Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>Wez Atlas、これまでのキャリア、新曲の制作そしてRyohuとの“対バン”ライブを語る

インタビューバナー

Interview & Text:森朋之
Photo:渡邉一生

 2024年8月25日(日)、ビルボードライブ横浜で【Wez Atlas × Ryohu Seaside Premium Cruising @YOKOHAMA】が開催される。日本とアメリカをルーツに持つヒップホップアーティスト、Wez Atlas。そして、2023年に活動を終えたKANDYTOWNのメンバーであり、現在もラッパー/トラックメイカーとしてシーンの最前線に立つRyohu。両者のバンドセットによる2マンライブは、日本のヒップホップの“今”を体感できる公演になりそうだ。この公演に先がけ、Wez Atlasにインタビュー。これまでのキャリア、新曲「Summit」「40℃」の制作、そして、Ryohuとの“対バン”などについて話を聞いた。

――Wezさんがヒップホップに興味を持ったきっかけから教えてもらえますか?

Wez Atlas:最初はJ.コールですね。高校生のときに初めて聴いて、ヒップホップに興味を持って。アメリカに住んでいた頃はずっとヒップホップ・ステーション(ラジオ)をかけていて、カニエ・ウェスト(Ye)、ケンドリック・ラマ―、ドレイクあたりの世代のアーティストをよく聴いてました。90’sのヒップホップなどは、その後、自分でディグっていきました。もっと遡ると、お母さんが車のなかでブラック・アイド・ピーズやショーン・ポールを流していて。

――そのあたりもルーツになっているのかも。J.コールのどんなところに惹かれていたんですか?

Wez Atlas:とにかくビートが気持ちいいし、リリックもすごく好きでした。もちろん自分とは全然育ちが違うんだけど、言ってることがわかるし、共感できる内容だったんですよね。ポジティブなバイブスを感じたというか。いちばん好きなのは2014年の『Forest Hills Drive』で、あのアルバムを聴いて「ラッパー」っていいなと思うようになりました。いろいろなやり方があると思うんですけど、基本的には人生のネガティブなことをカッコよく歌うというスタイルが多いのかなと思っていて。それが自分の入り口になりましたね。

――1stミニアルバム『Chicken Soup For One』のリリースは2021年。制作はどんなスタイルだったんですか?

Wez Atlas:まだ大学生だったので、授業の合間や学校が終わってからセッションしたり……という感じでしたね。ちょうど卒論を書く時期と重なっていたので、両方の締め切りがめっちゃ近くなってしまって。やり切ったあとの解放感がすごかったです(笑)。“Chicken Soup”は(アメリカの)おばあちゃんが孫が風邪を引いたときに作ってくれる料理で、日本でいうおかゆみたいな食べ物なんですよ。当時書いていたリリックは自分にとっての“Chicken Soup”みたいなもので、悩みを癒すために作っていたところもあったんです。今もそうなんですけど、まずは自分の為に曲を書いて、結果としていろんな人に共感してもらえたら嬉しいというスタンスなので。日記のように書いているところもありますね。

――『Chicken Soup For One』を聴き返すと「この頃は、こんなことを考えてたな…」と思うことも?

Wez Atlas:そうですね(笑)。今日も聴きながら来たんですけど、「若いな」「なんでそんなに悩んでるんだよ」って。もともと悩みがちというか、ハッピーな状況でもどこか不安を感じる要素を見つけちゃうマインドがあるんですよ。そこは常に直そうとしているところだし、最近はもっとポジティブな歌詞、自分に力を与えてくれるような歌詞を書きたいと思ってるので、かなり変化しているんですけどね。



――なるほど。2ndミニアルバム『This too shall pass』(2023年)の制作時期はどんなモードだったんですか?

Wez Atlas:そのときも、「ゆっくりやっていこうぜ」という感じだったかな。音楽的には1stと2ndの間にいろいろなプロデューサーと曲を作ったことで、幅がすごく広がって。リリックの内容は共通しているんだけど、印象としては華やかになったと思います。僕は自分でトラックを作っているわけではないので、それぞれのプロデューサーの味が出ているというか。音楽の入り口が“言葉”だったのでーーいちばん好きなのはヒップホップですがーー幅広くいろんな音楽をやることには抵抗がないんですよね。プロデューサーのスタジオに行って、「こういうトラックどう?」と提案してもらって。それが気に入ったらやるし、そうじゃなかったらやらないってだけだったので。

――そして2023年12月には「RUN」をリリース。ロックテイストを打ち出した楽曲ですが、Wezさんにとっては新機軸では?

Wez Atlas:新しいチームのもとで、新しい方向性を考えながら制作した楽曲なんですよね。自分としても「もっと日本のシーンで聴かれるものを作ってみたい」と思って。その前から「日本語の歌詞をもっと増やせば、日本人も聴きやすいんじゃない?」とよく言われていたし(笑)、それにトライしてみたという感じですね。それまでは好きなようにやってきたので、「これってWez Atlasの曲なのかな?」と感じたりもしたんだけど、次の可能性も見えたし、やってよかったなと思ってます。

――新たなトライということでは、国内の音楽フェス【METROCK2024】(大阪公演)に初めて出演しました。手ごたえはどうでしたか?

Wez Atlas:フェスはアメリカの【SXSW】と、日本のフェスはまだあまり出演した経験がないのですが、いつも通りに出来ました。「Run」はけっこう盛り上がったかな。たぶんロックが好きな人も多かったと思うので、聴きやすかったんだと思います。

――ちなみにJ-POPやJ-ROCKは聴いてました?

Wez Atlas:10代の頃は全然聞いてなかったですね。10代後半から日本に戻って来たんですけど、ずっとUSの音楽を聴いていたので。自分で曲を出すようになってからは周りのアーティストを聴くようになって、だんだん興味が出てきて。Helsinki Lambda Clubは楽曲に参加(「Mystery Train (feat. Wez Atlas)」)したこともあるんですけど、めちゃくちゃカッコいいですね。

――当然、日本語のリリックにもあまり触れてなかった。

Wez Atlas:はい。なので「カッコいい日本語の歌詞って、どういうのだろう?」というのが未だによくわかってなくて。英語だったら自分の好みの言葉の選び方、遊び方ができるんだけど、日本語はまだまだなので。そこは今も研究中だし、そのなかで日本のヒップホップもよく聴くようになりました。5lackさんとか、同世代だとSkaaiとか、Juaとか。すごく刺激を受けてます。





NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>




――今年の夏も次々と新曲をリリースしています。まずは「Summit」。〈行き先定めて、あとはやるだけ〉など超ポジティブなリリックが印象的でした。

Wez Atlas:僕も新しいページをめくれたという手ごたえがあります。いままでの曲のなかではいちばんラッパーとしての自分がでている感じなのかなと。さっきも言ったように、今までは悩みやネガティブなことを歌うことが多かったんですけど、少しずつ「ガツガツやっていこうぜ」みたいな気持ちになってきて。あとは最近、筋トレを始めたんですよ。ジムでもヒップホップを聴いてるんですけど、「あと1Rep行けるような曲を作りたい」と思って(笑)。ベタですけど、背中を押してくれるような音楽は必要だよねという感じもあるし、こういうWezも見せていきたいですね。

――アレンジはnonomiさんとの共作。どんなセッションだったんですか?

Wez Atlas:「Summit」は制作のなかでバージョンが変わっていて。もともとはYouTubeのタイプビートを使っていて、その時点ではもっとソフトな感じだったんですが、「ガツガツしたところが足りない」と思って、nonomiくんに改めて作ってもらったんですよ。「もっと暗くして」って。

――ダークな曲のイメージもあったんですね。

Wez Atlas:ダークだけどパワフルというか。確か「バッドマン」の写真を見せて、「こういうエナジーがほしい」という話もしました(笑)。僕はどちらかというとソフトなヴァイブスだから、ダークなトラックでも大丈夫じゃないかなって。

――リリックもかなり攻めてますよね。「好きなことに夢中になって重ねてくぜ万札」とか。

Wez Atlas:ハハハ(笑)。今まで恥ずかしくて言えかかったことも思い切って言っちゃおうと思って。

――メイクマネーして、サクセスするぜ!みたいな。

Wez Atlas:そうそう(笑)。これは僕の印象ですけど、アメリカには、野心を持って這い上がっていこうとする人が多い気がして。日本ではそういうことを言い過ぎると良くないという風潮があると思うんだけど、ヒップホップはそうじゃないし、俺も「よし、やってやろうじゃねえか」みたいなことを言いたいなと。レコーディングも楽しかったですね。新曲のリリース自体も久々だったし、「復活!」というか(笑)。

――さらに新曲「40℃」。ハウスミュージックのテイストも感じられるダンストラックですが、この曲はどんなイメージで制作されたんですか?

Wez Atlas:プロデューサーのMori Zentaroさんと一緒に作ったんですよ。知り合ったのは1年くらい前なんですけど、今年に入って「セッションしようよ」ということになって。Zentaroさんが持っていたビートの種みたいなデモがあって、それを聴いたときに「これを曲にしたい」と思ったんですよね。その場でどんどん作って、サビのメロディも出てきて、「これじゃん!」って。めっちゃ速かったし、すごく気が合いましたね。その日、めっちゃ暑かったんですよ。なのでタイトルも「40℃」になりました(笑)。

――歌詞もその場で書いたんですか?

Wez Atlas:そのとき書いたものも活かされてるんですけど、ただ「暑い」ってだけだと内容が薄っぺらいなと思って(笑)。さっきも言いましたけど、最近は運動が好きで、体を動かしたいモードなんですよ。以前は「マインドはマインドで解決する」という感じが強くて。たとえば『This too shall pass』の頃は楽観主義というか、「まあ、大丈夫でしょ」という感覚を持つことが自分なりの答えだったんです。ファンの人たちもそこに共感してくれてたと思うんだけど、今は自分のなかに違う答えが出てきて。

――身体性というか、フィジカルな感覚を優先している?

Wez Atlas:そう。(悩んでいたのは)体を動かしてなかっただけかも、みたいな気づきがあって。そのほうが手っ取り早いというか、Badから抜けやすいなと思ったんですよね。「40℃」にも“体温を上げていこうぜ”みたいな感じが入ってるんですよ。体温が40℃だとヤバいけど(笑)、「身体を動かして、楽しくやっていこう」というテーマを後から付けました。ライブも意識しましたね。最近、自分のパーティを開いたりもしていて。そこで湧くような曲を作りたくて。

――めちゃくちゃライブ映えする曲だと思います。「Summit」「40℃」はキャッチ―な要素も取り入れてますが、日本の音楽シーンへのアプローチも続いているんでしょうか?

Wez Atlas:そうですね。もちろん世界も目指したいけど、いろんなイベントに行ってるなかで、「このシーンもいいな」と思い始めて。今は「目の前にいる人たちに刺さるようなものを作りたい」という気持ちが強いですね。身近な人たちの存在がいちばんのリファレンスというのかな。みんながどんな生活をしていて、どんなことで悩んでいて、どんな音楽が好きなのか。それがいちばん参考になるので。

――そして2024年8月25日(日)にはビルボードライブ横浜で「Wez Atlas × Ryohu Seaside Premium Cruising @YOKOHAMA」が開催されます。

Wez Atlas:楽しみです!Ryohuさんとはまだ面識がないんですが、KANDYTOWNの曲だったり、Ryohuさんのアルバムも聴いていて、すごくカッコいいなと思ってたので。今回はバンドセットなんですよ。バンドのときはいつもw.a.uの方々と一緒にやってるんですけど、僕自身もすごく気持ちよくやってて。

――ビルボードライブだと、普段とは違う雰囲気になるのでは?

Wez Atlas:僕も「お客さんは食事しながら聴いてるし、わりと静かな感じなのかな」と思ってたんだけど、意外とパワフルなライブをやってる人もいるみたいで。なので「いつも通りやるか!」と思ってます(笑)。お客さんにも立って楽しんでもらいたいですね!

――楽しそう。ライブ自体は好きなんですよね?

Wez Atlas:大好きです。人前で何かやるのが幼少期から好きで、スタンダップコメディをやりたかったんですよ。その夢はまだ続いてるし(笑)、ライブに関してはミュージシャンというよりもエンターテイナーみたいな感じでやりたいんですよね。ライブのとき、めっちゃお客さんの目を見るんですよ。たまに「目が怖い」って言われますけど(笑)、その場にいる人たちとつながりたくて。ライブはそれがいちばんの目的ですね。

――将来的にはショーアップしたライブもやりたい?

Wez Atlas:やりたいですね!でかい会場でやるときはステージデザインにもこだわりたいし、演出もしっかりやりたくて。あとはサマソニやフジロックみたいな大きいフェスティバルにも出たいです。

――期待してます!秋には新作のEPをリリースする予定だとか。

Wez Atlas:絶賛制作中です(笑)。まだ全体像は見えてないんですけど、これまでのアルバムと同じように、そのときのモードが自然と形になるんじゃないかなと。自分でもサプライズなことが起きたりするんですよ。「今の自分、こういうモードなんだな」って気づくこともあるし、楽しみながらやりたいと思ってます。



Wez Atlas - Damn! (Official Video)




NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>


関連商品

Circus
Ryohu「Circus」

2022/11/02

[CD]

¥4,950(税込)

DEBUT
Ryohu「DEBUT」

2020/11/25

[CD]

¥3,300(税込)

DEBUT
Ryohu「DEBUT」

2020/11/25

[CD]

¥4,180(税込)

Circus
Ryohu「Circus」

2022/11/02

[CD]

¥4,950(税込)

DEBUT
Ryohu「DEBUT」

2020/11/25

[CD]

¥3,300(税込)

DEBUT
Ryohu「DEBUT」

2020/11/25

[CD]

¥4,180(税込)

ACCESS RANKING

アクセスランキング

  1. 1

    櫻坂46、成長し続けるメンバーがファンを魅了した【9th Single BACKS LIVE!!】3days完遂 公式レポ到着

  2. 2

    藤井 風、アジアツアー発表 その名も“ベストオブ藤井風”

  3. 3

    <インタビュー>みのミュージック×GEN(04 Limited Sazabys)×ピエール中野(凛として時雨)夏フェスについて語るコラボ対談 presented by ジャックダニエル

  4. 4

    <ライブレポート>稲葉浩志が紡ぐ言葉、ライブツアー【~enIV~】Kアリーナ横浜公演「幸せの連鎖が起きていました」

  5. 5

    リアム・ギャラガー、オアシスのデビュー作30周年再結成をノエルにオファーするも断られたことを明かす

HOT IMAGES

注目の画像