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<インタビュー>Nao Yoshiokaが頭の中を自由にして届ける5年ぶりの明るいメッセージ

インタビューバナー

 NYで鍛えた表現力豊かなボーカルで、ワールドワイドに活躍する大阪出身のソウルシンガー・Nao Yoshioka。その実績は、日本人としてBillboardのUrban Adult Contemporaryチャートで異例の32位を獲得したほか、Blue Note New YorkやLondon Jazz Cafeでの単独公演など実に輝かしい。しかし、そんな彼女にとってもコロナ禍のダメージは大きかった。沈んだ日々はどんな影響を与えたのか? そして、そこから約5年ぶりとなる最新アルバム『Flow』はどう誕生したのか⁇ Billboard Live OSAKAでの公演を目前に控えた某日、再びパワーと光を取り戻したディーバに話を聞いた。(Interview & Text 服田昌子)

今はできないことがめっちゃおもしろい

――まず6月28日リリースの5thアルバム『Flow』の話を。今作は前作『Undeniable』から約5年が空きましたが、これはなぜでしょう?

Nao Yoshioka:2018年から拠点をNYに移し活動していて、2019年にリリースしたのが『Undeniable』です。グラミーを目指すというのを掲げて本格的にアメリカでのキャリアを築いていました。『Undeniable』にはエリック・ロバーソンというネオソウルのキングと言われる方が参加してくださったんですけど、その方のオープニングアクトとしていろんな所を回ったり、ラジオも決まったり。いろいろと物事が動き始めたのが2020年の頭だったんですけど、パンデミックが始まって日本に帰ることになって。それで目標が強制的にリセットされてしまった感じがしたんです。今まで海外でのキャリアを考えて頑張ってきた自分は、東京に帰って何をすればいいんだろう?ってフリーズして、メンタルも喉も壊して。で、そこから自分をもう一度取り戻すためのジャーニーに5年ぐらいかかったっていう感じです。でも、前作で何か結果を残せたら音楽を辞めようかなって思ってたくらい全力になっていて燃え尽き症候群の一歩手前だったので、強制的にリセットされたのは、神様が“一度ゼロになって自分の本当の幸せを探しなさい”って言われたのかなと思います。

――つらい経験でしたね。

Nao Yoshioka:自律神経障害で普通の生活もできなくなってしまうくらいだったので本当にしんどくて。だから、もう普通に生活できないんなら、いっそ自分の興味があることを始めてみようと思ったんです。それで始めたのがダンスとか料理とか。友達を呼んで料理してご飯を食べたりするようになったし、旅行にも行ったし。それまでデビューからずっと音楽をやらない自分は生きてる意味がないって、本当に頑張ってきた時間だったので、立ち止まってアーティストとしてじゃなく、人間として自分はどういうことに興味があるんだろう?というのにすごく向き合ったんです。

――ちなみにNaoさんは19歳のころに音楽活動を休止した時期があったと思うのですが、今回はその時の苦しさとは異なりましたか?

Nao Yoshioka:10代のころは周りの環境とか学校とか……。自分ってだれだろう? 何のために生きてるんだろう⁇って感じだったんです。だから1stから4thアルバムまでには、どうやったら自分を愛せるだろう?ということがテーマにあったと思います。たとえば1stアルバム『The Light』の「I’m Not Perfect」という曲は、自分は完璧じゃないってことを、2ndアルバム『Rising』の「I’m No Angel」という曲は、自分はそんないい子じゃないからって言っていて。3rdアルバムの『The Truth』では「Beautiful Imperfections」という曲で不完全な美しさを歌っていたり。自分をどうにか認めたい、愛したいっていうところでずっと進んで来て、4thアルバム『Undeniable』の「Celebrate」という曲では、多様性のある生き方を祝福しよう、どんな生き方をしててもそれを認めて祝福したい……みたいな。過去の4作でそういう部分は終わったのかなと。それで今回、深く下がってしまった時に自分が発見したのが、見たくなかったダサい自分とか、完璧じゃない自分とかでも、思ったことを言えるようになったんですよ。これ以上頑張りたくないんだよねとか、私これ以上は無理だから助けてとか。そう言うようになったら、思ってたよりみんなが受け入れてくれたんです。なりたい自分になるために頑張ってきた自分。でもその自分になれなかったら自分を愛せないって思ってた自分から卒業して、ダサい自分と付き合ってみたら人間的におもしろいって認められるようになった感じ。だから『Flow』は真剣なサウンドっていうより、ちょっと気が楽になったり、気が抜けた感じだったり、明るいメッセージの曲が多いんです。そこ(自分を愛せない自分)は卒業して、聴いてる人が未来は明るいかもしれない。気楽でいいのかなって思ってもらえたらいいなと思って作りました。

――自己を肯定できない時期を乗り越え、コロナ禍も力に変えて健やかな今を手に入れたんですね。レジリエンスが高い。コツを知りたいです。

Nao Yoshioka:自分がやったことがないことをやり始めるって、めっちゃすごいですよ。 だって(最初は)絶対できないじゃないですか。ダンスもそうなんですよ。教えてもらったことができるようになるには1か月とかかかるんです。その間、動画を撮って見返したり。ずっと負けてる気分なんですよね。でもその感覚も、昔ならできないのがヤダ!みたいな感じだったんですけど、今はできないことがめっちゃおもしろい。できない自分に慣れてくみたいな。できないよね。じゃ次はこうしよう!みたいなのがすっごく楽しかったんです。ダンスは特に。筋肉のつき方とか、こういう風になるとこういう風に動くんだよって、自分が今まで当たり前に見てたものを改めて説明されて、自分が知らない世界がもっとあるんだ!って。そういうことの積み重ねで、だんだん成長するじゃないですか。 その成長が自分で見えて、またどんどん楽しくなって。音楽を始めた時の喜びに似てるなと。このパンデミックでは、できない自分を楽しむみたいなのができるようになったと思います。あと、すぐに結果が出ないことに対して、あまり期待しないっていうことで楽になったかもしれない。結果を出すためにやるんじゃなくて、一旦やってみる!みたいな。




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人間の芯みたいなところにつながってる感じがして

――人生を楽しみだしたんですね。『Flow』が明るくリラックスした作品になったのにも納得。ちなみにタイトルの『Flow』はどこから?

Nao Yoshioka:心理学用語みたいなんですけどフロー状態っていう言葉があるんです。物事に超集中した時に自由になることなんですって。ランナーズハイとかもそうだと思うんですけど、そういうフロー状態だと、なんとなく予測する未来とか、過去にこんなことやっちゃったみたいな小手先の考えから解放されて、自分ってすごくシンプルなことで楽しめたりするなとか、損するとか得するとかじゃない部分で物事を感じられるなって思って。自分のブレてるところが真ん中に戻されるっていうか。私はその感覚が音楽にあるんですよ。音楽をずっと聴いてたら頭の中が自由になる瞬間。ゾーンに入るとかですね、たぶん。で、その時って人間の芯みたいなところにつながってる感じがして、今回はそれ(フロー状態)でアルバムを作りたいなって。

――では、『Flow』=Naoさんの芯。

Nao Yoshioka:そうですね。自由になってる時の感覚とか。6曲目の「You Never Know」だけはちょっと悲しい曲なんですけど、それでもだれにもシェアできない痛みや苦しみってみんなにあるよねって言うことで気が楽になるかなって。だから聴いてくれる人たちに自由になってほしいし、あと、ひとりだなって思ってほしくない。今回は自分が聞きたかった言葉もよく表現できたと思います。

――そして『Flow』には世界のすばらしいミュージシャンやプロデューサーが参加。その点で印象深い曲は?

Nao Yoshioka:ダンスを始めてステージパフォーマンスも学び始めたうえで、ステージで踊ってる時に表現がしたいなって。音が見える、音が視覚的になるという意味でダンスをしたかったんですよ。体を動かしながら音楽を聴く楽しさを表現したいと思ってたなかで、ぴったりだったのはジャロウ・ヴァンダル。1曲目の「Free as a Bird feat. Jarreau Vandal」と2曲目の「My Love feat. Jarreau Vandal」を一緒に作ってくれた方なんですけど、彼はDJでありアーティストでありプロデューサーなので、自分が今まで見てこなかったようなサウンドを入れてくれたかなと思います。今まで自分が出してきたサウンドと一番かけ離れているのはたぶん「My Love feat. Jarreau Vandal」なんじゃないかな。

――ではコラボレーションによって変化を遂げた曲は?

Nao Yoshioka:8曲目の「Unapologetically Me feat. Takuya Kuroda」ですね。カーリー・マティーンという前作もご一緒したファミリーみたいなプロデューサーの方がいて、私が以前に東京でやっていた【Tokyo Funk Sessions】というファンクにフォーカスしたライブを見に来てくれたんですけど、ライブを見たあと、Naoにはこういう楽曲が必要だと思うって、私のライブをインスピレーションにしてトラックを作ってくれて、それをベースに一緒に書いた曲なんです。ただ、メロディとかキーボードとかベースとかが難解だから、すごくいい曲なのにリスナーの人が難しいって感じたらイヤだなと思ったので、ホーンを入れたいなと。それで1stアルバムでもご一緒したトランペッターの黒田卓也さんにオファーさせていただきました。その黒田さんのアレンジメントがもう本当にすばらしくて。曲がすごく華やかになって、最後も黒田さんのソロで曲が終わるんですけど、ひまわりみたいな曲になったなと思います。


Unapologetically Me feat. Takuya Kuroda (Visualizer)


――今、ファンクのライブの話がありましたが、今作も3曲目に80年代ファンク風の「Nobody Chase Me feat. Devin Morrison」がありますね。

Nao Yoshioka:これは前作からご一緒してるデヴィン・モリソンっていう方とまた一緒に。彼は前作の時からすばらしいアーティストだったんですけど、当時LAではまだアップカミングで。でもここ数年で、マセーゴと一緒にリリースしたり、コスペルのキングみたいなカーク・フランクリンのプロデューサーをしたり。今LAのアーティスト全員が、デヴィン・モリソンと一緒にやりたい、デヴィン・モリソンのサウンドが大好きって言うくらい、アーティストにめちゃくちゃ好かれるアーティストなんですよ。その彼が書いてくれたのが、この曲。だれも私に追いつけない、だれも追って来ないでって言ってて、自分の本当の時間が欲しいから自分の道をただ突き進むみたいな内容です。今まであまりなかったギターやドラムのファンキーなサウンドがめちゃくちゃ気に入ってますね。


Nobody Chase Me (Visualizer)


――さて、『Flow』を引っ提げたライブが7月18日(木)にBillboard Live OSAKAであります。大阪はNaoさんの地元ですね。

Nao Yoshioka:海外のアーティストに大阪ってどんな街なの?って聞かれたら、めちゃくちゃ温かい街だよって言ってます。やっぱり人が近いし、そういう意味ではハーレムに行った時、すごく同じ感覚になったんですよ。めっちゃヴァイブスが似てると思います。アメちゃんあげるか、あげないかくらいの差しかない(笑)。大阪人はNYになじめますね。

――ライブの反応もNYと大阪は似ていますか?

Nao Yoshioka:似てると思います。うるさくて、ウェーイ!とか(笑)。でもちょっとNYの方が冷たいですけどね。興味なかったらめっちゃ携帯を触るし、めっちゃしゃべり始めるから。

――では、にぎやかになりそうな7月18日(木)のライブの見どころは?

Nao Yoshioka:1曲、ライブアレンジメントが派手なのがあって、その曲ではメンバーのだれかが限界突破します。この前、リハーサルがあったんですけど、私、もうニヤニヤしてて。お前やるよな?って(笑)。でも、ライブアレンジメントって中途半端にやるより、やり切っちゃった方がおもしろいよねって。やり切って、なんかおもしろくて笑っちゃっう!みたいな感じにしようよって。

――プレッシャーもありそうですが、その時間はその人が主役ですね。

Nao Yoshioka:私、ミュージシャンにスポットライトに当たり過ぎて焼かれてほしいんです(笑)。やっぱりライブは私だけで作ってるんじゃなく、ミュージシャンと一緒に作ってるから。なので毎回ミュージシャンのソロもめっちゃ長いし、おもしろい展開になりますね。

――そして最後に今後の展開や目標を教えてください。

Nao Yoshioka:大阪と東京でライブをしたあと、今年はヨーロッパツアーもありますね。来年もいろいろな国からオファーが来ているみたいなので、よりたくさんの国でライブをすることになると思います。でも、また何度でも大阪に帰ってくるので。いろいろな所を回って、自分が成長して、おもしろいネタを見つけて、また大阪のみんなと一緒にもっともっとおもしろいライブで楽しみたいです。




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