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<コラム>レイ・パーカーJr.&レイディオ――都会的なグルーヴを紡いできたキーパーソンの軌跡



コラム

 映画『ゴーストバスターズ』シリーズ最新作『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』の公開がまだ記憶に新しいなか、大ヒット主題歌「Ghostbusters」でおなじみレイ・パーカーJr.がレイディオを率いて約4年ぶりの来日を果たす。この機会にR&BとAORをまたにかけて都会的なグルーヴを紡いできた彼のキャリアを振り返りつつ、2024年のいまレイのステージに臨むにあたっての見どころを考える。

 この記事は、2024年7月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.198 8月号』内の特集を転載しております。記事はHH cross LIBRARYからご覧ください。

Text: Yoshiaki Takahashi, Photo: Yuma Sakata

いまレイのステージを体験する意義

2020年1月16日 Ray Parker Jr. & Raydio@ビルボードライブ東京

 レイ・パーカーJr.&レイディオの約4年ぶりのビルボードライブ公演が決定した。奇しくもレイによる大ヒット主題歌「Ghostbusters」(1984年)でもおなじみの映画『ゴーストバスターズ』シリーズ最新作『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』公開直後の絶妙なタイミングでの来日。映画の公開に合わせて新しい学校のリーダーズによる「Ghostbusters」の日本語カバーが作られるというホットなトピックもあり、今回のステージはこれまで以上に幅広い層を巻き込んでの盛り上がりが期待できそうだ。


▲Ray Parker Jr. 「Ghostbusters」

 もっとも、2024年にレイのパフォーマンスをライヴで楽しむにあたっては「Ghostbusters」とはまた別のポイントに着目したいと考えている。ここ10年ほどのポップミュージックではダフト・パンク『Random Access Memories』(2013年)に端を発するディスコとAORの復興がシーンのムードを覆っていたが、その動きがいち段落を迎えた現在、1970~1980年代にリアルタイムで双方のキーパーソンとして活躍したレイの音楽と向き合うことは非常に有意義な体験になると思うのだ。実際に改めてレイのキャリアを振り返ってみれば、彼が1980年代に向けて確立されていく都会的なグルーヴの美意識に絶大な影響を及ぼしていることがよくわかるだろう。


都会的なグルーヴを確立したキーパーソン


2020年1月16日 Ray Parker Jr. & Raydio@ビルボードライブ東京

 1954年にミシガン州デトロイトで生を受けたレイは、まだ十代だった1970年代初頭にセッションギタリストとしてキャリアをスタート。まもなくしてスティーヴィー・ワンダー「Maybe Your Baby」やマーヴィン・ゲイ「You're The Man」(共に1972年)に参加すると、ソングライターとしてもルーファス・フィーチャリング・チャカ・カーンに「You Got the Love」(1974年)を提供。以降もジョニー・ブリストル『Bristol's Creme』、リオン・ウェア『Musical Massage』(共に1976年)、ビル・ウィザース「Lovely Day」、エドナ・ライト「Oops! Here I Go Again」(共に1977年)、シェリル・リン「Got to Be Real」(1978年)など、現在も定番化している名だたるR&Bの傑作に携わっている。

 そして、若くして業界内で頭角を現してきたレイの才能を広く知らしめることになるのが1978年に本格始動するファンクバンド、レイディオ(レイ・パーカーJr.&レイディオ)での活動だ。彼らは1981年までに毎年1作ずつ、計4作のアルバム――『Raydio』『Rock On』『Two Places at the Same Time』『A Woman Needs Love』――を残しているが、そのすべてがアメリカでゴールドディスクを獲得。1982年のアルバム『The Other Woman』をもって幕を開けるレイのソロ展開の布石を打っている。


 そんなレイディオ期のレイのディスコ/ファンクナンバーとしてはダンスクラシック化している「It's Time to Party Now」(1980年)を筆頭に、「Get Down」(1978年)、「Hot Stuff」(1979年)、「It's Your Night」(1981年)などの人気が高く、いずれも肉体性と洒脱さのバランスに長けているあたりが彼独自の魅力になるだろう。その感覚はこの時期のレイの関連作、ソングライターとして参加したハービー・ハンコック「Ready Or Not」(1979年)、プロデューサーを務めたシェリル・リン「Shake It Up Tonight」やブリック「Sweat (Till You Get Wet)」(共に1981年)などのヒットシングルにおいても存分に発揮されている。

 こうしたディスコ/ファンクの充実ぶりもさることながら、レイのシグネチャー・サウンドとして定着していくのがメロウなミディアムの数々だ。レイディオでの「Jack and Jill」(1978年)、「You Can't Change That」(1979年)、「A Woman Needs Love (Just Like You Do)」(1981年)、そしてソロに移行してからの「It's Our Own Affair」(1982年)、「I Still Can't Get Over Loving You」(1983年)。これらのヒット曲に象徴される彼固有のジェントリーな味わいは、ソングライティング/プロデュースを担当したポケッツ「You and Only You」(1978年)、デニース・ウィリアムス「I Found Love」(1979年)、ダイアナ・ロス「Love Or Loneliness」(1983年)、ニュー・エディション「Mr. Telephone Man」(1984年)などでも楽しむことができる。


▲Ray Parker Jr. & Raydio 「Jack and Jill」


▲Ray Parker Jr. & Raydio 「A Woman Needs Love (Just Like You Do)」


▲Ray Parker Jr. 「I Still Can't Get over Loving You」


 ただ、このようなレイのメロウな作風はR&BよりもむしろAOR方面で歓迎されてきた印象が強く、思えば彼はR&Bと並行して数々のAORの名作にも積極的に関与してきた経緯がある。その中にはジェイ・P・モーガン『Jaye P. Morgan』(1976年)、ボズ・スキャッグス『Down Two Then Left』(1977年)、スティーヴン・ビショップ『Bish』、ビル・ラバウンティ『This Night Won't Last Forever』、ビル・チャンプリン『Single』、ヴァレリー・カーター『Wild Child』(以上1978年)、マーク・ジョーダン『Blue Desert』(1979年)、エアプレイ『Airplay』(1980年)などが含まれるが、このクロスオーバー性こそが現代的な観点からレイの作品を捉え直す上での重要な鍵になってくるような気がしている。

 そういえばレイは絶頂期の1982年にEPOのシングル「Girl in me」(アルバム『う・わ・さ・に・な・り・た・い』収録。レイが提供したマキシン・ナイチンゲールの1978年作「(Bringing It Up) The Girl in Me」の日本語カバー)の制作に参加しているが、彼の音楽性は近年リバイバルしたシティポップ的な文脈から再評価することも当然可能だろう。そういった意味でも、レイの功績や音楽的魅力を冷静に見つめ直すのにはいまがベスト。今回の来日公演は、レイが織り成すグルーヴの本質に迫る絶好の機会なのだ。

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