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ライブが“洋楽離れ”の解決策? ストリーミング再生数から見る来日公演が洋楽に与える影響

インタビューバナー

 先日公開した「洋楽が聴かれなくなった? “JAPAN Hot 100”チャートイン楽曲の国別構成」では、近年洋楽が“JAPAN Hot 100”など音楽チャートを始め、日本の音楽シーンでプレゼンスが低下しているという現状を明らかにした。その原因として、日本国内のアーティストや韓国アーティストの競争力の増加や、コロナ禍による国際的なプロモーション活動の制限などが挙げられるだろう。

 しかし、活動制限が解除され、国際的なライブコンサートが再開された今、来日公演を通して洋楽の人気が復活する可能性がある。本稿では、グローバルで音楽データを分析できるツール「LUMINATE」を用いて、日本の“洋楽離れ”という問題の解決策について考察する。

東京ドーム公演のインパクト

 まずは、2024年上半期に東京ドームでコンサートを開催したブルーノ・マーズ、ビリー・ジョエル、エド・シーラン、テイラー・スウィフト、クイーン+アダム・ランバート、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの6組が、公演前後に日本でのストリーミング再生数の推移を考察した。東京ドーム公演の開催を前提としてアーティストを選出した理由は、動員規模およびそれに伴うメディア露出により、リスナーに与えられる影響が最も顕著ではないかと考えられるためである。 

 

 「LUMINATE」で各公演が実施された週およびその前後各2週の期間中、日本において該当アーティストの全楽曲のストリーミング再生数を週単位で調査した。なお、「LUMINATE」の集計期間は金曜日から次週の木曜日となっている。

ブルーノ・マーズ


※出典:LUMINATE、下記同様 
※上部にある濃い青は無料ストリーミング、下部にある淡い青は有料ストリーミングを示す

 

 3週にわたり計7公演を開催したブルーノ・マーズは、公演初日(1月11日)の2024年第2週から増加傾向が見られ、公演が集中した第3週に約87%の増加率を見せた。その後減少しつつあるが、公演前より多くストリーミング再生数を保持していた。

ビリー・ジョエル


 第4週(1月24日)に東京ドーム公演を開催したビリー・ジョエルは、公演開催前から増加傾向が見られ、公演当週では約68%増を果たした。さらに、公演の2週後となる第6週も、公演前の第3週と比べて35%増を記録した。

エド・シーラン


 エド・シーランの公演前後のストリーミング再生数の増加率はブルーノ・マーズとビリー・ジョエルのように劇的ではないものの、約36%と明確的な増加を示した。

テイラー・スウィフト


 テイラー・スウィフトは、公演中の第7週は、公演2週前の第4週の約2.65倍のストリーミング再生数を記録した。公演の2週後となる第9週も、第4週の約1.6倍を維持していた。

 クイーン+アダム・ランバートについては、「クイーン+アダム・ランバート」名義でリリースされた楽曲が不十分のため、「クイーン」と「アダム・ランバート」それぞれの名義で再生数を調査した。

クイーン


アダム・ランバート


 両方とも公演当週(第7週)でスパイクが見られ、公演後も公演前より高い数値を記録した。

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ


 レッド・ホット・チリ・ペッパーズは公演当週(第21週)に、前週の約2倍、2週前の約3倍のストリーミング再生数を記録した。公演後は激減したものの、公演前より多い結果となった。

ドームならではの効果?それとも他の原因がある?

 以上のデータから見ると、洋楽アーティストの大規模な来日公演が、日本国内でのストリーミング再生数を大幅に増加させることが明らかだ。しかし、これは本当に「ドーム公演」という行為がもたらした影響と言えるだろうか? 次の3組のアーティストのデータを見てみよう。

ビヨンセ


 ビヨンセは、3月29日(第14週)に来日した。公演やパフォーマンスを行わなかったものの、同日リリースされた通算8作目のアルバム『カウボーイ・カーター』をリリースするとともにサイン会を開催し、話題となった。その影響か、第14週のストリーミング再生数が前週の約3倍となった。

ビリー・アイリッシュ


 ビリー・アイリッシュも、公演を開催せずに来日したアーティストの一人だ。5月17日(第21週)にニュー・アルバム『ヒット・ミー・ハード・アンド・ソフト』をリリースし、ストリーミング再生数にブーストをかけたが、その後減少傾向が見られる。しかし、アイリッシュは6月19日にアルバムのプロモーションのために来日。21日にテレビ朝日『ミュージックステーション』に“観覧”の形で出演すると、SNSで大きな反響を呼んだ。第26週(6月21日~27日)のストリーミング再生数が再び約25%増加したのも、そのプロモーションの影響だと考えられるだろう。

マネスキン


 マネスキンは、昨年12月2日~7日にかけて日本ツアーを行い、公演当週の2023年第49週でスパイクを記録したが、年末年始に公演前に近いレベルに落ちていた。しかし、2024年1月19日(第4週)に「THE FIRST TAKE」に出演すると、約2倍の増加を見せた。1月31日に2度目の「THE FIRST TAKE」登場を果たし、2月4日に日本テレビ『行列のできる相談所』にも出演した勢いか、第5週と第6週(1月26日~2月8日)は、来日公演時より高いストリーミング再生数を記録した。その後減少傾向が見られるが、5月21日(第21週)に【SUMMER SONIC 2024】のヘッドライナー出演に向けて公式予習プレイリストが公開され、6月13日(第24週)に楽曲「Fear for Nobody」がHonda SUV ZR-V CMソングに起用されたなど新たなプロモーションの影響で再び増加し、来日公演前の約3倍のストリーミング再生数を維持することができたと思われる。

結論

 以上をまとめると、洋楽アーティストの来日公演前後は、ストリーミング再生数が一時的に増加する傾向が明らかになった。しかし、これは「公演を行った」という単なる行為の効果とは限らない。ビヨンセ、ビリー・アイリッシュ、そしてマネスキンのデータを見ると、公演を開催しなくても、さらに言うと来日しなくても、ストリーミングを持ち上げることができる。来日公演前後のストリーミング再生数の変化の主な原因も、公演と伴う日本でのプロモーションやメディア露出の増加が、SNSを経由してさらに拡散され、実際に公演に足を運んだ人々より多くの聴取行為に繋がったと解釈できる。

 しかし、洋楽が日本の音楽市場に占めている割合は依然として相対的に低い状況となっており、頻繫にプロモーションを展開することは難しいと考えられる。だからこそ、来日公演がストリーミングブーストのトリガーとなっているのだろう。とすると、来日公演数の増大が洋楽のシェアを高め、結果的に洋楽アーティストが来日公演とは関係なくメディア露出を増やし、シェア拡大へと繋がっていくエコシステムを形作ることが可能となる。これが洋楽シェアを取り戻す一手となるのではないだろうか。

 

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