Special

<コラム>back numberの新曲「新しい恋人達に」を『海のはじまり』との関連性/チャート動向から分析

バナー

 2024年7月15日の海の日に配信スタートしたback numberの新曲「新しい恋人達に」が、7月24日公開のBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で首位を獲得した(集計期間:2024年7月15日~7月21日)。back numberが“Hot 100”で首位を獲得するのは約5年8か月ぶりで今回が5作目。各サービスの週間・デイリー・リアルタイムチャートでは55冠を獲得と、好スタートも切った。

 back numberといえば、「クリスマスソング」や「オールドファッション」、「高嶺の花子さん」といった代表曲から、2021年8月にデジタル配信がスタート、ストリーミング累計6億回を突破し、2020年代を代表する楽曲にまで広がった「水平線」まで、私たちの日常に寄り添った音楽で幅広い年齢層に親しまれている。早くも2024年ヒットナンバーの仲間入りの兆候を見せている「新しい恋人達に」を、フジテレビ系月9ドラマ『海のはじまり』や楽曲面、チャート面から分析していく。

清水依与吏による、純度100%の“自分の歌”
『海のはじまり』との関連性を紐解く


©フジテレビ

 月9ドラマ『海のはじまり』の主題歌が「新しい恋人達に」であることが発表されたのはドラマの放送開始よりも前だったが、「この組み合わせはきっと間違いない」とドラマを観る前から楽しみにしていた人も多かったことだろう。『海のはじまり』は、2022年にヒットしたドラマ『silent』のチームが再集結して制作した作品。透明感のある画作りと人と人が関わり合うからこそ生じる心の機微を繊細に、時に容赦なく描写する脚本が特徴的なチームによる新作ドラマと、情けなくともひたむきに恋をする男性の心の声を巧みな語彙で歌い表すback numberの楽曲は、きっと相性抜群だと想像することができた。

 蓋を開けてみれば、物語は“ながら見”が憚られるほどに重厚で、ドラマと楽曲は想像以上に深いところで手を繋いでいた。『海のはじまり』の主人公・月岡夏(目黒蓮)は20代の男性で、元恋人・南雲水季(古川琴音)の死と同時に、自分と彼女の間に海という7歳の娘(泉谷星奈)がいることを初めて知る。ドラマは海岸を散歩する水季と海が「どこからが海?」と会話しているシーンから始まるが、海洋と陸地の境界が曖昧であるように、一人の男性が「父親」になる分岐点もまた明確にここだとは言い切れないものかもしれない。まだ若い主人公が、「ある日突然娘の存在を知る」というシチュエーションならば、なおさらだろう。

 夏は、「父親になるとは」という問いに対する答えが見つからないまま、ただそばにいたいという一心で海と関わっていく。「水季の死」という同じ悲しみを共有する2人は、2人にしか分かち合えない温度感とともに絆を深めていくが、一方で、夏の現在の恋人や水季の同僚ら周囲の人々の存在によって、輪に入れない人の疎外感、どうしたって立ち入れない虚しさから来る複雑な心情もドラマでは描かれている。

 ある役割に「父」「母」といった名前がつけば、「父親らしく」「母親らしく」という規範が生まれる。同様に、ある関係に「家族」という名前がつけば“それ以外”に追いやられてしまう人が生じる。そんななか、back numberによる主題歌「新しい恋人達に」は、『海のはじまり』の登場人物やリスナーである私たちを、名前や規範から解放させてくれる歌として響いている。なぜか。作詞作曲の清水依与吏が、規範も理想も横に置き、誰のことも顧みず、純度100%の“自分の歌”を書き切ったからだ。楽曲のテーマである“父性”という言葉から、多くの人がイメージするのは“大らかさ”や“頼もしさ”、“厳格さ”だろう。しかしこの曲は〈大人になれなかった〉という独白から始まる。理想の父親像からはかけ離れた、情けなさを隠さない姿だ。〈似合ってなんかいなくて/なにもかも足りないのに/投げ出し方も分かんなくて/ここにいる〉というフレーズや、〈誰の人生だ〉のリフレインもリアルである。


 清水はこの曲について「いつも『誰にも言うべきじゃない』と閉じ込めている本当の言葉たちを『海のはじまり』に登場する一人ひとりに引き出され、恥ずかしいくらい混じり気のない“自分”という名の一色で書ききった」とコメントしているが、その「誰にも言うべきじゃない」言葉たちにリスナーは救われているのだろう。多くの人にとって“本当の言葉”とは、外聞を気にしたり、トラブルを避けたりするために心の奥底に沈殿させてしまうものだが、そうしているうちに、自分で自分を苦しめてしまうことだってある。

 情けなくていい。似合ってなくていい。足りなくていい。分からないままでいい。聴いた人にそう思わせてくれる「新しい恋人達に」は、“父性”といういちテーマに留まらない、普遍的なメッセージを持つ曲となった。不完全な生き様をさらすことで人の数だけある生き様を赦し、肯定するback numberの音楽は、余裕を失った現代社会におけるオアシスである。

Text by 蜂須賀ちなみ

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 「新しい恋人達に」は今以上に全国各地へ
  3. Next >

関連キーワード

TAG

関連商品

新しい恋人達に
back number「新しい恋人達に」

2024/09/11

[CD]

¥1,300(税込)

新しい恋人達に
back number「新しい恋人達に」

2024/09/11

[CD]

¥3,300(税込)

新しい恋人達に
back number「新しい恋人達に」

2024/09/11

[CD]

¥4,400(税込)