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<インタビュー>ビッケブランカ、世界中をまわり変化した音楽観が色濃く出たアルバム『Knightclub』
Interview & Text:岡本貴之
Photo:堀内彩香
ビッケブランカが、9月4日にニューアルバム『Knightclub』をリリースする。2024年1月から2月にかけて初の北米単独ツアー9公演を開催、7月にはブラジル・サンパウロで行われたアニメコンベンション【Anime Friends 2024】に出演後、初の南米単独ツアー【VK Blanka Latin America Tour 2024】をサンティアゴ、メキシコで開催するなど、海外でのライブを活発化している中での3年振りとなる今作。豪華コラボが実現したオープニング曲「Yomigaeri (with 槇原敬之 & 絢香)」、シンプルなビートで突き進む「Never Run」、圧巻のファルセットを聴かせる「High Love」等、作品をリリースする度に変貌を遂げてきた彼の最新モードが詰め込まれた音楽性豊かなアルバムとなっている。そこにはこれまでよりさらに海外のパフォーマンスを通して得た刺激が大きなフィードバックを与えているようだ。
海外公演を経て変化した音楽観
――7月にブラジル・サンパウロで行われたアニメコンベンションに出演した後、初の南米単独ツアーとして7月24日にサンティアゴ、7月28日にメキシコでライブを行いました。振り返ってみていかがでしたか?
ビッケブランカ:すごく楽しかったです。地球の反対側なので、全然違う熱さがありました。みなさん、もうずっと愛を叫んでくれているっていうのは、特徴でしたね。日本ではライブの中に僕たちが作ろうとするフロウがありますけど、そういうものと関係なくずっと盛り上がっているので、僕も最高の気分になれました。
――そういう反応は、やはり国民性の違いが表れていますか?
ビッケブランカ:そうですね。どこが良い悪いじゃなくて、それぞれの違いがあって面白いなと思います。日本がちょっと特徴的で、北米と南米のお客さんはずっと叫んでるのは変わらないですし、いろんな各国の良さがあるのは面白いなと思います。日本では結構人間性とか精神性が出てますけど、南米ではブラジルでもメキシコでも普段からみんな本当に陽気ですし、北米では熱狂するときもあればクールな部分も持ち合わせていて、それがちゃんとライブのときには出てるんです。中東でいえば、サウジアラビアは「yeah!」ってずっと言っていて、それは北米、南米、ヨーロッパと同じような感じなんですけど、どんな激しいライブもお客さんがみんなフカフカの椅子にずっと座って観ているんですよ。それでライブが終わって「Thank you so much, Saudi Arabia!」と僕が言ったら、スタンディングオベーションが起こるっていう。だから、観劇するのと同じように音楽のライブを見るっていう文化なんですよね。そういう違いがあったりするのはそれぞれ面白いですよね。そういう意味で、やっぱり日本以外のところでやれるのは刺激にはなりますね。
――サウジアラビアとかだと、服装もあんまり露出しちゃいけないとか、文化の違いから衣装にも影響がありそうですね。
ビッケブランカ:ああ、それは言われました。半ズボンが駄目だったので、暑い中で頑張って長ズボンを履いてやってましたけど、街では普通にヨーロッパ出身の方が思いっきり短いズボンでもランニングしていたりするんですよ(笑)。だからそういうことを気にしない国から来てる人たちもいて、僕たちは日本人だからそういうのをちゃんと守るっていう違いとかもいろんな場所で目の当たりにして面白かったです。
――海外活動で得られる刺激は、生活面でも何か変化をもたらしていますか?
ビッケブランカ:やっぱり考え方が変わりますね。当たり前にいろんな国のことが気になるようになるし、社会情勢から、政治的・経済的なもの、文化的なものも本当に身近になりました。例えば、「フランスでこういうデモが起きた」とか見ると、「フランスのあの街で起きてるんだ」ってわかったり、僕がそこで仲良くなった同世代の人たちもいて、「あいつらどう思ってんだろうな」とか考えたり。そうやって海外と繋がる要素がいっぱい増えるので、無意識の中で、正しくボーダーレス化してきてるなって感じがします。

――以前、イベントで見たビッケさんにすごく自由なイメージを感じたことがあったんです。ヒカリエで行われたglo™️ × block.fm「NEX STAGE」のローンチパーティー(2021年12月6日 渋谷ヒカリエホール)で、DJをやりながらガッツリ歌も歌っていて、すごく斬新なことをする人だなと。
ビッケブランカ:ああ、ありましたね。北米ツアーも、DJとピアノとギターを持って行ってあの形でやったんですよ。日本のツアーではバンドもいるしやったことはないんですけど、今回北米でやってみて、見栄えもいいし勝手もいいし、いろんなことを同時にできることがわかりやすく伝わるので、日本のツアーのライブスタイルにそのやり方を逆輸入しようかなっていうぐらい手応えは感じてます。確かにあのイベントのときが、そのパフォーマンスの走りだったかもしれません。
――ニューアルバム『Knightclub』を聴くと、最初のピアノマン的なイメージからどんどん 変化していることがわかります。海外でのライブで感じたものもフィードバックされているのではないかと思いますが、ご自身では自覚的に作品を変化させてきたのでしょうか?
ビッケブランカ:もう本当にずっと過渡期みたいな感じなので、アルバム1枚EP1枚出す度に新しいチャレンジをして、ちょっとずつ変化してる感じはしますよね。明らかに、世界中を回って変わった音楽観っていうのは、このアルバムにも多分色濃く出てると思います。ただ、正直自分ではどこが変わったというのはわからないですけど。というのも、根っこが変わったというか、出てくるものに色付けしてるわけじゃないというか。
――“根っこが変わった”というのはどういうことですか?
ビッケブランカ:例えば、曲を作る機械があってそこから10曲が出てくるとして、もうその機械が改造されてる感じです。だから出てきたものは全然違うものですけど、出てきたものを改造してるわけじゃないので、何が変わったかちょっとわからないですよね。自分の感覚や人間性がこの機械だから、出てきたものが「印象変わったね」っていえば、そりゃそうでしょうねって感じです。
――それはすごく興味深い表現です。ずっとピアノやギターで曲づくりをしている人ってそこからの変化ってわかりやすいと思うんですよ。でもビッケさんの音楽はどういう系譜でこうなっていったのか見えない感じもするので、今のお話はすごく腑に落ちました。
ビッケブランカ:そういうマインドではいたいなと思っているんですよね。小手先で印象を変えたりするよりも、普通に生きていく中で自分が経験していたことで考え方が変わり、音楽が変わり、死生観が変わりみたいなことが自然と曲に詰まるはずなので。そうなるべきかなと思うし、凝り固まらないようにはしています。

――ニューアルバムは3年振り、これまでのアルバムリリースよりはちょっと間隔があきましたね。
ビッケブランカ:その間、EPを出しまくっていたのでリリースはずっとしてた感覚です。ただフルアルバムという形で出すことにも意味があるからやっぱり出した方がいいみたいなことをスタッフからも言われて、「ああ、そうなんだ。じゃあやってみるか」っていう感じでしたね。
――アルバムを定期的に出す、みたいなことはこれまでもそんなに意識していなかったですか?
ビッケブランカ:もっと前にアルバムを出そうってなったんですけど、「ちょっと待って」って言った覚えがあります。それこそ海外でのライブが始まったりして、他のことが忙しくなってきたし、これまでと同じタームでは制作ができないので、EPで新曲を出してこれまでのサイクルをちょっと変えようとした時期はありました。それによってできた時間を世界中を回ることに使えているので、機動力を上げた感じがありますね。その経験が結構たまってきたので、そろそろ出そうかっていうことで出来たアルバムです。
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