エンターテインメントは、今あらためて振り返ってみてもすばらしいものだった。そのライブでもまさに今のミセスを体現するものとして鳴り響いていたのが、4月12日にリリースされた「ライラック」から始まり、8月9日の最新曲「familie」に至る5か月連続リリースの楽曲たちだった。
ストレートなギターロックでミセスの大きなテーマである「青春」を新たな形で描いてみせた「ライラック」、映画『ディア・ファミリー』に寄り添いながら丁寧に紡がれたロックアンセム「Dear」、紆余曲折を経てスタジアムで初披露された瞬間、バンドとファンの絆を体現する楽曲となった「コロンブス」、大森がずっと温めていた思い(この曲にはおよそ10年前に彼が書いた楽曲の要素が取り込まれている)を昇華し、この夏のオリンピックを盛り上げた「アポロドロス」、そしてライブのハイライトで演奏された最新曲「familie」。ファンの思い、主題歌を依頼してくれた映画制作チームの思い、彼ら自身の長年の思い、そしてミセスが進んでいく未来、そのすべてを真正面から受け止めるようにして作られた楽曲たちは、それもミセスが紡いできた物語を総括し次へと押し進めるようなエネルギーに満ちていると思うし、実際にライブの場でもそのエネルギーはいかんなく発揮されていた。
「ライラック」ミュージック・ビデオ
8月19日、その日に生放送されたTBS系『CDTVライブ!ライブ!夏フェスSP』で「familie」をTV初披露した直後、バンドの公式YouTubeで5か月連続リリースを振り返る生配信が行われ(視聴者数はなんと10万人を超えたそう)、そこで大森元貴は連続で曲を作りリリースしていくことのタフさを、実感を込めて語っていた。そもそもこの5か月連続リリースは、「ライラック」のリリース後に行われた生配信(このとき大森は不在だった)で藤澤涼架が「これから5か月連続リリースも……」と口走ったことが発端だった。一緒に配信をしていた若井滉斗も慌てふためき、ファンも「涼ちゃんがスポった!」と騒然(「スポ」とはネタバレの意味)。その騒ぎはネットニュースとして書かれるほどのものとなった。その後、大森が公式に連続リリースであることを明かし、実際にそのとおりに物事は進行していったわけだが、じつはこの藤澤によるスポも台本どおりであったことが、今回の生配信で明かされた。別現場にいた大森からもリアルタイムでふたりに指示が飛んでいたらしい。相変わらずの策士だな、とも思うが、そうやって話題性を盛り上げることも含めて、ミセスはこの5曲のリリースに懸けていたということだろう。
では、彼らはこの5曲にいったい何を「懸けた」のだろう。それは「バンドとしてのスケールアップを見せつける」ということだったのではないかと思っている。「ライラック」の若井のギターや「familie」における藤澤のピアノ、そしてさらに進化した大森の歌唱などなど、今回リリースされてきた楽曲では一段も二段も成長を遂げた3人のプレイヤーとしての姿が刻み付けられている。
「familie」ミュージック・ビデオ
ファンであれば知ってのとおり、「フェーズ2」始動以降のミセスはロックバンドの概念にとらわれない活動を繰り広げてきた。ダンスでの表現、地上波での冠バラエティ番組、舞台芸術のようなライブツアー【The White Lounge】の展開……その過程でミセスはバンドという枠の外に果敢に飛び出し、新たなエンターテインメントを築き上げてきた。だからこそ今一度彼らはバンドとしての骨格部分を鍛え上げ、それをプレゼンテーションすることでさらなる進化を目指したのではないか。筆者は個人的にそう考えている。初のスタジアム・ツアー、そして秋に開催される定期公演【Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”】(先日の生配信で追加公演の開催も発表され、全10公演=計20万人動員見込みとなった)と、今年のミセスが行ってきた、そしてこれから行うライブは、バンドとしてのタフさや骨格の強さを試されるようなものになっている。そこに向けた試金石となったのがこの5か月連続リリースであり、そこで奏でられた音の数々だったのではないかと思うのだ。
5か月連続リリースの振り返り生配信に続いて、8月20日の0時には「familie」のミュージック・ビデオがプレミア公開された。「Dear」では全編にわたり硬質なバンドの演奏シーンがフィーチャーされたことが話題となったが、「familie」のミュージック・ビデオでは、リラックスした表情でサポートメンバーとともに音楽を紡ぐメンバーの姿が印象的だ。もちろん衣装やセット、映像的な演出なども作り込まれていて魅力的だが、何よりとても音楽的なビデオとなっているところに、今のミセスが体現したいものが詰まっているように思う。【Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”】、そしてその先でミセスはどんなバンドになっていくのか。やはり期待は尽きない。一瞬たりとも見逃せないミセスの進化の季節はまだまだ続きそうである。
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