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<インタビュー>なとり & imase TikTok発、盟友ふたりの初共作曲「メロドラマ」を生んだ深い友情の“キセキ”
Interview & Text:沖さやこ
“なとり & imase”が共作曲「メロドラマ」を8月30日にリリースした。2021年5月からTikTokでの音楽投稿を開始し、切磋琢磨してきた両名による初コラボ曲は、日産90周年記念ムービー『NISSAN LOVE STORY』への書き下ろし主題歌。メロウでムーディなコードとリズムに、柔らかく落ち着いたふたりの声が溶け合う、R&B要素を含んだナンバーである。
【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024】では、なとりのステージにimaseがサプライズゲストとして参加し、同曲と「フライデー・ナイト」を披露したことも大きな話題になった。彼らがSNSで互いの存在を認知しコンタクトを取るようになり約3年半。どのような関係性を築いたうえで「メロドラマ」は生まれたのか。ふたりの会話から探っていった。
念願の共作曲
――お二方は以前から公の場でもよく「一緒に曲を作ろう」と言い合っていました。今回それがとうとう実現したという形でしょうか。
なとり:知り合った頃から「一緒に曲を作りたいね」と話していて。実際に世に出すとかは関係なく、遊び感覚でちょっと作ったりもしていたんです。
imase:だから今回、ようやく実際に形になってすごくうれしいですね。
@siritoriyowai_ メロドラマという曲です。@imase くんと共作です。#バズれ #おすすめにのりたい #メロドラマ ♬ オリジナル楽曲 - なとり / natori
――アーティスト同士がリスペクトする関係性は珍しくないですが、さらに踏み込んで「一緒に曲を作りたい」とまで思うのにはどんな理由がありますか?
なとり:コライトが決まる前から、「imaseくんと一緒に作ったら良い曲ができるんじゃないか」という感覚があったんですよね。
imase:うれしい!
なとり:imaseくんのエッセンスを含んだ曲を一緒に作れたらいいなとは前々から思っていたし、絶対にいい曲になることが鮮明に想像できたんです。出自がすごく近いのもあるし、やり取りのなかで音楽に対する姿勢や意識が似ているなと思っていて。「imaseくんのこの声を、こういう音でこういうふうに使いたい」みたいなイメージもどんどん浮かんでくるし、僕だけでは作れない、いい曲を作れそうだなという漠然とした思いがありましたね。
imase:活動初期からずっとお互いの曲を聴いているからね。あとはやっぱり関係性も大きいと思う。同じタイミングにTikTokに音楽をアップし始めて、そこからずっとそれぞれ曲もコンスタントに作ってきたし、上京もほぼ同じくらいの時期だし。何より、友達だもんね。
なとり:そうだね。同期で同世代というのは大きいかも。
imase:すごく好きでリスペクトしているアーティストでも、先輩だとなかなかフットワーク軽く「一緒にやりましょう」とは言えなかったりするもんね。でもなとりと僕は、活動を始めた頃、本当にお互い全然知名度もない、フォロワーも1桁の頃から知っているから。
なとり:その頃のコラボ配信の視聴者数は、10人いけばいいほうだったよね(笑)。
imase:そうそう! それって、当時から純粋に一緒に何かしたいと思っていたってことだよね。だから、今回の共作は昔からの友達だからこそという面もあるし、もしもっと出会いが遅かったとしても今みたいに仲良くなっているだろうから、どのみち共作していた気もするんです。
@imase119 なとりと曲作ったで〜っ!!✌️ロッキンで初披露したメロドラマです! @なとり / natori #imase #メロドラマ ♬ オリジナル楽曲 - なとり / natori
――お話を聞いていても、これだけ意気投合するおふたりが活動初期から出会ったのは運命なんだろうなと。
なとり:本当そうですね。運命だと思う。
imase:うん、タイミングが本当に良かった。十明ちゃんとか、とたちゃんとか、僕らと同時期にSNSから発信していた仲いい子たちも活躍されていて。それも含めて運命的だなと思います。
――おふたりが知り合って3年以上経ちますが、現在のお互いをどう見ていますか?
なとり:imaseくんは出会ったときからずっと俺の先を行っていて、それが今も続いているんです。自分がやりたいなと思っていたジャンルを、imaseくんが先にやっていたというパターンがよくあって、悔しさを感じたりもして。最近だと『凡才』に収録されていた「Rainy Driver」ですね。
imase:おー、うれしい。
なとり:あれはまさに俺のやりたかったテクニックポップというか。あれを聴いた瞬間に「あれは俺の(やりたいこと)だったのに……!」と思ったりして(笑)。だから「彼がこうするなら、俺はこうやって頑張ろう」とやる気も生まれるし、常に影響を受けています。
imase:へええ。スタートは一緒だけど、ジャンルと(アーティストとしての)系統はまったく違うかなと思っていたから、そう言ってもらえるのは意外かも。
Rainy Driver / imase
――確かにおふたりはよく共通点が語られますし、実際に似ている感性もたくさんありますが、対極な面も多い印象があります。
imase:ルーツも違う部分があるし、なとりはまず声が圧倒的な武器じゃないですか。声を超生かしまくった曲調だし、オリジナリティがありますよね。声は持って生まれたものでもあるし、どんなに力を磨いたとしても、もともと兼ね備えた強い個性や持ち前のアーティスト性には敵わないなと思うこともあるので、憧れはすごくあります。今回のレコーディングでお互いの声を聴いて「ずるいなあ」って思った(笑)。
なとり:そんなそんな(笑)。
制作は自宅セッションで
――共作曲「メロドラマ」は日産90周年記念ムービー『NISSAN LOVE STORY』の主題歌に起用されています。
imase:前々から共作をしたいと話していたこともあって、貴重な機会にそれが実現してうれしいですね。僕の家になとりが来て、一緒にメロを入れて、ああだこうだ言いながらセッションして作っていきました。ひとりでは思い浮かばないアイデアや歌詞、メロのアイデアがどんどん出てきて、すごく楽しかったです。
なとり:うちから持ってきたトラックをimaseくんの家で流しながら、一緒に「こういうメロディどう?」と実際に弾いたり歌ったりして、「あ、めちゃくちゃいいじゃん!」みたいな工程を交互にやり合っていく制作でした。
日産90周年記念ムービー | NISSAN LOVE STORY
――そうだったんですね。てっきり、お互いがデモをデータで交換しながらそれぞれで揉んでいく制作かと思っていました。
imase:ああ、なるほど。そういう制作の仕方もありですが、僕らの場合は一緒の空間で作ったほうがスムーズかなって。
なとり:そうそう。リラックスしながらできたのも良かったよね。歌入れ終わって「よし、スマブラやるか!」みたいな(笑)。その後ごはん食べに行ったりして、ただただ友達の家に遊びに行ったような感じでした。
imase:緊張したりこわばったりした状態だとアイデアが出にくい気もしますが、今回は本当に楽しく和気あいあいとした制作でした。あと、ひとりで曲作りをしていると、ついつい気が抜けてサボっちゃうときがあるから、それがないのも良かった(笑)。
なとり:わかる(笑)。やっぱりひとりで作る場合はかなりの集中力が必要だし、集中力ってなかなか続かないし。でも、集中力から生まれるものもたくさんあると思うんです。だからimaseくんとのコライトはある意味、お互いを監視した“いいメロディ合戦”みたいな感じだった(笑)。
imase:集中力をコスパ良く使った感覚だったよね。日本でこういう作り方はちょっと珍しいかもしれないけど、海外のプロデューサーは5、6人でスタジオに集まって意見を出し合いながら作ることが多いし、コライトは曲作りの究極形な気がする。メリットが多いなと感じましたね。
――屈託なく意見交換ができるくらい関係性がしっかりしている人同士だと、同じ部屋での制作のほうがスムーズなのかもしれませんね。
なとり:本当にそうで、うまく回ったのはお互いが「ここはどうかな」「そっちいいね」「ここはもうちょっとこんなふうにしてみたら?」みたいに言い合えたからだと思います。「メロドラマ」はもともとサビだけ先にあって、それをimaseくんと一緒に膨らませていって。imaseくんのエッセンスを自分の曲に入れることが目的でもあったので「ここのバースはimaseくんに歌ってほしいから、imaseくんが考えて」とお任せして。自分なら2番のAメロをラップにしようとは考えなかったから、新しい栄養を入れてもらえて本当にうれしかったです。
imase:基本的にコード感とリズムが一定なので、洋楽っぽい洗練されたサウンドという印象を受けたんです。その良さを残したうえで、曲中でフックをつけるなら、コードを変えて展開を作ったり楽器を増やしたりして盛り上げるんじゃなくて、フロウを変えるのがいちばん的確だろうなと思ったんですよね。
なとり:俺としても、ビート重視のイメージで作っていただいたトラックでもあるから。
imase:そこを生かしたかったんだよね。ラップを入れたところはビートをシンプルにしたりしてバランスを取りました。
メロドラマ / なとり & imase
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お互いに「幅を広げてもらった」
――imaseさんが普段あまりしないアプローチのラップなのも新鮮でした。
imase:ポップス系のラップではなくメロラップ的なアプローチにしましたね。トラックの雰囲気がエモーショナルで、なとりの作っていたメロディにも「Overdose」や「NIGHT DANCER」に通ずるようなR&B要素が強かったので、こういう雰囲気のラップのほうが曲にハマるかなと思って。このアプローチも、なとりのトラックがあったから生まれたものだから、なとりがimaseの幅を広げてくれたなと感じています。
なとり:確かに「メロドラマ」のコードはなとり感が強いけど、ああいうラップはなとりの曲に絶対に出てこない要素なんですよね。imaseくんに要素を足してもらったことよって自分の曲の進化を感じたし、なとりの幅を広げてもらいました。
――タイアップムービーの『NISSAN LOVE STORY』は「日産と愛のエピソード」をテーマにしたものなので、〈君がいない助手席〉という歌詞に意外性を感じましたが、どういう意図からあのような切り口になさったのでしょうか。
なとり:歌詞には別れを想起させるワードも多いんですが、「別れ」ってその当時はつらいものだけど、後々振り返ったときに切なくもあたたかい思い出になっていると思うんですよね。“未来を見る”というテーマも含んだ企画なので、悲しくなりすぎないメロウな雰囲気をすごく大事にしました。そういう核を自分が作って、imaseくんがそこに乗っかってくれましたね。
imase:結果『NISSAN LOVE STORY』のムービーにめちゃくちゃハマった曲になったよね。お互いの声の波長も相まって、切なさとあたたかさのバランスがすごくいい塩梅になったなって。だからだと思うけど、【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024】のなとりのステージで「メロドラマ」を初披露したときもすごく盛り上がったんです。最初は正直「ミドルチューンだけどライブで盛り上がるのかな?」と思っていたけど。
なとり:どんな人でもノりやすいテンポ感なのが、夜の雰囲気と合っていて良かったのかもね。音源にはないハモを入れたりもして、すごくアドリブが効く曲だったことも発見だった。
imase:なかなかこんなふうにコラボ曲をライブで披露できる機会はないから、すごく楽しかったし感動的だったね。お客さんからは見えてないと思うけど、なとりも俺もニッコニコだった(笑)。
――そうですよね。SNSで出会ったふたりがそれぞれ頭角を現して、たくさんのお客さんが集まっている野外フェスであれだけの熱狂を作り上げているのですから、胸も熱くなるだろうなと。
なとり:本当に奇跡に近いことだと思います。あの日ステージから見た光景は、ふたりが積み上げてきたものが実際に目の前に広がっていて……。こみ上げてくるものがありました。
imase:ほんとだよね、超奇跡ですね。下積みの頃から同じライブハウスで切磋琢磨してきたアーティスト同士が対バンを繰り返して、いろんなイベントに出て仲良くなって、一緒に大舞台に立つケースはこれまでにもあったかもしれないけど、SNSの活動からこういう関係性を築いてステージで共演することはこれまでにあんまりなかったと思うし。「前々から仲も良くて共作もしているのに、ライブの共演は初めてなんだ!?」って感じでもありますよね。それが今の時代っぽいし、自分としても面白いなと思います。
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