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<インタビュー>TAKU INOUE、春野&SARUKANIを迎えた2年半ぶりの新曲「ハートビートボックス」完成

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Interview & Text: ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) / Photo: 興梠真穂

 TAKU INOUEによる2年半ぶりとなるソロ楽曲「ハートビートボックス」が届いた。星街すいせいとのユニットMidnight Grand Orchestraでの活動や、ano(あの)の楽曲制作やツアーメンバーとしての活躍、さらにAdo「ショコラカタブラ」など、様々な楽曲提供を手掛け、今や日本のポップ・ミュージック・シーンの最前線を切り開く多忙なサウンドクリエイターである。

 そんなTAKU INOUEの最新作は、リキッドファンクなドラムンベース調のトラックに、ヒューマンビートボックスの世界大会のクルー部門で世界一に輝いたSARUKANIをビートボックスとして迎えるという驚きの展開。さらに、ボーカリストには春野を起用。シルキーな歌声に儚さと寂しさを織り交ぜ、カルチャーなワーディングがフックとなる特異なラブソングへと仕上げた。

――数多くの楽曲提供やプロデュースを行っているTAKU INOUEさんにとって、自分名義でのソロ活動とは、クリエイティブ活動においてどんな場所になっていますか?

TAKU INOUE:自分が音楽面を主導しているMidnight Grand Orchestraはもちろん、普段のクライアントワークスも、けっこう自分のやりたいことをやれているんですよ。


――聴いたらすぐTAKUさんって分かりますもんね。

TAKU:わりとエゴを出しながらノリノリで全部の仕事をやっていて。なので、ソロ・プロジェクトもソロじゃなければできないことをやっているわけではないんです。とはいえ、2年半も空いたのでTAKU INOUE名義の作品をそろそろ出しましょうか、という感じで。だとしたら、最近出していない雰囲気の作品にしてみようかなと。


――「ハートビートボックス」は自身で作詞もやられていることがポイントなのかなと思いました。歌詞のフレーズからTAKU INOUEらしさが滲み出ていて。作品作りの取っ掛かりはどんなところから?

TAKU:まず、ドラムンベースにしたいなってぼんやりと浮かんで。定番のエレピにビートを重ねて。そうそう、NewJeansとかも最近ふわっとしたエレピにジャングルビートとか出していて、国内外でも増えてきたのかなって。それで、やってみるかってデモを作った感じです。


――しかも、ビートをビートボックス界で世界的に有名なSARUKANIに委ねたのが驚きでした。

TAKU:SARUKANIのメンバーのKAJIくんとはクラブの遊び仲間で、お互いの作品を聴いていたので、いつか一緒にやりたいねって話していました。今回、わりとありがちなリキッドファンクな方向性だったので、どう他と差別化を図るかなと思ったときに、“じゃあビートをビートボックスにしよう!”と思いつきました。


――よく思いつきましたよねえ。TAKUさんは自ら音も作れるトラックメーカーなのに。

TAKU:逆にビートボックス的観点からみたときに、ビートボックスがフィーチャーされる曲ってガッツリとアゲめな派手な曲が多いので、そっちの方向ではないメロウなふんわりしたビートボックスを聴いてみたいなとオファーしてみました。


――デモは自分でリズム作りながら?

TAKU:デモは、ビートボックスのサンプル集からイメージを掴んで、それをメンバーに渡して打ち合わせをしたんだけど、“この感じのビート超得意だし、なんでもできますよ!”って。とても頼りになる感じで安心しきっちゃいました。


――すごい方たちですもんね。

TAKU:海外の大会で優勝したり、活躍目覚ましいので早めに一緒にやっておかないとなって(笑)。というか、トラックメーカーとしての立場から言うと、ビートの音を口の音に委ねるって勇気が必要で。


――ですよね。

TAKU:最初は録りっぱなしの素材に近い状態でくるのかなって、ともすればミックスがんばらなきゃと思っていたんですけど、蓋を開けてみたらSARUKANIのメンバーのKoheyくんがしっかり仕上げてくれて、結果的にもらったデータをそのままでもかっこよかったんです。


――繊細な音使い、こだわりのビートセンスがTAKU INOUEさんサウンドの魅力だと思いますが見事に表現されていて。というか、リスナーの方はパッと聴きだとビートボックスだって気が付かない人もいるかもね。

TAKU:ほんと、そうですよね。クオリティーが高くって。冒険だったんですけどハマってよかったです。


――そしてゲストシンガーに春野さんを迎えられていて。シルキーな、聴き心地の良い歌声がとてもハマっていました。春野さんを起用した理由は? 

TAKU:春野くんもずっと前から聴いていて。いい声だなって思ってたら、実は近い界隈にいて。僕が去年フジロックでDJしたときに彼が観にきてくれて。それまでは会ったことなかったんですけど、そこからやり取りするようになって、春野くんの楽曲「Spring Has Come」でコライトして、じゃあ俺のも歌ってよってやってもらいました。


――ちなみに、「ハートビートボックス」の歌詞の世界観は、なんとなくTAKU INOUEさんの日常のようにも感じました。ワーディングからFPSゲームや、ディズニー&ピクサーの映画『インサイド・ヘッド』のワンシーンが浮かびます。歌詞を書く中で、特にこだわりを込めたフレーズはどの辺ですか?

TAKU:今回、歌詞が一番迷いました。自分は“メッセージを世の中に届けたい!”、とか元からあまりないんですが、これまでやってないことがやりたくて。ちなみに、前作はコロナ禍におけるクラブがテーマだったんです。今回はラブソングを作ろうと思って、歌詞で情景を書き表しました。なんか押し切れないダサい男の姿みたいなのも表現しました(苦笑)。


――うんうん、伝わります。

TAKU:なぜラブソングかというと、最近『ジャンプ+』の恋愛漫画にハマっていて。中でもただただカップルがいちゃつく漫画が刺さっていて、それがけっこう反映されているかもしれません(笑)。あと、実家にあった昔の『りぼん』の漫画とかも読んでますね。


――人との距離感、関係性などが切なく表現されているのはそんなことからなんでしょうね。

TAKU:実はクライアントワークスでも恋愛をテーマに掲げて書いたことがあまりないんです。なので今回テーマが決まったら、そこに向かって書くの自体は早かったですよ。テーマ決めが大変でした。


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――今作もTAKUさんらしい、真夜中から朝方にかけての時間が溶け合うイメージを感じました。

TAKU:今回、実はそこまでこだわってなかったんですよ。まあ、手癖ですね。イメージ的にはジャケット写真ぐらいな時間帯の感覚なんです。真昼間ではないけど中間な時間帯なイメージを出せたらなと思っていました。


――なるほどねえ。歌詞の中でバンビやファリーンを、関係性のメタファーにされているのもいいなって。

TAKU:ありがとうございます。あと、ゴーストタイプというポケモンのオマージュも入れてますね。見る人が見れば分かるというか、こういうワード使いが好きなんですよ。


――盛りだくさんだ。

TAKU:知らない人でもスッと入れて、知ってる人には刺さる、みたいな。そんな歌詞になったらいいなと思っています。


――タイトルの“ハートビートボックス”に込めた想いは?

TAKU:タイトルは、ビートをビートボックスにしたので、情報がなくても分かってほしいなと思ったんです。“安直か?”と思いつつも、仮タイトルで付けていてサビにもしたのでそのまま自分の中では馴染んじゃいましたね。


――タイトルに入れながらタグ的に説明も果たしているという。それに、歌詞の中での切なさが“ハートビートボックス”という言葉にも表現されていますよね。

TAKU:ちなみにタイトルのオマージュ元は、ニルヴァーナの「ハート・シェイプト・ボックス」なんですよ。内容的には全然関係ないけど(笑)。


――わはは(笑)。それもまたTAKU INOUEさんらしさですね。タイトルからの連想、ビートビックスにも注目してほしいし、そんなストーリーを立てて楽しむことができたらいいですよね。今回、SARUKANIや春野とのコラボレーションも絶品だったので。

TAKU:そうなってくれたらいいですね。それもあって、最初にプシューって口の効果音を印象的に入れて、敢えてビートビックスのえぐみも残してあるので。


――春野さんとはどんな話をされましたか?

TAKU:基本的には、自分の仕事のやり方としてアサインの段階でめっちゃ考えるので、そこで9割決まると思っています。頼んだら、その人の一番熱量いい感じで自由にやってもらうのが一番いいなって。なので、歌詞とデモ、自分の仮歌を渡して「よろしく!」って感じでした。


――春野さんが参加したことで、TAKU INOUEさんのソロプロジェクトの幅も広がっていきますよね。

TAKU:そうですね。キャリアの中で女性への作品が多かったのですが、ずっと男性の曲も作りたいなって思っていて。去年はARuFaさんの曲(「ベータソング」)をプロデュースしたりはあったんですけど、自分の作品としても作ってみたかったので叶ってよかったです。


――キーや世界観などあるかと思いますが、男女でシンガーに違いなどはあったりするのですか?

TAKU:やっぱり使える音域が違うので、男性の方がレンジが広いんですよ。わりと無茶できるというか。


――なるほどね。ちなみに、ビート以外の上モノのサウンドへのこだわりは?

TAKU:ビートボックスを立てたい、というのがあったのでそれ以外はふんわりとさせて、とにかくビートをしっかり聴いてほしかったんです。そんな意味で春野くんのボーカルもハイが立っているというよりはミドル周りで聴かせる歌声というか。それぞれの帯域にそれぞれの人がいるという、相性良かったなと思います。



▲「ハートビートボックス」MV

――今後、TAKU INOUEのソロ・プロジェクトはどんな展開になっていきそうですか?

TAKU:繰り返してしまいますが、わりとクライアントワークスとMidnight Grand Orchestraでやりたいことをやっているので、音楽的にこれやりたいという目標はあまりないんですよ。その時々で、ふとやってみたいことをパックしていくのが好きですね。そんな場があること自体が嬉しいです。なので、目標は現状維持です(笑)。あ、非ミュージシャン的発言ですけど(苦笑)。


――うん、それもまたTAKUさんらしさですよね。でも、いろいろ考えているんでしょ?

TAKU:……といいつつも、よく考えると自分のなかで変化を感じているかもしれません。曲調とかもなんですけど、転換期かもしれないなって。時代に合わせて自分の感覚も変わってきたなと感じていて、そこにまだ多少戸惑いを覚える深層心理があったりして。……制作中に迷うことが増えたんです。自分の強みを探し出せたらいいなと思っていて、ソロ活動はその役に立ったらいいなと。今年はソロの時間をとっていて、それに合わせてクライアントワークスを調整しているんですよ。


――そうなんですね。じゃあ、更なる新曲にも期待ですね。

TAKU:自分探しの旅中です。


――それはそれで楽しみなことですね。殻を打ち破ろうとしているTAKU INOUE、ということなんですね。

TAKU:ははは(笑)。ありがとうございます。


――ちなみに最近はどんな音楽が気になっていますか?

TAKU:去年まではハイパー・ポップなプレイリストが気になっていたんですけど、最近はインディー・ポップやベッドルーム・ポップ。距離感近目のポップ・ミュージックが気になっていますね。たとえば、ジンジャー・ルートとか最近好きですね。なので、クラブミュージックは最新は追えてないかも。あと、J-POPがいいなって。世界のどこの国にも似ていないし、独自進化を遂げているなと思います。プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』とか、最近もチョーキューメイの「sister」とかめっちゃ聴いてますね。


――TAKUさんは、Spotifyのプレイリストでいうところの日本発世界へ向けた『Gacha Pop』の先陣を切り開いていくクリエイターですから。

TAKU:あのプレイリストもいいですよね。ほんと、面白い時代になってきました。


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