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<インタビュー>Bimi、音としての聴こえ方にこだわったEP『Snack Box』と謎に包まれたEP『Refresh』を同時リリース
Interview & Text:高久大輝
Photo:筒浦奨太
俳優としても活躍する廣野凌大によるアーティスト・プロジェクトBimiが、メジャー2作目となるEP『Snack Box』をリリースした。7月15日には品川ステラボールでイベント【Bimi Live Galley #03 -cosmic-】を行い1,500人を超える大観衆を熱狂に導いた彼がその先に見ているヴィジョンはどのようなものなのだろうか。イベントの手応えから新作、そして新作と同時にリリースされた謎の作品『Refresh』について、Bimiに語ってもらった。
「これまで以上にスキルの面で勝負していますね」
――まずは先日のライブイベント【Bimi Live Galley #03 -cosmic-】の手応えから教えていただけますか?
Bimi:メジャーになって9か月、自分の中ではすごくあっという間だったんですけど、その一つの区切りとしてちゃんとやれて少し安心した部分はあります。でもその良い景色が見れたからこそ逆に焦るというか。もっといろんなところでライブをして全部カマしたい。その一つとしてはすごく良かったけど、それを体感できたからこそもっと他でもできるだろうと。そういう欲が深まるライブでしたね。
――「ここから音楽畑に殴り込んでいきます」というMCも印象的でした。
Bimi:俳優をやっていると広まりやすかったり良い面もあるんですが、一方で俳優をやっていることがネックにも感じていて。音楽が好きで、音楽をちゃんと作ってやっていてもそこ(音楽畑)に出ていくまで、最初はやっぱり色眼鏡で見られてしまいがちだと思うんです。「俳優もやっているし、ついでにやっているような音楽なんでしょ」って。そこを払拭していくために早く音楽畑に出て、そこでもしっかりかませることを提示していきたいんです。
――具体的に音楽畑とは何を指しているんでしょうか?
Bimi:俳優のファンの方と音楽ファンの方って応援の仕方がちょっと違っていて。音楽好きな人たちって音楽が好きな自分が好きで。どちらかと言うと自分に自信があって、自分の人生が楽しくて、音楽はその中の一つ、人生を楽しむための娯楽の一つとしての音楽があるように感じます。俳優のファンの方は自分の体感だともっと「捧げる」に近い感覚で。アイドルと近いかもしれないです。俳優を始めたときはカルチャーショックでしたね。音楽が好きで自分の人生が好きだからこそ自分の人生の中でサクッとスナックのようにつまめるものが音楽だと思っていたし、もっと掘ると実はそこにはすごい魅力が詰まっている。そうやって音楽は自分の人生を彩ってくれるもので、自分はそういう存在になりたいなと思って最初にこの世界に入ったんです。だから未だにそうなりたいと思っているってことですね。
――新作のタイトルがまさに『Snack Box』ですね。
Bimi:そうなんです、軽くつまむというか、味もいろいろあるお菓子箱っていうニュアンスです。そもそも人生の美味しい場面にいたいという気持ちでBimiという名前にしたんで、そういうものの一つになれたらいいなという想いで今回のEPを作りました。
――喜怒哀楽を表現したファーストEP『心色相環』とは違ったムードの作品になりましたね。
Bimi:『心色相環』は自分のパーソナルな部分を出した作品で、自己紹介という気持ちで作ったんです。今後知ってくれる人が「Bimiってどんな人なんだろう?」と思ったときとか、これまでも聴いてくれていた人が改めて「この人を形成している価値観ってどういうものだったんだろう?」と思ったときに聴いて欲しい作品ですね。そのとき25歳だったんで、四半世紀生きてきたその当時の感覚を残しておきたかったし、メジャー1作目だったので自己紹介として、このときはこうでしたっていう自分の中の感情を残しておきたかったんです。今回の『Snack Box』は、いろんな場所でライブするようになったり、いろんなところに出ていって、たくさんの大人が関わるようになった中で考えていたことです。その人たちが自分と関わってくれることって当たり前じゃないし、だからこそ自分を使って成り上がっていくための自分のスキルの軸というか、こいつについていっていいなと思えるような曲を書きたい、スキルを見せたいっていう気持ちで作りました。前作は感情表現や言葉に引っ張られることが多かったんですけど、今回はより音としての聴こえ方にこだわっています。これまで以上にスキルの面で勝負していますね。
――スキルを見せる作品にしようというのはどの段階で決めていましたか?
Bimi:EPを出すのが決まった時点ですでに決まっていたかもしれないです。自己紹介した後、今の現状を照らし合わせたとき、次はどうしようかなって考えて。自分のことを知ってくれている周りの人はスキルも含めて認めてくれているけど、わかってくれている身内だけが楽しむだけの作品を作るのはまだ早いと思っているし、そもそも母体が大きくならないとお金も回らない。それに今の自分が見たい景色はそこじゃない。なら次ステップとして、もっと聴き心地の良さやスキルが感じられるような、もっと周りの大人を動かせるような、「こういう曲も書いてます」「こういう曲もありますよ」って言えるような、説得力があるものを作りたいと思ったんです。特にインディーズ時代は感情をぶちまけて「俺を見ろよ!」「なんで俺を見てくれないんだよ!」っていう反骨心の方が強かったんですけど、今回は極力それを抑えて作りましたね。
――なるほど。そのせいかわかりませんが、『Snack Box』では特に自分を俯瞰しているようにも感じるリリックが多いように感じました。
Bimi:そうですね、2秒前に言った言葉すらすぐに反省しちゃうようなところがあるんです、実生活でも。だからそういう意味では自分のことをずっと俯瞰で見ているのかもしれないです。こうやって話している今もそう。どう捉えられているんだろうって。他人の目がめちゃくちゃ気になっちゃう。でもそれもあってこういう仕事は天職だと思っています。俯瞰で見れない人の方が多いと思うから、俯瞰で見ると日常生活では良くないことの方が多いんですけど、人前に出る仕事では俯瞰で見るスキルは大事だなって最近改めて思いますね。
――でも一方でBimiさんには嘘をつけないというか、とてもピュアな面がありますよね。
Bimi:そうなんですよね(笑)。隠せない。昔からずっと目立ちたがり屋で、ちょっと格好つけたがりなところがあるんで、昔から黒歴史と呼ばれるようなものを量産してきました。隠せないからこそ、それを正当化するために自分を騙してきたらいつの間にかこうなっちゃっていましたね。黒歴史を常に作っています。でもそのまま黒歴史になって笑われるのは嫌なんで、それを認めさせるために自分がカッコよくなっていかないと、自分を高めないとって。
――『Snack Box』の話に戻すと、今作ではスキル的な面で様々な挑戦が見られます。
Bimi:今回は全体的に挑戦でしたね。福澤侑とは俳優としても仲が良くて旧知の仲なんで、2人の感覚で作っています。「Hurry feat.福澤 侑」はぶっちゃけてしまうと俳優からのファンの方たちに向けて書いているんです。でも音楽畑の人にもかませるよう、俺が引っ張りますって気持ちでした。「Safe Haven」はドラマのために書いた曲でもあるので、だから5曲目、6曲目は俳優の方も背負っている曲ですね。
1~4曲目はちょっと変態チックに作りたくて。UsnowくんやSUIMMINくんがいる、そっちのカルチャーの界隈の人たちが聴いても唸っちゃうんじゃないかな。それくらいのものを挑戦状として叩きつけたかったし、スキルを見せつけたかった。自分はかなり雑食なんで、いろんなジャンルを歌えるし、いろんなジャンルが好きだから作れる。それをこれまでやっていたつもりではあったんですけど、改めてメジャーデビューして、ミキシングも含めて進化していく中で、自分のこれまでの曲を見つめ直したときにまだ足りないんじゃないかと思って。だから、この4曲はこれまでのBimiらしさを出しつつも今の自分の価値観や技術をふんだんに盛り込んでいます。
――実際1曲目「Miso Soup」はかなりアグレッシブな曲になっていますね。
Bimi:ドリルっぽいビートで、リリックはいろんな味噌汁を参考にさせてもらっています(笑)。二日酔いで書いていたんですけど、二日酔いの方が良いリリックが書けますね(笑)。味噌汁をめちゃくちゃ飲んで作りました。
――キャリアを通じてライムスキームにこだわりを感じますが、「Miso Soup」はそこに味噌汁の具材を絡めたワードプレイが重なっています。
Bimi:「若めだから」から畳み掛けるところは、全部味噌汁の具になってます。「若め」はワカメ、「大根役者」で大根、それを擦りおろして、「あっさり」であさり、なめこはそのままですけど(笑)。「しみじみ」でしじみ、最後は「馬耳東風」で豆腐で締めていて。お前らが言っていることを気にしないっていうのを味噌汁と具と照らし合わせたとき、自分の中で馬耳東風ってことばがビビっときましたね。
――フロウもどんどん変わっていきます。
Bimi:一個のアプローチではなく、普通だったら3、4人のラッパーがマイクリレーでやるようなことをあえて自分だけで全部やっています。やんないと舐められるかなと思って(笑)。
――2曲目の「You Gotta Power」はパーティーチューンですね。『ドラゴンボール』的なリリックも面白いです。
Bimi:これはライブ用というか、とりあえず何も考えずにブチ上がれる曲を書きたかったんです。序盤は全然歌が入ってこない攻めた構成にもなっています。鳥山明先生が亡くなったタイミングでもあったので、自分の中では勝手にレクイエムというか。ありがとうございますという感謝と、あなたに勇気をもらって僕は今こういう活動していますっていう気持ちを込めました。
「You Gotta Power」ミュージック・ビデオ
――次の「月と太陽 feat.SUIMMIN」はグルーヴィーなR&B的な1曲ですね。
Bimi:フィーチャリングするとき、僕はいつもフィーチャリングゲスト側の土俵で戦いたいと思っているんです。そこでもかませるっていう、そういう意味では良い意味で自分のスキルに自信を持っているんで。だからSUIMMINくんの好きなように作ってくださいと頼んでます。
――腕試しのような?
Bimi:そうですね、ここでも自分のラッパーの部分というか、「月と太陽」でMoonとSunでMとSで、文脈も合わせてうまくいったと思います。
――そして4曲目「Absolute ZERO feat.Usnow」はフューチャーベース的な派手なトラックです。
Bimi:それもフィーチャリングしているUsnowくんが得意とするムードで頼んだら、ゴリゴリのフューチャーベースのトラックが来たって感じなんです。自分の現状をラップにした感じではありますね。焦っているからこそ、一回どん底まで落ちたときがあって、でもどん底まで行ったらそれより下はないという意味で絶対零度。限界点の曲ですね。
- 「『Refresh』はちょっとビターな大人の一服のイメージ」
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「『Refresh』はちょっとビターな大人の一服のイメージ」
――プロデューサーさんによって仕事のやり方は変わったりしますか?
Bimi:俺は相手に合わせられるので、全員のやり方に合わせます。自分に固執しすぎない方が良いものができると思っているんです。音楽は自分で作って自分だけが聴くならいいですけど、他者に聴かせて他者がノレるかどうかの方が大事じゃないですか。絵は観た人が勝手に感じるものだけど、音楽は空間も作らなきゃいけない。どちらかというと他者が聴いている感覚も良い塩梅に取り入れないといけないことが多いと思っているので、そこはすごく柔軟にやっています。譲れない部分はもちろんあるんですけど、ぶっちゃけどっちのニュアンスでもアリだなという部分については他の人の意見を聞くようにしていますね。
――ポップ・ミュージックの難しい部分ですね。アートとビジネスが混在しているというか。
Bimi:でもプレイヤーがちゃんとしていればそれすらアートに昇華できると思っています。駆け出しのペーペーが言うことじゃないですけど(笑)。それはいつも考えていますね。
――先ほどご自身のことを雑食とおっしゃっていましたが、普段はどんな音楽を聴いているんですか?
Bimi:マジでめちゃくちゃいろいろ聴くんですよね。一番最近だとエレクトリック・コールボーイの曲があって、「あずさ2号」があって、マイ・ケミカル・ロマンスがあって、パチンコの曲があって。ralphの次にサザンがあるとか(笑)。昭和歌謡もパーティーチューンも聴きます。
――どうやって曲をディグっているんですか?
Bimi:友達に教えてもらうことも多いですし、YouTubeの関連動画から7回飛んで下の方の誰も聴いてないもの聴いてみるような冒険に出ることも多いですね。たまにあるじゃないですか、新着でまだ30回くらいしか再生されていないものとか。知らないアーティストさんの曲も聴いてみたりしていますね。で、どんな曲でも歌詞は必ず見るようにしています。
――取材している現在はまだ情報が出ていませんが、EP『Refresh』も同時に発売されました。合わせてアルバムとしてリリースすることもできたと思うのですが、今回はどうしてこのような形に?
Bimi:『Refresh』については曲に対する先入観を極限までそぎ落として、感覚的に音楽を聴いてほしかったというのが第一ですね。でもサプライズはずっと仕掛けていきたくて。僕はギャンブルが好きで、損するかもしれないけど、そっちの方が面白いじゃんっていう気持ちです。
――EP『Refresh』は打って変わって落ち着いたトーンの作品です。
Bimi:『Refresh』の方が何も考えずゆったりと聴けるものが多いですよね。この構想は『Snack Box』を作りながら考えていました。『Snack Box』は結構ガチャガチャしていて疲れちゃうだろうから、これを聴いたあとにチルタイムというか。『Snack Box』はキラキラしたお菓子の詰め合わせにして、『Refresh』はちょっとビターな大人の一服のイメージ。童心に戻れる方が『Snack Box』で、それだけじゃダメだよね、見つめなおさなきゃいけないよね、でもそれって素敵なことだよね、という意味で『Refresh』を置いておきたかったんです。
――“OIL”のようなBimiさんの個人的な想いを歌った曲も印象的でした。
Bimi:メジャーデビューして自分の中で気持ちが揺れていた頃、じいちゃんが頻繁に夢に出てくる時期があったんです。そのときの曲を書きたくて。じいちゃんは土木の仕事をやっていたから、ばあちゃん家で寝てたりすると、油の匂いがして「ああ、じいちゃん帰ってきたな」ってわかるんです。そんな思い出を踏まえて、老いていく価値観を改めて見つめ直したような曲ですね。
――【Bimi Release Party 2024 -Special Box- 】も決まってますが、最後に今後の展望について教えてください
Bimi:ライブはもっと増やしたいんです。でも俳優の仕事との兼ね合いもあるんで、そこは葛藤がありますね。でも来年は本当にBimiイヤーのイメージで、Bimiを優先的にやろうとしてるんで、来年が勝負だと思っています。
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