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<インタビュー>役者としての運命を変えてくれた――青山吉能が振り返る『ぼっち・ざ・ろっく!』のヒット、アジカン「Re:Re:」カバーで追求した“後藤ひとり”としての歌【MONTHLY FEATURE】

インタビューバナー

Interview & Text:Takuto Ueda
©はまじあき/芳文社・アニプレックス



 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』で主人公の後藤ひとり役を演じる声優、青山吉能のインタビューをお届けする。

 『ぼっち・ざ・ろっく!』は、はまじあき原作の4コマ漫画で、2022年10月にTVアニメ放送がスタート。4人の高校生がバンドを通して成長していく姿を描いた作品で、演奏シーンやライブハウス文化のリアリティを絶妙に捉えた描写が大きな話題に。また、樋口愛、音羽-otoha-など個性豊かなアーティストが手掛けた楽曲や、さらには谷口鮪(KANA-BOON)、中嶋イッキュウ、北澤ゆうほなど人気アーティストからの提供楽曲の人気も高く、2022年12月にリリースされたフルアルバム『結束バンド』は、2023年のBillboard JAPAN年間ダウンロード・アルバム・チャートで首位を獲得。2023年5月にはZepp Haneda (TOKYO) で初のワンマンライブ【結束バンドLIVE-恒星-】を成功させるなど、アニメファンのみならず音楽ファンからも広く支持を集める作品となった。

 そして2024年、劇場総集編の前編が6月、後編が8月に公開され、その主題歌を含む全6曲入りの新作ミニアルバムは、8月21日公開のBillboard JAPANダウンロード・アルバム・チャートで首位を獲得。9月からはZepp全国ツアーも決まるなど、まだまだ“ぼっち・ざ・ろっく!旋風”が吹き止まぬなか、この作品が「役者運命を変えた」と話す青山はどんなことを感じ、どのようにキャラクターや楽曲と向き合っているのか、話を聞いた。

後藤ひとりは“マイナスの人生をプラスにしてくれる変換器”

――『ぼっち・ざ・ろっく!』は、青山さんにとってどんな思い入れのある作品になりましたか?

青山:確実に私の役者としての運命を変えてくれた作品になりました。後藤ひとりみたいな、ちょっとおどおどしていて自信がないタイプのキャラクターを演じるのって、実は『ぼっち・ざ・ろっく!』が初めてだったのですが、それ以降すごく増えたんです。それは絶対にこの作品があったからですし、だからこそ自分も役者として「絶対に『ぼっち・ざ・ろっく!』に寄せないぞ」というプライドみたいな感情が芽生えてきて。本当に感謝しかないなと思っています。


――物語の主要キャラクター4人によって結成された高校生バンド、結束バンドのリードギターを務める後藤ひとり。キャラクターとしての第一印象は?

青山:よく“陰キャ”って紹介されるのですが、陰キャにもいろいろあるなかで、すごく私に似ているタイプだと思っていて。陽キャに対して憎しみとかはないんです。でも、僻みとか羨ましさとか、ひねくれた感情はちゃんと持っている。私自身も順風満帆な人生じゃなかったですし、過去の悔しかったこととか、理不尽に一生懸命あらがってみたけど負けてしまったこととか、そういう経験をこのキャラクターに生かせるなと思いました。


――ご自身の人生とも重なったんですね。

青山:後藤ひとりはおどおどしているばかりじゃなくて、イキって「うぇ~い」となってみたり、ちょっとクールなギタリストを演じるときもありますし、ギタ男っていうイマジナリーフレンドを持っていたりするのですが、その全部に共感できるんです。例えばカラオケに行ったとき、本当はアニソンとかボカロを歌いたいのに、クラスの1軍女子たちと仲良くなるために、流行りのJ-POPやバンドを頑張って歌ってみたり。本当に全部の経験をもって演じられました。


――アニソンやボカロのお話も出ましたが、後藤ひとりが音楽に居場所や自己肯定感を与えてもらったような経験って、青山さんの人生にもあったりしましたか?

青山:昔はニコニコ動画が大好きでした。小学生ぐらいの頃は周りに見ている人が全然いなくて、「ここは自分しか味わえない居場所なんだ」という気持ちもありましたし、ニコ生だったり音楽だったり、ニコ動を取り巻く文化をすごく楽しんでいて。そこからアニメも見るようになって、音楽にも触れるようになったからこそ、声優としての今の自分があるんだと思います。





TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」本PV


――全部つながっているんですね。

青山:はい。そして今は、キャラクターを演じるということが拠り所というか、自分にとってはとても救いになっていて。それこそ後藤ひとりが、自分の築いてきた負の人生をすべてお芝居として昇華させてくれて、しかも、それをいろんな人に受け入れてもらった。マイナスの人生をプラスにしてくれる変換器になってくれたんです。後藤ひとりがいなかったらたぶんマイナスの人生を続けていただろうし、きっとこれから出会っていくキャラクターたちもプラスに変えてくれる、いろんな負の感情を発散させてくれるんだろうと思うと、長生きに対する希望が見えるというか。健康に生きていかなきゃいけないなと思います。キャラクターのために。


――『ぼっち・ざ・ろっく!』のヒットには様々な要因があると思いますが、青山さんはこの作品のどんな部分がファンに愛されていると思いますか?

青山:やっぱりギャップなのかなと思います。原作が掲載されている『まんがタイムきらら』は、ふわふわした日常に癒されるようなところが魅力の雑誌だと思うんですが、そのなかで『ぼっち・ざ・ろっく!』は主人公が陰キャで、しかもその解像度がすごく高いので。


――原作のキャッチコピーも「陰キャならロックをやれ!」ですね。

青山:でも、バンドとか邦ロックって、私みたいな陰キャからしたらキラキラした、いわゆる陽キャがやっているもの、みたいな感じで、ちょっと怖かったんです。それを後藤ひとりがギタリストとしてかき鳴らすっていう物語は、今の中高生がどう捉えるかは分からないけれど、私自身はすごく意外性があるように感じました。なおかつ、音楽が良すぎるので、そういう魅力が少しずつ「人気らしいぞ」と大衆に広がっていったんじゃないかなと思います。


――いわゆる下北系ギターロックを中心としたバンド文化のリアリティを絶妙に描いている部分もポイントだと思いますが、そういった文化との接点を持っていなかった青山さんの中で、この作品に携わったことで変化した印象や新鮮に感じたことはありますか?

青山:それこそ“怖いものじゃなくなった”というのは自分の中で大きな変化でした。あと、下北系ギターロックがあるように、いろんな地域にそういう独自の文化があることは、この作品を通して初めて知りました。最初は「これ、下北沢っぽいわ」みたいな感覚が分からなかったんです。でも、結束バンドの音楽に共通する“下北沢成分”みたいなものは何となく受け取っていた感覚があって。


――多くの楽曲でアレンジを手掛けている三井律郎さんは、下北沢を拠点にしている老舗レーベル<UK.PROJECT>に所属するバンドのメンバーでもあります。

青山:その三井さんが随所に散りばめていた成分を、何となく共通点として感じていたのですが、それが下北沢だったというのはすごく発見だったし、もちろん普通に楽曲を聴くだけでもいいんですけど、そういう気づきがあることで音楽の楽しみ方って全然変わるんだなって。そこを知れたのはうれしいことだなと思いました。


――歌詞やメロディーが良いとか、ギターのコード進行が面白いとか、そういう楽曲そのものに感じる魅力がある一方で、楽曲の成り立ちや、そこにいる人々のことも含めた文化全体のバックグラウンドなど、そういう部分に触れる楽しさも音楽の魅力ですよね。

青山:ニコ動の文化推しだった自分がいるので、やっぱりそこに興味を惹かれるんだなと思いました。


――ちなみに青山さんが最近よく聴いている音楽、興味を惹かれているアーティストなどがいれば教えてください。

青山:それで言うと、中島みゆきさんです。今はサブスクとかが広まって、いつでも楽曲を聴くことができますが、中島さんが活動されていた当時の感覚や熱量で受け取ることって不可能に近いじゃないですか。時代が変わりすぎているので。でも、例えば「失恋ソングだよね」と一括りにはできないですし、そんなふうに消化していい音楽じゃない気がしていて。どんな社会的背景があって、当時の作家さんがどんなことを思っていたのか、そういうことも加味して聴きたいなって。そう思うようになったのは、それこそ『ぼっち・ざ・ろっく!』で音楽の文化のことを知ったのがきっかけかもしれないです。


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結束バンドの音楽を各地で轟かせられたら

――8月4日には結束バンドとして【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024】に出演。5月の【JAPAN JAM 2024】では喜多郁代役の長谷川育美さんがボーカルとして出演されましたが、今回はメインキャスト4人でのオンステージでした。最初に出演について聞かされたときはどんなことを思いましたか?

青山:「うれしい」よりも「なんで?」が勝ってしまって。というのも私、けっこう過激派で、「結束バンドのボーカルは喜多郁代であり長谷川育美なのだ」という派閥に所属しているんですけど、「だったら結束バンドとして出るステージに私が立つのって何なんだ?」みたいなことを一生考えていたんです。他にもアニメのイベントで歌う機会はあったけれど、『ぼっち・ざ・ろっく!』のイベントで声優が作品の話をして、その作品の曲を歌うというのは整合性が取れるんです。でも、私の場合は【閃光ライオット2023】でも歌わせていただいたのですが、自分がどういう心持ちや佇まいで結束バンドを背負えばいいのか、その正解が分からなかったですし、今でもあまり分かってなくて。


――言いたいことは何となく分かります。

青山:しかも【ロッキン】については、ASIAN KUNG-FU GENERATIONさんと同じ日に出ることを後々知るのですが、そこでより訳が分からなくなって(笑)。


――自問自答しながらステージに立った感覚?

青山:そうなんです。後藤ひとりは絶対にボーカルをやらない。そんな世界線は存在しないと私は捉えていて。なので、かなり迷いました。


――実際にステージに立ってみてどうでした?

青山:人がたくさんいたな……と。それもめちゃくちゃ緊張しましたが、やっぱり正解が分からないままステージに立っていることが何よりも緊張でした。それまで声優としてステージに立つ経験は本当に数え切れないくらいありましたが、そのときはキャラクターという道しるべがあって、自分はその傀儡、キャラクターを背負いし私は人形であるという考えだったんです。でも、ロッキンは、後藤ひとりが歌うというビジョンが見えないなかで、なぜ自分がセンターに立っているのか分からなかった。ただ、結果として、分からないまま立ったのがよかったなって。だって、作中でも「あのバンド」のイントロは分からないまま弾いているんですよ。「どうしよう?」っていう状況で出てきたものを、後ろの虹夏ちゃんとリョウさんが助けてくれた。


――たしかに。

青山:それでよかったんだなって。正解が分かっちゃって「私に付いてきて」だったら、それは絶対に後藤ひとりではないと思うんです。あの不安定な感情が結果として、結束バンドの後藤ひとりが歌うということの正解を導き出してくれたように思います。


――ちなみにアジカンの皆さんとお話しする機会は?

青山:楽屋でご挨拶させていただきました。「『ぼっち・ざ・ろっく!』で後藤ひとりをやってます、青山吉能です」って後藤さんに向かって言うのが本当におかしすぎて。


――(笑)。

青山:私たちの本番が終わって、アジカンさんの本番の前だったので、そのときはご挨拶しつつ、「アジカンさんのおかげで今、私たちはここにいるんです」ということだけ伝えさせていただきました。


――現在公開中の『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:Re:』では、アジカンの「Re:Re:」を後藤ひとり(CV.青山吉能)としてカバー、エンディングテーマに起用されています。青山さんが思う映画の見どころは?

青山:テレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』は、特定のキャラクターだけをフィーチャーした○○回みたいなものがないんです。例えば8話は、虹夏ちゃんがあらためて決意を固めるシーンが印象的ではあるけど、決して虹夏回というわけではない。けっこう物語が地続きで進んでいく作りなんですよね。だからこそ、総集編にしたときに4人の物語として進んでいくなかで、後編は描き下ろしのシーンも含めて、特に喜多ちゃんの成長がテレビアニメとは少し違った観点で描かれていて。ちょっとシーンを追加したり組み替えるだけで、同じ作品なのに楽しみ方がこんなに変わるんだというのが劇場総集編ならではの魅力だなと思いました。


――オープニングテーマも書き下ろしの新曲「ドッペルゲンガー」。作詞は樋口愛さん、作曲は飛内将大さん、編曲は三井律郎さんで、結束バンド初ライブの“幻の3曲目”として、歌唱は喜多郁代(CV.長谷川育美)が担当しています。


青山:まさか3曲目が出てくるなんてっていう。なので「ドッペルゲンガー」は、「ギターと孤独と蒼い惑星」「あのバンド」と同じ時期に書かれた曲ということになるんです。「月並みに輝け」や「光の中へ」からはちょっと巻き戻した時空というか。個人的な解釈ですけど、この“巻き戻す”とか“過去に戻る”みたいな感覚は、今回の『Re:Re:』の大事な要素だと思っていて。「ドッペルゲンガー」のレコーディングでは、あのとき「ギターと孤独と蒼い惑星」や「あのバンド」を歌っていた喜多ちゃんから地続きでいてほしい、というディレクションを受けたと育美さんも言っていたんです。レコーディングは慣れていないけど歌は上手い人、みたいな感じで。なので、劇場総集編で流れているボーカル音源とアルバムのボーカル音源は違うんです。





「ドッペルゲンガー」


――録り分けているんですね。

青山:そうなんです。『Re:結束バンド』に収録されているのは、結束バンドの新しいアルバムとしての音楽なので。でも、作中では「ギターと孤独と蒼い惑星」をぼろぼろになりながら演奏して、お客さんにも出ていかれたりして、「あのバンド」で何とか立て直して、そのあとにアルバム音源が流れちゃったら「そっか、オープニングが始まったんだな」になっちゃう。それは違う、あのライブの3曲目が始まっているんだって、そういうこだわりを諦めない制作陣だからこそ、自分も半ばファンとして『ぼっち・ざ・ろっく!』の音楽を楽しめているんです。


――そんな想いを受け取りながら「Re:Re:」のレコーディングも臨んだのではないかと思いますが。

青山:もう、本当に。


――そもそも楽曲の第一印象はいかがでしたか?

青山:「転がる岩、君に朝が降る」は、後藤ひとりとしてすごく共感できる、寄り添ってくれる曲という印象だったので歌いやすかったんですが、「Re:Re:」は原曲を聴いたとき、必死な明るさというか、何かにしがみついているような印象を感じたので、どうやって表現しようかなと考えたんです。後藤ひとりの時空としても、「転がる岩、君に朝が降る」のレコーディングからはしばらく経っていて、多少の自信は持っているんじゃないかなと。「ヘッドホンのRが右で、Lが左ですか?」みたいな、そういう環境に対する戸惑いはもうないだろうなと思ったり。


――そこの時系列も意識したんですね。

青山:あと、「転がる岩、君に朝が降る」は出だしの単音から緊張するのですが、「Re:Re:」はギターのイントロがすごく長くて、ひとりはその長さに安心するかもと思ったんです。なので、原曲に感じた必死感みたいなものを、ひとりなりに掴むだろうなって思いましたし、もしかしたら「後藤ひとりの歌じゃないじゃん」と思われてもいいかもなって。でも、聴き返したらすごく後藤ひとりだったし、「あ、ちゃんと後藤ひとりとしての歌の幅を出せてるな」と思えたので、ロッキンのときもそうでしたけど、分からないままやったものが結果的に後藤ひとりになる、みたいなところはやっぱりあるのかなと思いました。本人は超不安なんですけどね。


――それも青山さんのパーソナリティや人生経験が役柄とマッチしているからこそだと思います。

青山:SNSとかでも「後藤ひとりが歌っていて良い」みたいに言ってくださるのを見て、表現者としてすごくうれしかったです。


――9月からは全国5都市を巡る【結束バンド ZEPP TOUR 2024 “We will”】が控えています。どんなステージになりそうですか?

青山:まだ単独ライブを一度しかやったことがなくて、フェスや音楽番組のステージを経て、自分たちのホームに戻ってきたときにどんな姿を見せるのか。そこはきっと皆さんも期待してくれていると思いますし、ホームだからこそ裏切りもしたいというか。曲を聴き込んでくれている人にとっても発見の場になったらいいなと思います。なんせ初めてのツアーなので、どうなるかはまったく予想できないのですが、私自身は今日もお話しした通り、「分からない」という感覚を背負いながら歌うと思うので、きっと全公演、まったく違うものになるんじゃないかなと。それにお客さんのパワーって絶大で、それ次第で演者のモチベーションも大きく変わってくるので、後藤ひとりの正解を探す旅路を共にしてくれる皆さんと一緒に、結束バンドの音楽を各地で轟かせられたらうれしいなと思います。


結束バンド「Re:結束バンド」

Re:結束バンド

2024/08/14 RELEASE
SVWC-70668 ¥ 2,750(税込)

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Disc01
  1. 01.月並みに輝け
  2. 02.今、僕、アンダーグラウンドから
  3. 03.ドッペルゲンガー
  4. 04.僕と三原色
  5. 05.秒針少女
  6. 06.Re:Re:

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